羊たちが運んできた宇宙 【Welcome Humanity】   作:ヒツジ(ラム肉

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第三話 前編 『没落する農業企業 前編 ― 宇宙人の職場』

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銀河中央通信社速報

 

> 【速報】

 

外縁七星系にて、 農業関連企業の倒産件数が過去最大を記録。

 

一方、 ヒツジコーポ関連雇用は増加中。

 

 

 

 

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同時速報

 

> ヒツジコーポ、 新規栽培区画をさらに拡張。

 

農業経験者の追加募集を開始。

 

 

 

 

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第八居住星系 旧農業企業区画

 

シャッターが閉まっていた。

 

 

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以前は、 大型農業機械の搬入で賑わっていた建物。

 

 

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今は静かだった。

 

 

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風だけが吹く。

 

 

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入口に貼られた紙。

 

 

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『事業終了のお知らせ』

 

 

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その前で、 数人の男たちが煙草を吸っていた。

 

 

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> 「終わったなぁ……」

 

 

 

 

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> 「親父の代からだったんだがな」

 

 

 

 

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若い男。

 

 

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> 「ヒツジ行く?」

 

 

 

 

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沈黙。

 

 

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別の男。

 

 

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> 「……面接受ける」

 

 

 

 

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誰も笑わなかった。

 

 

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シュガリヴィ記者 取材記録

 

人類社会は、 少しずつ慣れていた。

 

 

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ヒツジ食品。

 

ヒツジ物流。

 

ヒツジ雇用。

 

 

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最初は異物だったものが、 生活へ入り込んでいく。

 

 

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だが。

 

 

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当然ながら。

 

“押し出される側”もいた。

 

 

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特に農業企業は深刻だった。

 

 

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勝てない。

 

 

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価格。

 

物流。

 

供給量。

 

品質管理。

 

 

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全部が違いすぎる。

 

 

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しかもヒツジコーポは、 現地農家を雇い始めた。

 

 

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つまり。

 

“敵”が、

 

一番経験ある人材を吸っていく。

 

 

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これが致命的だった。

 

 

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ヒツジコーポ物流港

 

以前よりさらに広がっていた。

 

 

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巨大倉庫。

 

輸送ドローン。

 

栽培区画。

 

冷凍保管施設。

 

 

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そして。

 

人が増えた。

 

 

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人類作業員が、 普通に働いている。

 

 

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元農家。

 

元輸送員。

 

元加工業者。

 

 

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以前なら競合だった人々。

 

 

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今は。

 

“ヒツジ社員”

 

だった。

 

 

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従業員更衣室

 

作業服へ着替えながら、 元農家たちが話していた。

 

 

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> 「お前どこ出身?」

 

 

 

 

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> 「第三農業ブロック」

 

 

 

 

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> 「あー潰れたとこか」

 

 

 

 

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> 「そっちは?」

 

 

 

 

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> 「温室農園」

 

「二ヶ月前終わった」

 

 

 

 

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沈黙。

 

 

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だが。

 

空気は思ったより暗くない。

 

 

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理由は単純だった。

 

 

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待遇が良い。

 

 

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ヒツジ作業服

 

温度調整付き

 

疲労軽減補助

 

自動洗浄機能あり

 

 

 

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元農家のおっちゃん。

 

 

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> 「なんで作業服がうちの家より高性能なんだよ……」

 

 

 

 

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周囲で笑いが起きる。

 

 

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食堂

 

昼。

 

混雑していた。

 

 

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パン。

 

肉。

 

野菜。

 

スープ。

 

果物。

 

 

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以前より、 ちゃんとした飯を食っている人間が多い。

 

 

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若い作業員。

 

 

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> 「前職より飯うまいな……」

 

 

 

 

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別の男。

 

 

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> 「前職より給料もいい」

 

 

 

 

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> 「あと休みある」

 

 

 

 

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ヒツジ社員。

 

横から。

 

 

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> 「休息大事です。」

 

 

 

 

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> 「労働効率下がるので。」

 

 

 

 

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元輸送会社社員。

 

 

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> 「効率効率言うよなお前ら」

 

 

 

 

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ヒツジ。

 

 

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> 「重要ですよ?」

 

 

 

 

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本気だった。

 

 

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栽培管理区画

 

シュガリヴィは、 元農家の一人へ話を聞いていた。

 

 

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広大な立体農場。

 

 

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天井まで伸びる栽培棚。

 

循環水路。

 

発酵タンク。

 

 

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作物が、 規則正しく並んでいる。

 

 

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元農家のおっちゃん。

 

 

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> 「最初は嫌だったよ。」

 

 

 

 

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端末を操作する。

 

 

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> 「宇宙人に農業奪われた気分でな」

 

 

 

 

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少し沈黙。

 

 

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> 「でもまぁ」

 

「実際やってることは農業なんだわ」

 

 

 

 

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遠くでヒツジ社員が叫ぶ。

 

 

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> 「第三果実区画糖度高すぎます!」

 

 

 

 

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> 「調整お願いしますー!」

 

 

 

 

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おっちゃん。

 

吹き出す。

 

 

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> 「ほらな」

 

 

 

 

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> 「どこの文明でも、 農家は天気と作物に振り回される」

 

 

 

 

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妙な説得力があった。

 

 

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一方その頃

 

旧農業組合会館。

 

 

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薄暗い。

 

人も少ない。

 

 

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組合長が、 机へ座っていた。

 

 

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目の前には、 大量の退会届。

 

 

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若い職員。

 

 

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> 「……今月だけで、 半分辞めました」

 

 

 

 

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組合長。

 

黙る。

 

 

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> 「ヒツジか」

 

 

 

 

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> 「はい。」

 

 

 

 

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窓の外。

 

巨大輸送船。

 

 

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以前なら、 見上げるたび怒りが湧いた。

 

 

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今は。

 

 

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疲労しかなかった。

 

 

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港湾酒場

 

夜。

 

仕事帰りの人間で賑わっていた。

 

 

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元農家。

 

元輸送員。

 

ヒツジ社員。

 

 

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みんな入り混じっている。

 

 

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酔った男が、 ヒツジへ絡む。

 

 

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> 「お前らさぁ」

 

「なんでそんな強いんだよ物流」

 

 

 

 

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ヒツジ社員。

 

少し考える。

 

 

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> 「強い?」

 

 

 

 

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> 「普通ですよ?」

 

 

 

 

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周囲の人類。

 

 

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> 「普通じゃねぇ!」

 

 

 

 

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爆笑。

 

 

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ヒツジ。

 

きょとん。

 

 

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本当に分かっていない顔だった。

 

 

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シュガリヴィは、 その光景を眺めながら思う。

 

 

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こいつらは。

 

“侵略している自覚”が無い。

 

 

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それが。

 

一番不気味だった。

 

 

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シュガリヴィ記者 私的記録

 

ヒツジコーポは、 軍隊ではない。

 

 

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国家でもない。

 

 

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だが。

 

 

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人類社会を、 確実に作り変え始めている。

 

 

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しかも。

 

誰よりも飯を食わせながら。

 

 

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