羊たちが運んできた宇宙 【Welcome Humanity】 作:ヒツジ(ラム肉
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銀河中央通信社速報
> 【速報】
ヒツジコーポ、 外縁七星系へ大規模備蓄放出を継続。
一部地域で供給回復の兆し。
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同時速報
> 各国政府、 “食料安全保障会議”を緊急開催。
ヒツジ依存率が主要議題に。
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第八居住星系 中央市場
少しだけ。
棚が戻っていた。
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肉。
発酵食品。
冷凍野菜。
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だが。
以前ほどではない。
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人々は、 妙に静かだった。
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以前のように。
「いつでもある」
という空気が消えている。
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主婦が、 肉を抱えながら呟く。
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> 「助かったぁ……」
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隣のおっちゃん。
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> 「物流戻ったのか?」
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店員。
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> 「ヒツジ備蓄らしいですよ」
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少し静まる。
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若い男。
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> 「備蓄って、 どんだけ持ってんだよあいつら……」
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誰も答えられなかった。
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シュガリヴィ記者 取材記録
人類は。
初めて、 “文明の血流”を見た。
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物流。
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それは今まで。
裏方だった。
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目立たない。
当たり前。
存在を意識しないもの。
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だが。
止まった瞬間。
全員が理解した。
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社会は。
物流で回っていた。
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しかも。
その中心には。
ヒツジコーポがいた。
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第八物流港 緊急搬送区画
眠っていなかった。
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巨大輸送船。
無数のコンテナ。
飛び交う指示。
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ヒツジ社員たちが、 疲れた顔で動いている。
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> 「第三冷凍便接続!」
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> 「優先区域へ回してください!」
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> 「児童人口比率更新!」
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人類作業員たちも、 必死だった。
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元農家のおっちゃん。
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> 「第五ライン急げ!」
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> 「まだ市場足りてねぇ!」
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その光景は。
もはや企業ではなかった。
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“災害対応”
だった。
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銀河議会 特別安全保障会議
怒号。
混乱。
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> 「見たか!」
「これが依存だ!」
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> 「だがヒツジが備蓄を放出しなければ!」
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> 「国家農業を復活させろ!」
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> 「今さら間に合うのか!?」
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> 「主権の問題だぞ!」
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だが。
議会外では。
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市民たちが。
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> 「ヒツジ頑張ってるな」
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> 「復旧早かった」
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> 「昔なら飢えてたぞ」
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そんな話をしていた。
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ここが、 一番恐ろしかった。
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“感謝”が生まれている。
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第八物流技術学院 特別講義
教室。
異様に静か。
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ヒツジ講師が、 真面目な顔で説明している。
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> 「今回の障害で、 外縁七星系の供給脆弱性が確認されました。」
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スクリーン。
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『文明依存率危険域到達』
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学生たち。
ざわつく。
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若い学生。
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> 「危険域って……」
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ヒツジ講師。
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> 「はい。」
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> 「現在、 ヒツジ物流停止時の社会影響が大きすぎます。」
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シュガリヴィ。
寒気が走る。
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ヒツジは。
“依存そのもの”
を把握している。
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しかも。
問題として認識している。
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だが。
止めていない。
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ネット掲示板
> 「結局ヒツジしか復旧できなかった」
> 「国家物流どこ行った」
> 「農地戻せって言われてもなぁ」
> 「でもヒツジのおかげで助かった」
> 「怖ぇよこれ」
> 「もう戻れないんじゃ……」
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少しずつ。
人類全体が。
気付き始めていた。
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“文明構造そのもの”
が変わったことに。
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第八居住星系 郊外
古い農地跡。
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その隣。
新しい巨大冷凍倉庫。
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老人が、 小さな畑を耕していた。
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シュガリヴィ。
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> 「続けるんですね」
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老人。
笑う。
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> 「まぁな」
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土を触る。
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> 「全部運ばれてくるの、 便利なんだけどな」
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少し沈黙。
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> 「自分で作れんと、 落ち着かん」
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遠く。
巨大輸送船。
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まるで。
文明そのものが、 空を流れているみたいだった。
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ヒツジ物流港 深夜
やっと。
少しだけ落ち着き始めていた。
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だが。
ヒツジ社員たちは、 明らかに疲弊している。
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床へ座り込むヒツジ。
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> 「……疲れました」
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別のヒツジ。
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> 「文明定着速すぎましたねぇ……」
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> 「市場最適化、 想定より成功しすぎました。」
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シュガリヴィ。
止まる。
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成功。
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こいつらは。
“文明依存”を、
成功と呼んだ。
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その時。
案内役のヒツジ社員が、 缶飲料を飲みながら呟く。
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> 「でも、 良い文明ですよ人類。」
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シュガリヴィ。
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> 「……何がです」
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ヒツジ。
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> 「適応早いですし。」
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> 「消費活発ですし。」
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> 「市場反応も良好です。」
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少し考える。
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> 「あと、 ご飯美味しそうに食べますし。」
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その言葉に。
悪意は無かった。
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本当に。
一切。
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だからこそ。
シュガリヴィは、 ようやく理解する。
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ヒツジコーポは。
“征服者”ではない。
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もっと恐ろしい。
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“文明を育てる側”
なのだ。
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そして。
人類は今。
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その巨大な文明圏へ。
“組み込まれた”。
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港の向こう。
無数の輸送船が、 静かに宇宙へ消えていく。
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それはまるで。
銀河そのものが、 呼吸しているみたいだった。
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シュガリヴィ記者 私的記録
私は最近。
宇宙が怖い。
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敵意ではない。
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悪意でもない。
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もっと巨大な。
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文明。
市場。
物流。
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そういうものが。
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人類を包み込みながら。
静かに。
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形を変えていく。
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そして多分。
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それは、 この銀河だけの話ではない。
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