羊たちが運んできた宇宙 【Welcome Humanity】 作:ヒツジ(ラム肉
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銀河中央通信社速報
> 【速報】
外縁七星系、 ヒツジ関連商品の市場占有率58%を突破。
若年層では70%を超える地域も。
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同時速報
> “ヒツジ語”由来の俗語、 若年層を中心に急拡大。
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第八居住星系 中央商業区
人が多い。
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以前より。
ずっと。
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巨大モニター。
輸送広告。
ヒツジ食品CM。
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『安定供給で毎日をもっと豊かに』
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街角では、 ヒツジ社員が普通に道案内をしていた。
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> 「第三搬送駅なら、 あちらですね。」
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道を聞いたおばちゃん。
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> 「ありがとねぇ」
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完全に。
“近所の会社員”
だった。
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シュガリヴィ記者 取材記録
人類は、 順応していた。
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いや。
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適応しすぎていた。
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食事。
仕事。
生活。
娯楽。
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全部に、 ヒツジが混ざっている。
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しかも。
“異物感”が、
急速に薄れている。
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若い世代ほど顕著だった。
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彼らは。
“宇宙人”としてではなく。
“社会の一部”
としてヒツジを見始めている。
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第八物流技術学院
昼休み。
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学生たちが騒いでいる。
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> 「お前、 卒業どこ行く?」
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> 「第五物流港かな」
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> 「いいなー」
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> 「外銀河便乗れるらしいぞ」
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> 「ヒツジ本社ルートじゃん!」
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シュガリヴィ。
止まる。
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> 「……本社?」
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学生。
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> 「あ、記者さん?」
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> 「いやなんか、 成績いいと推薦あるらしくて」
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別の学生。
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> 「“中央物流圏”勤務とか」
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> 「めちゃエリート扱いですよ」
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笑いながら話している。
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だが。
その会話の中には。
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“国家勤務”
も。
“地元企業”
も。
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ほとんど出てこなかった。
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学食
以前よりさらに混んでいた。
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ヒツジ風料理コーナーには、 長蛇の列。
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学生。
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> 「発酵辛味麺二つ!」
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> 「あとヒツジパン!」
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ヒツジ調理員。
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> 「本日糖分強め版です。」
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学生たち。
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> 「うおおお!」
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爆笑。
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シュガリヴィは、 少し頭を抱えた。
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完全に。
“若者文化”
になっている。
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中央娯楽街
以前より派手になっていた。
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ネオン。
音楽。
露店。
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そして。
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『異星物流祭』
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巨大広告。
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若者たちが騒ぐ。
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> 「今年も行く!?」
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> 「限定ヒツジ酒あるらしいぞ!」
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> 「物流ショー楽しみ!」
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シュガリヴィ。
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> 「物流ショー……?」
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隣の屋台のおっちゃん。
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> 「輸送ドローンレースとかやるんだと」
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> 「若いの大好きだぞ」
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遠く。
子供たちが、 ヒツジ型風船を持って走っている。
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その光景が。
妙に。
現実感を失わせた。
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旧農業博物館
人が少なかった。
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以前は、 地元農業の歴史を学ぶ施設。
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今は。
かなり静かだ。
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老人が、 古い農機具を見つめていた。
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シュガリヴィ。
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> 「来館者減りました?」
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館員。
苦笑い。
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> 「若い子、 土触ったことない子増えましたから」
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少し沈黙。
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> 「でも責められないんですよ」
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窓の外。
物流港。
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> 「前より豊かですしね」
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その言葉が。
やけに重かった。
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ヒツジ文化交流番組
テレビスタジオ。
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人気番組。
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『教えて!ヒツジさん!』
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司会者。
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> 「今回は“発酵文化”についてです!」
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視聴者コメント。
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> 「また発酵!」
> 「ヒツジほんと発酵好きだな!」
> 「でもうまいんだよなぁ」
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出演ヒツジ。
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> 「発酵重要ですよ?」
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> 「文明安定に寄与します。」
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スタジオ爆笑。
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完全に。
“いつものノリ”
になっていた。
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シュガリヴィは、 その番組を見ながら思う。
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これがもし、 十年前なら。
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人類は、 恐怖していたはずだ。
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だが今。
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宇宙人は。
“お茶の間タレント”
になり始めている。
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ヒツジ物流港 深夜
夜。
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港は相変わらず眠らない。
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輸送船。
ドローン。
搬送車。
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文明の血流みたいだった。
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シュガリヴィは、 高台からそれを見ていた。
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隣でヒツジ社員たちが、 普通に雑談している。
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> 「第八星系、 定着早いですねぇ」
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> 「かなり物流親和性高いです。」
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> 「次世代教育も順調ですし。」
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シュガリヴィ。
止まる。
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> 「……教育?」
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ヒツジ。
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> 「はい?」
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> 「文化適応率です。」
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> 「若年層かなり安定しています。」
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その言葉が。
妙に。
怖かった。
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こいつらは。
“人類社会へ馴染んでいる”
のではない。
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もっと違う。
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“文明の変化速度”
を測定している。
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その感覚が。
シュガリヴィには、 ようやく見え始めていた。
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シュガリヴィ記者 私的記録
今の子供たちは。
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ヒツジを、 宇宙人と思っていない。
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物流会社。
料理人。
教師。
近所の人。
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そういう感覚だ。
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そして多分。
次の世代は、
“ヒツジ以前の文明”
を知らない。
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それが。
今までで一番。
恐ろしかった。
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