羊たちが運んできた宇宙 【Welcome Humanity】 作:ヒツジ(ラム肉
---
銀河中央通信社速報
> 【速報】
外縁七星系、 食料自給率過去最低を更新。
一方で経済成長率は過去最高。
---
同時速報
> ヒツジコーポ、 外縁七星系への追加投資を発表。
新規物流拠点建設へ。
---
第八居住星系 中央都市
夜でも明るかった。
---
以前なら。
節電。
閉店。
静かな通り。
---
今は違う。
---
輸送車。
屋台。
酒場。
露店。
夜勤帰りの作業員。
---
人が多い。
---
街が、 起き続けている。
---
大型モニターには、 ヒツジコーポ広告。
---
『安定した物流をあなたへ』
---
その下で。
人類とヒツジが、 同じ串焼きを食べていた。
---
シュガリヴィ記者 取材記録
文明は変わっていた。
---
もう、 誰にも否定できなかった。
---
農地は減っている。
---
だが。
街は栄えている。
---
子供は増え。
市場は広がり。
失業率は減っていた。
---
まるで。
“農地が消えた分、
別の文明が生えている”
ようだった。
---
そして人類は、 その変化へ適応し始めていた。
---
第八物流港 第五区画
以前は丘だった場所。
---
今は。
巨大冷凍倉庫群。
---
白い建物が、 地平線まで並んでいる。
---
元農家のおっちゃんが、 搬送車を誘導していた。
---
> 「第五ライン空けろー!」
---
> 「冷凍便入るぞ!」
---
汗だく。
---
シュガリヴィ。
---
> 「忙しそうですね」
---
おっちゃん。
笑う。
---
> 「前より稼げるけどな!」
---
周囲の作業員も笑う。
---
別の男。
---
> 「うちの息子、 物流学校行ったぞ」
---
> 「宇宙船乗りたいんだと」
---
少し沈黙。
---
> 「昔なら、 畑継いでたんだろうけどな」
---
誰も。
否定しなかった。
---
旧果樹園地帯
一本だけ、 古い果樹が残っていた。
---
その周囲を囲むように、 物流道路が走っている。
---
シュガリヴィは、 その木を見上げる。
---
以前なら。
この辺り一面、 果樹園だったらしい。
---
今は。
輸送車の音しかしない。
---
そこへ。
小さな女の子が走ってくる。
---
> 「ママー!」
---
母親。
ヒツジ作業服姿。
---
> 「走らないの!」
---
少女。
---
> 「今日ね! ヒツジさんにお菓子もらった!」
---
笑顔。
---
その背後。
---
古い果樹。
巨大物流倉庫。
---
全部同じ景色の中にあった。
---
ヒツジ物流学校
以前の農業高校。
---
今は。
『第八物流技術学院』
---
巨大看板。
---
校庭には、 輸送ドローン教材。
---
教室では。
---
> 「物流停滞時の文明影響について――」
---
若い学生たちが、 真面目に授業を受けていた。
---
シュガリヴィ。
廊下を歩く。
---
壁のポスター。
---
『物流は文明を止めない』
---
『安定供給は社会を支える』
---
以前の。
---
『豊かな土を未来へ』
---
という標語は、 もう残っていなかった。
---
銀河議会 特別委員会
荒れていた。
---
> 「このままでは国家農業が!」
---
> 「だが税収は増えています!」
---
> 「ヒツジ依存率が危険域です!」
---
> 「失業率改善を無視するのか!」
---
> 「国家主権の――」
---
議会の外。
---
人々は、 ヒツジ製発酵飲料を片手に歩いていた。
---
もう。
危機感と生活が、 噛み合っていない。
---
第八物流港 深夜
夜。
---
無数の光。
輸送船。
搬送ドローン。
---
眠らない港。
---
シュガリヴィは、 高台から港を見下ろしていた。
---
以前なら。
この星系の中心は、 農地だった。
---
今は。
物流港だ。
---
その隣で、 ヒツジ社員が端末を見ながら呟く。
---
> 「第八星系、 想定以上に順調ですね」
---
別のヒツジ。
---
> 「人口増加率良好です。」
---
> 「消費量も伸びています。」
---
シュガリヴィ。
---
> 「……消費量」
---
ヒツジ。
---
> 「はい?」
---
シュガリヴィ。
---
> 「あなたたち、 人類を見てるんじゃないんですね」
---
少し沈黙。
---
ヒツジ社員。
---
> 「文明を見ています。」
---
その言葉が。
今までで一番。
重かった。
---
ヒツジ社員は続ける。
---
> 「人類文明、 成長段階としては良好です。」
---
> 「物流適応性高いので。」
---
シュガリヴィ。
寒気が走る。
---
こいつら。
本当に“文明単位”で見ている。
---
国家でも。
民族でも。
人でもない。
---
もっと巨大な視点。
---
そして多分。
彼らにとって、
人類はまだ“地方市場”の一つだ。
---
港の向こう。
巨大輸送船が、 静かに宇宙へ上がっていく。
---
まるで。
銀河そのものが、 流れているみたいだった。
---
シュガリヴィ記者 私的記録
人類は今。
侵略されているのかもしれない。
---
だが。
それは軍隊ではない。
---
砲火でもない。
---
もっと静かなものだ。
---
便利さ。
豊かさ。
安定。
物流。
---
そういうものに包まれながら。
---
気づけば。
“昔の文明”が、
消えていく。
---