どうぞお楽しみくださいな。
【ミスリル・ドラグワーム】の巨体がゆっくりと身をもたげる。
洞窟内へ満ちる圧迫感は、今戦った亜竜級とは比べ物にならない。油断していればいとも容易く自分たちのHPが全損するであろうことが想像に難くない。
「勝ち目は薄いが、挑むぞ」
「えぇ」
エレイナが短く告げると、十数体のアンデッドが一斉に駆け出した。
【スケルトン・ソルジャー】、【フレッシュゴーレム】、【インセクト・ゾンビ】と多種多様で、数も多い。
しかし、ミスリル・ドラグワームが尾を薙ぐと、たった一撃で半数以上が葬られた。
「やはりそうなりますか」
「一撃でも受け持てば十分だ!」
エレイナは怯まない。
砕け散った際に発生した僅かな怨念も【イザナミ】が吸い上げ少しでもロスを少なくしようと、本気で倒す気でいる。
そしてザドキエルが氷上を滑る。その勢いは重力すら無視して天井も壁も問わず滑走し、相手に的を絞らせない。
【ミスリル・ドラグワーム】は巨体ゆえに旋回が遅く、四糸乃に何度も攻撃を仕掛けているがかすりもしない。しかし、一撃一撃の威力は高く、攻撃を行うごとに小さくない範囲の氷を割っている。
「っ!こうも氷を割られて大丈夫か!」
「このままだと厳しいですね。奥義はクールタイム長いので」
そう遠くない内にザドキエルが滑走できなくなるだろう。《氷雪舞踏》によるAGIの強化は雪上か氷上でなければ効果が発揮されず、滑走もできなくなる。機動力が著しく下がり、【ミスリル・ドラグワーム】の攻撃の回避が難しくなるのだ。
再度《ホワイト・フィールド》を使えばその問題は解決するが、《ホワイト・フィールド》は【白氷術師】の奥義だ。消費MPは他の魔法系アクティブスキルに比べて多く、クールタイムも短くない。AGIとMPの補正が高い【ザドキエル】で消費MPはカバーできてもクールタイムは如何ともしがたい。
「あくまで本家の劣化版ですが·······《ほわいと・ふぃーるど》」
「ぬ!?使えぬのでは!?」
《ほわいと・ふぃーるど》。《ホワイト・フィールド》と《氷雪舞踏》のシナジーに気付いた四糸乃が、《ホワイト・フィールド》のクールタイムが明ける前に氷が割られた際の対策として開発していたオリジナルの魔法スキルだ。
本家より生物に対しての凍結威力を下げ、範囲を広げたうえで消費MPを抑えた、機動力強化に割り切った魔法である。
「《アイス・レイルぅー》!」
続けて【ザドキエル】が発動したのはさらに別のオリジナル魔法スキル。地面空中問わず氷の道を作り出すものだ。滑走するためのルートを増やす、機動力増強に特化している魔法だ。
「ほら、こっちこっちー!」
「遅い、ですね。《アイシクル・スナイプ》」
「ははは、ウザかろうウザかろう!」
地面を滑走していた時より縦横無尽に動き回るザドキエル。【ミスリル・ドラグワーム】が狙いを定めた時には既に全く別の方向まで移動しており、ろくに攻撃できていない。
動き回る間にも四糸乃が氷魔法で攻撃を仕掛けており、その硬い装甲でろくにダメージは受けていないが目に見えて苛立っている【ミスリル・ドラグワーム】。
また、四糸乃が動き回っているのに加え、エレイナが下級アンデッドをチマチマと【ミスリル・ドラグワーム】にけしかけている。四糸乃や【ザドキエル】の氷魔法より些細なダメージしか与えられていないが、鬱陶しさはこちらの方が上だろう。
ダメージの多寡は関係なく、己だけが一方的に攻撃を受けているのが煩わしいのだろう。
ストレスで視野が狭くなっているのか、エレイナがスキルの準備をしていることにも、四糸乃が魔法をいくつも放ちながら一つだけは戦闘開始からずっと準備を続けていることにも気付かない。
「四糸乃!次放つ大火力は射程が短いのだが、拘束いけるか?ワタシも拘束技自体は持っているが純竜級相手だと出力が不安だ」
「数秒なら可能ですが·······そういうことですか。《アイスピラー》」
四糸乃がエレイナの方に視線を向けると、彼女の手元では怨念が元となった破壊エネルギーが激しく渦巻いている。《デッドリーミキサー》ならそのまま放つため近付く必要はないだろうが、エレイナは破壊エネルギーの奔流を制御して圧縮しようとしている。射程に割かれるリソースも全て火力に注ぎたいのだろう。
それを察した四糸乃は拘束の下準備として【ミスリル・ドラグワーム】の周りに数本の巨大な氷柱を作り出す。
「ザドキエル」
「よしきたぁ!」
「《コープス・エンタングル》」
「「《チェイン・オブ・ニブルヘイム》」」
辺りに飛び散ったアンデッドの残骸からまろび出た腐肉と骨が【ミスリル・ドラグワーム】にまとわりつき、氷柱が鎖へと姿を変え【ミスリル・ドラグワーム】の全身を縛り付ける。
拘束を確認した瞬間にエレイナが走り出していたエレイナが【ミスリル・ドラグワーム】に肉迫し、掌中の破壊エネルギーを叩きつける。
「ぶっつけ本番!零距離型《デッドリーミキサァァァ》!」
圧縮されたことによって密度が増した破壊エネルギーがミスリルの装甲と激突する。
ギィィィィィィィィィィィッ!!
轟音と共に外殻が軋む。銀色の装甲に蜘蛛の巣状の亀裂が広がり、一部だけとはいえ装甲を破り中の筋肉まで損傷を与える。
だが、浅い。カンストまで未だ遠い200レベル程度でありながら純竜級モンスターの装甲を貫いたのは誇るべきことだが、二人で討伐しようとするならそれでは足りない。
「どいてください。貴方が開けてくれた穴から撃ち込みます」
四糸乃が戦闘開始時から準備を続けていた特製の氷槍。透き通った槍身の表面には、剃刀のように鋭い無数の氷刃が螺旋状に幾重にも連なり、穂先から柄に至るまで一本の巨大な錐を思わせる形状を描いていた。
それに加えて氷槍には回転が加えられており、回転が増すにつれ周囲の空気は巻き込まれ、白い氷霧が槍を中心に渦を巻く。
「《グラキエス・ギムレット》」
静かな宣言と共に放たれたそれは一直線に疾走し、回転によって生じた白い螺旋を尾のように引きながら【ミスリル・ドラグワーム】へ襲い掛かった。
穂先がその肉体へ触れた瞬間、高速回転する氷刃が肉を削り取り、筋繊維を千切り、自らの進路を無理やり穿っていく。肉片と鮮血が遠心力によって螺旋状に撒き散らされ、その巨体には槍の太さを遥かに超える風穴が開く。
「·······おぉ」
「奥義が火力出せるものではないので、これが奥の手なんですが·······まだHP残ってますね」
「一気に半分以上削ったのだから十分だ。【出血】などでスリップダメージも発生しているようだし、討伐はできるだろうな」
もう一押し。
そう確信した、その瞬間だった。
――ゴゴゴゴゴ
洞窟全体が揺れる。
「·······?」
【ミスリル・ドラグワーム】が出現した時のよりもっと重い、もっと鈍い振動。
岩盤が内側から盛り上がり、巨大な亀裂が走る。
「·······嫌な予感がしますね」
「ワタシもだ」
二人揃って息を呑んだ次の瞬間。
岩盤そのものが爆ぜた。
土砂と共に現れたのは、巨大な蟲。
竜にも似た頭部、長い手足と体躯、全身を覆う無数の鉱石。
その装甲はミスリルだけではない。オリハルコンなどのさらに上位の金属、少量ではあるがアダマンタイトも確認できる。様々な鉱石が無秩序に積み重なり、一つの生物を形成していた。
蟲の頭上には【纏鎧鉱蠧 ファフニール】という名前が表示されていた。
「亜竜級の群れ、純竜級ときてUBMまで·······」
「さすがにこれ以上の連戦は厳しいぞ!?」
【ファフニール】は二人を一瞥すらせず、瀕死となった【ミスリル・ドラグワーム】に視線を向けている。
ギギギギ……
そして【ミスリル・ドラグワーム】へ喰らい付き、牙を突き立てる。
外殻を噛み砕き、嚥下している。外殻を覆う鉱石だけを選んで貪っている。
「纏鎧鉱蠧·······鉱石を喰らい、鎧として纏う?」
「こいつも硬そうだな·······」
【ミスリル・ドラグワーム】の外殻を食べ終えた【ファフニール】は既にこちらを見ていた。
「あっまずい」
野生の勘で危機を察知した【ザドキエル】が全速力で滑り出した直後、寸前まで一人と一匹がいた場所に巨大な前脚が振り下ろされる。
いとも容易く地面を粉々に砕き、【ミスリル・ドラグワーム】より数段格上の存在なのだと察せられる。
「·······これは無理ですね」
「恐らくだが純粋性能型。カンストどころかその折り返しにも届いていない今では相手になる気がしないな」
「逃げるしかないわけですが·······逃げられますかね」
「·······さっきの攻撃の速さ的に、逃げるのも厳しいのではないか?」
二人がどうするべきかと思い悩んだその時、入口の方から何人かの足音が近づいていることに気付いた。
「《武装射出:アイアン・ウォーハンマー》!」
光り輝く矢が一直線に飛来し、ファフニールの側頭部に激突して鈍い音を鳴らす。
キシャァァァッ!!
思ってもいない方向から攻撃をくらったことでUBMが少し怯んだ。
「誰かいるのか!」
聞き覚えのない青年の声と共に、四人のパーティが現れた。
一人は長弓を構えており、今【ファフニール】に仕掛けたのは彼だろう。
他には杖を構えた女性が一人と、ピッケルを背負った男性が一人と、全身鎧に身を包んだ者がいた。
「そこの二人!」
青年は叫ぶ。
「そいつは依頼を受けて俺たちがずっと追ってたモンスターだ!狩人系統の追跡スキルで場所は捕捉できるが、純粋に強くて仕留めきれなくてな。二人が良ければ共闘をしたいのだが、どうだ!」
エレイナが眉をひそめて四糸乃の方を向く。
「·······UBMが相手なのに共闘を申し出るのは妙ではないか?依頼を受けているとはいえ、わざわざ特典武具を得る確率を下げるとは考え辛い」
「弓持ちの青年は騙そうとはしていないようですが、他の人は分かりません」
「ふむ、そういうのも分かるのか」
「人生経験ですね」
「お二人さん、ぶっちゃけると俺たちも特典武具は欲しい!だが、だがな!そのUBMのせいで苦しんでいる人たちを見た!だから、倒す方が優先だ!」
「·······とのことだが」
「嘘は言ってないようですし、パーティメンバーも不満そうには見えません。どうせ私たち二人では戦闘も逃亡も厳しそうでしたし、乗りましょう」
「賛成だ」
エレイナが大声で返事をする。
「分かった!共闘だ!」
「感謝する!」
四糸乃とエレイナが【ファフニール】に向き直り、青年率いる四人もそれぞれ武器を構える。
【纏鎧鉱蠧 ファフニール】と決戦が今、始まる。
〇オリジナル魔法スキル
(╹ x ╹)<実は《ホワイト・フィールド》以外全て私のオリジナルです
(^・ω・^)<オリジナルの魔法、多くないか?
(╹ x ╹)<既存のだけでは少ないですし、折角自由度が高いのなら存分に使ってこそじゃないですかね
(╹ x ╹)<私に魔法を教えてくれている人も、「自分で魔法に改良を加えられるようになってようやく『その魔法を理解している』と言えるだろう」とか言ってましたよ
(^・ω・^)<まぁ、その理屈自体は間違っておらんが·······このゲームを始めて一か月程度しか経っていない初心者〈マスター〉がやることではないだろう?
(╹ x ╹)<先生にも「·······早すぎる。これが噂の·······?」って驚かれました
(^・ω・^)<なんだその意味深な言い回しは·······?
(╹ x ╹)<別に大したことじゃないですよ
(╹ x ╹)<なんなら読者もおそらく分かっているのでは?
(╹ x ╹)<端的に言うと、どこぞのクマさんや貧乳レズビアンと同等の才能を持っているということです
(^・ω・^)<それここで言ってよかったのか???
(╹ x ╹)<一話冒頭でもそれを示唆する描写ありましたし、隠すほどのことでもないですからね