羊たちが運んできた宇宙 【Welcome Humanity】 作:ヒツジ(ラム肉
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銀河中央通信社速報
> 【速報】
第八物流港にて、 大規模輸送遅延発生。
一部冷凍食品便に最大三日遅延。
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同時速報
> ヒツジコーポ、 “物流障害”を公式発表。
外縁七星系各地で一部商品不足。
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第八居住星系 中央市場
ざわついていた。
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人が多い。
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だが。
空気が違う。
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肉売り場。
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棚が、 半分空いていた。
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主婦。
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> 「え?」
「今日入ってないの?」
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店員。
困った顔。
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> 「冷凍便遅れてるらしくて……」
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別の客。
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> 「ヒツジ便?」
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> 「珍しいな」
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市場全体が、 妙に落ち着かない。
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それでも。
まだ誰も、 大事だとは思っていなかった。
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シュガリヴィ記者 取材記録
ヒツジコーポは、 完璧に見えた。
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物流。
供給。
雇用。
市場。
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全てを、 異常な精度で回している。
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だからこそ。
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初めての“停止”は。
想像以上に大きく見えた。
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始まりは。
ただの輸送遅延だった。
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冷凍便。
三日停止。
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以前なら。
そこまで問題にはならなかった。
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だが今。
人類社会は、
ヒツジ物流を前提に回っている。
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だから。
たった数日の遅延で。
市場がざわつき始めた。
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第八物流港
異様だった。
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ヒツジ社員たちが、 走り回っている。
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> 「第三区画遅延確認!」
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> 「代替便回してください!」
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> 「冷凍優先順位変更します!」
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以前の。
落ち着いた空気が無い。
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人類作業員たちも、 困惑していた。
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元農家のおっちゃん。
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> 「ヒツジが慌ててる……」
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隣の作業員。
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> 「初めて見たぞ」
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本当に。
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ヒツジたちは、 明らかに焦っていた。
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緊急物流対策室
巨大モニター。
無数の航路図。
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ヒツジ社員たちが、 高速で情報を処理している。
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> 「第二冷凍便、 小惑星帯事故です!」
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> 「代替ルート計算中!」
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> 「第七補給港開放します!」
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シュガリヴィは、 その光景を見ながら思う。
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今まで。
ヒツジは。
“完成された文明”
に見えていた。
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だが違う。
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こいつらも。
必死で回している。
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その事実が、 少しだけ恐ろしかった。
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中央飲食街
普段なら賑やかだった。
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今日は。
少し空気が違う。
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焼き肉店。
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> 「今日、 ヒツジ肉便遅れてるんですよ」
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客。
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> 「マジかよ……」
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> 「じゃあ別の頼むか」
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店主。
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> 「いや、 他も結構止まってて」
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周囲の客たちが、 少しざわつく。
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若い男。
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> 「……あれ?」
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> 「俺ら、 結構ヒツジ頼りじゃね?」
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その言葉で。
空気が少し静かになった。
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第八物流技術学院
授業中。
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教壇のヒツジ講師が、 珍しく真面目な顔をしていた。
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> 「今回の件は、 大規模物流障害事例です。」
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スクリーン。
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『銀河間冷凍物流停止による市場影響』
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学生たちが、 静かに見ている。
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ヒツジ講師。
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> 「文明は、 流通停止に弱いです。」
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> 「特に依存率上昇後は。」
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シュガリヴィ。
寒気が走る。
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これ。
“授業”として蓄積されてる。
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つまり。
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ヒツジコーポは。
こういう文明変化を、
何度も見てきた。
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第八居住星系 ネット掲示板
> 「肉売ってねぇ!」
> 「発酵バター消えた!」
> 「物流止まるだけでこれかよ」
> 「ヒツジ頼りすぎでは?」
> 「でも昔よりマシ」
> 「昔なら普通に飢えてたぞ」
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人類は。
少しずつ。
気づき始めていた。
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“戻れない”ことに。
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ヒツジ物流港 深夜
眠っていなかった。
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輸送船。
ライト。
作業音。
怒鳴り声。
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ヒツジ社員たちが、 必死で走り回っている。
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その中で。
案内役のヒツジ社員が、 壁にもたれながら端末を見ていた。
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疲れていた。
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シュガリヴィ。
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> 「……大丈夫ですか」
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ヒツジ。
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> 「良くないですねぇ……」
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初めてだった。
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ヒツジが。
“弱音”っぽいものを吐いた。
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ヒツジ社員。
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> 「冷凍便停止、 想定以上に影響出ています。」
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> 「文明依存率、 上がりすぎました。」
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シュガリヴィ。
止まる。
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> 「……依存率って、 あなたたち分かってたんですか」
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ヒツジ。
きょとん。
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> 「はい?」
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> 「当然ですよ?」
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その返答が。
今までで一番、 恐ろしかった。
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こいつら。
最初から分かっていた。
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市場も。
文化も。
物流も。
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全部。
“依存”へ向かうことを。
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そして。
それでも止めなかった。
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