ヒャッコクシティの街並みへ戻ってきたミソラを待っていたのは、見慣れた青いパーカーの背中だった。
「――おっ、ミソラ。こっちだ!」
声をかけてきたのはカルムだった。ボール工場や16番道路での激闘を経て、お互いに切磋琢磨してきたライバルである。カルムはミソラの顔を見るなり、フッと不敵な笑みを浮かべてバトルゾーンへと手招きした。
「おい、ミソラ。ヒャッコクジムをクリアしたってことは、いよいよお互い最後の手前だな。どうだ、ここで今の実力を試すために、俺と一戦交えようか!」
「ふふ、いいわよ! カルムにだって、もう負けないんだから!」
ミソラが気合十分で相棒のモンスターボールに手を伸ばした、その瞬間だった。
街の中心にそびえ立つ巨大な日時計や、広場のあちこちに設置されているホロキャスターのスクリーンが、一斉にバグったように激しく明滅を始めた。
「ん……? なんだこれ?」
カルムが怪訝そうに空を見上げる。
ブォォォン……! と不気味なノイズ音と共に、すべての画面に一人の男の姿が大きく映し出された。
燃え盛る炎のような真紅の髪を逆立て、威風堂々とした体躯に豪奢なコートを纏った男――フレア団のボス、フラダリだった。
『世界中の人々よ、よく聞きなさい。そして、絶望しなさい』
重々しく、しかし狂気を秘めたフラダリの声が、ヒャッコクシティ全体に響き渡る。
彼はカロス地方の美しさを保つため、争いの元凶である愚かな人間たちを根絶やしにし、選ばれた者だけで世界を再構築するという、あまりにも身勝手で恐ろしい「最終兵器の起動」を高らかに宣言したのだ。
『これより、我らが計画の仕上げを行う。世界は、浄化の炎に包まれるのだ……!』
画面の中で、フラダリが冷徹な瞳を光らせながら宣戦布告を締めくくる。
パッ、とスクリーンが元の風景に戻り、静寂が訪れた。しかし、その場の空気は一瞬にして凍りつき、道行く人々からは悲鳴と動揺の声が上がっていた。
「なっ……なんだあいつは……!」
カルムは愕然とした表情でスクリーンを見上げていたが、次の瞬間、その顔に深い怒りの色が浮かび上がった。拳をギリッと握りしめ、まるでゴミを見るような目で画面を睨みつけながら、吐き捨てるように怒声をあげる。
「ふざけやがって……! あのカエンジシ野郎がっ!!」
「えっ……カエンジシ野郎?」
ミソラが思わず目を丸くして聞き返すと、カルムは苛立たしそうに説明した。
「いや、見ただろあの髪型! まるで百獣の王のたてがみみたいに逆立った、あの野暮ったい赤毛の野郎だよ! 人の迷惑も考えずに、勝手に世界がどうこうって……あんなカエンジシみたいな見た目の自分勝手な野郎に、この世界をめちゃくちゃにされてたまるかよ!!」
カルムのあまりの直球すぎる例えと、怒りに満ちた剣幕に、ミソラは思わずクスリと笑いそうになりつつも、すぐに表情を引き締めた。
確かに、フラダリのあの特徴的な髪型は、怒ったカエンジシにそっくりだ。そして、そんなふざけた理由で世界を滅ぼそうとする連動を、これ以上野放しにしておくわけにはいかない。
「カルムの言う通りよ。あんなカエンジシ野郎の勝手な妄想になんて、このカロスを絶対に渡さないわ!」
ミソラはブラッキーやルカリオたちのボールを強く握りしめた。
カルムとのポケモン勝負は一時お預けだ。バッジを7つ集めたトレーナーとして、そしてこの世界に生きる大家族の頭領として、ミソラはフレア団の野望を粉砕するため、最終決戦へ向けて歩み出すのだった。