羊たちが運んできた宇宙 【Welcome Humanity】 作:ヒツジ(ラム肉
---
銀河中央通信社速報
> 【速報】
ヒツジコーポ、 外縁五星系にて新規農業プラント稼働。
現地雇用者数、 過去最大を更新。
---
同時速報
> 一部農業関連企業、 大規模人員整理開始。
---
第八居住星系 郊外農地
風が吹いていた。
---
広い畑。
その半分が、 もう使われていなかった。
---
雑草。
止まった散水機。
放置された搬送車。
---
老人が、 畑を眺めていた。
---
> 「静かになったなぁ……」
---
隣の若者。
---
> 「みんなヒツジ行ったからな」
---
遠く。
巨大輸送船が空を横切る。
---
もはや誰も、 見上げなくなっていた。
---
シュガリヴィ記者 取材記録
人類は慣れ始めていた。
---
最初は混乱。
次に警戒。
そして今。
---
“日常”
になり始めている。
---
市場へ行けば、 ヒツジ食品がある。
---
港へ行けば、 ヒツジ物流船がいる。
---
仕事を探せば、 ヒツジ求人がある。
---
気づけば、 生活の隅々に入り込んでいた。
---
そして。
一番大きく変わったのは、 農村だった。
---
元農家居住区
以前は古い集合住宅だった場所。
今は。
ヒツジコーポ社員寮になっていた。
---
妙に綺麗だった。
---
共用食堂。
医療区画。
託児所。
栄養相談室。
---
元農家のおっちゃんが、 食堂で飯を食っていた。
---
> 「前よりいい暮らししてんな俺……」
---
隣の男。
---
> 「やめろ」
「なんか悲しくなる」
---
だが飯は豪華だった。
---
焼きたてパン。
肉料理。
果物。
発酵スープ。
---
若い作業員。
---
> 「なぁ」
「ヒツジってなんでこんな飯いいんだ?」
---
向こうで配膳していたヒツジ。
---
> 「栄養効率と労働効率は連動します。」
---
> 「あと美味しい方が嬉しいので。」
---
若い作業員。
---
> 「そんな理由でいいのかよ」
---
ヒツジ。
---
> 「重要ですよ?」
---
真顔だった。
---
旧農業機械販売店
客がいなかった。
---
店主が、 端末を眺めながらため息を吐く。
---
> 「売れねぇ……」
---
以前なら。
播種機。
収穫機。
輸送車。
---
農繁期には飛ぶように売れていた。
---
今は。
---
> 「修理依頼も減ったなぁ……」
---
息子。
---
> 「だってみんなヒツジの設備使うし」
---
> 「あっち、 壊れたら交換だからな」
---
店主。
---
> 「もったいねぇ……」
---
息子。
---
> 「でも効率いいんだよ」
---
店主。
黙る。
---
それが一番苦しかった。
---
ヒツジ栽培区画
シュガリヴィは、 許可を得て農業プラントを見学していた。
---
広かった。
異様なほど。
---
立体栽培区画。
循環水路。
発酵施設。
温度管理区画。
---
無数の作物。
---
しかも。
働いているのは、 かなりの割合が人類だった。
---
元農家のおっちゃんが、 端末片手に歩いてくる。
---
> 「おぉ記者さん」
---
> 「慣れました?」
---
> 「まぁぼちぼち」
---
笑う。
---
> 「宇宙人相手に農業するとは思わんかったがな」
---
周囲では、 ヒツジ社員が走り回っている。
---
> 「第四区画窒素濃度調整お願いします!」
---
> 「果実糖度上がりすぎてます!」
---
> 「発酵ライン遅れてますー!」
---
普通に忙しそうだった。
---
シュガリヴィ。
---
> 「……思ったより泥臭いですね」
---
元農家。
吹き出す。
---
> 「そりゃ農業だぞ?」
---
> 「どこの文明でも泥臭ぇよ」
---
その言葉に、 妙な説得力があった。
---
第八居住星系 市場通り
夜。
屋台街は賑わっていた。
---
ヒツジ製発酵酒。
ヒツジ香辛料。
ヒツジ菓子。
---
若者たちが騒ぐ。
---
> 「この酒安くね!?」
---
> 「うまっ!」
---
> 「なんだこの串焼き!」
---
屋台のおっちゃん。
---
> 「ヒツジ香辛料使うと売れるんだよ!」
---
別の屋台。
---
> 「前より客増えたわ!」
---
市場そのものは、 むしろ活気づいていた。
---
ただし。
---
売られているものは、 もう以前と違っていた。
---
農業組合 解散会議
重い空気。
---
組合長。
老け込んでいた。
---
> 「……解散だ」
---
誰も驚かなかった。
---
若い農家。
---
> 「まぁそうなるわな」
---
別の男。
---
> 「うち、 来週からヒツジ勤務です」
---
沈黙。
---
組合長。
少し笑う。
---
> 「裏切り者って言いたいところだが」
---
窓の外を見る。
---
ヒツジ輸送船。
---
> 「孫に飯食わせる方が大事だわな」
---
誰も何も言えなかった。
---
ヒツジ物流港
夜。
巨大輸送船が離陸していく。
---
その光景を見ながら、 シュガリヴィは思う。
---
人類は今。
戦争で負けているわけではない。
---
支配されているわけでもない。
---
だが。
“勝てなくなっている”。
---
市場で。
物流で。
食料で。
---
静かに。
確実に。
---
その時。
隣でヒツジ社員が呟いた。
---
> 「人類、 適応速いですねぇ」
---
シュガリヴィ。
---
> 「……そうですか?」
---
ヒツジ。
---
> 「はい。」
---
> 「第二腕部文明は、 もっと揉めました。」
---
シュガリヴィ。
止まる。
---
> 「……第二?」
---
ヒツジ。
---
> 「はい?」
---
シュガリヴィ。
---
> 「いや、 あなたたち本当に何文明と接触してるんです?」
---
ヒツジ。
少し考える。
---
> 「覚えてません。」
---
> 「多すぎるので。」
---
シュガリヴィは、 少し寒気を覚えた。
---
人類は今。
とんでもない文明に
接触しているのかもしれない。
---