羊たちが運んできた宇宙 【Welcome Humanity】 作:ヒツジ(ラム肉
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銀河中央通信社速報
> 【速報】
外縁七星系、 “ヒツジ世代”という俗称が定着。
ヒツジコーポ到来後に成長した若年層を指す言葉として普及。
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同時速報
> 一部地域で、 伝統農業文化保護運動が拡大。
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第八居住星系 中央駅前
巨大広告。
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『安定物流で豊かな未来を』
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その下を。
学生たちが笑いながら通り過ぎる。
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ヒツジパン。
発酵飲料。
物流学院の教科書。
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全部当たり前だった。
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若い女の子。
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> 「今日ヒツジ祭り行く?」
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友人。
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> 「行くー!」
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> 「限定発酵ケーキ食べたい!」
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> 「あと物流ショー!」
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その会話に。
“宇宙人”という単語は、 もう無かった。
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シュガリヴィ記者 取材記録
文化は。
経済より遅く変わる。
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私は、 そう思っていた。
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だが違った。
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一度生活へ入り込めば。
食事。
仕事。
娯楽。
学校。
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文化は、 驚くほど速く変わる。
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特に若者は早かった。
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彼らにとって。
ヒツジは。
“外から来た存在”
ではなく。
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“最初から社会にいる存在”
になり始めていた。
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第八物流祭
凄まじい人混みだった。
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屋台。
物流展示。
輸送ドローンショー。
異星料理大会。
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子供たちが、 ヒツジ風船を持って走っている。
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ステージでは。
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> 「今年の人気発酵料理ランキングです!」
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観客大歓声。
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シュガリヴィは、 しばらく立ち尽くしていた。
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以前なら。
収穫祭だった。
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地元農産物。
農機展示。
土の匂い。
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今は。
物流。
輸送。
異星食品。
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完全に、 別の祭りになっている。
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会場裏
老人たちが、 静かに酒を飲んでいた。
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元農家のおっちゃん。
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> 「変わったなぁ」
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別の老人。
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> 「昔は麦祭りだったんだがな」
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遠く。
若者たちが、 ヒツジ音楽で騒いでいる。
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老人。
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> 「まぁでも、 孫は楽しそうだ」
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少し沈黙。
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> 「それが一番困る」
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誰も、 返事ができなかった。
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第八物流技術学院
夜でも明るい。
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学生たちが、 普通に残って勉強している。
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教室。
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『銀河間物流論』
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『文明別消費傾向学』
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『発酵保存技術』
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以前の農業教本は、 倉庫送りになっていた。
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若い学生。
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> 「外銀河勤務憧れるわー」
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> 「中央物流圏とか行ってみてぇ」
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> 「第三腕部文明ってどんな飯なんだろ」
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その会話を聞きながら。
シュガリヴィは、 急に気づく。
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彼らは。
“銀河国家”
を見ていない。
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もっと広い。
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“物流圏”
を見ている。
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価値観そのものが、 変わり始めていた。
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旧農村地区
静かだった。
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街灯も少ない。
人も少ない。
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畑跡地には、 雑草が揺れている。
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シュガリヴィは、 古い神社の前で足を止める。
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そこには。
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小さな石碑。
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『豊穣祈願祭跡』
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かつて。
村人総出で、 収穫を祈っていた場所。
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今は。
誰もいない。
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遠くから聞こえるのは。
物流港の低い駆動音。
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まるで。
新しい文明の鼓動みたいだった。
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ヒツジ物流港 展望区画
夜。
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巨大輸送船が、 何隻も宇宙へ上がっていく。
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コンテナ群。
光。
無数の航路。
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銀河が、 流れている。
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シュガリヴィの隣で、 ヒツジ社員が缶飲料を飲んでいた。
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> 「第八星系、 順調ですねぇ」
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シュガリヴィ。
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> 「……何がです?」
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ヒツジ。
きょとん。
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> 「文明発展です。」
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> 「人口増加。」
「市場拡大。」
「物流安定。」
「教育適応。」
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当たり前のように言う。
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シュガリヴィ。
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> 「あなたたち、 本当に善意なんですね」
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ヒツジ。
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> 「はい?」
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> 「文明成長、 良いことですよ?」
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その返答に。
嘘は無かった。
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だからこそ。
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シュガリヴィは、 ようやく理解し始める。
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ヒツジコーポは。
“侵略者”ではない。
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もっと恐ろしい。
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“善意で文明を変える存在”
なのだ。
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その時。
遠くで、 子供たちの声が聞こえる。
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> 「ヒツジさーん!」
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ヒツジ社員が、 普通に手を振り返す。
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子供たちは笑う。
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その光景が。
あまりにも自然で。
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シュガリヴィは、 少し寒気を覚えた。
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シュガリヴィ記者 私的記録
多分。
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もう戻れない。
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農地。
文化。
価値観。
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全部。
少しずつ変わっている。
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しかも。
人類自身が、 それを望み始めている。
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これが侵略なら。
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あまりにも静かだった。
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