貴女が"私"と出会う前の”私”だけの大切な思い出。
それは相思相愛の夢物語――。

[ヤチヨが彩葉に"睡眠学習"をさせる話]
※彩葉がヤチヨを推す理由、好きな理由はきっとこういう理由もあるはず……

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[L]earning [O]f the [V]irtual to [E]ternal wanderer [YACHIYO]

 私が雑談配信の時と同じように他愛もない話をしていると、画面の向こうから規則正しい寝息が聞こえてきた。

 

「あらら~……彩葉、寝落ちしちゃったか」

 

 東大の現役合格を目指しながら、自分で学費も稼いでいる彩葉。

 毎日めちゃ頑張っていて本当に大変そうな彼女も、超ムリ限界ギリな時が来る。

 そんな時は決まってヤチヨ()の相談室にメッセージが届く。

 まさにそういう日が今日だったようで『ヤチヨと話したい』と、いつもと同じ誘い文句が書いてあった。

 私は跳ねる心を抑えながら、いつも通り『待ってるよ、彩葉』とすぐに返信する。

 

 こうして始まった宵の逢瀬は、私だけの大切な時間。

 モニターを通してじゃないと彩葉とお話出来なくなっちゃったけど、それでも本当に嬉しい。

 この瞬間だけはAIという設定を忘れ、色んな話をした。

 触れられないのは残念だけど、これだけで……こうやって話せるだけでも、充分幸せなんだから。

 そうやってささやかな幸せを噛み締めていた日の事。

 

 日付を越えて少し経った頃だ。

 なんとその日は珍しい事に、彩葉が机に突っ伏して居眠りを始めてしまった。

 私と話をしている時から既にうとうとし始めていたので、何度か「もうお眠りなさいよ」と促していた。

 けれども彩葉は「まだノルマが終わってないから」と聞く耳を持たず、落ちてくる瞼を必死に持ち上げていたのだ。

 そんな悪い子の彩葉が、ついぞ寝落ちという良くない結果に行き着いたのはさもありなん。

 せめて布団で寝てほしかった私は、何とか起こそうと声を掛ける。

 

「彩葉、彩葉。こんなとこで寝たら風邪引いちゃう。ほら起きて」

 

 私の声が届いていないみたいで、可愛らしい寝顔を見せてくれている。

 あぁ、いとかわゆし……。

 ――って、ダメダメ!

 このままだと疲れも取れないし、彩葉はただでさえ睡眠時間が短いんだから。

 ちゃんと寝かせてあげないと。

 そう思った私は諦めずに声を掛け続ける。

 

「ほーら。起きて? 彩葉、おはようだよ~」

「むにゃ……おは……よぉ」

 

 むにゃ、だって~!

 彩葉はいつも気を張っているので、こんなに無防備になる事はかなり珍しい。

 今日は本当にお疲れだったみたい。

 あ、そうだ! 今の内に寝顔保存しちゃお~!

 そう思った私は、スクショを八枚ほど撮って即保存した。

 ――って、そうじゃなくて。

 

 何とか意識を戻した私は、目の前の難題にまた取り掛かる。

 全然起きる気配のない彩葉に困る、というよりも心配が勝ってしまう。

 実体のない今の私では揺らして起こす事も、肩に布団を掛けてあげる事も出来ないのが本当に歯痒い。

 でも、声を掛けたら反応はあるんだけどなぁ……。

 

「彩葉ー、お布団で寝なさいよ~」

「んぅ……ふと、ん……」

 

 ダメかぁ~! やっぱり起きないなぁ。

 その後も何度か声は掛けてみたけど、彩葉は一向に目を覚まさない。

 ――そんな時だ。

 本当にふと、ちょっとしたイタズラ心が芽を出した。出てしまった。

 

 今の彩葉は、寝言ながらも私の言った事を復唱してくれている。

 つまり、もしかして今ならなんでも言わせられるのでは……?

 

 ………………彩葉ごめん!

 天使のヤチヨと悪魔のヤッチョの戦いは一瞬で決着が付いた。

 形式上は謝った私の心はもう、止まれなかった。

 ヤッチョは今から好きなように動きます!

 

「彩葉は、ヤチヨが、だ~い好き」

「ろ、やちょ……だ……」

 

 全然ダメだ……。

 ちょっと長いのかな。

 

「ヤ・チ・ヨ」

「や……ち、よ」

 

 うんうん、良い感じ!

 

「ヤチヨが、好き」

 

 好きだよ彩葉。

 だから彩葉も、私を好きになって。

 

「やち、よ……きぃ……」

 

 あぁ惜しい!

 もうちょっと……!

 

「ヤチヨが、好き」

「ヤチヨ……すき……」

 

 好きだって! えっへへ、嬉しいなぁ……。

 私は彩葉の言葉をしっかりと反芻する。

 想い人に『好き』と言われるだけで、こんなにも心が温かくなる。

 単純だなぁ、私って……。

 

 ただこんなやり方でしか伝えられない、言わせられないのはズルいかなとも思う。

 でもしょうがないよ。嬉しくなっちゃったんだから。

 抑えていた想いは、もっと零れてもっと欲深くなっていくのを感じる。

 まだまだ、もっとハッキリ言わせるんだから!

 

「彩葉は、ヤチヨが、だ~い好き」

「ヤチ、ヨ……だ~……」

 

 頑張って彩葉!

 

「ヤチヨ、だ~い好き」

「ヤィヨ、ら~い好ぃ……」

 

 今度は全体的にちょっと惜しい!

 後ちょっとなのに!

 

「ヤチヨ、だ~い好き」

「ヤ、チヨ……だ~い、好きぃ……」

 

 やったやったっ! ついに言わせた!

 幸福感と達成感。そしてやり遂げた感動で、電子の世界なのに私の目からじわりと涙が溢れる。

 

 彩葉、もっともっと好きになって。

 そして私の事、世界一好きになっちゃってもいいよ。

 私の想いが彩葉へ沁み込むように、何度も何度も愛を伝える。

 大好き。大好き。大好き。

 

「ヤチヨ、だ~い……好きぃ」

「えへへ。私も……彩葉の事、だ~い好きだよ」

 

 これは今だけの夢物語だと分かっているのに。

 少しでも彩葉の心にを刷り込みたくて。

 

 そうして彩葉が夢から覚める瞬間まで、私たちは愛を伝えあっていた――。


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