「すまん、待たせたな」
「私も五分ほど前に来たばかりですので、お気になさらず」
【ファフニール】を討伐した数日後。
エレイナは四糸乃に魔法をレクチャーした人物に教えを乞うべく、コンタクトを取っていた。その人物の予定が空いている今日、四糸乃に案内してもらおうと【魔術師】ギルドで待ち合わせをしていたのだ。
この街の【魔術師】ギルドは巨大な霊木の内部をくり抜いて居住スペースにしており、出入り口に一番近いのが入ってすぐの依頼受付カウンターと依頼が貼り出された掲示板で、奥に研究区画や指導区画などが存在している。また、アリの巣のように道が分かれており、初めて訪れた者はまず迷うと言われていたりする。
「では行きましょうか。気になるものがあったら言ってくださいね、止まるので」
「いや、そこまで子供ではないぞ?はぐれたとて帰り道を辿るくらいはできる」
「そうではなくてですね。【魔術師】ギルド内で1人で行動していると面倒なのに絡まれるんですよ。実験に巻き込まれたり、教え子や徒弟を増やしてギルド内での権力を強めたい者に勧誘されたりなど、色々いるんです」
「むぅ······それは面倒だな」
「特に徒弟を増やしたい者が厄介です。人によっては少々強引な手段も使ってきますし、少女趣味の人もいます。中には不摂生で太った幼女趣味な構成員も······」
「絶対離れないと約束しよう!」
当然だが魔法を学びに来て変態に狙われるのは御免らしい。今までで一番力強い返事である。
◇◆◇◆◇◆◇
「もう少しです」
「随分と奥にあるのだな。戻れるかどうかも自信がないぞ」
「もちろん帰路も同伴しますので安心してください」
分かれ道を何度も曲がり、上ったり下ったりと複雑な通路を歩いて十分ほど。人通りもほぼなくなり、静かな通路を歩いている二人。
「アレだな。少し寂れた場所でひっそりと過ごしている老人は凄腕だった、というパターンだな?」
「凄腕ではありますが、おそらくエレイナさんのイメージとは違うと思います······到着ですよ」
ガラリと四糸乃がドアを開ける。
部屋の中では線の細い男性が椅子に座って佇んでおり、二人に気付くと優しい笑顔を浮かべながら出迎えた。
「やぁ四糸乃ちゃん、君が人を連れて来るなんて珍しいじゃないか。初めての友達ができた祝いが必要かい?」
「不要です。·······あぁ、イメージとはかけ離れているでしょうが、この軽薄そうで頼りなさそうな優男が私の魔法の教師、トレマスさんです。胡散臭い見た目ですが、腕は確かですよ」
「紹介として酷くない?」
「初対面で『僕を父親と思うといい!』なんて宣う人物への対応にしては穏当な方だと思います」
「·······もしかして早まったか?」
「腕前は保証しますよ、腕前は」
「それ以外は?」
「(曖昧にほほ笑む)」
「早まったな(確信)」
「いやいやいや、折角ここまで来たんだから一度僕の授業を受けておくれよ。ここの難解な通路を歩いてきただけの価値は感じさせてみせるからさ」
「むぅ·······確かに決めつけるにはまだ早いか。教えを受けてみてから判断すべきであるな」
「よかった。君が学びたいのは·······うん、死霊術と併用する目的で闇属性かな。どの属性にしろその特典武具は邪魔になるからここでは外してもらいたいんだけど、いいかい?ここなら日の光も届かないからアンデッドの君でも悪影響はないはずだ」
「!?」
「この人は気持ち悪いレベルで察しが付くので、大抵のことは見抜かれますよ」
「この着ぐるみ、隠蔽スキルを持つ特典武具なのだが·······!?」
「多分だけど《看破》対策の隠蔽だろう?《魔力視》を遮断できるものじゃないみたいだから、アンデッド特有の魔力が視えるよ」
「なるほど。《看破》さえ弾けば、というわけにはいかぬか」
エレイナが装備を変えたことで彼女の素顔が明らかになる。
整った顔立ち、灯りを受けて淡く輝く銀髪、そして血を溶かしたような紅い瞳。アンデッド特有の血色の悪さを差し引いてもかなりの美少女であり、着ぐるみがなければ間違いなく声をかけられていたであろう美貌だ。
「なんだ、顔に何か付いているか?」
「いや、エレイナちゃんの顔は変じゃない。早速授業を始めたいところだが、最初に聞いておこう。君は闇属性魔法をどこまで使えるようになりたい?既存の魔法を使いこなせれば満足なのか、ゆくゆくはオリジナルを編み出したいのか、ね」
「もちろん後者だ。目標は高く、だろう?」
「向上心があるのはいいことだ。あ、一応言っておくけれど、そこの四糸乃ちゃんは異常だから参考にしない方がいいよ。魔法に触れて半月未満でオリジナル魔法をいくつも編み出すのは控えめに言ってバケモノだから、エレイナちゃんのペースで学んでいこう」
「控えめに言ってそれなんですね」
「まぁ異常値だろうなとは思っていた」
「とにかく、一つ一つ段階を経ていこうか。ところでエレイナちゃんは魔力を知覚できるかい?どの属性にしろ、スキルを使わない状態で自分の中にある魔力の知覚と操作が第一段階だ」
「〈エンブリオ〉の関係で怨念に関しては知覚と少しの操作が可能だが、魔力に関してはどちらもまだ無理だな。魔法スキルをただ撃っているのが現状だ」
「そうだろうね。じゃあ僕の魔力操作を《魔力視》で見るか、僕がエレイナちゃんの体内の魔力を操作して少し強引に魔力を知覚させるか、どっちがいい?」
「両方頼む。どっちが効果があるか分からんからな」
「オーケー。順番にやっていこうか」
二人の授業を眺めながらいくつもの氷塊を自身の周りに漂わせる四糸乃。正四面体、正六面体、正八面体、正十二面体、正二十面体、真球、とそれぞれ異なる形状にすることで魔力操作の精度を鍛えているようだ。
もちろんだが魔法を学び始めて一か月程度の者がすることではない。これが魔法スキルを介さずに、〈アーキタイプ・システム〉の補助抜きで行っているとは誰が見ても信じがたいだろう。
「·······なぁ、アレ」
「見てはいけないよ。あの子のは『あってはならない』程の才能だ、比べちゃ落ち込むだけだよ」
「そこまで言いますか?」
「君の才能はそれほどのレベルだ。僕は性格含めて知っているから気にならないけれど、他の魔術師がその練習法を見たら嫌味や皮肉と受け取るから気を付けてね」
「面倒事は避けたいので気を付けます」
「他人が上手かろうと自分には関係ないがなぁ·······む、これが魔力か?」
「お、それだよ。自覚は出来たようだし、少しずつ操作できるようになろうか」
「むむむむ·······『ある』のは分かるが動かせんな」
「普通はそんなものだよ。むしろ一度で自覚できたエレイナちゃんは筋がいい方だ」
「ちなみに四糸乃は?」
「一度体内の魔力を操作したら、次の瞬間から自由自在に動かせるようになった」
「バケモノだな」
「わざわざ聞いておいてその反応はどうかと思いますが」
四糸乃が氷塊を「 」のマークに変形させている。バケモノ呼ばわりに対する抗議の意を込めているのだろうが、そうして即応出来ている所がバケモノなのである。
「トレマスはアレ、できるか?」
「んー·······事前にああいう魔法を組んでいればなんとか。四糸乃ちゃんみたくその場で変形させるのは無理かな」
オリジナル魔法を作り出すことに関しては無理と言わないあたり、トレマスもかなりの腕前らしい。
「トレマスさん、最大MP量を伸ばしたいので二つ目の上級職も魔術師系統にしようと思うのですが、どれがいいですかね。あまり手を広げると器用貧乏になりかねないので海属性に絞ろうとは思っています。【
「そうかい?『最大MP量を伸ばす』という四糸乃ちゃんの方針は正しいとは思っているけれど、君が基本的にソロで戦闘するならある程度ステータスも伸ばすべきじゃないかな。その点魔術師・騎兵複合系統上級職【
「·······なるほど、複合系統のジョブはこちらのコミュニティではまだあまり情報が出回っていないので失念していました」
「〈マスター〉は成長が早いようだからジョブの情報がどんどん共有されていってるらしいね。ただ複合系統は条件が複雑だから判明のペースが遅い、と」
「ロストしていたものや、超級職が空位のものは敢えて情報を伏せたりもしているようです」
「だろうね。僕たちティアンも情報統制は当然しているさ。【魔法騎兵】はそこまでレアじゃないから教えても構わないものだけどね」
「ありがちな組み合わせで【魔法剣士】系統は既にこちらでも判明していましたが、【騎兵】でもその派生があったのは予想外です」
「死霊術師系統で何かないのか?」
「【死霊術師】かー·······複合系統は心当たりないけど、個人的な伝手で今代の【
「【死霊術師】ギルドの現オーナーだな。逆らう者はアンデッドに変えて使役するだとか、家族すら極上のアンデッドにするために家族の身には過保護になるだとか、出所の怪しい噂をよく聞くぞ」
「絶妙に真実が混ざってるなぁ·······家族愛が強くて孫バカなんだよね、あの人。おまけに子供好きだし、顔や格好で誤解されやすいだけでいい人だよ。そうだ、エレイナちゃんは今いくつだっけ」
「14だな」
「確かオルフェ翁の孫も同じくらいだったような·······もしかしたらオルフェ翁の指導を受けられるかもしれない、と言ったらどうだい?」
「む!?願ってもないことだが·······初対面だぞワタシ達。いきなりそんなことをするのは色んな面でリスクが高いだろう?」
「こんな見た目でも数百年生きている長命種だからね、人を見る目には自信があるんだ。それに、四糸乃ちゃんが連れて来た時点で人格面は合格なんだよ。悪意や欲望を見透かすことに関しては僕よりも数段上だ」
「は!?」
数百年生きている人物に「数段上」と言わせるレベルなのか、とエレイナが四糸乃に視線を向けると、四糸乃は氷塊を虫眼鏡状に変形させ、無表情で決めポーズをかましている。
その様子を見たエレイナは「これで?」とでも言いたげな胡乱な表情を浮かべている。
「少し特殊な人生を歩んできたからですね」
「··············」
「本当に『少し』か········?というか、初対面の時から思っていたが表情が全く動かんなオマエ·······」
「過去に色々ありましてデフォルトはこれです。意識すれば表情を作るのは簡単なんですけどね」
そう発言する間にもコロコロと表情を変えてみせる四糸乃。会話の中で見ていたら演技とはまず思わない自然な表情だ。
「少し話は逸れたけど、エレイナちゃんの人柄はオルフェ翁のお孫さんに会わせても問題ないレベルだと既に判断できている、というわけだ。まぁ、もしかしたらだから無理な可能性も普通にあるけどね。あと、魔力操作の感覚を掴んでからじゃないと紹介できないかな。死霊術でも魔力操作は必要になるから」
「打診してくれるだけでも有難い。よろしく頼む」
「じゃあ魔力操作、がんばろうか」
「ぬぅ·······『ある』のは分かっているのに微塵も動かんのはじれったいな!」
「そんなものだよ。そこの四糸乃ちゃんが異常な·······え、何してんのそれ」
いつの間にか氷塊に乗って浮遊している四糸乃。
なぜ氷魔法で飛行手段を確保できているのか。
「マニュアル構築だと自分の周囲を旋回させることが可能で、上下左右も割と自由度が高いんですよね。なら乗って動かすこともできるんじゃないかと思いまして。試したら出来ました」
「こう供述してるが」
「うーん·······固体操作に優れた地属性でも射出が精々なんだけど、その場で編み出してリアルタイムで構築・操作を続けてる魔法だとここまで自由度高いんだね」
「さすがのトレマスでも理解不能か」
「そもそも僕は知識を集め、経験を積んで、と地道にやってきたタイプなんだよ。魔力の知覚だって遅かったし、魔術師系統ジョブへの適性はあっても、魔法の才能はあまりなかったんだ」
「ふむ。何はともあれ、ワタシはワタシで地道にやっていくしか―――「あ、超級職のアナウンスきました」―――はァ!?」
「·······マジ???」
氷塊に乗って遊んでいた四糸乃の視界にシステムアナウンスが出現していた。
【氷属性のオリジナル魔法スキルの数が一定を突破しました】
【条件達成により、【
【詳細は【魔術師】系統のジョブクリスタルでご確認ください】
〇【凍神】
(╹ x ╹)<勿論ですがこの作品オリジナルの超級職です
(╹ x ╹)<作者的には【氷姫】に就いてもらいたかったんですけど、今はティアンの方が就いてますし、その後はアット・ウィキさんが就きますし
(╹ x ╹)<原作キャラを弱体化させたくないので(強化はするかも)
(=ↀωↀ=)<【海神】既にあるのに【凍神】あっていいの?
(╹ x ╹)<【斬神】あるのに【抜刀神】もあるからいいかなって
(=ↀωↀ=)<んー······
(╹ x ╹)<二次創作なので大目に見てください