壊れた如雨露といつか花咲く大輪の花   作:坪継

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4話

 

 歓声が鳴り響く

 竜胆祭のライブは最高の盛り上がりを見せていた

 会場は熱気に包まれ、ボルテージはMAX

 

 ーーだから、気づけなかった

 

 いや、気づいてはいたんだ

 でも、気にもとめてなかった

 

明人(慈、ちょっと前に出過ぎじゃないか?)

 

 分かってはいたはずなんだ

 でもそれが慈だから

 前に出て、会場にいる全員を魅了する

 それがスクールアイドル藤島慈だから

 

 キュッと、嫌な音がした

 

 慈の体が、ゆっくり傾く

 ステージの外へ

 

沙知「音楽を止めてくれ!」

 

 沙知の指示が響く

 

綴理「めぐ……?」

 

 綴理が一歩前に出た

 

梢「慈!?」

 

 梢がマイクを投げ捨てた

 

 俺も、腕を伸ばそうとしてーー

 

 

『お前が正しいっていうからついてったのに』

 

『責任取れよ』

 

『結局、何もできてないじゃん』

 

 

 

 体が、動いてくれなかった

 

    ◇

 

慈『ハロめぐ〜!全国5000万人のめぐ党さん、藤島慈だよ』

 

 瑠璃乃のスマホから、慈の配信の声がする

 

明人「………話さないと、だよな」

 

梢「……はい」

 

綴理「……」

 

明人「酷な話だよな。瑠璃乃が知らないなんて」

 

瑠璃乃「ルリだって、めぐちゃんと一緒にスクールアイドルしたい」

 

花帆「センパイ……」

 

 日野下が助けを懇願するように見てくる

 

梢「……そうね、瑠璃乃さんには、話しておいた方がいいでしょうね」

 

綴理「うん」

 

梢「……水瀬先生」

 

明人「……俺が決めることじゃない」

 

梢「…………はい。慈は、藤島慈さんは、きっともう、スクールアイドルクラブには戻ってこないわ」

 

花帆「えっ……」

 

梢「彼女は去年の竜胆祭で、ステージから落ちて怪我をしてしまったの。怪我自体はもうとっくに、完治しているのだけれど……」

 

さやか「完治……?前に聞いたときは、怪我でやめられたって」

 

瑠璃乃「じゃあ、なんで」

 

明人「怪我だよ。心の」

 

瑠璃乃「心の……」

 

梢「慈は……」

 

綴理「……そのときから、めぐはステージに上がると脚が動かなくなったんだ。めぐは、もう踊れない。だから、スクールアイドルであることを、やめてしまった」

 

瑠璃乃「っルリ、めぐちゃんに会いに行かなくちゃ!」

 

 瑠璃乃は椅子から勢いよく立ち上がり、走って出ていく

 

花帆「あっ、瑠璃乃ちゃん!」

 

さやか「わ、わたしたちも行きます!」

 

 それを追いかけるように日野下と村野も出ていった

 

梢「良かったんですか?止めなくて」

 

明人「……分からんがいね……。どうしたらいいんかも……」

 

綴理「追いかけなくて、いいの?」

 

明人「……俺が言えることなんてない」

 

綴理「アキは、めぐに戻ってきてほしくない?」

 

明人「そんなわけないだろ……」

 

梢「なら………。いえ、そうですよね」

 

 梢は苦虫を噛み潰したような表情で言葉を止める

 でも、そんな事実も頭を通り過ぎていく

 

明人「はぁ……」

 

 あの顔を見て、戻ってこいなんて言えない。言いたく、ない……

 隣の、空いた席を見つめる

 もう誰も座らない

 

    ◇

 

慈「うーん……?」

 

 蝉の声と慈の唸り声だけが響く補習室

 バンッとシャーペンを机に叩きつける音がその静寂を破る

 

慈「あーー!!何さ、作者の気持ちを考えろーって!意味分かんないじゃん!何!?締め切りヤバいなーとでも書いて欲しいわけ!?」

 

 補習室に慈の叫び声が響く。その影響か、一瞬廊下が静かになった

 

明人「落ち着けバカ」

 

慈「バカって言うな!仮にも教師だろ!!」

 

明人「仮にも蓮ノ空の生徒ならテストで赤点取らないでほしいな」

 

慈「ぐっ……つ、綴理もでしょ!?」

 

明人「綴理の方がまだいい。あいつはちゃんと聞いててくれるからな」

 

 分かるかどうかは別だけど、と付け加える

 

慈「うっ……ぐぅ……」

 

明人「ほれ、続き」

 

慈「はーい……」

 

 補習室にはまた静寂が訪れる

 

慈「……るりちゃん、私の所に来たよ」

 

 慈のプリントに答えを書く手が止まる

 

明人「そうか」

 

 短い返事を聞き、またペンを動かし出す

 

明人「俺が行かせたのか、とかは聞かないんだな」

 

慈「アキ君が?ないない」

 

 補習室にはまた、蝉の声とシャーペンの芯と紙か擦れる音だけが響く

 

慈「…………はい」

 

明人「…………………ギリギリ合格点」

 

慈「よしっ!じゃあ私、帰って動画の編集をーー」

 

明人「間違えた所の直しと、このプリントを明日までやってくるように」

 

 足早に帰宅しようとする慈を静止するように声をかける

 

慈「うっ……め、めぐちゃん動画の編集が……」

 

明人「この間配信で動画のストックが沢山出来たって話してなかったか?」

 

慈「は、配信もしないと……」

 

明人「配信?昨日もやってたじゃないか。それに、慈が留年でもしたらファンは悲しむと思うなー」

 

慈「うぅ……はい……」

 

明人「はぁ……そんなんじゃまた梢に小言言われるぞ」

 

慈「もう夏休み前に聞きましたー」

 

明人「だったら少しはやれ」

 

慈「はーい」

 

明人「ったく……。ああ、もうこんな時間か」

 

慈「……練習?」

 

明人「ああ。少しは見に行かないとな。梢に小言言われちまう」

 

慈「ふーん」

 

 少しつまらなそうな返事が返ってくる

 

明人「慈」

 

慈「なに?」

 

明人「っ……瑠璃乃は、元気にやってるよ」

 

慈「そ」

 

 またつまらなさそうな返事

 

慈「いだっ」

 

 少しふくれっ面の慈にデコピンをかます

 

慈「なに〜……急に……」

 

 そのまま手を頭に持っていく

 

慈「……やめろし……」

 

明人「……大丈夫だよ」

 

慈「ん」

 

 短い返事を聞き、そのまま補習室の扉を開く

 

慈「そこで優しくすんなっての……。甘えたくなんじゃん、ばか」

 

 補習室の扉を閉め切る直前、慈の声が耳に入る

 そのまま後ろ手で扉を閉めて、補習室を後にする

 

    ◇

 

明人「合宿?…………え?」

 

梢「なんでその反応になるのかしら……」

 

明人「いや、そうなるだろ。合宿……海か。ああ、去年行けなかったんだっけ?」

 

梢「だから綴理がやりたいって」

 

綴理「ぶい」

 

明人「そういう。場所は?全員参加でいいんだな?」

 

梢「場所は私の家の別荘で。全員参加です。砂浜での練習は、かなりハードですけど」

 

明人「それ瑠璃乃大丈夫か……?」

 

綴理「るりが決めたんだよ。合宿したいって。ボクは提案しただけ」

 

明人「そうきたかー……これ俺も同行すんの?」

 

梢「もちろん。何か問題でも?」

 

明人「分かった。部屋数は足りてるんだな?」

 

梢「そこは大丈夫です。それとーー」

 

綴理「めぐ、参加するって」

 

明人「…………は?」

 

    ◇

 

花帆「晴れ渡る青空!透き通る海!うーみー!」

 

明人「はぁ……この日が来てしまった……」

 

 来てしまった。この日が。合宿の日が

 

明人「全員荷物置いたら着替えて砂浜集合」

 

花帆「っは!?もしかしてすぐに練習ですか!?」

 

明人「え?ああ、そうだけど」

 

花帆「えー!?こんな綺麗な海が目の前にあるのに!?遊びたいですー!!」

 

瑠璃乃「ルリもー!!」

 

綴理「ボクもー」

 

明人「はぁ……梢」

 

梢「あはは………はぁ、分かりました。今から練習という雰囲気ではないし。先に、遊びにいきましょう」

 

花帆・瑠璃乃・綴理「やったー」

 

    ◇

 

明人「あっつ……」

 

瑠璃乃「あれ?アキ君遊ばないの?」

 

明人「俺はいい。日陰で波の音でも聞いてるよ」

 

花帆「えー!センセイも遊びましょうよ!」

 

明人「教師としては怒るべきなんだろうけどな……」

 

 練習させるべきか、遊ばせるべきか……。まあそこの塩梅は梢いるから大丈夫だろうけど

 

花帆・瑠璃乃「?」

 

梢「さ、遊ぶのはそこまで。そろそろ練習を始めましょう」

 

花帆・さやか・瑠璃乃「はーい!」

 

 梢の声がけで1年は集まる。そして、それを見つめるのが1人

 

慈「……」

 

明人「……あいつらが勝手にやっただけだぞ。俺はなんにも言ってない」

 

慈「分かってる。……はぁ……」

 

瑠璃乃「あーっ!めぐちゃん!」

 

慈「はっ」

 

 ずっと遠くから眺めていた慈だったが、ついに見つかってしまう

 

瑠璃乃「花帆ちゃん、さやかちゃん!とぅーきゃーっち!」

 

花帆「りょーかいっ!」

 

さやか「逃がしませんよっ!」

 

慈「う、うわー!なんなのキミたちー!」

 

 慈は2人に引っ張られていく

 

明人「……ま、慈が着くなら大丈夫だろ」

 

    ◇

 

慈「私と梢、それに綴理はね、かつて蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブに輝く希望の星ということで、蓮ノ大三角って言われてたんだ」

 

花帆「蓮ノ大三角!」

 

瑠璃乃「かっこいい!」

 

梢「同じように『問題児』とも言われていたわね」

 

慈「むっ」

 

綴理「そうだね〜。こずもめぐも、手のかかる子だったぁ」

 

梢「綴理が言わないで!」

 

慈「綴理が言うな!」

 

明人「全員、問題児だよ」

 

花帆「あっセンセイ」

 

梢「水瀬先生、2人と一緒にされるのは困ります」

 

慈「なにをぉ!いっつも先輩に食ってかかってたのは、梢でしょ!『こんな練習で本当にラブライブ!優勝できるんですか』ってぇー!」

 

花帆「梢センパイが……!?」

 

梢「慈のほうこそ、本当に目立ちたがりで、先輩を困らせてばっかり。『この曲はもっと私を推したほうが、ぜったい人気出ますよ☆』だったかしら?」

 

瑠璃乃「めぐちゃんがー!?」

 

慈「うぎっ……アキくーん」

 

 一瞬顔をしかめると猫なで声で後ろに回り込んでくる

 

明人「うおっ。慈、あのなぁ……」

 

梢「それにいっつもこうやって水瀬先生を盾にして。先生も甘やかし過ぎなんです」

 

 一歩踏み込み、しかめっ面の梢が捲し立ててくる

 

明人「えっ俺?」

 

慈「げっ……やっぱ梢には効かないか」

 

梢「慈!」

 

花帆「こ、梢センパイってこんなこともするんだ……」

 

瑠璃乃「るりの知らないめぐちゃんがいる……!?」

 

綴理「それが今じゃふたりとも、こんなに立派になって」

 

梢「……そうね、綴理もちゃんと時間通りに練習に来るようになったものね」

 

慈「綴理が……!?」

 

 楽しい会話は止まらない

 思い出話、今の話

 みんなが笑う楽しい空気

 

花帆「で、でも!あのときは大変でしたね!あたしを庇った梢センパイが大怪我したんじゃないかって、ずっごく心配しちゃいました」

 

梢「大事に至らなかったことも、あなたを助けられたことも、不幸中の幸いだったわね」

 

花帆「あ、もしかして梢センパイもセンセイも、ずっと怪我には気を付けるようにって言ってくれてたのって……」

 

 日野下の何気ない発言に笑い声が消え、

 潮風と波の音だけが抜けていく

 

梢「……ええ、そうよ。もう仲間を失うのは、懲り懲りだもの」

 

慈「……」

 

花帆「あ、あの!慈センパイって、もう、ダンスできないんですか!?」

 

明人「っ……」

 

さやか「花帆さんーー」

 

慈「うん、そうだよ」

 

花帆「でも、瑠璃乃ちゃんに教えているときは、できてましたよね?」

 

慈「ステージ上じゃなければね」

 

さやか「先生の言っていた心の怪我って……」

 

花帆「……でも、それって、治ったりとか」

 

慈「しなかった。でも、スクールアイドルをするのは、楽しかった。私にはとっては、いい思い出だよ」

 

花帆「だったら!ダンスが出来なくとも……!」

 

明人「日野下」

 

花帆「っでも、でも、だって……」

 

慈「人には、その人なりのスクールアイドルがあるんだって。よく誰かさんが言ってたじゃん」

 

 慈がチラリとこちらを見つめてくる

 

明人「覚えてんのかよ」

 

慈「まあね。ダンスをしないスクールアイドルがいてもいいと、私は思うよ。けどね、それは私の思い描いた夢の形じゃないんだ」

 

 ……ほんと、嫌になる

 

慈「梢、綴理。素敵な後輩が3人も入ってきてくれて、よかったね。ずっと心残りだったのはさ、私がいなくなったら華もなくなっちゃうでしょ?それで新入生が来なくなって、クラブが廃部になっちゃうんじゃないかーって」

 

梢「……なに言ってるの。そんなわけ、ないでしょう」

 

慈「うん。梢も綴理も仲直りしたみたいだし、アキ君も戻ったみたいだし、よかったよかった。これで私が思い残すことも、もう、あんまりないかな。ふふっ」

 

瑠璃乃「……ルリ!ちょっと走ってくる!」

 

慈「えっ、なに、急に」

 

瑠璃乃「まだ……まだ、ルリは諦めてないんだから!いくぞー!メラメラー!」

 

花帆「あ、あたしも行く!」

 

さやか「では、私もお供します!」

 

 そう言って3人は砂浜を走っていく

 

梢「ふふっ、いい後輩たちでしょ?」

 

慈「……そう、だねえ」

 

綴理「……」

 

 熱い砂浜に、やけに冷たい潮風が走る

 

    ◇

 

 夜の砂浜

 ただ1人残って練習を続ける慈の姿が月明かりに照らされてよく見える

 

慈「……はぁ……はぁ……」

 

 ただひたすらに踊り続ける。息が上がって、汗が滲んでも、ステップを完璧に熟していく

 

慈「……まだ、こんなこと。ほんと、なーにやってだか、私」

 

明人「慈」

 

慈「見てたの?」

 

明人「ああ」

 

慈「……おかしいよね。もう、スクールアイドルじゃないのに」

 

 波の音だけが静かに流れる

 

慈「……やっぱり、答えてくれないか」

 

 慈はまた踊り始めようとする

 

明人「慈は」

 

慈「っ」

 

 動きが止まる

 音が消える

 波の音も、風の音も。今は静かに感じてしまう

 

明人「慈は……踊るの、嫌いか?」

 

慈「……そんなわけ、ないじゃん」

 

明人「そうか」

 

 それだけ言って、振り返る

 

明人「……らしく踊っとる時の慈、好きやったよ」

 

 返事はない。聞こえたかどうかも……

 後ろから聞こえてきたのは、砂浜の上で踊る音だけだった

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