羊たちが運んできた宇宙 【Welcome Humanity】 作:ヒツジ(ラム肉
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銀河中央通信社速報
> 【速報】
外縁七星系にて、 農業関連企業の倒産件数が過去最大を記録。
一方、 ヒツジコーポ関連雇用は増加中。
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同時速報
> ヒツジコーポ、 新規栽培区画をさらに拡張。
農業経験者の追加募集を開始。
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第八居住星系 旧農業企業区画
シャッターが閉まっていた。
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以前は、 大型農業機械の搬入で賑わっていた建物。
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今は静かだった。
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風だけが吹く。
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入口に貼られた紙。
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『事業終了のお知らせ』
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その前で、 数人の男たちが煙草を吸っていた。
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> 「終わったなぁ……」
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> 「親父の代からだったんだがな」
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若い男。
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> 「ヒツジ行く?」
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沈黙。
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別の男。
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> 「……面接受ける」
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誰も笑わなかった。
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シュガリヴィ記者 取材記録
人類社会は、 少しずつ慣れていた。
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ヒツジ食品。
ヒツジ物流。
ヒツジ雇用。
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最初は異物だったものが、 生活へ入り込んでいく。
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だが。
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当然ながら。
“押し出される側”もいた。
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特に農業企業は深刻だった。
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勝てない。
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価格。
物流。
供給量。
品質管理。
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全部が違いすぎる。
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しかもヒツジコーポは、 現地農家を雇い始めた。
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つまり。
“敵”が、
一番経験ある人材を吸っていく。
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これが致命的だった。
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ヒツジコーポ物流港
以前よりさらに広がっていた。
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巨大倉庫。
輸送ドローン。
栽培区画。
冷凍保管施設。
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そして。
人が増えた。
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人類作業員が、 普通に働いている。
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元農家。
元輸送員。
元加工業者。
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以前なら競合だった人々。
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今は。
“ヒツジ社員”
だった。
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従業員更衣室
作業服へ着替えながら、 元農家たちが話していた。
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> 「お前どこ出身?」
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> 「第三農業ブロック」
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> 「あー潰れたとこか」
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> 「そっちは?」
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> 「温室農園」
「二ヶ月前終わった」
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沈黙。
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だが。
空気は思ったより暗くない。
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理由は単純だった。
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待遇が良い。
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ヒツジ作業服
温度調整付き
疲労軽減補助
自動洗浄機能あり
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元農家のおっちゃん。
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> 「なんで作業服がうちの家より高性能なんだよ……」
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周囲で笑いが起きる。
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食堂
昼。
混雑していた。
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パン。
肉。
野菜。
スープ。
果物。
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以前より、 ちゃんとした飯を食っている人間が多い。
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若い作業員。
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> 「前職より飯うまいな……」
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別の男。
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> 「前職より給料もいい」
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> 「あと休みある」
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ヒツジ社員。
横から。
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> 「休息大事です。」
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> 「労働効率下がるので。」
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元輸送会社社員。
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> 「効率効率言うよなお前ら」
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ヒツジ。
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> 「重要ですよ?」
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本気だった。
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栽培管理区画
シュガリヴィは、 元農家の一人へ話を聞いていた。
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広大な立体農場。
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天井まで伸びる栽培棚。
循環水路。
発酵タンク。
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作物が、 規則正しく並んでいる。
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元農家のおっちゃん。
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> 「最初は嫌だったよ。」
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端末を操作する。
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> 「宇宙人に農業奪われた気分でな」
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少し沈黙。
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> 「でもまぁ」
「実際やってることは農業なんだわ」
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遠くでヒツジ社員が叫ぶ。
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> 「第三果実区画糖度高すぎます!」
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> 「調整お願いしますー!」
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おっちゃん。
吹き出す。
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> 「ほらな」
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> 「どこの文明でも、 農家は天気と作物に振り回される」
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妙な説得力があった。
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一方その頃
旧農業組合会館。
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薄暗い。
人も少ない。
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組合長が、 机へ座っていた。
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目の前には、 大量の退会届。
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若い職員。
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> 「……今月だけで、 半分辞めました」
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組合長。
黙る。
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> 「ヒツジか」
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> 「はい。」
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窓の外。
巨大輸送船。
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以前なら、 見上げるたび怒りが湧いた。
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今は。
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疲労しかなかった。
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港湾酒場
夜。
仕事帰りの人間で賑わっていた。
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元農家。
元輸送員。
ヒツジ社員。
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みんな入り混じっている。
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酔った男が、 ヒツジへ絡む。
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> 「お前らさぁ」
「なんでそんな強いんだよ物流」
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ヒツジ社員。
少し考える。
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> 「強い?」
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> 「普通ですよ?」
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周囲の人類。
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> 「普通じゃねぇ!」
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爆笑。
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ヒツジ。
きょとん。
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本当に分かっていない顔だった。
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シュガリヴィは、 その光景を眺めながら思う。
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こいつらは。
“侵略している自覚”が無い。
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それが。
一番不気味だった。
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シュガリヴィ記者 私的記録
ヒツジコーポは、 軍隊ではない。
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国家でもない。
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だが。
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人類社会を、 確実に作り変え始めている。
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しかも。
誰よりも飯を食わせながら。
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