彩葉とかぐやを2人きりで花火大会へと送りだした芦花と真実。
実は2人も会場には遊びに来ていて……その帰り道でのお話。
[芦花が自分の気持ちにケジメをつけて前を向く話]
※ろかまみ幼馴染概念ってあると思う。
カラ、コロ、カラ、コロ――。
屋台と花火を一通り楽しんだ芦花と真実は、下駄を鳴らしながら会場からの帰路についていた。
「それでさぁ~、結局二人きりにしちゃってよかったの~?」
真実は右手に持った様々な彩りの綿菓子――いわゆるゲーミングな色の綿飴だ。
それをマイクに見立てて、芦花へと質問する。
「えー、急になにー?」
芦花は真実に聞かれた意味を理解しながらも、わざと聞き返した。
「もぉ~、分かってるくせにぃ~」
二人は小学校時代から、かれこれ十年ほどの付き合いになる。
お互い親友だと認識しているし、今ではアイコンタクト一つで意志疎通が出来るほどの仲だ。
だからこそ、これくらいの会話なら主語を言わなくても伝わる。
はぐらかそうとした芦花に対して、真実は内心苦笑しながら芦花の顔を覗き込む。
芦花は親友には隠せないか、と諦めて正直に白状する事にした。
「良いの。二人には笑っていてほしいし」
これが芦花の本心だ。
芦花は自分の恋心を自覚していたが、彩葉とかぐやの関係性が急速に近付いていくのも気が付いていた。
だからこそ、彩葉たちを遊びに誘うつもりだった『あの日』。
二人の間に何かが起きた事を察してしまった芦花は、身を引く事にしたのだった。
「芦花はさ~。す~ぐそうやって強がるんだから。昔っからの悪い癖だよね~」
「強がってなんかないよ。ただ……彩葉の重荷になりたくないだけ」
いつも一生懸命で、頼られると断れなくて、負けず嫌いで、意地っ張りで。
そして……急にどこかへ消えてしまいそうな想い人の事を考えながら、芦花は親友に想いを吐露していく。
「前はいっぱいいっぱいで苦しそうだなーって、思ってさ」
「わふぁる~」
真実は割り箸にまとわりついた残りの綿飴と格闘しながらも、器用に同意する。
親友ならこんな状態でも、ちゃんと話を聞いていると理解している芦花は続けて喋る。
「だから助けたいって、ずっと思ってたんだけど。私じゃ……どうにも出来なくてさ」
お菓子を差し入れしたり、遊びに誘ったり、似合いそうな服をプレゼントしたり。
彩葉が背負った物に潰されないように、息抜きとかご飯とか、気分転換でも勉強会でも、芦花が出来る事を見付けてはとにかく色々と試してみていた。
こんなにも近い距離に居るのに、ずっと手を伸ばし続けているのに……それでも、実を結ばなかった。
どうしたら支えてあげられるのか……初めて彩葉を見た瞬間から、芦花の頭にはそればかりが埋め尽くしていた。
そんな時――。
「で~も~、かぐやちゃんが来てくれた!」
真実が食べていた綿飴からは、中身の全体像が現れていた。
その元綿飴となった割り箸を、指先だけで行儀悪く遊ぶ真実は、芦花の言葉に割り込んだ。
「うん……」
芦花は初めてかぐやに会った日の事を振り返りながら、相槌を打つ。
カフェで二人の関係性を聞いた時、かぐやは彩葉の親戚だと言っていた。
彩葉の事を疑っている訳ではないが、やりとりをした時の反応は、芦花じゃなくとも何かを隠していると分かるほどの慌て方だった。
少なくとも、彩葉とプライベートな事を話すようになった頃に「お母さんと喧嘩しちゃって、家飛び出してきたんだよね」と言っていた事を、芦花は記憶している。
芦花からすると彩葉の経済状況は苦しそうに見えていたので、少しでも力になれればと思って奢ろうとすると「一応仕送りは貰ってるから~」なんて断られていた。
だが彩葉の性格上、本当に仕送りなんて受け取るのだろうか。
もしも本当にあったとしても、頑固な彼女なら使わないのではないか……芦花の目にはそう映っていた。
だから彩葉には頼れる親戚や、頼られるような親戚なんていないと思っていたのだ。
そんな中で、唐突に現れたかぐやの存在。
「かぐやちゃんのおかげでさ。彩葉が沢山笑うようになって、前より元気になって、嬉しいのは……本当だよ」
彩葉は変わらず、勉強とバイト漬けの日々だ。
むしろかぐやのプロデュースが増えた分、以前よりも負担は増えている。
それなのに芦花から見ると最近の彩葉からは、まるで憑き物が落ちたかのように笑っている顔ばかりの印象だった。
だからこそ思ってしまったのだ。
「でも、私が『それ』を……出来なかったのが悔しかったんだ」
――嫉妬だった。
もっと踏み込んでいれば、もっと押し付けていれば、違ったのかな。
芦花はありもしない『if』を、何度も考えてしまう事が恥ずかしかった。
「ぜ~んぶ喋っちゃえばいいのに」
真実としても、親友が苦しんでいるのは悲しい。
それに芦花から想いを伝えられたからといって、彩葉が拒絶するような性格ではないという事は分かっている。
「言えないよ……こんな話、重いでしょ……」
芦花の目から涙がこぼれそうになっていた。
彩葉に嫌われたくない、かぐやに嫉妬している醜い自分を見せたくない。
この一年間、必死に保ってきた今の距離感を崩したくなくて堪えていた。
「そうかな~?」
彩葉なら受け止めてくれるだろうし、気楽に告白しちゃえばいいのに。
真実はそう思ったが、芦花の性格的に言えないのも理解していた。
これまでも何度か背中は押してきているのに……それでこの現状なのだから、真実はも~しょうがないか~と呆れ始めていた。
「そうだよ……」
真実の言葉に対して、静かに頷く芦花。
少し伏目になった目からは、今にも雫が伝いそうになっていた。
芦花がどうあっても彩葉に気持ちを伝えないつもりだと理解した真実は、左袖からハンカチを取り出す。
線香花火が刺繍されたハンカチで、芦花の落ち始めた想いを拭った。
「ま~そうかもね、うん」
芦花の覚悟を受け取った真実は、今から親友の為に諦めさせる言葉を紡ぐ事にした。
どれだけ苦しくても、悲しくても、芦花の心を優しく折ってあげるのは自分の役目だと決めた。
「彩葉に合うのは~、抱えてる物ぜ~んぶ、ドーン!って打ち上げてくれるような人の方が合ってるのかもねぇ~」
これはつまり、かぐやの事だ。
直接かぐやが、なんて言わなくても芦花には分かる。
けれど、わざと口に出す事によって「芦花は違う、だから断ち切った方がいいよ」と伝えたのだ。
真実は自分がこんなお節介をしなくとも、頭の良い親友なら一人で気持ちを整理して、前を向けると思っている。
それでも真実は今、お節介をしたくなったのだ。
そして……芦花はようやく、真実と目を合わせた。
親友の顔を見た瞬間――言いたい事が理解出来てしまった芦花は、その想いに感謝して受け取る。
「うん。私も、そう思ったんだよねー!」
潤んだ目でそう言って笑った親友の言葉に、真実もつられて笑う。
昔から泣き虫だった親友はもう大丈夫だろう、安心した真実は左手に持った二つ目のゲーミング綿飴を食べ始めた。
その日、芦花の心に咲いていた小さな牡丹が、ぽとり……と落ちる音がした。
「でもさぁ~、芦花なら彩葉の荷物も一緒に持てると思うけどなぁ~」
「そんな器用な事出来たらさー、こんな苦労なんてしてませんからー」
「それもそうだ~!」