羊たちが運んできた宇宙 【Welcome Humanity】 作:ヒツジ(ラム肉
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銀河中央通信社 特別速報
> 【速報】
ヒツジコーポ中央文明調整委員会、 記者シュガリヴィ氏を正式招待。
詳細は非公開。
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同時速報
> 招待先は“銀河外縁中央交流機構”との情報。
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第八交流都市
夜だった。
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物流光が、 空を流れている。
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無数の輸送船。
交流便。
外銀河航路。
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もはや。
誰も見上げない。
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それが日常だった。
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老いたシュガリヴィは、 窓辺で静かに茶を飲んでいた。
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その部屋。
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古い資料。
新聞。
記録端末。
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そして。
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六十年以上分の、 取材記録。
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人類が。
宇宙へ接続された時代の記録。
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その机へ。
一通の封筒が置かれていた。
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白い。
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奇妙なほど、 質素な封筒。
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封には。
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ヒツジコーポ中央文明調整委員会
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シュガリヴィは、 しばらく動かなかった。
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静かに。
封を開く。
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中の文章。
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> シュガリヴィ記者殿
長期交流記録、 誠にありがとうございました。
貴殿を、 中央文明調整委員会へ 正式招待いたします。
今回の交流記録は、 接続文明初期資料として 極めて高い価値を有しています。
ぜひ、 最後の取材へお越しください。
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最後の取材。
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シュガリヴィは、 少しだけ笑った。
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> 「……最後、か」
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シュガリヴィ記者 私的記録
私は老いた。
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当然だ。
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ヒツジコーポと接触した時。
私はまだ若手記者だった。
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だが今。
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街は変わった。
人類も変わった。
宇宙も変わった。
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いや。
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宇宙は、 最初から広かったのだ。
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ただ。
人類が知らなかっただけで。
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そして今。
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私は、 最後の取材へ向かう。
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第八交流港 特別発着区画
巨大だった。
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今まで見たどの船よりも。
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白い船体。
静かな駆動音。
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まるで。
“移動する都市”。
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ヒツジ案内員が、 静かに頭を下げる。
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> 「お待ちしていました。」
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シュガリヴィ。
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> 「……随分大事になったな」
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ヒツジ。
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> 「重要交流記録者ですので。」
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その言葉が。
妙に静かに胸へ刺さる。
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重要交流記録者。
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つまり。
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自分は。
“人類接続初期”
を記録した存在。
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ヒツジ文明側から見ても。
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“歴史資料”。
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その事実が。
長い年月を実感させた。
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特別交流船 内部
静かだった。
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豪華ではない。
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だが。
異様に快適。
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温度。
重力。
空気。
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全部。
完璧に調整されている。
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ヒツジ乗員が、 普通に飲み物を持ってくる。
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> 「人類向け調整茶です。」
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シュガリヴィ。
思わず笑う。
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> 「まだ調整してるのか」
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ヒツジ。
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> 「重要ですので。」
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本当に。
最後までそれだった。
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交流船 展望区画
窓の外。
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銀河。
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物流航路。
文明光。
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そして。
その向こう。
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さらに別の銀河。
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シュガリヴィは、 静かにそれを見つめる。
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昔。
人類は。
隣国で争っていた。
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資源。
領土。
国境。
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今。
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人類は。
“銀河文明の一地方文明”
になった。
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たった六十年で。
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その時。
隣へ。
ヒツジ調整官が座る。
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かなり長い付き合いだった。
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……だが。
やはり年を取っていない。
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シュガリヴィ。
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> 「あんた、 本当に変わらんな」
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ヒツジ。
きょとん。
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> 「そうです?」
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少し考える。
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> 「シュガリヴィさんは、 かなり変わりましたねぇ」
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シュガリヴィ。
笑う。
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> 「そりゃ年も取る」
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ヒツジ。
首を傾げる。
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> 「いえ、 そこではなく。」
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静かな声。
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> 「最初は、 “宇宙人を見る記者” でした。」
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> 「今は、 “宇宙を見る人” になっています。」
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シュガリヴィ。
少し黙る。
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窓の外。
銀河。
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無数の文明光。
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その景色を見ながら。
シュガリヴィは、 ようやく理解する。
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自分もまた。
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“変わった側”
なのだと。
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シュガリヴィ記者 私的記録
私は今でも。
ヒツジを理解できていない。
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なぜ文明を繋ぐのか。
なぜ食料を配るのか。
なぜそこまで友好的なのか。
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分からないことは、 今でも多い。
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だからこそ。
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これを。
最後の取材にしようと思う。
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読者たちが。
人類が。
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六十年間、 問い続けてきた疑問。
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全部聞こう。
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そして。
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全部記録しよう。
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人類が、 宇宙へ出た時代の終わりとして。
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