羊たちが運んできた宇宙 【Welcome Humanity】 作:ヒツジ(ラム肉
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銀河中央通信社速報
> 【速報】
ヒツジコーポ関連雇用、 外縁七星系労働人口の18%へ到達。
一部地域では最大雇用主となる。
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同時速報
> 農業系専門学校、 ヒツジコーポ監修課程を導入。
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第八居住星系 ヒツジ物流港
朝。
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巨大輸送船が、 ゆっくり降下してくる。
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それを見上げながら、 元農家のおっちゃんが呟いた。
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> 「慣れるもんだなぁ……」
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隣の若い作業員。
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> 「最初見た時は腰抜かしたけどな」
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> 「今じゃ“今日も多いな”だ」
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本当に。
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誰ももう、 宇宙人を見上げなくなっていた。
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シュガリヴィ記者 取材記録
ヒツジコーポは、 完全に根を下ろし始めていた。
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物流。
農業。
加工。
流通。
飲食。
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生活のあらゆる場所へ、 入り込んでいる。
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だが。
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奇妙だった。
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人類社会は、 崩壊しているようで。
同時に活気づいてもいた。
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街は明るくなった。
飯も増えた。
消費も増えた。
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その代わり。
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以前の産業構造が、 静かに死んでいる。
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そして人々は。
“ヒツジ側”へ移っていく。
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従業員輸送シャトル
ぎゅうぎゅうだった。
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元農家。
元会社員。
若者。
失業者。
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全員ヒツジ勤務。
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若い女の子が、 端末を見ながら笑う。
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> 「今月ボーナス出るって」
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隣の男。
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> 「また?」
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> 「景気いいなぁ……」
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後方では、 ヒツジ社員が資料を読んでいた。
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> 「第八星系、 塩分摂取量増えてますね」
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> 「発酵食品需要高いです。」
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> 「追加搬入要請します?」
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普通の通勤風景だった。
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ただし。
宇宙人混じりなだけで。
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ヒツジ社員教育室
シュガリヴィは、 新人研修を見学していた。
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教壇。
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そこに立っていたのは、 スーツ姿のヒツジ。
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もこもこ。
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しかも眼鏡をかけていた。
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> 「では本日は、 “文明別食文化傾向”について学びます。」
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人類新人たち。
完全に会社研修の顔。
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スクリーンには、 銀河各地の食文化データ。
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> 「第八星系人類は、 高糖分・高塩分傾向があります。」
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> 「また、 “温かい食事”への感情的依存が強めです。」
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若い新人。
小声。
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> 「分析されてる……」
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別の新人。
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> 「怖ぇよ……」
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ヒツジ講師。
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> 「重要ですよ?」
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> 「文明安定に直結しますので。」
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シュガリヴィは、 その言葉を聞いて少し寒気を覚える。
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こいつら。
“文明運営”の感覚で物流をやっている。
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栽培区画
巨大だった。
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以前よりさらに拡張されている。
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無数の作物。
発酵施設。
循環農場。
加工ライン。
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人類作業員たちが、 普通に働いていた。
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元農家のおっちゃん。
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> 「この区画、 もともと第四農業地帯だったんだぜ」
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シュガリヴィ。
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> 「全部?」
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> 「全部。」
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遠く。
以前の農地跡。
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今は巨大倉庫。
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おっちゃん。
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> 「悲しいっちゃ悲しい。」
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少し沈黙。
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> 「でもまぁ」
「前より食える」
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それが、 全てを難しくしていた。
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旧農業企業 本社
電気が減っていた。
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受付停止。
閉鎖区画。
空席だらけの事務所。
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重役会議。
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> 「提携案は?」
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> 「ヒツジ側は歓迎」
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> 「技術共有は?」
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> 「“可能ですが必要ですか?”との返答です」
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沈黙。
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若い役員。
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> 「舐めてません?」
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老経営者。
疲れた顔。
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> 「違う。」
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窓の外。
ヒツジ輸送船。
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> 「あいつら、 本当に分かってない」
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その言葉が、 妙に重かった。
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港湾酒場
夜。
以前よりさらに混んでいた。
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人類。
ヒツジ。
入り乱れて飲んでいる。
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酔っ払いのおっちゃん。
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> 「おいヒツジ!」
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ヒツジ社員。
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> 「はい?」
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> 「お前ら、 なんでそんな働くんだ!」
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ヒツジ。
少し考える。
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> 「物流止まると困るので。」
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周囲爆笑。
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> 「またそれだ!」
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> 「好きだなその台詞!」
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ヒツジ。
きょとん。
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> 「重要ですよ?」
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本気だった。
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その時。
酒場テレビで、 議会中継が流れる。
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> 「ヒツジコーポ依存率は危険水域です!」
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> 「だが経済成長率は過去最大です!」
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> 「国家主権を――」
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酔っ払いのおっちゃん。
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> 「でも腹減らなくなったぞ」
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静かになる。
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誰も。
完全には否定できなかった。
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ヒツジ物流港 深夜
シュガリヴィは、 港を歩いていた。
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ライト。
コンテナ。
作業音。
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眠らない港。
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その隣で。
ヒツジ社員たちが、 普通に休憩している。
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一匹が言う。
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> 「人類、 適応早いですねぇ」
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別のヒツジ。
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> 「かなり協調的文明です。」
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> 「第三腕部文明は、 物流港焼きましたし。」
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シュガリヴィ。
止まる。
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> 「……焼いた?」
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ヒツジ。
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> 「はい。」
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> 「その後飢えました。」
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あまりにも、 普通の口調だった。
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シュガリヴィは、 急に理解し始める。
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ヒツジコーポは。
“善良”ではある。
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だが。
“優しくはない”。
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物流は止めない。
市場も止めない。
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文明が壊れても。
飢えが減るなら。
多分続ける。
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その感覚が。
恐ろしくなり始めていた。
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