羊たちが運んできた宇宙 【Welcome Humanity】 作:ヒツジ(ラム肉
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銀河中央通信社速報
> 【速報】
外縁七星系、 失業率減少。
一方で農業従事者数は 過去最低を更新。
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同時速報
> ヒツジコーポ関連市場、 過去最大規模へ拡大。
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第八居住星系 中央通り
街は以前より、 明るくなっていた。
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人が増えた。
店が増えた。
食べ物が増えた。
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夜でも、 人通りがある。
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以前なら。
薄暗く。
静かで。
節約のために早く閉まっていた店々が。
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今は違う。
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屋台。
酒場。
露店。
簡易食堂。
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通りに、 匂いが満ちていた。
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焼き肉。
発酵スープ。
香辛料。
焼き菓子。
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若い男女が、 ヒツジ製発酵酒を片手に騒いでいる。
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> 「安っ!」
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> 「これ何杯目だ!?」
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> 「知らん!」
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向こうでは、 ヒツジ社員が普通に飲んでいた。
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> 「人類、 酔うと声大きいですね」
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> 「第五腕部文明も似てました。」
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普通に混ざっていた。
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シュガリヴィ記者 取材記録
不思議だった。
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農地は減っている。
農業企業も潰れている。
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だが。
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経済は回っていた。
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いや。
以前より動いていた。
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安い食料。
余った可処分所得。
増える消費。
増える物流。
増えるサービス業。
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市場は、 妙な形で拡大していた。
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そして。
その中心には、 必ずヒツジコーポがいた。
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元農業地帯
かつて畑だった場所。
今は。
巨大物流倉庫になっていた。
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コンテナ。
搬送車。
輸送ドローン。
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以前の農地より、 人が多い。
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元農家のおっちゃんが、 搬送車を誘導していた。
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> 「右寄せろー!」
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> 「そこ冷凍区画行きだ!」
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汗だく。
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シュガリヴィ。
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> 「慣れました?」
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おっちゃん。
笑う。
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> 「農業より腰痛ぇよ!」
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周囲で笑いが起きる。
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別の元農家。
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> 「でも給料いいぞ!」
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> 「あと飯!」
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ヒツジ社員。
横から。
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> 「食事重要ですので。」
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もう誰も、 その返答に驚かなくなっていた。
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小規模酒場
以前は潰れかけていた店。
今は満席だった。
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店主のおばちゃん。
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> 「いやぁ助かったよ!」
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> 「みんな飯代浮いた分、 飲みに来る!」
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若い作業員。
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> 「給料も上がったしなー!」
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別の男。
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> 「ヒツジ、 危険宙域手当えぐいぞ」
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奥では。
ヒツジ社員が、 串焼きを食べていた。
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> 「この店、 塩加減良いですね」
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店主。
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> 「宇宙人に褒められた!」
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店内爆笑。
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一方で
旧農業企業本社。
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静かだった。
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受付停止。
消灯。
閉鎖区画。
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会議室では、 重役たちが沈んでいた。
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> 「価格競争にならん……」
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> 「輸送規模が違いすぎる」
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> 「補助金でも追いつかん」
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若い役員。
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> 「提携しませんか?」
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全員が見る。
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> 「ヒツジとです。」
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沈黙。
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老経営者。
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> 「……誇りはどうする」
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若い役員。
疲れた顔。
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> 「社員に飯食わせる方が先です」
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誰も反論できなかった。
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ヒツジ物流港 食堂
深夜。
作業員食堂。
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人類。
ヒツジ。
入り乱れて食事している。
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テレビでは、 議会中継。
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> 「国家経済への影響を――」
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誰も真面目に聞いていない。
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元農家のおっちゃん。
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> 「なぁヒツジ」
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ヒツジ社員。
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> 「はい?」
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> 「お前ら、 なんでこんな働くんだ?」
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ヒツジ。
少し考える。
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> 「物流止まると困るので。」
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> 「文明、 お腹空くでしょう?」
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周囲の人類作業員たちが笑う。
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> 「またそれ言ってる!」
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> 「好きだなその台詞!」
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ヒツジ。
きょとん。
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> 「重要ですよ?」
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本気だった。
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銀河議会
状況はさらに混乱していた。
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> 「ヒツジ規制法案を提出します!」
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> 「市場崩壊を止めろ!」
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> 「だが失業率は改善している!」
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> 「税収はむしろ増加中だ!」
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> 「どこの国家だ今の!」
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怒号。
混乱。
机を叩く音。
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だが。
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議会の外では。
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市民が、 ヒツジ製パンを食べながら歩いていた。
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シュガリヴィ記者 私的記録
私は少しずつ理解し始めていた。
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ヒツジコーポは、 単なる企業ではない。
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軍隊でもない。
国家でもない。
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もっと別の何かだ。
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あいつらは。
“市場そのもの”を持ち込んでいる。
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その時。
港の向こう。
巨大輸送船が離陸する。
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コンテナ群が、 夜空へ吸い込まれていく。
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隣でヒツジ社員が、 端末を見ながら呟く。
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> 「次便、 三十分遅延ですね」
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別のヒツジ。
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> 「第二腕部方面、 渋滞してます。」
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シュガリヴィ。
止まる。
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> 「……銀河間で、 “渋滞”ってあるんですか」
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ヒツジ。
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> 「ありますよ?」
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> 「物流多いので。」
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その返答が。
妙に。
恐ろしかった。
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人類が今見ているのは。
“宇宙人”ではない。
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もっと巨大な。
“文明化された物流”そのものなのかもしれない。
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