羊たちが運んできた宇宙 【Welcome Humanity】 作:ヒツジ(ラム肉
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銀河中央通信社速報
銀河歴442年 第3四半期
> 【速報】
第七外縁宙域にて、 人類由来ではない知的生命体との接触を確認。
現在、 外縁艦隊が対象と接触中。
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「……寝ぼけてんのか?」
第七外縁宙域監視基地の通信室で、 最初にそう呟いたのは、 三徹明けの通信士官だった。
後に酒場で本人から聞いた話だ。
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> 「いやだって、 “未知文明艦隊接近中”だぞ?」
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彼はその時、 冷め切った合成コーヒーを飲みながら、 退屈な夜勤を潰していたらしい。
第七外縁宙域。
銀河の端。
辺境。
左遷先。
暇すぎて、 航宙軍内部では
『銀河一静かな勤務先』
とまで言われていた場所だ。
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だから最初、 誰も本気にしなかった。
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観測員。
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> 「また誤検知じゃねぇの?」
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別の職員。
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> 「前もあったろ、 恒星フレアを艦隊って誤認したやつ」
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通信士官。
青い顔。
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> 「いや…… 今回は違います」
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モニターに映る、 無数の光点。
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基地司令が、 眉をひそめた。
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> 「識別は?」
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> 「出ません。」
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> 「軍用コードは?」
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> 「未知です。」
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> 「所属国家は?」
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> 「登録文明に該当なし。」
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沈黙。
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観測室の空気が、 ゆっくり変わった。
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誰かが小さく言う。
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> 「……宇宙人か?」
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誰も笑わなかった。
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巨大モニターの向こう。
暗黒宇宙を埋める光。
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艦隊。
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だが奇妙だった。
軍艦らしくない。
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細長い船。
横に膨らんだ船。
環状構造物。
外付けコンテナ。
巨大推進器。
接続アーム。
回転区画。
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基地司令。
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> 「……なんだあれ」
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隣の航宙軍士官。
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> 「港?」
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本当にそんな見た目だった。
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軍艦というより。
“積荷を抱えた都市”
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観測員の一人が、 ぽつりと呟く。
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> 「輸送船団か……?」
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その瞬間。
警報。
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通信アラート。
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通信士官が椅子から飛び上がる。
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> 「通信来ます!」
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基地内。
空気が凍る。
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人類史上初。
未知知性体との会話。
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誰もが、 侵略者を想像していた。
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重いノイズ。
静電音。
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そして。
穏やかな声。
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> 「こんにちは。」
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沈黙。
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通信士官が、 小声で呟いた。
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> 「……普通に喋った」
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別の職員。
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> 「そこじゃねぇだろ」
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声は続いた。
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> 「我々はヒツジコーポです。」
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基地司令。
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> 「…………コーポ?」
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航宙軍士官。
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> 「会社って意味の?」
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後方で誰かが吹き出した。
緊張で。
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司令が咳払いする。
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> 「こちら第七外縁監視基地。」
「貴艦隊の目的を確認したい。」
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少し沈黙。
向こうで、 何か相談しているような声。
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やがて返答。
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> 「商取引です。」
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基地内。
完全停止。
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通信士官。
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> 「……え?」
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観測員。
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> 「待て待て待て」
「宇宙人が?」
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> 「商売?」
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司令。
頭を押さえる。
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> 「……取引内容は?」
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今度は即答だった。
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> 「食料です。」
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再び沈黙。
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若い士官が、 小さく吹き出す。
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> 「いやいやいや」
「初接触で麦売りに来たのかよ」
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その瞬間。
基地内で初めて笑いが起きた。
張り詰めていた空気が、 少しだけ崩れる。
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だが。
笑っていたのは、 その時までだった。
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数時間後。
調査ドローン映像が届いた。
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巨大輸送船。
その周囲に連なる艦隊。
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誰かが呟く。
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> 「……多くない?」
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とにかく量がおかしかった。
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コンテナ。
冷凍区画。
液体タンク。
農業ブロック。
発酵槽。
加工施設。
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艦隊の八割以上が、 積載区画だった。
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分析官。
青い顔。
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> 「これ、 全部食料関連です」
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司令。
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> 「は?」
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分析官。
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> 「推定積載量が……」
「銀河外縁部、 三年分を超えてます」
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沈黙。
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若い士官。
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> 「戦争じゃなくて、 市場が死ぬぞこれ……」
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その頃。
銀河中では、 既に別の騒ぎが始まっていた。
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銀河ネット
> 「宇宙人だ!」
> 「侵略来る!?」
> 「いや商社らしいぞ」
> 「初接触で物流会社は草」
> 「食料売りに来たってマジ?」
> 「ヒツジって名前かわいいな」
> 「宇宙人美少女まだ?」
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銀河中央通信社 編集部。
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編集長が、 端末を叩きながら怒鳴っていた。
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> 「外縁取材班どうした!」
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若手記者。
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> 「ベテラン全員休暇申請出しました!」
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> 「早ぇよ!」
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その時。
編集部の隅で、 シュガリヴィは静かにコーヒーを飲んでいた。
若手記者。
外縁担当。
雑用係。
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編集長が振り向く。
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> 「シュガリヴィ!」
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> 「はい」
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> 「お前行け」
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> 「え?」
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> 「ヒツジコーポ取材だ。」
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少し沈黙。
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> 「いや待ってください」
「宇宙人ですよ?」
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編集長。
煙草をくわえながら。
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> 「だからだ。」
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> 「あとベテラン全員逃げた。」
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編集部の奥。
先輩記者たち。
露骨に目を逸らす。
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シュガリヴィ。
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> 「最低だこの会社……」
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編集長。
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> 「記事になるなら宇宙人でも構わん。」
「行ってこい。」
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数日後。
シュガリヴィは、 第八居住星系宇宙港へ降り立った。
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港は混乱していた。
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> 「搬入口開けろ!」
> 「まだ入るのか!?」
> 「冷凍区画埋まるぞ!」
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空を見上げる。
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巨大輸送船。
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いや。
輸送船団。
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終わらない。
次々と降りてくる。
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シュガリヴィは、 初めて実感した。
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これは。
“接触”なんかじゃない。
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もっと巨大な何かが、 人類社会へ入り込もうとしている。
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その時だった。
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背後から声。
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> 「すみません、 通りますー」
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振り向く。
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そこにいたのは。
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白灰色の毛。
丸い黒目。
柔らかそうな耳。
作業服。
工具ベルト。
名札。
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まるで。
“デフォルメされたヒツジが、
そのまま二足歩行して服を着ている”
ような姿だった。
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そしてその宇宙人は。
巨大コンテナを載せた台車を押しながら、 普通に汗をかいていた。
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シュガリヴィ。
完全停止。
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ヒツジ社員。
ぺこりと頭を下げる。
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> 「こんにちは。」
「取材の方ですよね?」
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シュガリヴィ。
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> 「…………はい」
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その瞬間。
彼は理解した。
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人類は今。
とんでもなく変な宇宙人と
出会ってしまったのだと。
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