羊たちが運んできた宇宙 【Welcome Humanity】 作:ヒツジ(ラム肉
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銀河中央通信社速報
> 【速報】
第八居住星系、 物流関連雇用が農業従事者数を上回る。
統計開始以来初。
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同時速報
> ヒツジコーポ、 外縁七星系にて新規冷凍物流網を展開。
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第八居住星系 高速輸送道路
以前は、 農道だった。
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今は。
大型搬送車が列をなしている。
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コンテナ。
冷凍車両。
建築資材。
食品輸送車。
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道路脇には、 新しい店が増えていた。
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食堂。
宿泊施設。
工具店。
燃料店。
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そして。
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ヒツジ向け理髪店。
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シュガリヴィ。
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> 「……理髪店?」
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運転手のおっちゃん。
笑う。
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> 「毛ぇ伸びるらしいぞ」
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> 「あと湿度管理いるらしい」
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シュガリヴィ。
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> 「宇宙人でも床屋行くんですね……」
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> 「そりゃ行くだろ」
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少し沈黙。
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> 「最近、 “宇宙人だから”って感覚減ったよな」
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窓の外。
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ヒツジ社員が、 コンビニらしき店で肉まんを買っていた。
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完全に日常だった。
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シュガリヴィ記者 取材記録
農地は減っていた。
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だが。
人は増えていた。
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以前より。
街は豊かだった。
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それが、 人類社会をさらに混乱させていた。
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もし飢えていたなら。
もし失業していたなら。
もし街が荒れていたなら。
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人類は、 ヒツジコーポを敵視できた。
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だが現実は逆だった。
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飯は増え。
仕事も増え。
治安まで改善している。
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その結果。
“反対する理由”が、
少しずつ消えていく。
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第八物流港 第二建設区画
巨大だった。
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以前の物流港よりさらに大きい。
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もはや。
“都市”
だった。
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無数の倉庫。
居住区。
加工施設。
整備工場。
発酵区画。
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空を、 輸送ドローンが埋めている。
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元農家のおっちゃん。
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> 「前の村より人口多いぞここ」
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本当にそうだった。
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食堂街まである。
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簡易映画館。
共同浴場。
保育施設。
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以前の農村より、 明らかに生活インフラが充実している。
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シュガリヴィ。
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> 「……もう街ですね」
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隣のヒツジ社員。
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> 「物流拠点です。」
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> 「人多いので。」
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当たり前のように言う。
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元農地 居住区
以前は果樹園だった場所。
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今は。
集合住宅が並んでいる。
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洗濯物。
子供の声。
露店。
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若い母親が、 買い物袋を抱えて歩いていた。
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シュガリヴィ。
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> 「住みやすいですか?」
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母親。
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> 「前より全然。」
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> 「保育施設あるし、 飯安いし。」
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少し笑う。
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> 「主人もヒツジ勤務で安定しましたし」
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その背後。
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果樹園の名残。
一本だけ残った古い木。
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妙に目についた。
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旧農機具倉庫
今は、 ヒツジ整備工場になっていた。
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元整備士のおっちゃん。
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> 「いやー、 宇宙人の機械とか無理だと思ったけど」
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巨大輸送機の下へ潜る。
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> 「意外と泥臭ぇわ」
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ヒツジ整備員。
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> 「第四冷却ライン詰まってます!」
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> 「発酵粉塵ですねこれ!」
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元整備士。
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> 「お前らなんでも発酵させるな!」
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周囲爆笑。
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ヒツジ。
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> 「便利ですよ?」
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本気だった。
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第八居住星系 市場中央
以前より賑わっていた。
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特に。
飲食街。
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ヒツジ食品を使った店が、 爆発的に増えている。
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> 「ヒツジ風串焼き!」
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> 「銀河発酵鍋!」
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> 「異星香辛料ラーメン!」
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若者たちが騒ぐ。
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> 「うめぇ!」
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> 「安っ!」
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> 「また来ようぜ!」
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屋台のおっちゃん。
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> 「いやー、 ヒツジ香辛料強いわ」
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> 「前より客増えた」
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市場全体が、 活気づいていた。
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その一方で。
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昔ながらの穀物店は、 静かに閉店していた。
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銀河議会 特別討論番組
巨大モニター。
討論は荒れていた。
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> 「食料自給率が崩壊している!」
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> 「だが飢餓率は改善しています!」
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> 「ヒツジ依存を止めろ!」
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> 「止めた場合の経済損失は!?」
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> 「国家の未来を――」
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市場の人々は、 それを横目で見ながら飯を食っている。
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誰も。
真剣には聞いていなかった。
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ヒツジ物流港 深夜
夜。
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巨大輸送船が、 列をなして発着している。
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まるで。
銀河そのものが、 流れているみたいだった。
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シュガリヴィは、 港を歩きながら思う。
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以前。
文明とは。
土地だった。
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畑だった。
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国家だった。
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だが今。
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ヒツジコーポは。
“流れ”そのものを支配している。
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物流。
食料。
市場。
人口。
雇用。
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全部。
流れで繋がっている。
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その時。
隣でヒツジ社員が呟いた。
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> 「第八星系、 良い物流拠点になりそうですね」
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シュガリヴィ。
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> 「……拠点」
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ヒツジ。
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> 「はい。」
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> 「銀河間輸送向きです。」
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シュガリヴィ。
止まる。
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> 「銀河“間”?」
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ヒツジ。
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> 「はい?」
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また。
その顔だった。
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悪意も。
脅しも。
何もない。
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ただ。
“当然の業務予定”
を話している顔。
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シュガリヴィは、 少し寒気を覚えた。
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人類は今。
“一地方文明”
として。
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超巨大物流文明へ、 組み込まれ始めている。
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