放課後、帰る準備をしていたら、みさとがうちの机に上半身を預けて上目遣いでこちらを見上げる。
「ねえ、あやかー。今日帰りどっか行かない?」
「ええ、だる。今日めっちゃ暑いよ?すぐ家帰りたい。
冷房ガンガンの部屋でアイス食べたい」
「ええー!じゃあ、コンビニでアイス買って帰るのは?それだったら良くない?」
「いや、家来るつもり?うちの部屋、今めっちゃ汚いよ?」
「別に汚くていいし。一緒に過ごしたいー」
「あ! 一緒にアイス食べながら勉強しよ? ね?良いでしょ?
前、わかんないとこあるって言ってたじゃん!一緒にやったらわかるかもよー?」
「教えてくれるわけじゃないんだ」
「あたしのテストの点数忘れたのー?教えるとかむりむり」
「だとしたら、一緒にやってもわかんないでしょ。ばかしかいないんだったらさ」
「でもさー、楽しくない?勉強会」
「はあ。なんで今日そんなにしつこいの」
「絶対今日は一緒に帰りたいのー」
「なにそれ。
はあ、まあいいよ。アイス、買いに行こ」
外に出れば、蝉の声が大きくなった気がする。じわじわと暑さが体を焼いて、汗が出る。体から水分がなくなって、ひとまわり萎んでしまったような感覚。
横にいるみさとは、暑さを感じてないみたいに涼しげな顔で跳ねるように歩く。
こいつ、なんで話しかけてきたんだろ。最近まで、井上先輩にべったりだったのに。
暑いのに、腕を組んでるのを見かけた。うちは、汗で腕ベタベタなのに。みさとの腕はサラサラなのかな。
もっちりと弾力のある肌。女の子らしい曲線が目を奪う。
いいな。井上先輩。こんな子に張りつかれて。なんで、うちはダメだったの。うちじゃダメだったの?
バレないようにずっと、みさとを目で追うのをやめられない。
早く、コンビニに着け。見ちゃだめだ。
道の先。みさと。道の先。まだ、コンビニは遠い。
「蝉の声、やばー。あたまくらくらするー」
あ、目が合った。
「ねー、走る?」
「は?」
「……いや、むり。絶対むり」
「えー、だって暑いじゃん」
「馬鹿なの?なんでそうなるわけ?」
「早くコンビニ行きたいもん」
うちの返事も待たずに駆けていくみさとを思い足を引きずって走る。
みさとの後ろ、甘い匂い。
みさとが好きって言ってた匂いがする。
うちもこの香り、好き。
「ほらー、やっぱり走った方がよかったー」
いつのまにか、コンビニについていた。走ってる間の記憶がない。あるのは、甘い香りだけ。みさとの匂い。
みさとが、コンビニに入っていくのを見る。うちは、まだどくどくとうるさくなる胸を抑えたまま、動けない。
「何食べんの?」
「んー?あたしはークッキーアンドチョコ!」
「じゃあうち、バニラ」
「えー、つまんない」
「あんたもつまんないけど」
「この緑のやつとか買えばー?」
「いやだよ。なんでわざわざ冒険しなきゃいけないの」
「てか、自分で買えよ」
「えー?だって不味そうだし」
「じゃあ、買わせようとすんな!」
「あはは、こわー」
コンビニの袋をぶらぶらと振りながら、歩くみさと。少し巻きの崩れた髪が、生ぬるい風に揺れる。
「うちも。髪、伸ばそうかな」
「ボブも可愛いのにー」
「でも、色々ヘアアレンジできるの良くない?」
「確かにー。でも、夏とか暑いしー」
「じゃあ、みさとは切れば」
「えー、せっかく伸ばしたのに。勿体無いじゃん」
「それにー。……似合ってるでしょ?」
みさとが流し目でこちらを見る。汗が首筋を垂れた。
「……うん。似合ってる」
◇◇◇◇◇◇
「みさとさー、なんでうちにきたの」
「えー?なんでって。アイス食べたいし」
「じゃなくて。うちが前言ったこと、忘れたの」
「んー、まえー?」
「もっかい言ってあげよっか?」
「んー」
「ねえ、聞いてる?何してんの?」
「鍵閉めてるー」
鍵を閉めた音がやけに大きく響く。
みさとは、鍵を閉めて肩が触れるほど近くに座る。
「.……はあ?」
「邪魔、されたらやだし」
「なんの邪魔?」
「これからやること」
「さっきから言ってる意味わかんないんだけど。ちゃんとはっきり言葉にしてくんない?」
「だからー、邪魔されたら困ること、やるって」
「あたしもあやかとおんなじ気持ちだしー。
なら、やることは一つじゃない?」
「……なにそれ。うちのこと、避けてたくせに」
「避けてないけどー」
「井上先輩と腕組んでたじゃん」
「えー?気のせいじゃないー?
てか、見てたんだー。あれ」
「うちのこと、馬鹿にしてんでしょ」
「してないけど」
「……うちは言ったのに。みさとはなんも言ってくれないの」
「んー?あー」
みさとの目がチラリと外される。
「……好きだよー。あやかちゃん」
手を握られる。みさとの手、暑い。
あー、熱で、頭がクラクラする。
くーらー、つけ忘れたかな。