羊たちが運んできた宇宙 【Welcome Humanity】 作:ヒツジ(ラム肉
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銀河中央通信社速報
> 【速報】
ヒツジコーポ、 外縁七星系にて大規模雇用計画を発表。
農業経験者を優先採用。
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同時速報
> ヒツジコーポ、 新規物流港建設を開始。
建設速度に各国困惑。
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第八居住星系 旧農業区画
「……おい。」
農家のおっちゃんが、 求人票を見ながら固まっていた。
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> 「月収、 三倍?」
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隣の若い農家。
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> 「寮付きだってよ」
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> 「あと食事無料」
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沈黙。
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別のおっちゃん。
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> 「うちより待遇良くねぇか?」
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誰も否定できなかった。
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シュガリヴィ記者 取材記録
ヒツジコーポが来てから、 三ヶ月が経っていた。
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人類社会はまだ混乱していた。
だが。
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腹は満たされていた。
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市場価格は下がり続け。
飢餓率は激減。
栄養失調患者も減った。
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その代わり。
地場農業は壊れ始めていた。
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特に外縁部は深刻だった。
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安すぎる。
量が多すぎる。
物流速度が違いすぎる。
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人類側企業では、 競争にならない。
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だからこそ。
ヒツジコーポの次の一手は、 銀河中をさらに混乱させた。
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『現地雇用』
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しかも。
“元農家優先採用”。
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第八居住星系 求人窓口
長蛇の列だった。
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農家。
輸送業者。
加工工場。
若者。
失業者。
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全員並んでいる。
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受付窓口には、 ヒツジ社員が座っていた。
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もこもこ。
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しかも事務服姿。
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シュガリヴィは、 その光景をしばらく眺めていた。
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なんというか。
“かわいい”と“社会崩壊”が両立していた。
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窓口ヒツジ。
端末を見ながら。
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> 「農業経験年数は?」
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初老の農家。
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> 「三十年」
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ヒツジ。
耳が少し動く。
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> 「ベテランですね。」
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> 「栽培区画管理推薦できます。」
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農家。
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> 「……推薦?」
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ヒツジ。
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> 「はい。」
「経験者重要ですので。」
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その言葉に。
後ろの列がざわつく。
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待機列
若い男。
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> 「なぁ」
「宇宙人って農業やるんだな」
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別の男。
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> 「いや、 やってるレベルじゃねぇだろ……」
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列の後方。
輸送会社を解雇された男たち。
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> 「うち潰れたぞ」
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> 「うちも」
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> 「今度は宇宙人の物流会社勤務かぁ……」
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半笑いだった。
だが。
本気で嫌がっている感じでもなかった。
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理由は単純。
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待遇が良すぎた。
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ヒツジコーポ求人概要
食事付き
医療保障
家族区画あり
教育支援
危険宙域手当あり
無料栄養診断あり
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人類企業より、 普通に条件が良かった。
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食堂区画
シュガリヴィは、 許可を得て従業員食堂へ入った。
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広い。
清潔。
うるさい。
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人類。
ヒツジ。
入り乱れて食事している。
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巨大鍋。
焼き立てパン。
果物。
発酵飲料。
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若い作業員。
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> 「うめぇ……」
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隣の元農家。
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> 「前の職場より飯がいい……」
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別テーブル。
ヒツジ社員たち。
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> 「人類、 思った以上に塩分好きですね」
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> 「第五腕部文明に近いです。」
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> 「あそこも濃かったですねぇ」
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普通に雑談していた。
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シュガリヴィは、 少し頭が痛くなった。
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こいつら。
本当に“他文明慣れ”している。
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建設区域
ヒツジ物流港は、 異常な速度で拡張していた。
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巨大クレーン。
自動搬送機。
組み上がる倉庫。
飛び回る作業ドローン。
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現場監督ヒツジ。
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> 「第三冷凍区画急いでください!」
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人類作業員。
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> 「無茶言うな!」
「昨日まで更地だったぞここ!」
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ヒツジ。
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> 「予定通りです。」
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> 「来週には倍になります。」
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人類作業員。
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> 「なんでだよ……」
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本当に、 なんでなのか分からなかった。
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農業組合 会議室
空気は重かった。
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組合長。
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> 「このままじゃ終わる」
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若い農家。
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> 「もう終わってますよ」
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> 「若いの、 みんなヒツジ行った」
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別の農家。
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> 「だって給料いいし……」
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沈黙。
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誰も責められなかった。
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組合長。
机を叩く。
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> 「宇宙人に農業奪われてたまるか!」
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後ろから小さな声。
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> 「でも腹は減らなくなった」
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会議室が静まる。
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誰も。
完全には否定できなかった。
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ヒツジ輸送港 夜
作業はまだ続いていた。
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コンテナ。
ライト。
作業音。
発着する輸送船。
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シュガリヴィは、 港を歩きながら思う。
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最初は。
侵略だと思った。
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だが今は、 少し違う。
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侵略というより。
“置き換わっている”。
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社会が。
経済が。
生活が。
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ゆっくり。
静かに。
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その時。
背後から声。
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> 「お疲れ様です。」
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振り向く。
案内役のヒツジ社員。
缶飲料を持っている。
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> 「どうぞ。」
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受け取る。
少し甘い。
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シュガリヴィ。
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> 「……人類向け調整版ですか?」
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ヒツジ。
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> 「はい。」
「糖分強め人気なので。」
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少し沈黙。
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シュガリヴィ。
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> 「あなたたち、 なんでそこまで人類に合わせるんです?」
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ヒツジ社員。
きょとん。
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> 「物流ですので。」
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> 「売れないと困ります。」
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その返答が。
妙に。
恐ろしかった。
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