舌打ち一発。眉間に皺をよせて。
そんな高級料理名のような言葉を考えもしたがすぐに脳内でそれを縦横に引きちぎる。次々と迫り来る【事実】をどうしようか考える。しかし考えるよりも先に自動拳銃の指を引くことに専念している。先ほどからだ。
次々と迫り来るエーテリアスを相手するネームドの後ろでは11号が大型ナタを振るって迫り来るエーテリアスの相手をしていた。奴らの腕と一体化している鋭いエーテル結晶を大型ナタで受け止めては左脚のホルスターから拳銃を抜き出すことが続け様に起きている。
照星と照門を合わせるなどはせずコアへと直接押し当て引き金を引く。9mm口径、先端に窪みがある
その時自動拳銃のスライドがストッパーによって止まる。自動拳銃のマガジンキャッチボタンを人差し指の第二関節部で押せば単列弾倉が硬いコンクリートの地面へと落ちた。
大型ナタから手を離し弾納から弾倉を取り出せばそのまま再装填すればストッパーを下げ構える。弾倉は今込めた分を含めて残り二つ。
エーテリアスは相変わらず人間二人とボンプ一体目掛けて走っている。大型ナタを持ち上げ構えるよりも今手に持っている自動拳銃を使った方が良い。
腕をそのまま伸ばさずある程度曲った状態で引き金を引く。何個も打ち出される銃弾は全てエーテリアスのコアへと命中しており一体一体ずつ撃破していた。伸ばさずとも腕を曲げているため二頭筋が発揮されているのだ。
むしろ近接ではさらに肘を曲げ拳銃を撃つ射撃体勢もある。
再度弾を撃ち切り再装填するがその時間がない。あまりにも敵が近すぎる。弾倉を入れ込む間には来るであろうエーテリアスの鋭いエーテル結晶が11号の眼前目掛けて飛び込んできたところを11号は
体を右へとステップし右手で上腕を掴み武器を持った腕の動きを停止。左手で刃先を掴み上腕を握っていた右腕の肘で刃の根本部位。人間で言えば前腕だ、そこを貫くように下に向けて打撃。
ナイフ、銃、あらゆる武器を持った人間相手を想定した
足でグリップを蹴り下げ大型ナタを空中に飛び上がらせる。握り手を掴めばそのまま体、腕を回転させ遠心力をナタへと加え飛び込むエーテリアスを両断。
11号側の通路から敵は来なくなった。弾切れのままである自動拳銃を再装填しレッグホルスターへと収めた。弾倉はこれで最後。
「状況終了。そちらは?」
刃先が交わり、撃ち出される銃声は聞こえない。
死んでいるなら自分の背中は斬り刻まれている。気になるのは───戦闘を終えた11号の耳に聞こえている現在進行形の打撃音。後ろを振り向けば見えたのは倒れているエーテリアスのコアを何度も踏みつけ潰そうとしているネームドだ。踏みつけられているエーテリアスが動く気配はない。まるで気絶をしているかのように。
限界のほうが正しい表現だろうか。
予想通り叩き割られたスイカのように変形したコアが虹色の塵へと変換する。撃破を意味したそれを認めれば再び銃を前へと向け始めた。そのスタンバイ体勢になってからは固まったようにネームドは動かない。
「ネームド。もう終わったよ。」
「周辺に敵影は?」
「いない。何度もスキャンした。」
「そう。」
敵は近くにいない。あれほど銃声を鳴らしたのだ。ある程度の距離の範囲から来た敵は先の戦闘で一掃したのだろう。脱出するこの施設内部にはまだいるだろうが近くにはいない。警戒は解いても良い、といつものように合理的が理由を考えた。
大型ナタを背中の装備へと収め近づく。近づけば近づくほど、何かの”音”が聞こえる。
獣のうめき声のような。唸らせてる音───というより声だろう。発している本人と思われる人物にまた一歩11号が近づく。
『ン”ン”ン”〜』
横に立ちはっきりと聞こえた喉を唸らせている声。警戒しているように見えるが非常用電灯がついた廊下の先には何もいない。全て彼が殺し切ったからだ。
───何を見ているの?
もう一度見たネームドの顔。スナイパーベールによって表情はおろか顔すら見えない、が。今は見えた。
これでもかと見開かれた目が相も変わらず前を見ていた。
初めて見た顔、たった眼部、一部ではあるが彼の秘密でもあった。
わずかに見えた瞳の色は緑だったろうか、そう思っていた矢先何か大きなものが走る音が聞こえ振動が体を揺らす。前方の天井が崩れ出す。出てきた敵は巨体のエーテリアス。個体名はゴブリン。
手にしていた散弾銃を構え12ゲージのバックショットペレットが何粒か前方へと出る。雷管を叩かれ燃え出した火薬が爆発し高速でペレットが飛び出るもそれを読み取っていたのかこん棒もような腕をコアの前へと持ち出した。
しかしそれで前は見えていないだろう。斧を左手に、右手にコンバットナイフを逆手に握れば一気に接近する。ゴブリンの雄叫び声が通路全体に響き渡りネームドをたくましい体と暴虐的な腕力で撲殺しようと腕を振り回す。床へとそのまま体を下げスライディングによりそれを回避する。
壁にヒビが割れ続け様に天井へと亀裂も入る。次の一発が入ればこの通路は崩壊してしまうだろう。ネームドがそのまま両足の間を滑り通れば素早く手斧を背中に刺し込んだ。
大したダメージにはならない。しかし単なる攻撃のためにやったわけではないのだ。手斧の刃がエーテルで構成された屈強な体に引っ掛かればフック代わりにしそのまま首へと飛び込む。
足を六角柱状の結晶で覆われた首へと巻き付ければ何度もコアへと刺突する。ナイフが抜かれるたびに溢れる虹色の塵は返り血のようだった。
雄叫びを上げ暴れるも腕、それも異化と変形を繰り返したこん棒のような手には指と呼べるものが存在しない。胴体を振り回し薙ぎ落とそうとするがしっかりと絡められた足がそれを許さない。
何度も何度も刺し込まれたナイフが引き裂くようにコアから抜く。それが決定打となったかゴブリンが倒れ塵となり消えたのはすぐだった。
6秒。Fairyが記録した戦闘時間である。
息をつく暇もなくネームドが鞘に手斧とナイフを収めればすぐに走り出す。理由は横目に写ったピキッという何かが割れる音。音の発生源は壁だ。崩れる予感は感じ取っていたのか11号は先に走り出していた。短い足をせっせと動かす
先に走り出したのは11号だ。しかしすぐ横にネームドが並ぶ。バックパックに詰めたさまざまな弾薬があるというのにそれを無視した速さ。同じように装備を背負っている11号だが彼に比べれば軽すぎるとも言っていい。
やがて天井の崩壊が収まり塵と埃が彼らを覆う。一人はゴーグルを、一人はヘルメットに装着されたフェイスシールドの上にスナイパーベールを被っているため目を細めることはない。
「道が塞がれたな。」
「元々進む方向はこっちよ。むしろ敵が来れなくなって良い方ね。」
「裏を返せば
状況が悪化、良好。どちらかと言えば良好だろう。銃弾は減っていく一方だがここにいた軍人たちが残した───使うことのなかった弾薬の数々をゲットしたのだ。まだまだブッ放しても有り余るであろう数。その点でプラス1点。
マイナスどころは引き返せなくなったことだ。現時点正面のメインゲートを封鎖し、他の出口から出ようにも瓦礫によって封鎖されている状況だ。理由はこの施設がエーテリアスによる襲撃を受けた際、これ以上の侵入を塞ぐために爆破されたのではというのが11号の推測だ。
この施設の非常出口は三つあり、そのうち二つも瓦礫で進めない。残り一つが無事ということでそこへと向かっているのが現在の状況である。
「クリア。」
「こっちも問題ない。」
11号とネームドが右左の曲がり角がる通路をカッティング・パイの作法で曲がり、ネームド代わりに
非常出口へと向かう道中での戦闘は先ほどで二回目だ。二回目は通路を曲がる際エーテリアスと目と目が合ってしまった。それは仕方ないことなのだが一回目の戦闘へと発展した理由は今考えても
バレた理由はアキラのくしゃみであった。
ブゥエッッックショォイ!!!!!
普段の色男、容姿端麗、誰に対しても基本優しさのある会話を交わす雰囲気とは真反対は特大くしゃみ。マイクをミュートをすることもできたろうが突如の生理現象に間に合わなかったのだろう。
オレンジのスカーフを巻いた可愛らしい見た目とは裏腹に、お陰でとんでもない量のエーテリアスを対処することになった。
「今度くしゃみをする際はミュートするようにして頂戴。マッシブ・スニーズ・キャノニアー。」
「
皮肉を込めた
頭の片隅で考えていれば遠くに見えた二体のエーテリアス。撃ちたいところだが銃声を聞き出されまた先ほどのように大量のエーテリアス対処をしたくはない。
ここは”ステルス”キルで行くとしよう。言葉を交わさずともアイコンタクトで思考を交わせばゆっくりと歩き出す。
ナタのグリップを握り静かに熱を込めつつ近づく。向こう側を見たままのエーテリアス二体との距離がだんだんとなくなりやがて後ろへと立つ。呼吸音と気配を抑えば鞘から金属の擦る音がしないようコンバットナイフと手斧の両方を抜く。
11号がハンドサインで指を三つ立てる。カウントダウンのそれを横目に1となり、やがて握り拳ができれば一気にナイフをコア奥へと刺し込む。
熱を帯びていた大型ナタが赤熱する。非常用電灯よりも明るい光量が通路を照らせばコアの斬り伏せた。
ネームドがナイフの次に斧を上から押し当てる。かなり乱雑なそれは静かに殺すのに十分だった。
虹の塵となるはずのそれは一体しかならない。その個体は11号がやったものだ。ピクピクと痙攣しながら地面に伏せている。
トドメを刺すべくもう一度大型ナタを振り上げる。真上へと振り上げたその時エーテリアスのコアが”変色”した。
「GHYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!!!!」
突如の大声に全員が目を見開く。11号が素早くナタを振り下ろし、ネームドも手斧を放り下ろし完全にトドメを刺す。虹の塵と化した。完全に殺し切ったのを確認したしたが全員が先の叫びに違和感を抱いていた。
いつものような、敵を発見し咆哮を上げるあの際の声ではなかった甲高い音だったからだ。
「今の鳴き声、いつもと違ったような、、、」
「何かを呼ぶような断末魔だった。」
気になるところではあるが、今は気にしている場合ではない。非常出口へと急ぐためすぐ移動を開始する───も、一人が銃を握り周囲を見渡していた。
しかしその見回しは何かを探すような動き、と11号は見て思う。
「ネームド、速く移動しよ───
《数々のエーテリアスが接近中、すぐに逃げてください。》
ネームドがFairyの警告が発せられるよりも早く走り出す。機械的な、女性を彷彿とさせる声がすぐさま報告すべくいつものゆっくりな話す速さではなかった。それが尚更事態の緊急性を悟らせている。
それに比例するように何者かの、咆哮が通路奥から聞こえ出した。
こ、今回はこれでご勘弁を、、、(ライフル銃口を口に咥えながら