「マインンンンン!」
槍の勇者は、ラフタリアに魔力剣で貫かれたビッチの名を叫んでおり、視線がビッチに釘付けになっている。
今の内に逃げてもいいが、変身を禁止する輪っかがフィーロに着いている以上フィーロはフィロリアル・クイーンには変化できない。そうなると機動力が下がった俺たちでは、三勇者達に追いつかれる可能性が高い。
ラフタリアがビッチに剣を突き刺したことと尚文の憤怒の盾の反撃で勇者の仲間たちは動けない。
敵の戦力はリーダー格のビッチがやられ、勇者の次に強い勇者の仲間たちの複数人が行動不能になっているが、切り札の三勇者はまだ全員が戦える状態だ。最低でも1人は穴を開けないと逃げ切れない。
となると、狙うのは槍の勇者だ。今はビッチに視線が行ってるから俺とフィーロのことが頭から抜けてるはずだ。
槍の勇者を倒すにしても、連続攻撃か一撃の大技のどっちを使う?連続攻撃か一撃が強い技か?
連続攻撃を使えば、おそらく攻撃の途中で対処される。
なら、大火力の一撃で決めるしかない!
今しかない。
勝負は今!ここで決める!
俺は尚文が憤怒の盾を使用している時にしか発動できないスキルを使うために、槍の勇者の元に限界まで近づいた。
「バーニング」
俺がスキルの名前を言い始めると、剣から炎が出始める。それと同時に、槍の勇者と仲間達が一斉に俺を見た。
槍の勇者は槍を引いた。おそらく迎撃するつもりだろう。他の人たちは迎撃は間に合わないと判断し、防御の構えを取った。
「なっ…乱れ」
「アル・ファスト・レジストファイア!」
槍の勇者は決闘の時に使用した乱れ突きを発動しようとしている。でも、乱れ突きが発動よりも俺のバーニングソードの方が早く発動できる。
そして、槍の勇者の仲間の1人が咄嗟に火属性耐性を強化する魔法を仲間全員に掛けた。
でも、もう遅い!
「ソード!」
俺が剣を振りかぶると、振りかぶった場所が紅く染まる。
次の瞬間、地面から大きな火柱が上がった。
「ぐわぁあああ!」
「「きゃあああああ!」」
よし、槍の勇者と仲間達を巻き込めた。
「フィーロ今のうちに逃げるよ!」
「うん!」
俺はバーニングソードの反動でSPが尽きたホムラ形態から機動力が高いヒカリ形態に切り替えた。
「元康!」
「元康さん!」
いつの間にか、ラフタリアと対時している剣の勇者と尚文と対時している弓の勇者が火柱に飲み込まれている槍の勇者の名を叫んだ。
ラフタリアはビッチを小脇に抱えている。
もしかして、魔力剣で人を斬ると失神させることができるのか?
俺がそんなことを考えていると、剣の勇者と対時しているラフタリアのすぐ横を弓矢が通り過ぎた。
「誰だ!今のは…」
剣の勇者は弓矢が飛んできた方向を見た。
俺も剣の勇者と同じ方向を見ると、大勢の兵士がやってきた。
三勇者の後ろにいた兵士たちよりもかなり数が多いぞ。
間違いなく、ビッチが呼んだ増援だな。
「マルティ王女がやられている!?」
「それだけじゃない!マルティ王女が人質にされているぞ!?」
「メルティ王女も盾の悪魔の元にいるぞ!」
「急いで助けなければ!」
大勢の兵士はラフタリアと尚文の元に向けて走り出す。
まずい!尚文は憤怒の盾で反撃できるけど、ラフタリアはあの数の兵士を捌くことはできない。
ラフタリアが尚文の元に行けば憤怒の盾の反撃で兵士たちを纏めて吹き飛ばせる。ひとまず、ラフタリアを尚文の元に行けるまで時間を稼がないと。
「フィーロ!ラフタリアの元に向かってくる兵士を倒すよ」
「うん!」
俺とフィーロは兵士達の前に立ち、道を塞ぐ。
「盾の悪魔の一味だ!討ち滅ぼせ!」
「「「うおー!」」」
兵士たちは雄叫びを上げながら俺とフィーロに突撃してきた。
「レインボーダスト!ライトニングバスター!」
「とりゃー!」
俺とフィーロは突撃してきた兵士たちを攻撃して後ろの兵士達の動きを妨害する。
大勢の敵が一直線に突っ込んできて、最前列の兵士が後ろに吹っ飛ばされたら後ろの兵士たちは吹っ飛んできた兵士たちを受け止めなければならない。そうなると、数秒程度とはいえ時間は稼げる。
俺はスキルを使用した後は、強化攻撃で兵士を片っ端から攻撃する。
ただ、高レベルの兵士も紛れており、ヒカリ形態の強化攻撃にも耐える奴が現れたが、スキルと強化攻撃のゴリ押しでぶっ飛ばした。
そのまま、俺とフィーロは向かってくる兵士達を薙ぎ倒していく。
「ホムラ!フィーロ!こっちに来い!」
俺が尚文の声を聞き、尚文の方を見るとラフタリアは尚文と合流していた。
あれ?ラフタリアがビッチを小脇に抱えていたはずなのにビッチがいない?
俺はビッチを見つけるために周囲をみると、剣の勇者がビッチを抱えていた。
俺とフィーロはアイコンタクトをして、兵士を無視して尚文の元に向けて走る。
「させるか!流星剣!」
「流星弓!」
俺とフィーロに向けて剣の勇者と弓の勇者が攻撃スキルを放ってきた。
「やらせるか!エアストシールド!セカンドシールド!」
尚文の浮遊する盾が剣の勇者と弓の勇者の攻撃を止めた。
ただ、完璧に止めることはできなかったようで、浮遊する盾は砕けてしまった。
だけど、数秒程攻撃スキルが止まったので迎撃することはできる!
「はぁ!」
「てやー!」
俺とフィーロは剣と弓の勇者の攻撃を弾いた。
「何!?」
「弾かれた!?」
2人は弾かれたことに驚いている。
その隙に俺とフィーロは尚文と合流した。
「メルティ王女を救えー!」
「盾の悪魔とその一味に死の鉄槌をー!」
兵士たちはそういいながら、俺たち目掛けて走ってくる。
道中にいる剣と弓の勇者を突き飛ばしてまで。
「尚文を攻撃してはダメだ!」
剣の勇者が兵士たちに止まるように言うが兵士たちは剣の勇者の指示を聞かずに尚文に突っ込んで来た。そして、兵士が剣を振り下ろし尚文の盾に当てた瞬間。
尚文の盾のアクセサリーが砕け、信じられないほどの広範囲に憤怒の盾の反撃の炎が広がった。
「「「ぐわぁあああ!」」
「「「うわぁあああ!」」」
「「「ぎゃぁああああ!」」」
剣の勇者と弓の勇者と大勢の兵士たちが憤怒の盾のカウンター攻撃で吹き飛ばされた。
見ると、憤怒の盾の反撃を喰らった者はみんな立ち上がれずにいる。
その時、尚文の足元に何かが転がってきた。
尚文は咄嗟に盾を構えるが、何かからプシューという音がしながら煙が出てきた。
誰の仕業だ?俺は周囲を見ると、色んなところから煙が出てきていた。
煙はすごいスピードで広がり、すぐに周りが見えなくなってきた。
「こっちでごじゃる」
ごじゃる?
「この声は!盾の勇者様。声のした方に向かって!」
「大丈夫なのか?」
「たぶん大丈夫。念の為にラフタリアさんは幻影の魔法を使って!」
「わ、わかりました」
ラフタリアはメルティの指示に従って魔法の詠唱に入った。
「待て、尚文!」
俺たちが走り出す前に剣の勇者が尚文に話しかけた。
「練!この事件の裏になにがあるのか。お前なら犯人が分かるはずだ」
尚文はそう言い、三勇教のシンボルを剣の勇者に投げた。
そのまま走り続けると、煙が晴れた場所に出た。
「念の為にそこに置いてあるローブを羽織るでごじゃる」
ご丁寧に岩の上には5人分のローブがある。
「みんなこのローブを羽織ったら私に着いてきて」
メルティはそう言うと、走り出した。
俺たちも急いでローブを羽織り、メルティに着いて行く。
走り続けること数分。俺は何度か後ろを裏返ったが、三勇者は追って来なかった。
こうして、俺たちは三勇者から逃げおおせることができた。
「ここまで来れば安心でごじゃる」
そう言いながら、俺たちを助けてくれた謎の人物は近くの木の後ろから姿を見せた。
「!?…お前は」
尚文は謎の助けてくれは人を見て驚きの声を出した。
俺も尚文と同じように驚いている。
そう、俺たちを助けてくれた謎の人物は、隣国の格好をした人なのだ。
まさか隣国の人が俺たちを助けてくれたのか?……いや、ありえない。
俺たちを山の中まで追いかけて、俺たちが三勇者と国の兵士たちとの戦いの中で俺たちが逃げれそうなタイミングでアシストするために煙玉を投げたってのか?
「盾の勇者様。あの人は影よ」
「影?」
「影っていうのは、メルロマルクの秘密警護部隊のことよ」
秘密警護部隊。俺たちの世界でいうと、国の重要な人物を警護するSPみたいなものか。違いがあるとすれば、表舞台にはほとんど出て来ないとか。
「メルティ様のおっしゃられた通り、拙者は秘密警護部隊『影』の一員でごじゃる。個人名はないので影と呼んで欲しいでごじゃる」
影はそう言ってから、隣国の人から姿を変え黒装束の衣装になった。
一瞬で服装が変わったぞ!?なんかの魔法か!?
てか、この服装の人どこかで見たことがあるぞ。
ええっと………そうだ!確か槍の勇者と尚文がレースの件で何度か見たな。ビッチの不正を証拠として押さえておきますと言ってた人たちの衣装だ。
「影。いくつか聞くがいいか?」
「良いでごじゃる。ただ、答えられないことも多いので聞かれたこと全てに答えられる訳ではなのでそのところを了承して欲しいでごじゃる」
「わかった。まず最初の質問だ。どうして助けてくれたんだ?」
「答えられないでごじゃる」
「秘密主義ってやつか」
「あえて言うとしたら、拙者の仕事はメルティ様の護衛でごじゃる」
「全然できてねぇぞ」
尚文が即答した。
まあ、尚文が言うことも最もだ。メルティの護衛が仕事なのに三勇教会の騎士がメルティを襲った時にメルティを助けなかったし。
「盾の勇者殿なら守れると確信していたので、出なかったでごじゃる」
尚文へ丸投げかよ。
「先程の戦いは少々危なかったでごじゃるが、結果的に他の勇者の方々に今回の事件への疑問を持たせることができたでごじゃる」
「それと、逃亡に役立つ道具を用意したでごじゃる」
影はそういいながらバッグを尚文に渡した。尚文は中身を確認する。俺も覗くとバッグの中身は消耗品や品質の良い薬類だ。
「…一応例を言っておく」
これは助かるな。俺たちは逃避行なんて想定していないから、道具類も使える分しかもってきていない。
それに、消耗品は補給したくても町に入れば即通報されるだろうし、消耗品をくれるのはありがたい。
「あと、盾の勇者殿に女王陛下が滞在している国を伝えにきたでごじゃる」
影は地図を広げ、シルトヴェルトとは真逆の方向にある国を指差した。
「現在、女王陛下はこの国に滞在しているでごじゃる。それに加えシルトヴェルトとは真逆の方向故警備が手薄でごじゃる」
やっぱり、国の連中は盾の勇者である尚文がシルトヴェルトに行くのをなんとしてでも阻止したいんだな。
「今回の事件は根が深いでごじゃる。できれば盾の勇者殿にも協力してほしいでごじゃる」
「どういう意味だ?」
「今回の事件は盾の勇者殿の活躍によって三勇教会の支持が大きく揺らいでいて、それに危機感を感じた三勇教会が洗脳という暴論をでっちあげたのでごじゃる」
つまり、三勇教会は盾の勇者を悪魔扱いしていて、国民も盾の勇者を敵だと考えていてほしい。だけど、尚文が困っている国民を助けまくったことと波での国民を助けたことなどの活躍が重なり、国民が三勇者よりも尚文を信じるようになった。
このままでは、三勇教会の盾は悪という考えが国中から否定されてしまう。
だから、三勇教会はメルティ暗殺未遂騒動を起こし犯人を尚文にして、盾の勇者は悪であると証明したいってところか。
三勇教会が考え実行した作戦はこんなところか。
そして、いざ実行するとメルティを尚文が誘拐したように見せかけることはまでは成功したが尚文の行方を追うために情報を住民に聞いてみると、みんな尚文のことを庇った。
庇ったのは尚文の善行の結果だと認められない三勇教会は、盾の勇者に洗脳されているという暴論をでっち上げたってところか。
俺が考察をしている間にも尚文と影の会話は続く。
「盾の勇者殿はどうするでごじゃる?シルトヴェルトに助けを求めるでごじゃるか?」
「…ひとつ聞くが、俺が女王と会ってお前らに何の得がある?国教が壊滅する可能性があるぞ」
「答えられないでごじゃる」
「協力させる気はあるのか?」
「拙者の言葉を信じなくても良いでごじゃる。ただ、考えてほしいでごじゃる」
尚文は影に言われ、考え始めた。
尚文が考えてるうちに気になっていたことを聞こう。
「影さん。少し聞きたいことがあるんだが、いいか?」
「なんでごじゃるか?」
「なんで三勇者と国の兵士たちは俺たちの居場所を特定できたんだ?」
俺たちはシルトヴェルトの方面の山を進んではいたけど、山の中にいる人をピンポイントで見つけるのは、ほぼ不可能のはずだ。GPSとかが付いていたりしたら別だけど。
「それは、おそらく別の影の仕業でごじゃる」
「別の影?」
「影にも女王派や三勇教会派などの派閥があるのでごじゃる。おそらく、三勇教会派の影が盾の勇者殿たちを発見し他の勇者たちや兵士に居場所を伝えたと思うでごしゃる」
影も一枚岩じゃないのか。
これは面倒だな。いつ教会派の影に監視されてるかわからない上にこちらからの発見は困難だろうな。今回は向こうから姿を見せたが、俺たちは影の気配に全く気づかなかった。
「先に言っておくと、影を発見する方法は今の盾の勇者殿たちにはないでごじゃる」
…どうやったら発見できるか聞こうとする前に発見する方法はないって断言された。
…発見する方法はないのか。
俺と影が話していると、尚文が影に話しかけた。
「一度だけだ」
「どういうことでごじゃる?」
「お前はさっきの戦いで俺たちの撤退を支援してくれた。だから、一度だけ信じてやる。もしも騙したら…」
「心得ているでごじゃる。では拙者は一度お暇するでごじゃる」
影はそう言うと、俺たちの前から姿を消した。