───冗談だろう
〈───わかってるわよ!
重機3台を連れ戻すためまず1台目。デモリッシャー、通称【グレーテル】を見つけ出したのだが。
搭載された重機道具を支える四本足。そして
あれほどの大きさとなれば耐久設計が心配となるが、ビルは頑丈であるらしい。
「グレーテル!会わないうちにいっぱしの乙女になっちゃって…!」
両手を合わせ、顔へと手を頬擦り高揚とした顔で含み笑いをしながら体を揺らしているグレース。落ち着くよう促すベン、引き攣った顔をしているクレタと
ネームドの方は──目が見開かれている以外、大した表情変化はない。その目は敵意か、愕然か。
少なくとも近くで見続けていた
「だが、
〈作りかけですって!?〉
しまった、そう思っていた時点でグレーテルの逆鱗に触れてしまっていたらしい。
”彼氏”を貶された事でご立腹の様子だ。
グレーテルが撫でるように触れていた建物から跳躍し地面へと飛び降りる。見た目以上に
アクション映画並みの飛び降りを決めたグレーテルが工事現場を揺らしながら話す。
「あたしね、真白クンと一緒添い遂げるの…」
一般的なビルの耐久年齢は約五十年。作りかけとなればもっと下のはずだ。”彼氏”は
無機物を恋愛対象にするのは、現代の枠組みでは対物性愛と言うらしい。まさかの恋愛対象が
対物性愛は旧時代の英国の隣の国、その国の象徴的な塔に恋をした人物がいると、ネームドの記憶域で不可思議にも浮かび上がる。
ズキンと頭痛が起きるも、それを気にする場合ではなくなってしまった。
〈───だから今の、取り消しなさいよぉおおお!!!!〉
ついさっきまでの媚びたような声が豹変すれば、四本足に乗せられていた”重機”が仕事を開始する。
小学生が考えたような最強のチェンソー。それが今目の前にある。
こんな重機に7.62mmのライフル弾が通じるとは思えない。防弾目的で作られてはないだろうが、ホロウ内で作業する重機である以上通常弾など通らないだろう。
バックパックの上部へと収められていた物を取り出そうと、フックに触れようとしていた手が止まる。
今回の
「ネームド、アレの出番だ。」
ボンプの小さい手で指す先にあるバックパックの側面に掲げられたスタンバット。手を背中へと伸ばせばそれを取り出す。
技術者であるグレースには、よくできていると評された
元より巨大兵器,言うなれば知能構造体などのロボットやエーテリアスの弱体化のため制作されたスタンバットに電力が供給される。最大である証拠はフックから漏電し始めたのが合図だ。
その間にベンがタンピングハンマーを振り回す。高機動で振り回された1.4tの巨大チェンソー同士で衝突するも、なんと巨大チェンソーの回転を止めることに成功した。
さすがに堪えたのか歯を食いしばりながら後方へと下がるベン。交代するようにグレースが【FLINT】という文字が刻印された高圧ネイルガンを撃ち出した。
一秒も立たず高速で射撃された多数の建築用の釘をグレーテルの機関部隙間を狙うも上手く刺さりはしない。ならばとスイッチを切り替え、釘に電気を交わらせた。
今度は効果があったらしい、小さい釘にまじわせた電気ではあるものの、明確に動きが鈍っている。
「あたしがやる!」
自社製の大型ハンマーとパイプレンチ両手に駆け出せばハンマーにエネルギーを充填突進軌道へ真っ向から飛び込んだ。
「あまり傷つけなようにしてねおチビちゃん!」
「無理な注文だ!!」
小柄な体躯からは想像がつかない筋力でハンマーを振りかぶる。しかしこれだけではただ凹ませるだけにしか留まらない。
だからこその内部構造だ。
内蔵された
デモリッシャーの巨体が大きくブレた。片方の二本足が浮き上がったところへベンがすかさずタンピングハンマーを、グレーテルの腰とも言える部位へ差し込む。
〈キャー!!女の子の足を上げさせるとかどういうつもりよ!変態!!(`Д´)〉
「うるせぇ野朗だ…」
ワーキャーと騒がないで欲しい。工事現場の騒音にも負けない
とはいえだ、ベンが隙を作ったためかなりやりやすくもなった。
タンピングハンマーの底面、そこをもう一度溶炉が稼働したハンマーで打ち上げれば大きな爆炎がデモリッシャーを吹き飛ばす。またしても大きくグラつき今度は横転しそうなまでに傾く。
しかし反対側の二本足がそれをよしとするはずもない。出力がそちらに集中され、立て直そうとしていたところへ何かが刺さるのをデモリッシャーのシステムが捉える。
第二カメラへと視点を移行し何が起きたが原因を探る。早速目についたのはモリだ。そして高出力反応が来るとシステムが警告する。
抜き取ろうにも、それができる程器用な腕部パーツは搭載されていない。
ヒューズが焼き切れそうなほどに強力な電流が走るその感覚は、グレーテルが【真白クン】を目にした時と同じ感覚だ。
安定感ある体躯に、堅牢な輪郭。コアメモリーに深く刻みつけられたのだ。
一気に大出力の電気が二本足を機能不能に落としてみせる。
効果があった、喜ぶ兄妹の声が工事現場に響きながらも、支えきれなくなった二本足がデモリッシャーの機体に敷かれ、横転させた。
〈ちょ、ちょっと!!直しなさいよこれぇ!!〉
チェンソーを動かし、片方の二本足をバタバタと動かしなんとか起きようとしている蠢いている様子は虫のようにも見えるが、周囲の変化に気付いたネームドが小銃を手に持つ。
「…まずいな、戦いの音を聞きつけてエーテリアスが集まってきたぞ!」
ホロウ調査協会の名称では【エンジンビホルダー】という名のエーテリアスが続々と、鉄筋コンクリート製の作りかけビル───もとい真白クンへ張り付いていた。人間を見て作ってみただけの気色が悪い腕で。
〈やだっ!真白クンから降りてよ!!ばっちぃ手で彼に触れないで!〉
建物に
おかげで真白クンが着飾られていく。
文字だけで受け取るならいいように見えるが───実際に見ていると下手糞だ。幼稚園児ですらもう少しまともにやれるだろう。
〈あっちいってよぉ!これ以上失礼なことされたらあたし…あたし……〉
───これはマズい
グレース以外の全員が思った事だ。女々しい声がだんだんと凶悪な声となっていくのがわかる。
エーテリアスがいるなど露知らないようなうっとりとした表情でいるグレースを連れ後方へと下がった。その行動は正解であったらしい。突如としてグレーテルの巨チェンソーが高速回転し機体を回し始める。
どういった理屈でやったのか分からないが───起き上がったではないか。
〈メッタ切りにしてやっからなカビの生えたカスどもがああぁああ!!!〉
「急に豹変しやがった…」
「とんでもない性格の持ち主だな……グレース?」
「驚いた…これが恋する乙女のパワーってやつ?」
目を光らせながら両手で口を塞ぐグレース。その目の先にはグレーテルが飛びかかってきたエーテリアスをチェーンソーでガリガリ削り蹴散らしている。時には踏み潰す暴れっぷりがあった。
恋人を守るべく熱心になっている所悪いが、雲行きが怪しくなってくる。
〈はぁあ”あ”あ”っっ!!〉
「ッ!待ってくれデモリッシャーさん!そっちは───
地面に振り落とされたエーテリアスをチェーンソーで消し炭にしようとしたのだろう。たった一秒でそれは果たされたのだが、念には念をと地面ごと削り取っていたところへ
チェーンソーの刃が無理やり押し込まれ一時停止、溜められた力が解放された瞬間凄まじい反動で跳ね上がる、もしくは削り取れない物体に当たってしまい跳ね上がる、というのがキックバック現象である。
グレーテルの体の一部ともいえるため、刃が頭へと向くことはない。というよりチェーンソー自体がグレーテルの頭だろう。髪とも言えるだろうか。
重機の体ごと跳ね上がり、チェーンソーは真白クンの足とも言える支柱を一つ破壊してしまった。
〈ごっ、ごめんね真白クン!あたしったら取り乱しちゃって…!(ノ_<。)〉
わざとらしく目を瞑りながらも、顔と呼べる部位を下げている最中に、なにかおかしいとグレーテルは気づいた。
【恋人の変化にはいち早く気づくのが鉄則!】などと言い出しそうなグレーテルであるが───恋人以外の誰が見ようとも気づいてしまうことだった。
離れろとベンが声を出し安全距離まで下がらせるよう促す。見惚れているグレースとはいえ、顔つきが変わった。
真白クンが崩れだしたのだ。
支柱が壊れたのはデモリッシャーがいた方向であり、倒れる方向も当然物理法則に乗っ取りデモリッシャーがいるほうこうである。
そのまま真白クンはデモリッシャーへと盛大な倒壊をしてみせた。
〈───真白クウゥーーン!!!しっかりして真白クンッ!!(இдஇ`。)〉
「さっきの一撃で耐力壁が崩れたか……」
真白クン、もといビルが崩れ、夕日が工事現場を照らししてみせた。その光が当たる先は偶然にも倒壊したビルの瓦礫を体に浴びているグレーテルだ。
〈そんな…真白クン、全部あたしのせいだ……〉
「───自分を責める必要はないさ。むしろ、私は君におめでとうを言いたいくらいだよ。」
───は?
「お、おいグレース!自分が今何をいっているのかちゃんと分かってるのか?」
慰めのつもりで発言しているのだろう。しかしこの状況もある。
人、いや重機によっては煽りに聞こえているかもしれないが、そんな考えはすぐに消えた。
「顔をあげてごらん、真白クンが君を抱きしめているじゃないか!」
手を広げ周りを見渡すよう促すグレースに従い、真白クンの残骸をどかしつつグレーテルが周囲を見る。
「これは建物にとって、一生に一度しかできない【抱擁】さ。彼はそれを君に捧げ、エーテリアスも守ってくれた。」
素敵な恋人じゃないか、と優しく手をかけ、諭している様子はまさに親子か。友人か。
小説でも見たことのない言い回しである【抱擁】の意味を全知全能のAIへとへと聞きたくなるが、返ってくるのは百科事典に載っている意味合いだろう。
それに今の雰囲気でそれをするのはどうなのかという状況だ。
「大丈夫さ、これは永遠の別れじゃない、私達がそうはさせない。」
〈…うぅぅ……〉
「ほら、一緒に帰ろう?みんなで力を合わせて、一緒に真白君を建て直そう。」
〈……うわあぁあぁぁああああん!!!ぐすっ……うん、あたし、一緒に帰る…!!〉
「よしよし…」
───なんだこれ
新しく建て直さなければならない事実に口を開けたままにしてしまうクレタとベン、茶番にしか見えていない兄妹とネームドが泣きながら移動するグレーテル、そして隣で慰めるグレースを見届けた。
デモリッシャーみたいな重機にもスタンバットが通用したよ、やったね兄妹!
ネームドのはっきりとした顔が見たいですか?(絵とか)
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はい
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どちらでも
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いいえ