〈そ、そんあバカな!?〉
反応が消えた。
【テューポーン】からの反応が。
何が起きたのか、視覚映像が最後に映っていたのは普通の大きさではないリボルバーを向けられた瞬間のみ。
異様に赤い火薬炎が回転式弾倉の隙間から舞い上がったコンマ数秒、視覚映像は真っ黒になった。
地面に放り投げていたタブレット端末に送られた損害報告は所々が赤くなっており、その中でも異様な雰囲気を放っている黒。ポッカリと穴が空いたように白線の輪郭のみがコアの部位であったと示している。
テューポーンのような巨大兵器のコアは、最悪コアを持ち得ればいいと軍技術班から言われているほど重要な部位だ。
機体制御を行う部位故製造も簡単ではない。手脚を作るともなれば費用対効果が生まれなくてはならず、大口径の弾丸が撃ち込まれても数発は耐える最終装甲も施されている。
それを一発で、内部ごと破壊された。
どんな兵器だ、どんな銃だ、どんな銃弾だと【モグラさん】の脳内が疑問で埋め尽くされているところで、会話が発生だ。
〈ここまで嗅ぎつけた上に、我が軍を破ってみせるなどと…ぐっ…〉
〈───こんな芸当、本物の【パエトーン】とてできるまい…!〉
───本物が目の前にいるんだがな
無線機から聞こえる声からはとにかく、悔しいといった感情がと分かる。
「どうも、なんだが照れるな。」
一つの音も立てないテューポーンが鎮座しているこの場に11号はいない。捕らえた捕虜を収容所に連れていくとのことだった。
道中で発見された反乱軍兵士の死体は、ホロウに放置されるらしい。
持って帰らずともエーテリアスが死体を
そもそも何十もの敵軍の死体を持ち帰り、わざわざ焼却するほどの余裕がある場所ではない、ホロウというのは。
「まぁ、君の企みは大体うまくいくはずだったな、というより行っていた。」
「けど致命的なミスが二つあったんだ。それを、本物のパエトーンが教えてあげよう。」
〈何…!?〉
一息吸い、吐く。それから何かを飲んでいる音が
「一つは11号と、ネームドの強さを甘く見ていた。」
「それから二つ───これは最初に言っていたはずだけど…僕は本物の【パエトーン】なんだ。」
〈な…!〉
まさに愕然、と言った様子の声だ。
「……おっと、ホロウが物凄いスピードで収縮してるな。仕事は終えたんだ、ネームド、帰ろうか。」
ネームドが親指を立て、小銃を背中へと回せば駆け足を始める。裂け目までの道は
〈待っ、ちょ、ちょっと待ってください!!〉
「…」
『…』
〈待って!お願い助けてくださいぃ!!〉
「…」
『…』
〈聞いてくださいぃい!パエトーン様!貴方様の忠実なモグラ、いや犬になりますから!どうかお助けぇぇぇえ……〉
「悪いけど、もううちにはペットがいるんだ。」
〈──……〉
遠回しではあるが、明確な【
悲しきかな、心酔していた憧れからこうされるとは。自業自得というものだろうか。
足を動かすことを緩めることなく進んでいれば裂け目が目の前に表れる。いつ見てもブラックホールのように見えるそれへと飛び込めば、濡れるような感覚が二人を包み込む。
次に映ったのは裏路地を超えた先にある夜明けの空と歓迎の風だ。
「ネームド、イアス!こっちこっち!」
そして車で迎えに来ていたリンが裏路地にいるネームドとイアスへ呼びかけた声が静かな住宅街へと響いていた。
相変わらずンナナとボンプ特有の言語を言いながらリンへと走って行く。走り方もイアス本人の走り方だ。
ロボットならば【本人】という言い方は妙だろうか?まぁいいだろう。
イアスへと続きネームドも安堵の息を吐きながら車へと歩き始める。そうした所へ異変が起きた。
気を抜いてしまったのがいけなかった。
視界が揺れ、一瞬の間の耳鳴りが続く。平衡感覚が掴めなくなった。
揺れる体がすぐ隣の壁へと腕をつける。
「ネームドどうしたの…!?」
「ンナンナ!?」
今更ではあるが、手と腕から血がポタポタと、速い一定間隔で流れていることに気づいた。
───あぁ畜生
そういえば負傷していた、と今になった思い出したのだ。
左手は深い銃創を追っており、腕はトリガーとの同士討ちにより銃弾が掠めた。おまけに腹も痛い。
リンとイアスが近寄り触れようとするがネームドはそれを手で払いのける。決してプライドなどでそうしたわけではない。返り血で濡れた服装と装備に触れさせないためだ。
一人で歩けると弱々しいハンドジェスチャーをすれば車の前まで歩き切ればリンがすぐさまドアを開けるも、ネームドがすぐに入ることはなかった。
───
乾いている部分もあるだろうが全部がそうではないだろう。試しに濡れてみればグローブ越しにヌメっとした触感を捉える。
「汚れる心配なんてしなくていいから!」
そういうわけにもいかないとヘルメットを脱ぎ、スナイパーベールも頭から外せば数時間ぶりのクリアな視界だ。両方のショルダーストラップを掴み脱げば体が軽くなるのを感じる。続けて上着も外した所でリンが救急箱を持ち急いで開く。
「イアス左手をお願い!」
「ンナ!!」
親指と人差し指が思ったように動かず、11号に巻きつけられた包帯は真っ赤に染まっていた。
指があるようには見えないが、そういう仕組みで
「とりあえず病院行くよ、イアスタオル抑えてて!ほら乗って!」
そのまま立ち上がらせされれば助手席へと押し込まれ装備がトランクへと押し込まれるも、ネームドは病院に連れて行かれることへの抵抗感を持っていた。
単に病院が嫌い、というのもあるだろうが何よりも───
リンが助手席へと乗り込み車のエンジンを掛けた瞬間、女の合成音声の声がナビから発せられた。カーナビに設定された自動音声ではない。
《───助手二号に通知:ネームドを病院へと連れていくことは推奨されません。》
「え…!どうして!?」
《医療費の問題です。》
───金が掛かってしまう。
医療施設にて治療を受けるということは必ず金が必要だ。
《助手1-2 ネームドは新エリー都市民権を保有しておらず、公的健康保険および公的医療保険に加入されていません。治療を受けた際、医療費は全額自己負担となり多額なものとなります。》
「だからって───
《ホロウ内にて負った傷は新エリー都法律上エーテリアスにより負った傷として自己負担を軽減する公的制度が存在します。》
《しかしマスターの違法ホロウ事務調査員、そして助手1-2というホロウレイダーは対象外であり、負傷したその時刻や場所、証拠の提示が求められます。》
《今回マスター等が入られたホロウは、
「そんな…」
《…何よりマスター、そして助手2号の財政状況は、苦しい状況です。」
「誰のせいだと思ってるの…!」
どうすればいい、といった顔をしながらハンドルを固く握りしめるリンに一つのメモ紙が渡さる。内容は英語で書かれていた。
『
「いや、でも…!」
そう反論するだろう、それを予測していたのか二枚目のメモ紙が渡さた。同様の内容だった。
『
メモ紙と、じんわりと格子柄のタオルが赤く染まってくのを交互に見ながらも苦渋の判断をしたのだろう。カーナビに指を伸ばせば自宅と登録されたRandom Playが目的地に設定された。
「お兄ちゃんはどうなの?」
《マスターも助手二号と同じように自宅療養を選択しました。治療器具を準備をされています。》
「なら急いで行こ!」
青信号へと変わればリンがアクセルを強く踏み込む。日が登り始め明るくなってきた時間帯というのもあり交通量が少ないのが幸運だ。
法定速度ギリギリ───いや、度々超過しながらもRandom Playへと向かっていく。
「ほら怪我人は、しっかりベットで休む!」
───ソファで十分なんだが
「ソファで十分とでも考えてるんだろう?」
いつのまにか
一応怪我人であるのだから気をつけて欲しいものだが。
既に腕と手の処置は済んでいた。
スタッフルームにてピンセットで傷口に直接掴み医療用ハサミで死滅していた生体組織を切除し、オキシドールを傷口に流し込むのはタオルにくっきりと歯型が残るほど痛かった。しかしFariyの的確な指示により異常が起こることなく処置が終えることができている。
本来なら病院に行き手術を受けるべき負傷。しかしどこでその傷を負ったのかという質問になればややこしい事が起きるのは目に見えていた。
───銃の整備だけでも
「銃の整備をしようとしてるのかい?」
やはりこの男、
装備の修理、固着してしまった血洗いを全てやるというのが兄妹の弁だった。ネームドが考えたことは全て兄妹によって見抜かれ休むよう言われている。
ありがたいことだが、銃の整備だけはネームドも引き下がることは出来ない。理由は単純なもので【自分のものには触れられたくない】という気持ちである。
エーテリアスと戦う武器という何があってはならない物の整備だけは済ませておきたいと、アキラに頼み込んでいるのが現在進行形だ。
「…分かったすぐに終わらせるんだぞ。左手の方は極力使わないように、何か困ったことがあったら言ってくれ。」
ゲームをあと数分だけと粘る子供のように言うネームドを見れば、アキラは仕方ないとようやく許可が出された。
まずは最も撃ち続けていた小銃のハンドガードを掴み、コッキングレバーを何度も引けば整備へと取り掛かった。
ネームドの数少ない余暇活動の多くが銃の分解やクリーニングと言ったあの日、ビリーには何と言われただろうかか。
そのような感じのようなことを言われ、街中の散策へと連れ出されたあの日を思い出しながらウェスで油で拭き取っていれば、何かに驚くような声が耳に入った。声の主はアキラ。
何があったと視線を移せばスマホへと目が行ってしまう。見てみれば、見たことのない金額の桁が表示されているではないか。
「一、十、百、千、万、十万、百万…凄い金額だな。しかし一桁多いような?」
「───当然の額よ。」
整備の手を止め目を見開いている所へ部屋の扉が開く。入ってきた人物は予想外の人だ。
「11号?なんでここに?」
キビキビとした歩き方で部屋へと入ってくれば、ネームドの前へと立ち止まった。右手には赤黒いパッケージ菓子を何個か持っている。
「あなた、家でも
一方のネームドは既にスナイパーベールを頭に被っている。扉が開く以前から何者かが入ってくる事に気づき、素早く被っていたのである。
「気分によって変わるんだ、家の中でも被るかは。」
「そう…傷の具合は?」
ビデオ屋へと赴いた主目的を言い出し、頭部から下へ、腕の方を見ればTシャツの二の腕部位が一直線に裂けているのが分かった。ハンガーにかけられている上着も同様であるのを見れば戦闘で負った傷だろうと11号は推測する。
何より気になるのは、左手の方だ。
合谷部位はドレッシング剤が敷かれておりの上に包帯が巻かれており現在は出血が止まっているらしい。
「左手の指は、動くのかしら。」
表情が変わってしまうのを感じながらも聞けば、ネームドが左手の五本指を動かして見せる。小指、薬指、中指は問題ないが人差し指と親指は明確に異常が現れているのだ。
やはり筋組織にまで影響が出ているのだろう。狙撃され頭を下げられた際に、頭部へと当たるはずだった銃弾はネームドの手へと当たってしまった。
死ぬよりはマシだ。あの時の行動は正解であるが、否定するわけでもない。否定してしまえば彼自身を否定してしまう。
とはいえ、11号の顔は無意識にも苦虫を噛み潰したようなものとなった。
「報酬の額が増えたのは、彼が反乱軍兵士を始末した事とテューポーンを撃破した事、任務の目標達成率を大きく上回った事、そして負傷した傷の傷病恩給によって増えたものよ。これでも少ない方。」
11号がいうには、本来はもっと支払われるはずの金額が最低限にまで引き下げられ十分な報酬額ではないとの事だ。
「よそ者にくれてやるだけ有難いと思え、とでも上層部は思っているのかしら…腹立たしいわね。」
腕を組み、納得のいかない怒りを募らせている様子からもう一度スマホへと目を戻すも、やはり頬が綻んでしまいそうな額である。しかしその上へと吊り上がりそうな頬も糸が切られたように下へと言ってしまった。
下から上へとスワイプしホーム画面に戻ればアプリをタップ。開かれた画面には数字と
一般的な計算機のアプリらしい。
「まず今回得た報酬をうちの全財産にプラスして…」
引き出しから家計簿と通帳を取り出し数字との睨めっこが始まる。
「Fairyの半年分の電気代、それから猫と僕たちの食費、ガス代……」
幻覚でも見ているのだろうか、一気に桁が消え去っていくのをネームドと11号は見てしまう。
「ネームドの今回使った弾薬、手榴弾の補給も入れて…防弾プレートとヘルメットに関してはガムテープか接着剤で何とかするから入れずに………」
なんということだろうか。今回の依頼料はあっという間になくなった。
アキラの顔は無表情になってしまう。
「それ以上は考えない方が───
「ビデオ屋の仕入れ代も…あぁ、イアスたちにあげる味付きバッテリーはどうしようか………」
家計簿を計算している際、アキラは脳から感情を消すのが上手くなってしまった。
「イアスにだけというのも不公平だから、いや逆にあげないのもそれはそれで……」
今のアキラには一ディニーでさえも探し求めてる状態だ。
「あなたたち、苦しい生活を送っているのね……」
「うちの
《マスターの安全を確実なものとするために───
「もう聞き飽きた言葉だから言わなくていいさ。」
家敬慕に記されたお金をホイホイと削っていく
「ただの気休めでしかないけど、これを買ってきたの。あなたにもよ。」
先ほどから持っていた赤黒いパッケージ、ネームドはパッケージに書かれた言語が理解できていないが、燃え上がったような唐辛子と色合いからして激辛だろう。
「───私の命を守ってくれて、感謝するわ。
初めてしっかりと名前を言った、黒のグローブ越しに建てられた親指がネームドへと向けられる。同じようにネームドも右手でそれを返して見せた。
切り口に沿って開けば銀のパウチに付着している赤い粉末が空気中に舞う。中のお菓子を取り出し食べれば───相変わらず、むせ返りそうなほど舌が痛み出した。
しかし声を上げるほどではない。
───この味も悪くはないな。
そう思いながらネームドはアキラの方を見る。辛いものは得意ではないと記憶したはずだが
今の彼に、唐辛子の成分である「カプサイシン」の攻撃は通じなかった。
口の中の粘膜にある痛覚にリソースを回すぐらいなら感情を消すことに集中しようとアキラの脳がそうしている。あるいは痛みなど無視しているのだろうか。
計算が終わったら寝よう、夜通しのプロキシ業に疲れた、イアスを抱いて寝よう。アキラの死んだ目に【予算超過】の文字が目玉のアイコンと共に映り込んだ。
この二人11号が帰った後、防衛軍経理部に強盗作戦考えてそうですね
とりあえず
お労しや