今では落ちぶれた赤牙組の残党、ボスとなった男が、蹂躙された部下たちを見て怒りを募らせている。全てが計画がうまくいていないという怒りの募らせでもあったが。
どうすればいいか、そんなことを考えている最中、視界の下端に何かがいるのを捉える。
体調の印であるヘルメットの下にある目を下へと向ける。そこにいたのは紅色の猫耳を生やした猫のシリオンであった。
「にゃお〜〜♪」
「この───
手に持っていた金属の棍棒、脇に抱えていた治安官を奪われずと棍棒を振ろうとしていた所へ───自身の、男として
次に来たのは、下腹部へと響き渡る強烈な痛み。
「グッッハッッア”ァ”ア”ア”!?!?』
大男さえも怯ませる攻撃、それが金的である。
ただの靴での蹴りではなく、装甲を付けた足でだ。
猫のシリオンが大男へ煽り散らかすのを、後ろにいた男二人が引き攣った顔をしながら観戦する。
「えげつない……事をするな…猫又は……」
───とんでもないな
彼女を怒らせてはならない。そう心に決めた二人であった。
〈───辛気臭いやつらやわほんま。なんやねん
やはりこいつも五月蝿い。声が。
デモリッシャー【グレーテル】と同じスピーカーを搭載しているはずだ。掘削ではなく、廃材も持ち運びを主にしていたと聞いたためそれほどではないと思っていたのだが。
「なんかエラそうっすね……つうか、なんだよそのボイスは?」
デモリッシャーのように声を発することはなかったはずだと、白祇重工全員は記憶している。黙々と廃材を運び続けていただけの
グレーテルと同じように意思が芽生えたのだろうか。
「お前論理コアが壊れてんじゃねぇのか?帰って点検すん───
親指を後ろに向け【帰るぞ】と優しく言ったクレタを前に来たのは、またしても岩であった。
高速で飛ぶ岩へと大口径回転式拳銃が火を吹く。岩の粉砕には成功したが、またしても爆音が鳴ってしまい。皆が苦悶の表情を浮かべてしまう。
〈病院にガキ連れてくんとちゃうんやで!オレちゃんは堂々たる”漢”なんや!!〉
「……”漢”だぁ?」
グラップルとショベルをガンガンと打ちつけ、余裕の様子を見せるデモリッシャーへとアンドーが動力ハンマードリルを向ける。漢というものに対する認識を改めるために。
「漢はダダをこねたりしねぇ!!」
〈ほーん?自分言うやんけ!!気に入ったで!!〉
重機を回転させ動けることを証明し、アンドーも動力ハンマードリルをふかした。
〈ほな漢同士、真剣勝負といこか!!〉
「全員散会するんだ!!」
「いや待て!」
それぞれが左右へと飛ぼうとする中アンドーが全員を呼び止める。一歩前へと踏み込んだ。
「これは漢同士の戦いだ。」
〈…ほーん?おもろいこというやんけ自分。人間一人でオレちゃん止められると?〉
「やってやるよ。俺こそが漢だからな。」
デュアルショベルとアンドーが駆け出し正面から同時にぶつかり合う。体格差は明らか。もはや体格差など言葉をつかずともだ。
以前、黒雁街跡地重機を乗せるための四本足が暴走した際正面から止めることができた。それにより今回も行けると思ってしまったのだろう。
無論今回は四本足の上に重機が乗っているのだ。重量が上がっているのは明らかであり、その上に速度が乗っている。
「グオッッ!?」
人を吹き飛ばすなど造作でもないのだ。
〈ハッハー!威勢がええだけかいワレ!?せやけどええ突っ込みやったんは認めたるわ!〉
「野朗、突っ込みがダメなら……!」
親指でスイッチを切り替え
「こっちから行くまでなんだよ!!」
相手が銃を持っていれば既に撃たれ死んでいるであろう突撃。その覚悟をデモリッシャーは受け止め真正面から受けて立つ。
ショベルを振り上げアンドーに振り下げようとするも当然のようにそれを回避。動力ドリルハンマーが脚関節部へと伸びた。
音を立て削っていくが、案外すんなりと壊れるものだ。ボルトナットが変形し歪んでいくのが目に入る。
〈んなっっクソ、このクソボケカス!!〉
全てを噛み砕かんとするグラップルがガチガチと音を鳴らしながらアンドーに畳み掛ける。鉄骨や廃材を何個も運べるよう力を与えられたそれは鉄骨をも歪めてしまう。
捕まれば良くて複数の複雑骨折だろう。グラップルにつけられた噛み合うための歯を見て冷や汗が額を伝うも、その目には恐怖の感情が一切含まれていない。
腕に装着された動力ハンマードリルで受け流しつつ肉薄する。やがて目の前へと近づけば内部のジェネレータが激しく動き始める。バチバチと激しい青白い電気がドリル全体を包み込む。
エーテリアスの攻撃にも負けないよう製造された装甲が喰われるようにドリルの刃が入り込んでいく。デモリッシャーの管理システムへと送られたコマンドは【高危険度攻撃】だ。
しかしこれでよい。
〈かかったなドアホ!!これであんたは終いや!〉
「やべぇ───
プラップルで潰してやる。そう
指示は送ったはずだ。先ほどまで通常通りに動いていたはず。
〈な、なんや自分!?〉
───誰や、このダボは
〈何さらしとんじゃこのボケナス!!離せや!!〉
エーテリアスと戦う想定など入れていないような装備を身に纏っている人間。ネームドがグラップルを引っ掴み動きを止めていた。
〈なんで離れんねん自分ほんまに人間か?!〉
明らかに人間がどうこう出来ないパワーで動かしているはずだ。
これでは歯が立たない。そう判断したデモリッシャーが胴体である部位へと動力を集中。回転させれば振り落とされたアンドーとネームドが吹き飛び障害がなくなる。
これは逃げではない、戦略的撤退だ。負けそうになった先ほどの
「野朗どさくさに紛れて逃げるつもりだ!」
〈ムダな努力お疲れさん!そろそろ諦めたらどや!?会社には戻らへんで!!〉
「待つんだ!これ以上騒ぎ立てたら、エーテリアス共を惹きつけてしまうよ!」
〈───オレちゃんは堂々たる男なんや!しょーもない雑務に収まる器ちゃうねんぞ!!〉
やはり、というより予想はできていた。仕事内容が気に入らなかったらしい。
「業務内容に不満があるなら社内で調整できる、ひとまず私たちと帰ろう。【ハンス】!」
〈じゃっっかしぃわ!!そのダッサイ名前で呼ぶなや。オレちゃんのメンツが丸潰れや!!〉
重機と呼ばれるよりはマシな気もするが、どうにも気に入らなかったらしい。岩を投げ
動力ハンマードリルが飛んできた岩を砕き、クレタも重ハンマーで向かってくる質量の塊を打ち砕いている。大移動を繰り広げながらもここまでの音が発生して仕舞えば、後の事は予想ができる。
〈漢の名前はな己が決めるもんなんや。それもパンチの効いたシッブい名前でいかなアカン!〉
〈せや、今日からオレちゃんの名前は───おわぁぁあああ!?な、なんや!!?〉
振り返り名乗ろうとしたデモリッシャーの前に爆発が起きる。いや降りただろうか。
デモリッシャーの背後には球体が主な形状の
何体もがエーテルをチャージし、着弾すれば爆発するエーテルをデモリッシャーへと当て攻撃している。
デモリッシャーに付けられた走行は一点の物理的衝撃や斬撃。エーテル侵食にも耐えれるようになっているが、こう立て続けてやられては耐えれることは不可能だ。
〈やめんかい!離せッちゅうに!!〉
重機を回転させるもエーテリアスを話すことはできなかった。主に腕と手を使用し移動しているため腕部の筋肉は見た目に反して凄まじいのだろう。エーテリアスに筋肉という概念があるかは分からないが。
〈クソッ…オレちゃんの【機ン生】もここまでかいな…!〉
───先ほどまでの威勢はどこにいったのか。
疑問が顔に浮き出てしまうほど諦めの良いデモリッシャーへと向い手斧をエーテリアスへと差し込み引き下げるネームドに続きアンドーが動力ハンマードリルをエーテリアスへと振る舞う。
「てめぇの覚悟はそんなモンかよ!」
「忘れたとは言わせねぇ。オレら二人の真剣勝負、まだ決着はついてぇだろ?」
アンドーがバシバシとデモリッシャーの顔を映している液晶画面を叩く。困惑するように目を何度も瞑っていたデモリッシャーであったが、やがて笑い声が漏れる。
〈フハッ…ハッハッハッハハハ!!せや、せやったな…!」
〈アンドーの兄貴ィッッ!〉
───は?
「待ってくれ…どういう状況なんだ?」
「ツッコミどころは色々あるけど…この子はもう大丈夫みたいだね。」
───この間観たB級映画よりも
現実でこのようなことが起きえるとは思わなかった、もう少し説得には時間がかかる。最悪破壊を───と考えていたが、その必要は無くなったらしい。
もう少し戦ってみたかったと思うネームドがプレートキャリアのショルダーストラップを掴みながら
「兄貴、ほなオレちゃん帰るわ!兄貴を見習ってホンモノの漢になるための修行をするんや!」
「おう、一緒に頑張ろうぜ兄弟!…そういや、お前の新しい名前を聞いてなかったな。」
デモリッシャーがショベルを、アンドーが拳を同時に突き出す。どちらも人間であれば拳を打ち合っている状況が容易に想像できてしまう。
〈オレちゃんの新しい名前はな、黒鉄男児・百錬成銅・エンジン点灯・ハンスや!」
「ハンス残ってるけど…」
最後は良かった、しかしその前はあんまりだ。
場所は、黒雁街跡地。
「あ、あんたが点検するんは話聞いてないわ!!」
「そうよそうよ!!真白クンの話はどうしたのよ!!」
「安心してよハンス、グレーテル。ちょっと……」
「「ヒッ!?」」
「体と。」
「頭を。」
「弄る。」
「だけだから、ね?」
恐怖の絶叫が黒雁街跡地へと木霊するのを白祇重工の面々とネームド、イアスの全員が聞いてしまう。
クレタ、アンドー、ベンが座り休んでおり、ウィンナーと辛味タコスミートのブリトーを口へと入れているネームドがグレースの様子を見守っていた。
「建物に恋した重機と、変なボイスと訛りがついた重機…次は一体なんだってんだ?」
「もう一台も離脱してる以上、確実に変なな性格にはなってんでしょうねぇ。漢らしいやつであるのを願いますよ。」
「まず変な性格でないのを願えアンドー。」
米、肉、卵、野菜を箸で掴み食べながら談話をしている。朝から休憩なしに動き回りろくに昼飯も取れていなかったのだ。腹の虫が大声を上げてカロリーをご所望としていた。
「ハンスの野朗、ただの点検ごときにビクビクしてやがる。オレちゃんは漢や!!とか豪語してたくせに、らしくねぇな。」
怯える子供のように重機の身体を縮めるハンス、グレーテルの方は何かと真白クンなどと連呼している。
「───
「えっ、ハンスもっすか?」
肉と米を同時に口に運び、噛み砕きながら行ったクレタの言葉へと、驚愕が顔に出ているアンドーとベンが意外にも反論した。
「いや、あいつはもう漢になったわけだし、これからも俺の弟分として……」
「グレーテルだって、真白クンがいれば制御はできるわけだし…意識を削除するってのは…」
「甘ったれた事言ってんじゃねぇ。」
中に入っていた食べ物を全て平らげ、弁当を入れていたビニール袋へと丸め詰める。体勢を崩し座っていた足へと手を勢いよくおけば、そこにいたのは社長の姿。
「
「待ってくれ社長、グレーテルに関しては元からああだったし、ハンスに至ってはなんでああ言うふうになったのか分からんだろう。」
「意識を持ち始めて今回みたいな奇行に走った。今の所はそうだ。」
グレースの報告を待とう。そう言い残し仕事道具を肩に担げば宿所へと戻っていった。その後ろ姿を引きずるように見届けるベンとアンドー。ブリトーを平らげたネームドが点検しているグレースへと歩み寄った。
どこに入ればいいか迷ったイアスは、とりあえずとネームドに着いていく。
「………?どうしたんだい、ネームド。」
何か伝えたい事があるように、メモ帳とペンを取り出し文字を書き連ねる。
『
「気になったけど、なぜ君は英語を…いや、まぁいいか。」
「言ってしまえば、分からないだ。」
画面操作対応のメカニックグローブを着た手にあるタブレット端末へと映っているのは画面いっぱいのコマンド表。赤、青、緑と色々な文字色で表示された文字列はとにかくキーボードを打ちまくったように、何を書いているのかネームドには理解ができなかった。
イアスが興味津々に示している所へとグレースが合わせて画面を見せる。相も変わらずンナンナと、短い言葉に詰められた言語ロジックは人間には理解ができない。
「……少し、いやかなり気になってたいたんだけど……」
床へとタブレット端末を置き、ハンズフリーとなった手がイアスを抱えた。
「ホロウ内外にも関わらずリアルタイム通信が可能……一体どんな仕組みなんだい?」
肉付きの太腿へとイアスを乗せ、電子の目と生身の目が向き合えったと思えば、グレースの目つきが変わった。
「君の中は、一体どんな構造をしているのかな?」
数々の機械たちを、恐怖へと陥れた、鉄の魔女の目。
〈ン、ンナ!ンナナァ!〉
「大丈夫大丈夫。休憩がてら、ちょっと君の”中”を───
「───はいそこまで!」
毛一本生えていない綺麗な素肌の手がグレースとイアスの間に割って入る。
心電図の心拍を表している上下のような青緑のブレスレットが手首へと嵌めている主は、ネームドとイアスを迎えに来たリンだ。
「もう、グレースさん!うちの子を勝手に弄らないでくれるかな!」
「ごめんよぉ。どうしても気になっちゃって。」
「それはそうと、中身見させてくれないかな?」
「絶対ダメ!ほ〜らイアス。怖かったね〜」
〈ンナァ〜……〉
赤ん坊を抱えるように胸へと抱いたリンにしがみつくイアスを、物欲しそうにしているグレース。
───もしかしたらグレースは変態、という奴なのか?
朝から現在まで見ていたネームドであるが、ようやく気づいたらしい。
「帰ろネームド。それじゃあみんなバイバイ!また連絡お願いね。」
白祇重工の面々が見送り、Random Play社用車の扉の閉まる音に続き、
「お兄ちゃんのサポートしてて思ったけど、グレースさんって、変態メカニックだよね?」
交差点の信号で止まった数々の車のうちの一車両。その中で愚痴とは違った言葉がリンの口から出ている。
「なんか機械に対して見る目がなんというか……卑しい?なんて言うんだろ。」
青へと信号が変わり、アクセルペダルを踏み込めば体がシートへと少しばかりめり込む。
───なぜ英語を
先ほど聞いたグレースの言葉。ネームドの頭へと泥のように引っ付き、離れずにいる。
人間が話す、使う言語は幼少期からの周囲の環境や教育で身に付く第一言語というものがある。思考や感情の土台である基礎だ。。
第一言語の次が第二言語。勉強により身に付くものである。新エリー都は英語を公用語としていない。ネームドは第二言語が英語ではなく、英語が第一言語なのだ。
ここでネームドは自身の出自がまずどこなのかと疑問を抱いた。
考え始めた所へ、何かに邪魔されるように頭痛が起きた。眉間に深い皺が刻まれる。
───難しく考えすぎだな。
疲れているのだろう。そう思い腕を組めば目を閉じ、仮眠を取り始めた。
皆さん、最新ストーリーは見ましたよね。
自分はやっててわけわかめんいなりました。
誤字脱字、ありましたら報告してくれますと助かります。