羊たちが運んできた宇宙 【Welcome Humanity】 作:ヒツジ(ラム肉
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銀河中央通信社速報
> 【速報】
ヒツジコーポ、 外縁三星系への試験的食料供給を提案。
提示価格、 銀河市場平均を大幅に下回る。
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第八居住星系 宇宙港
「いやいやいやいや」
港湾労働者のおっちゃんは、 搬入リストを見て頭を抱えていた。
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> 「なんだこの量」
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隣の職員。
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> 「全部食料らしい」
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> 「全部!?」
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宇宙港の窓の向こう。
巨大輸送船。
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いや。
輸送“船団”。
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次々と入港してくる。
終わらない。
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港湾管理AIが淡々と読み上げる。
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> 『入港確認』
『入港確認』
『入港確認』
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職員。
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> 「まだ来るのかよ……」
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巨大貨物エレベーターが唸りを上げる。
搬送ドローンが飛び回る。
冷凍区画担当が怒鳴る。
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> 「肉類こっちだ!」
「発酵槽は第三区画!」
「誰だ温度管理切ったやつ!」
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港は完全に戦場だった。
ただし軍事ではなく、 物流の。
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シュガリヴィ記者 取材記録
私が初めてヒツジと直接会ったのは、 その港だった。
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想像と違った。
もっとこう。
怖い
威圧的
理解不能
そんなものを想像していた。
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実際に現れたのは。
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もこもこした宇宙人だった。
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灰白色の毛。
丸い黒目。
二足歩行。
作業服。
名札。
腰に工具。
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そして。
めちゃくちゃ忙しそうだった。
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私の前を、 台車を押したヒツジが通り過ぎる。
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> 「すみません通りますー」
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宇宙人に道を譲った。
人生初だった。
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別のヒツジが、 コンテナを見ながら叫ぶ。
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> 「第三倉庫いっぱいです!」
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奥から返事。
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> 「第四開けてくださいー!」
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> 「冷凍庫もう空きません!」
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> 「じゃあ臨時区画作ります!」
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シュガリヴィは、 しばらく黙ってそれを見ていた。
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なんというか。
普通に働いていた。
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宇宙人。
人類史を変える存在。
未知文明。
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そのはずなのに。
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> 「あ、段差気をつけてください」
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とか言ってくる。
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案内役のヒツジ社員が、 ぺこりと頭を下げる。
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> 「こんにちは。」
「取材の方ですよね?」
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シュガリヴィ。
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> 「……はい。」
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少し沈黙。
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> 「本当に会社なんですか?」
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ヒツジ。
きょとん。
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> 「物流会社ですが?」
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その返答が、 妙に自然だった。
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倉庫区画
広かった。
異常なほど。
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山積みのコンテナ。
穀物。
冷凍食品。
果実。
肉。
液体タンク。
発酵槽。
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空気に、 甘い発酵臭が混ざっている。
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シュガリヴィ。
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> 「全部食料ですか?」
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ヒツジ社員。
端末を見ながら。
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> 「はい。」
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> 「まだ第一便ですが。」
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シュガリヴィ。
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> 「第一便?」
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ヒツジ。
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> 「足りません?」
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その瞬間。
私は初めて、 少し怖くなった。
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市場試験販売 初日
第八居住星系中央市場。
人で溢れていた。
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理由は単純。
安い。
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異常なほど。
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パン屋の店主が、 値札を見て叫んでいた。
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> 「待て待て待て!」
「なんでこの値段で売れる!?」
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近くの客。
パンをかじりながら。
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> 「知らん。」
「でもうまい。」
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別の客。
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> 「これ本当に宇宙人の食い物か?」
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ヒツジ販売員。
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> 「人類向け栄養調整済みです。」
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主婦。
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> 「え?」
「じゃあ普通に研究してきたの?」
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ヒツジ。
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> 「はい。」
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> 「文明ごとに必要栄養違いますので。」
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主婦。
完全停止。
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パン売り場
焼きたての匂い。
人混み。
怒鳴り声。
笑い声。
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小さな男の子が、 パンを抱えて母親へ叫ぶ。
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> 「あったかい!」
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母親。
少し困った顔。
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> 「走るなって!」
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だが笑っていた。
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別の場所では、 酒屋のおっちゃんが瓶を見ていた。
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> 「宇宙人まで酒作るのかよ……」
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ヒツジ販売員。
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> 「発酵文化は重要です。」
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> 「文明安定に寄与します。」
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酒屋のおっちゃん。
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> 「文明って酒で安定するのか?」
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ヒツジ。
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> 「かなり。」
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真顔だった。
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市場の奥
別の空気。
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農業組合。
地元農家。
輸送会社。
全員顔が死んでいた。
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農家のおっちゃん。
値札を見ながら。
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> 「終わった……」
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輸送会社社員。
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> 「うちの物流費より安いんだが?」
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別の農家。
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> 「なんで宇宙人が こんな安く麦売ってんだよ……」
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組合長。
頭を抱える。
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> 「いや、 安いだけならまだいい」
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全員が見る。
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> 「量が終わってる」
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誰も反論できなかった。
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子供たち
市場の隅。
小さな女の子。
果物を持っていた。
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シュガリヴィ。
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> 「好きなの?」
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少女。
笑う。
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> 「うん!」
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> 「あまい!」
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母親が少し困った顔で笑う。
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> 「この子、 本物の果物初めてなんです。」
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シュガリヴィ。
言葉が止まる。
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周囲では。
農家が崩れ。
市場が沸き。
商人が叫び。
子供が笑っていた。
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誰かが小さく言った。
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> 「これ、 侵略じゃねぇのか?」
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だが。
その言葉に、 誰も強く反論できなかった。
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なにせ。
人類は今、
“腹いっぱい食えていた”からだ。
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ヒツジ輸送区画
帰り際。
シュガリヴィは、 再びヒツジ社員へ聞いた。
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> 「あなた方、 これで市場がどうなるか分かってます?」
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ヒツジ社員。
少し考える。
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> 「飢餓率改善しますよ?」
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> 「あと栄養状態も。」
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シュガリヴィ。
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> 「いや、 そうじゃなくて……」
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ヒツジ。
きょとん。
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本当に。
理解していない顔だった。
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その時、 奥から怒鳴り声。
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> 「誰ですか常温区画に乳製品置いたの!」
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別のヒツジ。
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> 「すみません!」
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> 「急いで冷蔵持っていきます!」
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宇宙人たちが、 慌てて走り回る。
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その姿を見ながら。
シュガリヴィは初めて思った。
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> 「こいつら、 悪意でやってない」
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だからこそ。
一番厄介なのかもしれない。
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