働きたくないと嫌々言う話
『
「君は何を言って、、、!?!?」
デカデカと一文字一ページと贅沢に使われるメモ帳は嬉しいか、哀しいか。
かなり切迫した文字の形が働きたくないと意味の英語を形成している。
バサバサと頭に被っているスナイパーベールが打ち振るわれている、それは首を全力で左右に降って否定の意思を示している男のせいだ。
こうなってしまったのは数十分前に遡る
「しっかし大変なことになったな」
パエトーンのアカウントがなくなってしまった翌日、補給ができなく悩んでいたネームドの元にビリーがやってきて弾作るのを手伝ってくれと言われ一緒に製造中である。
ビリーが手パーツを作業用手パーツに入れ替えられ、炸薬弾を作っている。両手の指が多重化し、それぞれにドリルやら鑢やらが先端に組み込まれているソレは銃弾の弾頭の被甲や弾芯を器用に加工していた。
少し力を入れれば折れてしまいそうな細さまで各パーツが小さいがそれがビリーの使う
ネームドは頷きながらもビリーの、文字通り手によってできたそれぞれの弾頭を一つ、また一つと薬莢に組み立てる。
リローディングプレスに
できた弾を弾薬箱に投げ入れる。この工程を一時間半か、二時間続けていた。自動製造機などあるわけないため時間がかかっている。
もう聞き飽きたスターライトナイトのBGM集が何度も流れておりネームドは変えないかと提案するもダメだの一点張りである。
この作業が苦痛なわけではない、むしろいい暇つぶしだし弾を作ることが楽しいと思っていたがこのBGMがそれを阻害する。
せめてラジオをつけさせてくれと頼めばイヤホンをするなら良いと言われ左耳にイヤホンが付けられていた。
そしてラジオに集中して聞いているところにリンがやってくる。
「ネームド、ちょっといい?」
ん”、と低く喉を鳴らし机の上の散らかっているものが落ちないよう立ち上がる。そしてスタッフルームの外へと行けばリボンの髪飾りをつけた金髪ポニーテールの少女がいる。
客人か仕事の依頼人と思うもそれも違うらしい。
「あっはじ、めぇ
この少女の名前はヘディー、指を胸の前でツンツンと合わせているもスタッフルームから現れる男に動きが止まる。
深緑色のカーゴズボンに黒色のTシャツを着ており、スナイパーベールを被っている顔の見えない長身の男が現れたのだ。それに服越しにもわかる筋肉質。
ニコの依頼といい一連の事件もあり数日は閉業していたビデオ屋、再開され来てみれば知らない人が現れたのだ。それもそうかとリンも予想通りだったのか少し笑ってしまう。
「え、えと、、ててて店長さん、、、あ、あのひ、ひひひとは、、?」
人なのか少し疑っているへディーがリンに聞き当たり前かのように説明し始める。
「この人はネームド、居s、、、ン”ン”、郊外から引っ越してきた人で、しばらくうちに泊まることになったんだ。」
───今居候と言いかけたか?
誰も分からないネームドの出自を説明するリンにネームド顔を向けるがそれも事実かと納得する。なにせずっと家にいるばかりなのだ、正式な仕事には就いていないので居候どころかニートに見えてしまう。
「あ、そうなんだ、、そ、、、、そのはじめまして私へディーと言いますよろしくお願いします殺さないでくださいなんでもします。」
───急に何を???
(怖いいいぃぃぃいい!!)
ネームドが首を傾げるがそれが返ってへディーを怖がらせてしまう。皆も想像してほしい、ハ◯ー◯ッターに出てくるディメンターも顔が正確に見えない、近くにいるだけで怖いというのに首を傾げればもっと怖い、こちらが狙われているようにしか見えないのだ。仕方ない。
「落ち着いてよへディー!そんな人じゃないから!」
へディーの肩に手を乗せ落ち着かせている途中にネームドはポケットからメモ帳とペンを取り出し文字を書く。
『
「ネームドにへディーがしばらく店の店員になるって伝えたくてさ、呼んだだけ。」
そうか、と頷きネームドは手を差し出す。へディーも恐る恐る手を出し両者握手をすればリンが説明を加えた。
「へディー!ネームドがいる限りこの店に強盗が来ようと問題ないよ、何せ強いからね!」
バンバンとネームドの背中を叩くリン、平手であるためそれなりに痛みを感じるが
「それじゃあへディー店番よろしく!18ちゃんよろしくね。」
「ンナナ!」
それじゃスタッフルームにGOと言われ戻ってみればリンといつのまにH.D.D前に座っていたアキラが急に真剣な表情をし始める。
「ネームド、君に話があるんだ、お金についてさ。」
お金、パエトーンのアカウントに入れていた資金のことだ。それがすべてパァになってしまいビデオ屋は財政難だ。テレビ前で銃弾を製造しているビリーの所属している邪兎屋と同じである。
「パエトーンのアカウントが失ってしまって早一日、アカウントに入れていた資金がすべてなくなってしまい弾や手榴弾の補給ができてないのは知ってのことだ。そこでビデオ屋にも本腰を入れることにするんだけどね、、、」
すぅ、と深呼吸しアキラが伝えた言葉でネームドに衝撃が走る。
「君にも働いてもらいたいんだ。」
───え、嫌だ。
そう伝えようと首を振るもアキラが立て続けに話し始める。起承転結で言えば承である。しかしこれ以上会話を聞きたくないらしくヘルメットのヘッドセットを耳に当て始める。
「けど君は喋ることができない。それはうちの店員として、いや接客態度としてはかなりまずい。客にあそこの店員は無愛想だとでも言われれば店に来なくなる人もいるはず。だから───」
「君にはこの仕事を用意した。さぁ、働いて資金を稼ぐんだ!」
そしてモニターに映し出された求人票。居酒屋、配達員、倉庫内作業、データ入力やら文字起こしやらなどがあるが───
《マスター、彼の仕事を探したのはこの私であるFairyです。》
「そうだったね、すまない。」
モニターに映し出された仕事をみるがどれも嫌という言葉しか脳内には生まれない。体が受け付けないのだ。
《マスター、ネームドから拒絶反応が見られます。》
「え?」
見てみればネームドはメモ帳を書いていると思えば次々に一枚一枚ページを破いている。見てみれば英語のアルファベットが一文字一枚に書かれている。文面からは焦りが見られた。
そして書き終わったのか床に放られていた紙を拾い上げ作業台の上に並べられる。 アルファベット一言が単語になり、やがて文となる。
「君は何を言って、、、!?!?」
《理解不能》
そして現在に戻る。
先ほどの
彼には真面目な印象が見られた。気遣いができ手伝ってほしいことがあればすぐに駆け寄る。それに加え六分街の動物たちと戯れているのだ。ニューススタンドのウーフや野良猫や犬、時あれば他の女性シリオンにまで話しかけられている。手懐けるとは表現としては少し悪くなってしまうが彼には引き寄せる”何か”を持っている。
闘いとなれば凶暴となる彼だが日常ではそれは伺えない。いつもしかめっ面だが温厚な一面”は”持っている。
そんな印象を持っていたが少し変える日が来たかもしれない、とアキラは考察する。
現在後ろからネームドの両手を縛っているリン、その茶番に付き合うが労働となれば本気で首を振っているネームド。働くとなれば暴れ出すことだろう。
「ネームド、ビデオ屋の収益だけではこれからしばらくは賄えないんだ、インターノットの新しいアカウントでできるだけ依頼を引き受けてるつもりだけどそれでもかつてと比べれば報酬は少額だ。」
嫌だ俺は絶対に労働したくない!!長時間労働とか絶対に無理だ!!!!絶対に働きたくないでござる!!
そうと言わんばかりに首を振る速度が早くなるネームド、ため息をもらすアキラとリン、そしてその様子をブラウン管テレビに映し出された目玉のアバターであるFairyが見るがその目はゴミを見る様な目だ。AIなのに
「でもネームド、このままじゃ銃の弾とか手榴弾の補給できないよ?新しい武器を買うことも出来なくなっちゃう。」
そうリンがいえば一瞬、ほんの一瞬首を振るのがぎこちなるがすぐにまた元の速度に戻る。
「、、、せめてデータ入力でもしていないかい?」
《否定、データ入力及び文字起こしはこの優秀なfairyにお任せしていただければ効率は圧倒的に良いです。》
《提案、仕事を始めるのならやはり肉体労働であるのが良いでしょう。》
肉体労働、その言葉が火種かまた首を振る速度が上がった。もはや地面を掘れそうな速度である。ネームドにとっては肉体労働はホロウの裏仕事の方がいいようだ。言い換えるなら”戦場の方が気が楽”なのだろう。
ソファで猫と戯れているビリーと見ながら不意に、狙っていたのか自然と出た言葉なのか分からないがその言葉にネームドの首が急停止する。
「あれ、止まった。」
《マスターが現在発言された
「、、、どうするんだい、ネームド。」
やはりわざとか、アキラが言えばネームドの首は意外にすんなりと縦に振った。
「よし、それじゃあ決まりだ。fairy、一番給与の高いものを。」
《了解》
アキラが指をパチンと鳴らせば電子音が聞こえ、画面に一つの求人票が表示された。
「「これは、、、」」
「ほらネームドちゃん!早く料理作って頂戴お客さん待たせてるわよ!!」
──まだ
清潔感のある無精髭を生やした、少し高い声の混じった野太い声をしたオカマ口調の店長が言う。
時給2100ディニーの居酒屋、駅前というのもありかなり有名な店舗だ。
「ハイボールとレモンサワーと生それぞれ3つずつよ!」
───少しはキッチンの状況を見て注文してほしい。
テーブル席でデカめの声で話すサラリーマンたちを見ながらネームドが心の中で不満を漏らす。
完成した酒と飯をカウンターに置けば淡いピンクが毛先に混じった上品な紫の白菫色の髪をした少女がそれを運ぶ。九つあるグラスを片手で持ち食器をもう片方の手で持てばバランスを一切崩すことなく運ぶ。
「マジかよ、、、」
「やっぱすげぇぜビビアンさん、、、」
ビビアン、それがあの先輩の名前か。
「週二で金曜と月曜、客がたくさん来る日に来る救世主、最高記録では十個片腕にグラスを持てるという、、、」
───嘘だろ?
急に解説口調になる他のキッチン店員に驚愕の目を向ける。
どれほど働いてるのだろうかと思いながらネームドは飯を作り続けた。
ふぅ、と疲れの息を出し三角巾を頭から外す。
───疲れた。ただ疲れた。
こんなものを週5日で店長はやっているのか、やはり労働はクソだと不満と尊敬を漏らすネームドの後ろに先輩が来た。
「お疲れなのです。初日でしたのに大変でしたね。」
後ろをみれば額の汗を拭っている先輩。彼女はビビアンだった。
「金曜日なのでサラリーマンも多いのです。店長によればこれから働くと聞きました。私の名前はビビアンなのです。よろしくお願いするのです。
なのです、が口調の先輩に名前の書かれた紙を見せネームドも無言の挨拶をする。
「やはり喋れないのですね、でも問題ないのです。あなたはこれからキッチンを担当するので慣れてくるまで分からないことがあればどんどん聞いてくださいなのです。」
ん”、とネームドも頷いた。そしてネームドは人生初の労働を終え帰路につくのだった。
一日8時間労働を週5で40年間続けろって?冗談じゃない