存在しない人間   作:いん22222

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 私が防衛軍に正式加入した記念すべき一日目。そして、このパソコンを使い始めた日である。
無事に入隊が決まった記念に母が買ってくれた。「忘れやすいんだからパソコンに記録しておくんだよ」などとぶつくさ言われながら手渡されたが、正直、大きなお世話である。

 が、私は確かに忘れっぽい…入隊初日だというのに、宿営地に武器を忘れて長官に叱られてしまった。どうやら母の言うことは正しい。だから、時間がある時に記録しておくことに決めた。

 母は、家の電話番号を紙に書き写させた。私が家に電話をしないのは、家の番号を忘れてしまうからだと思っているようだ…単に毎日家に電話をかけたくないだけなのに気づいていないのだ。
…そういえば、家の電話番号って何番だったっけ?


───行方不明になった新米兵士の記録:1───


Chapter002 ホロウの中心で   を叫んだ?
槍投げ事件、待ち合わせ


 「そっち抑えたままに…そう、これで…」

 

 テスターや電圧計が作業台の上に置かれており、絶縁テープの巻かれたモリになぞるように電線が巻かれている。先端には金属と改造された市販の変圧コイルが取り付けられ、全ての電線がそこへとつながっていた。

 

 「よし、やっと完成したよ〜…!」

 

 「やっと、だ……」

 

 四六時中、四日間とやっていたのもありリンとアキラがどっさりと椅子に座り込むが、すぐに立ち上がった。

 

 テストをしなければならない。

 

 それなりの大きさがある電圧機とスタンバットを持ち駐車場へと行けば朝日の太陽光が二人を照らす。目元の隈がより際立って見えた。

 

 周囲に人影がいないのを確認すればちょうど朝日が掛かっているソーラーパネルへと近づき電気補充を行う。ホロウレイダーの集団が使っていた年季物だが見た目に反して性能はいいものだ。Fariyが高評価のグッドマークを出すほど。

 

 「さてここは私が───

 

 モリを掴み、さっそくと言わんばかりに起動し投げようとしているリンをアキラが止める。

 僕にやらせろ、と言わんばかりの顔だ。

 

 「な〜に?電流電線は確かにお兄ちゃんもやってたけど大体は私でしょ〜??」

 

 意義あり、と言うように手をリンの顔前へと上げれば指を開く。その皮膚には多くの切り傷と瘡蓋、絆創膏が貼られていた。

 

 「フックの部分を作るのにどれほど怪我したと思ってるんだい?ここは血を流した僕に、ね。」

 

 「【素手の方がやりやすい】とか言って手袋しなかったのはお兄ちゃんじゃん!私とネームドはちゃんと忠告したんだから自業自得でしょ!」

 

 「…漏電していた機械に感電しそうになった所を助けてあげたのは誰だったかな?」

 

 確かにそれは感謝している、実験の最中に起こった出来事を言い出せばリンも反論すべきと自称天才の脳を回転させた。

 

 が、出てこなかった。確かに少し触れただけでも命の危機があった電流であったため感謝すべきことなのだ。しかしそれ以上に徹夜で作り続けたことが裏目に出ており、脳に疲労が溜まっている。

 

 ならば、とリンは拳を作り出す。アキラも同様に拳を作り構えた。

 その体勢はファイティング───ではない。ジャンケン(RSP)である。

 

 

 「「───最初はグー!!」」

 

 二人が上下に振られた拳が懐へと戻され左手で覆い隠す。出す手を見られ、対応されないようにするためだ。

 

 「「ジャンッケンッ!!」」

 

 兄妹二人の間では通称【ネームドジャンケン対策】と呼ばれているこの動作。以前ジャンケンをした際、ネームドの動体視力が凄まじく、出す手を全て読まれ連敗が続いていたのだ。

 

 「「───ポンッ!!」」

 

 アッパーカットの如く出された両者の手はパーとチョキ───チョキがアキラ、パーがリンである。

 

 「そんな…!」

 

 「今回は運がなかったようだねリン。僕の勝ちだ。」

 

 漫画(コミック)であれば【ガックシ】と擬音が描かれていることだろう。膝と手を地面につけ項垂れている所申し訳ないとは別に思っていないが、兎に角勝者は兄の方だ。

 

 電圧機のプラグを接続し急速充電すれば、漏電したところでプラグを抜き取りバチバチと先端が物騒な状態へとなればグリップ部分を持ち腕を高く上げた。

 

 

───確かこうして…

 

 

 槍投げのやり方を紹介している動画を見ながら練習した二日間を思い出し後ろへと数歩下がり、体を横にすればステップを始める。五歩続けば左足をグリッと地面に急停止、上体に力を集中させ伸ばされた腕が思い切り振りかぶり、コンクリートの壁へとモリを投げた。

 

 普段デスクワークばかりをしているとは思えない鋭い動き。予想していたよりもまっすぐ飛んだモリの先端がコンクリートの壁へと当たれば、先端の金属からフックのようなものが突き出され壁から外れないように固定された。

 

 固定されていた内部フックがまっすぐ突き立ち刺さったままになれば、一秒とたたず青白い電気が刺さったモリ先端の周囲一メートルに一気に流れ出した。

 

 「やった!!」

 

 数々の粉砕跡(失敗)が刻まれたコンクリートの壁にようやく一本のモリが突き刺さったのを見たリンとアキラが喜びの声をあげている。

 

 実の所を言えば、じっくりと時間をかけ一本を作るのに四日間であり、別のモリも含めるとかなりの期間がかかった。

 このスタンバットは11号と実験兵器を破壊するために赴き、後ろから奇襲をしかけたホロウレイダーから奪い取った同じ物に改造を加えた物だ。

 

 【テューポーン】のような巨大兵器、傷つけず人間の制圧、電気が弱点であるエーテリアスを撃破、あるいは弱体化させ有利な戦況にしよう、そして弾薬費を節約しようとアキラが提案した。

 

 「これでホロウレイダーの拠点に何度も行く必要がなくなるね、ほんと疲れたよ……」

 

 

───ようやくか

 

 

 何度ホロウ荒らしと呼ばれている集団の拠点へと訪問(・・)しに行っただろうか。何度大量の電流共振検知器とモリを持ちながらホロウ内と外の出入りを繰り返しただろうか。

 

 

 

 

───やべぇぞホロウ荒らし”荒らし”が来やがった!───

 

 

───野朗なんでいつもいつも来るんだよぉ!?!?───

 

 

───もうありません!!もうありませんってばぁ!!───

 

 

 

 【ホロウ荒らし”荒らし”】などと彼は異名をつけられ、現在インターノットではその噂で数々のスレッドが建てられている。【電気工事士の成れの果て】【モリに親を殺された者】【モリを売りつける武闘派転売ヤー】【地獄からの使者】【魚を獲るためにモリが必要な原始人】などと数々の考察が挙げられているのだ。

 

 「次私!次私!」

 

 フィンガーグローブを着た手がモリを引き抜き充電を開始する。先ほどと同じように先端から電気が漏電し始めればプラグを引き抜き、槍投げの体勢へと移行した。

 

 「よおぉ〜〜し、行っくよ〜!!」

 

 体を横にしステップを始める。兄の動きを見様見真似でやろうとしたのだろう。

 

 「せーっっあっ!?」

 

 「リン!!」

 

 日頃から運動していないツケがここで回ってきた。足をくじき転転んだ所を咄嗟でアキラに助けられるも、肝心のスタンバットは自由となり空をひらひら漂っている。

 

 その槍先はやがて───Random Play社用車、兄妹の所有する車のボンネットへと突き刺さる。

 

 

 「「あっ」」

 

 フックが起動し、ボンネットへと固定されれば青白い電気がエンジンのバッテリー部位を破損させた。

 

 

 

───何をやってるんだあいつは

 

 

 

 後ろで見守っていた、【ホロウ荒らし”荒らし”】の異名を持たされた本人であるネームドが呆れの混じったため息を吐いてしまう。

 

 「ま、まって、待ってお願───

 

 懇願の言葉が意思など持たない物体へと言いかけるも電撃が止まることはない。数秒もすればボンネットの隙間から火花が散っているのに気づいてしまう

 

 過充電か、高電圧によるショートか、考えうるのはどちらもだ。これにてバッテリーの買い直しが決まった。

 

 《マスター、お忙しい所申し訳ございませんが、指名のあった依頼人からDMが届きました。》

 

 「…なんだい。」

 

 気力の入っていない声、誰が聞こうと意気消沈していると分かるものだ。

 

 《DMの一部に【生きるか死ぬか】の内容を検出、ただ今読み上げます。》

 

 生きるか死ぬか、それを聞いた瞬間からアキラの顔は引き締まったものになる。こういう切り替えの早さは彼の長所でもあるかもしれない。もしくは人命のかかったものであると気づいたからか。

 

 《【パエトーン、オレらに力を貸してくれ。》

 

 読み上げられ、最初に出てきた【パエトーン】という単語、それを聞いたリンとネームドの注意も完全にFairyへと向けられた。

 

 現在インターノットにて名乗っている名前は【パエトーン】ではない、別名のサブアカウントであったからだ。

 

 なぜ別名で、新参者であるプロキシの正体が見破られているのかが分からない。

 

 《【恥を忍んでいうが、オレらは今、生きるか死ぬかの瀬戸際だ。力を貸してくれ、頼れる相手はお前しかいねぇんだ。】》

 

 《【事情が事情でな、依頼内容をここに書けば一発でこっちの正体がバレちまう、つうことでここは一つサシで会おうや。明日の朝三時に六分街の交差点に来てくれ、頼む】》

 

  携帯端末に書かれたDM内容からしてメッセージを送った本人は男だろうか、荒々しい言葉使いはそれほど緊急なのか性格ゆえか。

 

 「【サシで会おうや】って、急にうさんくさくなったよね…依頼内容も教えてないのに直接プロキシに会いたいなんて非常識じゃない?しかも朝の三時だよ!というか朝じゃないよもはや!」

 

 「早起きに関しては…」

 

 

───俺か

 

 

 あまり深く眠ることなく、悪いことに睡眠時間が短いネームドへと二つの両眼が向けられるも、その目は兄妹共々交わった。どうにも難しい目をしている。

 

 「ネームドは喋れないし。」

 

 「明日は早起きして行こう。ネームド、一緒に行こうか。」

 

 交渉兼護衛、自然とその役割が任せれるも断ることなく親指を立ててみせた。

 

 《マスター、依頼人からもう一通DMが届きました。

 【報酬の20%を前金として振り込んだ。こいつは心ばかりの誠意ってやつだ。マジに頼んだからな】…インターノットのアカウントに振り込みを確認。」

 

 前金を払い、かなりの【お願い】をしている依頼人から確かに誠意は感じ取れるが、やはりパエトーンであることを知られているのは気になってしまう。依頼の内容を話さず直接会うというのは前近を払われたとして怪しいものだ。

 待ち合わせ場所が六分街であるのが余計怪しさを増してしまう。

 

 

 

───場所を知られている?

 

 

 

 「お兄ちゃん、会いたいってのは私たちを誘き寄せるための罠かも。前近払ってくれたとしてもこの依頼は受けちゃダメだよ!ね?」

 

 「前近はいくら支払われた、Fairy?」

 

 「振り込まれた金額は、先月のインターノットにおける総収入の1.1倍に相当します。」

 

 1.1倍。

 

 前金、報酬の20%でありながら、先月の1.1倍。

 

 三人が思い出したのは11号の任務をこなし防衛軍から貰った、桁が七桁の報酬額だ。

 

 依頼を達成し報酬を全て受け取れば、一体どれほどの金額となるだろうか。」

 

 「いっ、いくら!?」

 

 《先月のインターノットにおける総収入の、1.1倍です。」

 

 違う、そうじゃないと三人が同時に思うが、やはり報酬額に考えが持って行かれてしまう。

 

 具体的な数字は───考えなくてもいいだろう。

 

 「一体……Fairyの電気代何ヶ月分なんだ…?」

 

 「いやいや、何ヶ月じゃなくて何年とかそんな感じでしょ…!」

 

 

 

───受けるしかないな、これは

 

 

 

 満場一致、誰が反対派であるかは聞かなくても良い。そもそもいないのだから。

 

 「リン、やっぱり行ってくるよ。何しろ、ほら、ね?」

 

 「うんうんうん!!えっと、意外と安全だったりとかして?あっはは…」

 

 

 

 

 

 

 

 一日が経過し、現在時刻は02:50。

 

 依頼人から言い渡された時間の十分前。スタッフルームには二人の兄妹が無線機から様子を聞き取っていた。

 

 「───ネームド、そちらの状況は?」

 

 無線機から聞こえた返答は正弦波の電子音(モールス信号)だった。短音と長音、点と線が組み合わさり一つの文字、単語、文となる。

 

 

All clea─── client came now(異常な─────依頼人が今来た)

 

 無線機と接続され、モニターに表示されたFairyによるリアルタイム翻訳による文言を見た兄妹の心臓の鼓動が速くなる。【先月のインターノットにおける総収入の1.1倍】を払った依頼人が、現在六分街にいるのだ。

 

 

A big guy muttering to himself.(ブツクサ独り言を言っているガタイのいい男)

 

 「えぇ…」

 

 依頼人の特徴である【ブツクサ独り言を言っているガタイのいい男】を見た兄妹二人は険しい顔をしてしまう。

 

 

───Come(来い)

 

 「よし…気を付けてね、お兄ちゃん!」

 

 「あぁ。」

 

 【ブツクサ独り言を言っているガタイのいい男】が気になるが、ネームドからの【OKサイン】が来たのを認めたアキラがビデオ屋を出る。まだ深夜帯であり、太陽は登っていない。六分街は現在通行人はいない。

 

 用意された舞台のような六分街を、アキラは恐れてしまう。もし誘拐でもされたらどうすれば良いのだろうと。

 

 しかし───

 

 

 

───そのために銃を持ってきたんだろ、しっかりしてくれ自分

 

 

 

 ズボンの後ろ側、今では慣れてしまった拳銃の感覚があるのを再度確認しながらRandom palyの敷地を出る。拳銃を持っているからか、余計に周囲を見回してしまう。

 

 薬室内部には45口径が装填されている。安全装置(サムセーフティ)が掛けられているものの、やはり何度も確認してしまった。アキラの心拍は高速の域に達している。

 

 拳銃を持っていこうと案を出したのは自分だ。リンからの反対はあったものの、安全を考えれば仕方ないとも言え、異常とも言えた。

 

 

 

───拳銃を持って行こうなんて考えが出るなんて自分でも驚いたな。まったく誰の影響だか

 

 

 

 ティンズコーヒー店舗前へとつき、やがて交差点が目に入った。

 

 そこで、後ろにいる人間の気配に気づく。

 

 

 「うわぁっ!?」

 

 反射的に後ろへと手が伸びてしまうが、すぐにその動きは止められた。後ろに立っていたのはネームドだった。

 

 なぜ自分に驚いたのか、分からない様子にアキラは困り顔をした。

 

 「ま、まったく…”ソレ”を被った大柄の人間が真後ろにいたら誰しも驚くだろう、ふぅ。」

 

 指を刺された先にあるのはネームドの頭、スナイパーベールだ。

 

 「───なんだぁ?誰かいんのか?」

 

 気づかれた、いや元々会うつもりであったため気づかれてもいいが。

 

 依頼人と思わしき人物が街角から姿を表す。アキラとネームドはその姿を見て、意外にも目を丸くした。

 

 足まで伸びた明らかなオーバーサイズの上着、ズボンには右膝部位に【建没】という文字がある。黒よりの茶色の半袖シャツは胸元のボタンが外れており、鍛え上げられた胸筋が鍛え上げられた胸筋が合間見えた。

 

 |特徴的な髪型であると見ていれば、目の前の人物は時間帯など気にしていない声量で話し始めた。

 

 「よぉ!見つけたぜ!こんな時間にここに来たってこたぁあんたが───

 

 「待った待った。今の時間は深夜だし、そんな声量で呼ばれたら…」

 

 気づいたように両手で口を塞ぎ、周囲を見回す。しかし周囲に人がいないのはすでにネームドが確認していたため、実際先ほどの声量で話しても問題はないのだ。

 

 (「これでいいか?」)

 「話すには小さすぎる…」

 

 「……まぁいつもの声量で行くか!お前があのパエトーンなんだろ?」

 

  〈この人、どっかで見たことある気がする…確か昨日の【ボンプが知っている】のゲストだった、白祇重工のアンドーさんじゃない?〉

 

 

 

───どこかで見たことがあると思えば

 

 

 目の前にいる人物、アンドーは確かに昨日流れていたテレビ番組にて出ていた人物だった。

 

 生放送であったその番組内容は、一般市民を犠牲に地下鉄を再建しようとしたヴィジョンコーポレーションと白祇重工のどちらがよいか。簡単に言えばそういうものだった。

 

 太々しい性格をしたライオンの着ぐるみを着たライオンのシリオンが白祇重工についての批判を行い、それに対しアンドーが逆上。

 

 いや、逆上という言い方は悪いだろうか。自分が信念を捧げ所属している会社の悪口を言われそれに問いただし(・・・・・)スタジオが騒然としたのだ。

 

 【白祇重工の社長が大金を持ち逃げ】などと言い残し最後には放送がストップ。なんとも言い難い番組であったと兄妹(アキラとリン)とネームドは記憶している。

 

 「あぁ、ツラが割れてんなら話早ぇ。」

 

 

 

 「───そう、俺が白祇重工のアンドーだ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




やっと、メインストーリーです。

みなさん十月九日の予告番組は見ましたか?自分はフィオニーの衣装に興奮しまし───クソッ!!裁決官(・・・)の野朗もう来やがった!!

編集追記:「な〜に?電流電線は確かにお兄ちゃんもやってたけど大体は私でしょ〜??」ここのセリフ、修正前はお兄ちゃんの部分がネームドでした。この話を書き始めた時はネームドとリンがどうたらやってる話だったのですが、兄妹の仲良しを見たいと思いアキラとリンに変更しました。
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