明人「梢、今日のミーティングの内容」
梢「ありがとうございます。……これって」
5月に入ってすぐ、ミーティングの内容をまとめた紙を梢に渡す
明人「敦賀スクールアイドルライブフェスタの招待状。蓮ノ空がトリだとよ」
梢「……明人先生、この日って」
梢は招待状を見つめ、少し不安そうな顔になる
明人「そうなんだよなぁ……。梢たち修学旅行なんだよ。まあ、あいつらなら大丈夫だろ」
梢「そうですね。花帆たちなら大丈夫ですよ」
明人「まとめ役はそっちで選出しといてくれ。って言っても、決まってるか」
梢「ふふっ。そうですね。わかりました、そう伝えておきます」
梢は紙を持って部室へと戻っていく
明人「一年生には重荷かなぁ……。実質、今回のフェスの主役だもんな」
多少の不安を感じつつ、パソコンに向き直す
◇
小鈴「……」
明人「……生きてるかー?」
姫芽「小鈴ちゃーん。……返事がない。ただの屍のようだ」
吟子「勝手に死なせない!」
部室の床で突っ伏す徒町。それを見て梢と村野以外が引き気味でいる
明人「村野ー、なにした」
さやか「特訓です。敦賀スクールアイドルライブフェスタに向けての」
明人「加減を覚えようか……」
梢「特訓、と言うのだからこれくらいが普通じゃないかしら」
明人「あぁ、ダメだ。部長もおかしいんだった……」
花帆「もう二度と“特訓”って言葉使わないようにしよう……!」
ズレた感性をもつふたりから視線を外し、いまだに倒れている徒町の方を見る
吟子「こすず、さん……?だ、だいじょうぶ……?」
小鈴「しーん」
吟子「……これ、寝てるだけ、ですよね?」
吟子が酷く不安そうな顔で村野に尋ねるが、まるで当たり前のような表情をする村野に若干引いている
明人「徒町ー、スポドリ飲むかー?」
小鈴「ほ、ほへぇ……」
姫芽「あちゃー、完全にスタミナ切れちゃってますね」
徒町にうちわで風を送りながら、梢たちの会話を聞き流す
明人「体力作りにもちゃんと順序があるからな……?最初っから限界以上にやったら体壊すぞ」
さやか「うっ……それは……」
小鈴「か、徒町は……大丈夫です……!」
目を覚まし、体を起こした徒町がキツそうな声で答える
ドリンクを渡し、送る風を少しだけ強くする
明人「……まあ徒町がいいってならいいよ。本当にやばいって思ったら綴理に言えよ。その時は綴理が止めてくれるから」
小鈴「は、はい」
明人「はいよ。っと。悪いな、安養寺。練習抜けてきてもらって」
少しマシな様子になった徒町を見て立ち上がり、安養寺に声をかける
姫芽「全然〜。小鈴ちゃんが倒れてるって聞いた時は、びっくりしましたけど」
明人「慈たちも心配してるだろうから、早めに戻って報告してやってくれ」
姫芽「はい〜」
それだけ伝えて部室を出る
◇
靴と床の擦れる音が、レッスンルームに響く
小鈴「ど、どうでしょうか!」
あれから1週間。村野の特訓の成果を見せてもらった。振り付けのキレも良くなって、転ばずに踊れるようにもなっていた
明人「うん、ちゃんと踊れてるな」
小鈴「えへへ〜。徒町、頑張りました!」
明人「次はーー」
小鈴「ま、まだあるんですか……!?」
徒町は驚きと恐怖が半々の表情を浮かべる
明人「あるぞ。探せばいくらでもな」
小鈴「き、厳しい……!」
明人「安心しろ。課題なんてずっと見つかるもんだ。村野に聞いてみろ?パッと20個は出してくる」
小鈴「さやか先輩ですら!?」
明人「村野だけじゃない。綴理も、梢も、慈も。あいつらだってそうだ」
小鈴「うっ……。が、頑張ります!ちぇすとー!」
半ばヤケクソ気味に腕を掲げ、気合入れの言葉を放つ
明人「徒町小鈴を見せてくれればいい。やりたいスクールアイドルをやれ」
小鈴「やりたい、スクールアイドル?」
明人「……変なこと言ったか?」
小鈴「い、いえ。……徒町の、やりたいスクールアイドル……。っはい!」
明人「どうぞ」
勢いよく手を挙げる徒町に、そのままオーケーサインを出す
小鈴「さやか先輩みたいになりたいです!それが、徒町のーー」
さやか「小鈴さん」
小鈴「あっ、さやか先輩!」
レッスンルームに村野が入ってくる
明人「村野、頼むぞー」
さやか「はい」
後は村野に任せてレッスンルームを出る
姫芽「先生」
明人「うおっ……。安養寺かよ……」
レッスンルームの扉を閉めると、後ろから話しかけられる
明人「……なに、そのステルススキル」
姫芽「そんなでした?」
明人「そんなだった。沙知かよ……」
姫芽「?」
安養寺の不思議そうな顔を無視して、別の場所に向かおうとする
姫芽「あの、ひとつ聞いてもいいですか?」
明人「ん?」
緩い空気から、一気に鋭くなった安養寺の声に動きを止める
姫芽「ちょっと聞こえちゃったんですけど。あれは、小鈴ちゃんへのアドバイスなんですか?」
明人「感想」
姫芽「む……」
そう答えると、安養寺は唸りながら考える動作を取る
姫芽「るりちゃんせんぱいもめぐちゃんせんぱいも、先生のこと全然教えてくれないんですよ」
明人「そうなのか?」
姫芽「いつか分かる、ってだけ。……先生って何者ですか?」
明人「何者って……教師?」
姫芽「だから教師の距離感じゃ……。わからないんでしたっけ」
明人「分かったら苦労しないな」
姫芽「……練習に戻ります」
明人「はいはい。頑張れよ」
少しムスッとした安養寺は向きを変えて練習へ戻っていく
◇
アナウンスが鳴り響くホーム。東京行きの新幹線を背にする慈たちへ視線を向ける
慈「それじゃあ、楽しんでおいでね〜。私たちも、たっくさん東京で遊んでくるからさ!」
その日はあっという間にやってきた。慈たちは修学旅行へ、残りのメンバーは敦賀へ。それぞれが新幹線へ乗る準備をする
慈「お土産はなにがいい?東京バナナ?」
明人「東京バナナって……。お土産はいいよ」
慈「んも〜しょうがないな〜。めぐちゃんの思い出話でしょっ」
明人「もうそれでいい」
慈「ちょいちょい、適当すぎ!」
慈の文句を無視して腕時計を見る
明人「梢」
梢「時間ですね。では、行ってきます」
慈「また来週〜」
綴理「ばいばい」
3人は東京行きの新幹線へと乗り込んでいく
花帆「うわあ。ほんとに二年生と一年生だけだ」
瑠璃乃「にわかに実感がこみ上げてきます」
さやか「それではーー今回はこの6人と先生の計7人で。蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブとして、張り切っていきましょう!」
さやかの号令と共に、敦賀行きの新幹線へと乗り込む
◇
福井駅に着き、自由時間になる。全員、今夜の福井駅前でのライブに向けて宣伝を始める
明人「吟子も成長して……」
吟子「急にどうしたの……?」
明人「友達だから、ねぇ。いやー、よかったよかった」
吟子「っうるさい!」
吟子の文句を適当に流しつつ、駅の前で宣伝して回る日野下と徒町の方を見る
明人「……なあ、徒町のダンスなんだけどさ」
吟子「小鈴さんの?すごく良くなったよね。まるでさやか先輩みたいで」
明人「村野みたい、か」
吟子「お兄?」
明人「……そうだな。ダンスの精度は見違えた」
吟子「う、うん」
明人「……機材と衣装、ステージまで運んでくる」
吟子「ん、あんやと」
機材や衣装の入った鞄を持ってステージまで向かう
◇
福井駅前でのライブも佳境。みらくらぱーく!のパフォーマンスも終わりを告げる
瑠璃乃「それじゃあーーDOLLCHESTRAに、バトンタッチしまーす!今日はほんとにありがとー!」
姫芽「ありがとうございました〜!!」
みらくらぱーく!と交代でDOLLCHESTRAがステージに上がる
明人「……徒町小鈴か、それ以外か」
花帆「センセイ?そんな難しい顔してどうしたんですか?」
明人「気にすんな。徒町の特訓の成果が気になってるだけだよ」
花帆「?」
首を傾げる日野下を横目に、ステージに視線向ける
姫芽「……」
◇
明人「模造品……」
ホテルのベッドに横たわりながら、さっきのライブの映像を確認する
自然と口に出た言葉は、それだった
明人「……こっちの方がらしいな」
先月のFes×Liveの映像に切り替える
今日みたいな余裕はない
必死で夢中で
なぜか惹きつけられる
もう一度、さっきのライブ映像を流す
ただ踊るだけの徒町小鈴。言われたことを、練習通りにやるだけ
明人「どうすればいいのか……。いっそのこと綴理に頼むか?いや、それだと村野のメンタルがーー」
解決策を考え始めた辺りで、部屋の扉がノックされる
吟子「お兄、ちょっといい?」
明人「吟子?今開ける」
扉を開き、吟子の待つ廊下に出る
吟子「小鈴さん見てない?さやか先輩の部屋に行ってから連絡つかなくなっちゃって」
明人「徒町?見てないな」
吟子「そっか……。どこ行っちゃったんだろう……」
瑠璃乃「アキくーん」
吟子の話を聞いていると、瑠璃乃がやってくる
明人「瑠璃乃?」
吟子「瑠璃乃先輩」
瑠璃乃「吟子ちゃん。ちょうどよかった。さやかちゃん見てない?部屋にいなくってさ」
吟子「えっ、さやか先輩もなんですか!?」
瑠璃乃「さやかちゃんもって……」
明人「徒町もいないらしい。村野の方は連絡付かないのか?」
瑠璃乃「電話かけてみたら、部屋の中から着信聞こえてきたから、多分スマホ置いていってるんだよね」
瑠璃乃の話を聞き、少し嫌な予感に襲われる。DOLLCHESTRAがふたり揃っていない。そして徒町は村野の部屋に向かってから連絡が付かなくなった
色々なもしかしたらが巡り、嫌な汗が流れる
明人「取り合えず、もう1回ホテルを探そう。もし見つからなかったら俺が外を見に行く」
瑠璃乃「うん。花帆ちゃんたちにも伝えてくるね」
吟子「私も、探してくる」
ふたりはすぐに村野たちを探しに出る
俺も後を追うようにホテル内を駆け回る
階段、エレベーター、部屋、ロビー。とにかく走って探し回る
花帆「あっ、センセイ!」
明人「見つかったか!?」
日野下たちが集まっているのを見つけ、そこに駆け寄る
姫芽「まだ見つかってはいないんですけど」
吟子「小鈴の部屋が開いてて、入ってみたの」
姫芽「そしたら、衣装と一部機材がなくって。もしかしたら、小鈴ちゃんライブをしに行ったんじゃって」
明人「ライブを……!?っまさか村野も……!」
すぐに振り返り、ロビーに向かう
瑠璃乃「アキ君!?」
明人「各自ホテル内で待機。俺は駅の方まで見てくる。もう外は暗いからな。絶対に出ないこと」
そう言い残してロビーに向かって走る
なんとなく、流れが読めたような気がした。もしなにかしらで村野と徒町が気がついてしまった場合ーー
明人「なんでそんな不器用なんかね……!」
急いでホテルから出ようとした時、ホテルの扉が開く
明人「っ村野!徒町!」
入ってきたのは村野と徒町だった
小鈴「あれ、明人先生?」
さやか「どうしたんですか、そんなに慌てて……って、そうですよね」
酷く疲れた様子の徒町を村野が支えながら、こっちまでやってくる
小鈴「あの……その……すみませんでした!勝手に外に出ちゃって……」
さやか「こ、小鈴さんが謝ることじゃ……!わたしが悪いんです。小鈴さんにちゃんとーー」
明人「ふたりとも」
口を開くと、ふたりがこちらを見てくる
明人「……あんまり、心配かけさせないでくれ」
小鈴「あっ……すみません……」
さやか「すみませんでした。その……ご心配おかけしてしまって」
ふたりは頭を下げて謝罪してくる
明人「……なんか、見つかったのか?」
小鈴「えっ?」
明人「外行ってライブしてたんだろ?部屋に衣装と機材がなかったんだってな」
小鈴「ば、バレてる……!?」
明人「吟子たちが教えてくれたんだよ」
小鈴「はっ!徒町、部屋の鍵閉めるの忘れてました!!」
なぜバレたのか気がついた小鈴は慌て始める
明人「……徒町、この前、俺がなんて言ったか覚えてるか?」
小鈴「この前……?あっ、徒町のやりたいスクールアイドル……」
覚えている様子を見せる徒町に、なら、と続ける
明人「もう一度言うぞ。徒町小鈴のやりたいスクールアイドルをやれ」
小鈴「っ徒町は、さやか先輩みたいになりたくて。でもそれじゃダメで……。でも……」
明人「でも?」
小鈴「さやか先輩に憧れるのはやめません!徒町ごときが欲張りかもしれないですけど……。徒町は、徒町の気持ちも届けます!」
徒町は大きな声で、まっすぐと言葉を繋いでいく
小鈴「失敗するかもしれないし、転ぶかもしれない。でも!徒町、やれるだけやってやります!ちぇすとー!」
腕を掲げ、決意を口にする徒町の姿に少し安堵を覚える
明人「そうか」
瑠璃乃「あっ、さやかちゃん!小鈴ちゃん!」
徒町の声に気がついたのか、4人全員がやってくる
吟子「もう、心配したんだよ」
姫芽「急にいなくなっちゃうんだからさ〜」
小鈴「ご、ごめん、ふたりとも……」
瑠璃乃「スマホも持たずにどこ行ってたのさ!」
花帆「すっごく!ずっごく心配したんだからね!!」
さやか「す、すみません」
寄り添う合う6人を見て、一歩下がる
その光景に、どこか嬉しい気持ちが込み上げくる
◇
敦賀スクールアイドルライブフェスタ。トリは蓮ノ空。そして、その大トリを飾るのが、DOLLCHESTRA
新しくなったDOLLCHESTRAのパフォーマンスが、会場を魅了した
姫芽「先生」
明人「……また安養寺」
姫芽「また?」
先週に続き、安養寺がひとりで話しかけてくる
明人「今度はなんだ?俺は何者か、は答えられないぞ」
姫芽「いや、それを聞きに来たわけじゃ。ただ、小鈴ちゃんとさやかせんぱいのこと、前から気がついてたのか気になって」
安養寺の問いかけを聞き、少し考え込む
明人「……感づいてた?いや、なんとなくそう感じてた?くらいだな」
姫芽「……それは、去年からさやかせんぱいのことを見てたからですか?」
明人「さあ?」
姫芽「また曖昧……」
安養寺は呆れたような声を出してくる
明人「別に、俺が見たかったのが徒町小鈴っていうスクールアイドルだった、ってだけだ。多分」
姫芽「なんでそこで多分付けちゃうかなぁ……」
明人「知らん。ほら、さっさと荷物まとめろ。新幹線の時間、結構ギリギリなんだから」
姫芽「は〜い。あっ、先生」
戻ろうとした安養寺は、すぐに振り返り、こちらを見てくる
明人「どうした」
姫芽「まだわかんないですけど、なんとなくわかって来ました」
明人「はあ?」
姫芽「なんとな〜く、先生を理解しようとするだけ無駄なことが」
明人「酷っ」
姫芽「なんかもうそういうことなのかな〜って。アタシとしては不完全燃焼なんですけど……」
たはは、と乾いた笑いを浮かべ、どこが浮かばない表情を見せる
明人「……別に諦めなきゃいいじゃんか」
姫芽「え?」
明人「不完全燃焼なら、諦めなきゃいいだろ。安養寺が納得するまでやればいい。たとえ3年かかっても」
姫芽「!」
目を大きくさせ驚いた表情を見せる安養寺は、すぐに目付きが真剣なものになる
姫芽「いいんですね?アタシのゲーマー魂に火を付けちゃって」
明人「お好きに」
姫芽「わかりました!ならまずめぐるりについて1から100。いや、1億まで語ってですねーー」
明人「新幹線まで時間無いって話したよね……?」
そのまま帰りの新幹線まで、永遠に話を聞かされた
……悪い気はしなかった