羊たちが運んできた宇宙 【Welcome Humanity】 作:ヒツジ(ラム肉
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銀河中央通信社速報
> 【速報】
外縁七星系にて、 農地転用件数が過去最大を更新。
物流・居住・加工施設への転換進む。
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同時速報
> ヒツジコーポ、 新規職業訓練校設立。
“物流管理士課程”が人気。
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第八居住星系 旧農村地帯
静かだった。
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以前なら。
農機の音。
子供の声。
搬送車。
土の匂い。
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今は。
風と、 遠くの輸送船の低音だけ。
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道路脇の畑。
半分は更地。
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残り半分も、 もう手入れされていない。
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元農家のおばあさんが、 縁側から空を見ていた。
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巨大輸送船。
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ゆっくり。
雲の向こうへ消えていく。
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> 「便利な世の中になったねぇ……」
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隣の老人。
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> 「まぁな」
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> 「畑は消えたが」
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沈黙。
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だが。
怒りではなかった。
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もっと。
“時代に置いていかれた感覚”
に近い。
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シュガリヴィ記者 取材記録
没落。
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人類はその言葉を、 もっと激しいものだと思っていた。
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暴動。
飢餓。
戦争。
破壊。
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だが。
実際に起きていたのは。
“静かな置き換え”
だった。
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人々は、 以前より豊かになっている。
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飯もある。
仕事もある。
街も明るい。
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だからこそ。
失われていることに、
気付きにくい。
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第八居住星系 職業訓練校
以前は農業学校だった建物。
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今は。
『ヒツジ物流技術学校』
になっていた。
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校門前。
若者たちが騒いでいる。
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> 「物流管理コース受かった!」
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> 「いいなー!」
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> 「危険宙域手当付きってマジ?」
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以前なら。
農業技術
土壌管理
気象学
を学んでいた場所。
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今は。
物流効率
栄養管理
発酵制御
倉庫運営
を学んでいる。
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シュガリヴィは、 廊下の掲示を眺めていた。
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『文明別食文化傾向 基礎講座』
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『物流停滞時危機管理』
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『大規模市場変動論』
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そこへ。
若い学生が笑いながら通り過ぎる。
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> 「親父、 “畑継げ”ってうるさいんだよなー」
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友人。
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> 「でもヒツジの方が稼げるし」
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> 「飯もうまいし」
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笑いながら去っていく。
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シュガリヴィは、 少しだけ胸が重くなった。
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ヒツジ加工工場
巨大だった。
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以前の食品工場とは、 規模が違う。
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無数の加工ライン。
搬送ドローン。
発酵タンク。
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しかも。
妙に静かだ。
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人類工場特有の、 怒鳴り声が少ない。
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代わりに。
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> 「第三ライン調整お願いしますー」
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> 「温度二度下げます」
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> 「発酵進みすぎてますね」
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落ち着いた声が飛び交う。
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元食品工場勤務の女性が、 ライン管理をしていた。
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> 「前より働きやすいわ」
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シュガリヴィ。
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> 「そうなんですか?」
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女性。
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> 「前の会社、 毎日怒鳴ってたし」
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> 「ここ、 ミスしてもまず改善案出るのよ」
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遠くで。
ヒツジ監督が、 普通に謝っていた。
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> 「搬送計算ミスでした。」
「申し訳ありません。」
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人類作業員。
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> 「宇宙人も謝るんだな……」
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旧農業企業社宅
空き部屋が増えていた。
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以前は家族で埋まっていた場所。
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今は。
半分以上が無人。
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管理人のおっちゃん。
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> 「若いのはみんな出たよ」
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> 「ヒツジ行った」
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シュガリヴィ。
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> 「寂しくなりました?」
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おっちゃん。
少し笑う。
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> 「まぁな」
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窓の外。
ヒツジ物流港。
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光っている。
眠らない。
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> 「でもよ」
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> 「昔より、 子供の声は増えたぞ」
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シュガリヴィ。
止まる。
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> 「……え?」
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> 「飯食えるようになったからなぁ」
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> 「子供増えた。」
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その言葉が、 妙に重かった。
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銀河議会 特別会議
怒号。
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> 「このままでは国家経済が!」
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> 「だが出生率は改善しています!」
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> 「ヒツジ依存を止めろ!」
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> 「止めたら食料価格跳ねますよ!」
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> 「それでも主権を――」
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議会は荒れていた。
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だが。
市場では。
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人々が、 ヒツジ製菓子を片手に歩いていた。
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港湾酒場 深夜
酔っ払いだらけだった。
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元農家。
ヒツジ社員。
若い作業員。
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全員混ざって飲んでいる。
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元農家のおっちゃん。
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> 「なぁヒツジ」
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ヒツジ社員。
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> 「はい?」
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> 「お前ら、 どこまで広がってんだ?」
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ヒツジ。
少し考える。
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> 「かなり。」
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周囲爆笑。
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> 「答えになってねぇ!」
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ヒツジ。
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> 「物流網広いので。」
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> 「今確認できているだけでも、 複数銀河ありますし。」
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酒場。
静まる。
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人類側。
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> 「……は?」
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ヒツジ。
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> 「はい?」
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本当に。
悪意も。
自慢も。
脅しもない。
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ただ。
“事実を言っただけ”
の顔だった。
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シュガリヴィは、 酒場の喧騒を聞きながら思う。
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人類は今。
“宇宙人と接触した”
のではない。
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もっと巨大な。
“銀河文明圏”へ
接続され始めている。
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そして。
多分。
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もう戻れない。
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シュガリヴィ記者 私的記録
没落とは、 破壊ではない。
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もっと静かだ。
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便利さ。
豊かさ。
快適さ。
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そういうものに包まれながら。
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気づけば。
昔の世界が、
消えている。
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