なにってただ転移魔法で一定距離保ちつつ狙撃してるだけだが?   作:ソゲキ

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 日給22万。結構すごい数字ではある。

 けど、死ぬ気になって思い出したのは俺が探索者になりたいと思った理由。

 

 子供のころ、テレビで見た最強の探索者が戦う姿に憧れたからだ。

 

 ただの探索者なんて目標にする気はない。

 俺が目指すのは探索者の最高峰『Sランク探索者』。

 

 だから今日もBランクダンジョンにやって来た。

 Bランクの魔獣は倒せることは昨日で証明できたが、試しておきたいことがある。

 

 今回のダンジョン『甲纏(こうとん)の砂浜』は海岸の地形を持つBランクダンジョンだ。

 昨日のダンジョンと違って、出てくる魔獣は結構種類に幅がある。

 

 蟹やら貝やら亀とかだな。

 俺の銃が、硬い魔獣に対してどれくらい通用するかも知っておきたい。

 

「さて、魔獣の姿は……見つけた」

 

 昨日の夜ネットで調べた。

 ここに出る魔獣の中でも特に堅いBランク魔獣。

 それは『千石亀(センゴク・タートル)』と呼ばれる種で、全身が硬い甲羅に護られている。

 

 名前の由来はその巨大さだ。

 大型バスに近い体積を持つそれは、体重だけで簡単に人を殺せる。

 

「さて、始めるか……」

 

 距離200m。俺は千石亀(センゴク・タートル)に向けてスナイパーライフルを構える。

 

 発砲開始。

 っつっても亀ってのは昔話でもそうであるようにノロマな生き物だ。

 俺に辿り着くにはゴブリン以上の時間がかかる。

 

 火薬の破裂音が連続するが、甲羅に弾かれた弾はまるで効いている気がしない。

 頭や手足の方は、図鑑の角で殴ったくらいの効き目はありそうだが……

 

 さて、今日は何発消費することになるのやら……

 

 そう思いながら引き金を引いていると、千石亀(センゴク・タートル)が頭と手足を甲羅に埋めた。

 ただ、亀の甲羅ってヤツには手足と頭を出すための穴が空いてる。

 そこを狙えば防御力は多少貫通できるはずだ。

 

 穴を狙って弾丸を撃ち込んでいく。

 

 俺の射撃精度なんてサバゲーマーに毛が生えた程度だが、それでもこの距離なら大きなズレにはならない。

 

 そう思ったら、亀の全身が揺れ始め腹で地面を打った反動で跳躍した。

 

「マジか……そんな移動法あんのかよ……」

 

 だが、跳躍距離は精々50m程度。

 俺の到達するには4度の跳躍が必要になる。

 だが、1度の跳躍にかかる時間は約6秒。

 俺の転移の再使用時間5秒に対して、あまりに遅すぎる。

 

「テレポート」

 

 詰められた分距離を取り直し、ライフルの発砲を続ける。

 俺と同じ学校に通っていた奴らなら、真白なら……漫画の登場人物のような必殺技で魔獣を仕留めるのだろう。

 

 だが、それは俺の道じゃないと理解している。

 そこに羨ましいなんて気持ちはこれっぽっちもない。

 俺には俺の才能があり、俺には俺の目標がある。

 

 Sランクになる。

 それに、恰好のいい戦い方なんて必要ない。

 

 重要なのは結果。どれほど時間を掛けようが、どれほど地味だろうが、どれだけ卑怯だろうが……そんなことはどうでもいい。

 

 俺にとって重要なのは……

 

「グゥ……」

 

 所要時間30分。300発以上の弾丸を飲み込んで、千石亀(センゴク・タートル)は倒れた。

 

 これでいい。

 

 

 ――俺にとって重要なのは、『勝利』という結果だけなんだから。

 

 

「硬くてもまったくノーダメージってわけじゃないってことがわかっただけで収穫だな。つっても金銭効率は流石に悪いから、もうここに来ることはなさそうだな」

 

 俺は一人そう呟きながら千石亀(センゴク・タートル)の魔石を回収する。

 たしか売却金額は6万くらいだったはずだ。

 使った弾数を考えるとプラマイゼロだな。まぁ、赤字じゃなかっただけよかったとするか。

 

「帰るか……」

 

 もうここに用事はないから、なんて思った瞬間だった――

 

「逃げろ!」

 

 後ろからそんな声が聞こえて、俺は振り返った。

 どっかで聞き覚えのある声だ。

 

 そこにいたのは偉丈夫な男。

 それ以外にも、その男の仲間と思われる探索者が3人(・・)

 つーかアレって……

 

「君はたしか昨日の……」

「あ、真白と同じパーティーの人でしたよね?」

「あぁそうだ。君も早く逃げた方がいい」

「なんかあったんですか?」

「ランク揺れだよ。Aランクの魔獣が現れた」

 

 ダンジョンというのは極めて狭い空間にも拘らず魔力によって無理矢理整えられた環境だ。

 通常の自然ではなく、魔力による疑似的な自然だから、たまにバグが出る。

 

 通常では現れないような魔獣が出現したりとか。

 その現象を探索者は『ランク揺れ』なんて呼んだりする。

 

「そうなんですか。まぁそれはいいんですけど、真白は?」

 

 彼を含めてもこの場には4人しかいない。

 昨日は真白を入れて5人組だったのに。

 

 真白の姿が見えない……

 

「そ、それは……」

 

 気まずそうに彼は下を向く。

 

「もしかして囮にでもしました?」

「ち、違っ……彼女が自ら提案したんだ。自分が時間を稼ぐと……」

「そっすか。まぁけど、それを許可して逃げ出してる時点で俺はあんたに嫌悪以外の感情は持てないな」

「仕方ないだろ。怪我人もいるんだ……」

 

 たしかに、彼が連れている3人のうち一人は腕が一本ないし、もう一人は足を引き摺っていて、別の仲間に肩を借りている状態だ。

 

 ギリギリだったんだろう。

 真白ってヤツは学校でも優秀なヤツで、いつだって誰かの先頭を行ってるヤツだった。

 昨日はこんな俺のことを心配までしてくれた、良い奴だ。

 

「まぁいいや。どうぞ、早く逃げれば?」

 

 そう言い残し俺が彼らが来た方向へ向かおうとすると、俺の肩が掴まれる。

 

「ま、待て、君が行ったところでなにも……それにこんな場所に銃なんか持ち込んでなんのつもり……」

「邪魔。テレポート」

 

 俺の転移は俺以外を転移させない。

 強制的に手を解き、俺は彼らが来た方向に進んでいく。

 さすがに彼らが俺を追いかけてくることはなかった。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 私は別に、自分だけは特別だなんて勘違いをしていたわけじゃない。

 

 誰だって死ぬときは死ぬ。人間だもの。生物だもの。当然のことだ。

 

 人生なんて結局死ぬまでの蛇足でしかなくて、重要なのは自分の行いに後悔のない生き方をすることだ。

 

 でも、だからこそ大切にしてきたつもりだ。他人(ひと)の人生も自分自身の人生も……

 

 私は私の生き方に後悔はない。思ったことを口にして、思ったままに行動してきた。時間稼ぎをしないと全滅すると悟ったからそう提案した。

 速度に秀でる私が一番それに適していた。

 

 やりたいことはやった。その結果死ぬのなら仕方ないことだ。

 

 

 そのはずなのに……

 

 

「なんで、こんなに涙が溢れてくるんだろうね」

 

 

 歪む視界の中、それは私を見下ろしている。

 Aランク魔獣『クラーケン』。

 海から現れたそれは、砂浜を粉砕しながら私に迫ってくる。

 

 仲間を逃がして数分くらいかな? 出来る限り回避したけど、結局無数の触手の一本に弾き飛ばされて体がもう動かない。

 

 叩き潰されるのか。食われるのか。それとも別の死に方だろうか。

 

 私の想像力がこれからくる恐怖を増長させる。

 

 怖い……

 足、動いてよ、立ってよ、お願いだから……いやだ……

 

 

「いや……やだよ……まだ死にたくないよぉ……誰か助けてよぉ……」

 

 

 ――パン!

 

 と、乾いた音が響く。それがなんの音なのかはわからなかったけど、私に迫って来ていたクラーケンの動きが一瞬止まる。

 そして、クラーケンが進行方向を変えた。

 

「え?」

 

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