※プレ先時空の話ですが原作から若干の改変が入っています。
うぅ……
ここは?牢屋…
あぁ、そうか……
私、
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ゲヘナとトリニティが条約を結んで1ヶ月たったとき、何者かにシャーレが爆破された。先生は意識不明の重体。私は何を思ったか、その報告を聞いた瞬間学校を飛び出してしまった。ただ言えることは、その時に他のことが考えられなくなるほど怒っていたと言うことだ。アビドスのために文字通り身を粉にして助けてくれた、私のために立場が危なくなるようなことをしてくれた恩人を、何より私が初めて好きだと思うことができた人をあんな目に合わせたやつを、必ず見つけ出して自分のやったことの重さを思い知らせてやろうと、その時は思っていたのだろう。
碌な装備も持たず、スマホと愛銃だけを手に砂漠化した市街地を駆けた。
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気がつけば、私は倒れていた。空は暗い。周りにはボロボロのヘルメット団がいた。一体誰がと思ったが、自分の状態を把握して納得した。おそらく、怒りに支配された自分が暴れた結果だろう。碌に防御や回避しなかったのか、至る所に傷がある。
ザッザッザッ
足音がする。先輩達が来てくれたのかもしれない、心のどこかでそんな期待をしていたが、すぐに潰えた。
「はあ、はあ、ようやく倒せたな。」
「全くっすよ。
「倒せたんだからどうでもいいさ。それより、コイツアビドスのやつか?」
「はい、制服を見た感じアビドスの奴っぽいっす。学生証は…あった!名前は黒見セリカっすね。」
「運がいいな、コイツは捕えろとクライアントから指示を受けてたからな。連れて帰るぞ。」
「了解っす。」
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失血で碌に抵抗もできなかった私は、縛られ、トラックに投げ入れられ、奴らのアジトの地下牢に放り入れられ今に至る。
(手足は解放されて自由に動けるけど…失血と雑な手当てのせいで頭がクラクラする…)
そんなことを考えていたら、ヘルメット団員が声を掛けてきた。
「おっ、起きやがった。早速で悪いがあんたにはこれからここで暮らしてもらう。そんな状態じゃ無理だと思うが逃げ出そうとしても無駄だからな。」
「ゔぅ、あんた達…一体何の目的で私を…」
「さあな、私たちはただクライアントからお前を捕らえて向こうが受け取りに来るまで牢にぶち込んどけって依頼されただけだからな。おっと、これ以上は話せないぜ。」
それだけ言ってヘルメット団員は去っていった。
「ひぐっ ぐすっ うぅぅ」
後に残るのは自分の泣き声だった。感情だけですぐ動いてしまう自分の愚かさで、簡単に捕まってしまう自分の不甲斐なさで、何より今度こそ助からないのではという恐怖で、涙と震えが止まらない。私はそのまま泣き疲れるまで一晩中泣き続けた。
次の日、目が覚めた。あれは悪夢だったと思いたかったが、目に入ったのは鉄の扉とコンクリートの壁である。けど私は諦めない。体力を回復させて、ここから脱出する方法を模索しなければ。諦めれば全てが終わってしまう。そんなのは嫌だ。ホシノ先輩に、シロコ先輩に、ノノミ先輩に、アヤネに、そして先生にもう一度会いたい!あの日常を、青春の日々をまた歩みたい!だから私は絶対に諦めない。
そう、自分を奮起し過酷な牢屋生活に挑んだ。淡い希望を胸に……
あの知らせを聞くまでは……
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牢屋生活が始まって2週間、未だに脱獄する手段は見つからない。体も傷の治りが遅く、自由に動かせない。碌な食事を与えられていないからだろう。体が動かせない以上、頭を使うしかない。ベッドとは形容し難い木箱の上にうずくまりつつ、脱獄の手段を練っていた。
とは言ってもここは全周をコンクリートで囲われ、扉も分厚い鉄製だ。そう簡単には脱出できない。
(せめてスプーンか何かがあれば良かったけどあいつらパンとか野菜ジュースしか放り込んでこないから手に入れる手段がないし……。)
カツン カツン カツン
そう考えていると誰かの足音が聞こえる。ヘルメット団のものじゃない足音。それが部屋の前で止まると、外の人と話すための小窓が開く。そこには軍帽を被ったオートマタがいた。
「お初お目にかかるな、黒見セリカ。私はカイザーPMCの代表をしているジェネラルというものだ。」
目の前にいる男は、私達アビドスの借金相手であり憎き敵、カイザー、その中でもかつて私達の自治区に侵攻して来たPMCの代表だった。当時の理事は失脚したはずなのでその後継だろう。
「カイザーPMCの代表が何のよう?冷やかしなら帰って!」
「発言には気をつけてもらおう。今、君の命を握っているのは、我々カイザーPMC、ひいてはカイザーコーポレーションなのだから。」
「はあ!どういうことよ!」
「君の捕縛を命じたのはカイザーコーポレーションだ。私がここへ来たのは人質として貴様が使えるかを確認するためだ!」
「人質?なんで?どう言う…」
「ふっ、貴様は既に我々がアビドスの土地を欲しているのはわかっているのだろう?」
「当然よ!あんた達なんかに絶対明け渡さないんだから!」
バンッ!!
「痛っ、何するのよ!」
ジェネラルに反論するといきなり小窓から拳銃を覗かせ発砲して来た。
まだ完治していない体だ。当然避けれず弾丸は左肩に命中する。
「発言には気をつけろと言ったはずだ。次はその綺麗な目だぞ。」
普段からスケバンやヘルメット団が似たような脅しをしているが、大体あいつらはそれをしない。否、出来ないのだ。当然いくら頑丈なキヴォトス人とはいえ、何発も喰らえば普通に失明してしまう。だが不良達はそういうことをするのに抵抗を感じるのがほとんどだから基本的に脅しで終わる。
しかし目の前にいるのは軍人だ。外の世界で戦争も経験しているだろう。やろうと思えばいつでも殺れる、そういう目をしている。
「さてお話の続きだ。アビドスの土地を手に入れる過程で一番な弊害は貴様らアビドス高等学校だ。要するにだ、貴様らを消すことができれば土地は簡単に手に入る。その為の貴様だ。」
分からない。目の前の軍人は私に一体何をしようとしているのか。
ゾクッ
「!?」
「貴様は現在表向きは行方不明の状態だ。しかし現実では囚われの身。その過程は我々以外誰も知らない。要はサイドストーリーなどいくらでも捏造できるのだ。例えば、貴様がPMC基地を襲撃し、制圧され収監された、----」
ジェネラルはペラペラと色々話してくるが、そんなことよりもなんだか嫌な予感が、背筋が凍る、私の中から何かが消えてなくなるような、そんな嫌な感覚が……。
ピリリリリ
すると同タイミングでジェネラルの電話の着信音が鳴り響く。
「ちっ、なんだ?……。何!?……ふははは!!!そうかそうかそれは実に面白い報告だ!ちょうど目の前に人質があるからすぐに聞かせてやらねばな!」
楽しい時間を邪魔されてか、舌打ちをしつつ電話を手に取り部下と思われる人と会話をするジェネラル。すると突然驚いたかと思うと笑い出した。気でも狂ったのだろうか。
「おい、黒見セリカ、面白い報告だ。ついさっきアビドス最後の生徒会役員の小鳥遊ホシノが死んだぞ。」
は?
ホシノ先輩が死んだ?嘘だ。あの人が死ぬなんて万に一つもあり得ない。私の心を折るための嘘だ。コイツの言葉に耳を貸しちゃダメだ!
「ふっ、信じていないと言う顔だな。」
「当たり前よ!そんな下手な嘘に騙されるほど私はバカじゃないわ!それに、あんなに強いホシノ先輩が死ぬなんてあり得ない!」
「残念だが、これは冗談でも嘘でもない。事実だ。これを見てみろ。先程までうちの諜報部員が撮っていた映像だ。」
ジェネラルはタブレットを取り出し私に見せてくる。その画面にはホシノ先輩が映っていた。しかしいつもの先輩ではない。いつも降ろしてある髪は結われていて上半身には防弾ベストと思われるものを着ていた。しかし
「な、何これ……。」
何より目を引くのはホシノ先輩が対峙していた巨大な建造物だった。その建造物は巨大な砲台のような形をしているがそのサイズは規格外の一言。そしてよく見ればその砲台にはアビドスとゲヘナの校章が刻まれている。
「列車砲シェマタ。ゲヘナの雷帝の遺産の一つ。衰退する以前のアビドスとネフティス、雷帝が共同で建造した非対称戦力兵器だ。コイツがあれば自治区の一つや二つ簡単に消せる文字通りの破壊兵器だ。どうやら生徒会長殿はコイツを破壊しようとしたようだが、」
そう言いジェネラルは映像を再生する。
列車砲を守っていたカイザーPMCの兵士を蹴散らしてホシノ先輩が操作室と思われる場所に入っていった。そして数十秒後、
ドガーーン!!!
「ホシノ先輩!!」
列車砲が大きな爆炎と巨大なプラズマを発生させて大爆発を起こした。その衝撃波は熱風と共に周囲を一瞬で灰燼に化した。
思わず画面の前まで飛び出してしまった。
一瞬のノイズを挟み再び列車砲の位置にカメラがズームされる。
そこには黒焦げでボロボロになりつつも未だ形を保つ列車砲があった。
「ふっ、跡形もなく消し飛んだな。どうだ?信じる気になったか?」
そんなことはない、そう言おうとしたその時見えてしまった。私の目が良かったせいで、
黒焦げで柵の部分に項垂れている既に息の絶えた誰かの死体が。
否定したかった。絶対に、絶対にこの人はホシノ先輩ではないと。でも、自分の魂は囁いてくる。これはホシノ先輩だと……
ピシリ
私の中の何かにヒビが入った。私はもはや何も話せないし、何も考えられなかった。
「はっ、ようやく信じたか。全く、子供はすぐ現実から目を背けようとするから嫌いなのだ。まあいい。貴様はまだ使える。おい、依頼延長だ。コイツをまだここに閉じ込めておけ。」
「え!?まだぶち込んどくんっすか?飯代でもかなり金かかるのに……。」
「つべこべ言わずに依頼をこなせ!文句があるなら依頼料は無しだぞ!」
「わ、分かったっす!」
それだけ言ってジェネラルは去って行った。
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それから10日過ぎた。正直その間に自分が何をしていたのかなんて覚えてない。体の傷は大分治ったが、碌に食事を摂ってない。もう脱獄する気力もない。
昨日一昨日くらいにまたあの嫌な感覚が来た。何が起こったか想像したくもない。
カツン カツン カツン
またあの足音。今度は何の用なのか。まあ、それはもうどうでもいい、そう思ってしまうほどに私の心には埋まらない穴が開いていた。虚な瞳で小窓を見つめる。
ガチャ
「久しぶりだな、黒見セリカ。本日は良い知らせと悪い知らせを持ってきたが、どちらから聞きたい?」
ジェネラルの質問に返って来たのは沈黙。
「返事もできないか。ならば回りくどい言い回しはなしだ。まず、十六夜ノノミ、奥空アヤネの死亡が確認された。残った砂狼シロコも長くはないだろうな。」
「え?」
ジェネラルは淡々と告げた。対して出てきたのはか細い困惑の声だけ。
ピシリ ピシリ
私の中の何かのヒビが広がる。そして……
バキン!!
私の中の何かが割れた。私の心はこの瞬間完全にへし折れた。
「どうだ、死因が気になるか?そうか気になるか。あの二人は先日の小鳥遊ホシノの一件で爆風に巻き込まれて重症になったらしい。奥空アヤネは砂狼シロコを庇って、十六夜ノノミは衝撃波で崩壊した建物に巻き込まれてな。その後奥空アヤネは病院へ、十六夜ノノミはネフティスに引き取られた。そして奥空アヤネは生命維持装置を外し自殺、十六夜ノノミもネフティスに何を言われたのか知らんが自室で首をくくった。ふっ、滑稽だな。前任にあんなに吠えておいて、結局シャーレがいなければこのザマか!」
普段の私であれば叫ぶなりなんなりしながら殴りかかるんだろうがもはや何もする気が起きない。もはや何も聞こえてこない。私の生きる支えたちがどんどん消えていく。私は、生きる意味を見失い始めた。
「心ここに在らずだな。ようやく心が完全に折れたか。これで最後の不安要素*1も無くなったというものだ。おい、最後の依頼だ。コイツを砂漠のどこかに埋めてこい。」
「追い出すんじゃなくて埋めるんすか?」
「何度も言わせるな!コイツはもう廃人だ!追い出したところでアジトの目の前で死体ができるだけだ。分かったらさっさと埋めてこい!」
「りょ、了解っす。」
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黒見セリカはトラックで運ばれていた。しかし彼女は生きる屍同然の状態だ。自らに迫る死すらも受け入れていると言っても過言ではない。
彼女はアビドスという場所を愛していた。自らが生まれ育った街を愛していた。だから、中学を卒業した後は迷うことなくアビドス高校への入学を決めた。10億近い借金があろうと、全校生徒が3人しかいないとしても、自分が愛した街を守ってくれている学校、今度は自分が守っていく番だと、そう意気込んで入学した。しかし、借金の返済は愚か利息を支払うための資金を集めるのにほとんどの時間を使い、稀にやってくるヘルメット団の対応に追われ、とても充実した学校生活とは言えなかった。
それでも、個性的だけど優しい先輩達と、幼馴染でしっかり者のアヤネ、そしてちょっぴり変だけど私達の為に尽くしてくれた優しい大人である先生のおかげで、苦しい借金返済もヘルメット団との戦闘も苦ではなかった。
彼女がここまで耐えることができたのは、死にかけてもなお生き続ける自分の故郷と、志を共にした仲間と先生がいたからだ。故に彼女は折れやすい。彼女を支える柱は強固であったが一度崩れれば、全てが崩れる。
彼女は全てを失った
彼女を埋め尽くすは絶望
彼女にはもはや生を望む意思はない
そして、その絶望に惹かれた存在がいた
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黒見セリカの神秘世界
黒見セリカの精神世界、言ってしまえばヘイローの中である。ここはその最奥に位置する場所。ここにあるのは彼女の人格や精神を形成する器と彼女の力の根源たる神秘を収める器、そして彼女の思念体だけである。それ以外は存在しない。本来ならば……
「まさか、死の神よりも先に色彩が反応するものが現れるとはな。」
「理解できぬ。だが、好都合だ。コイツは嚮導者の器ではないが使える。」
「ほう、コイツの神秘は神秘の認識と強化か、反転し強化させればあらゆる次元の神秘を探知できる。これは使える!」
「素晴らしい、これで我々の悲願を達成させることができる!全ては、忘れられた神々を一つ残さず抹消する為に……。」
声がした。その方を見ると真っ白な司祭服に身を包み不気味な仮面をつけた人物達が複数人セリカを囲んで会話していた。
さらに上の方を見ると、文字通り本能が拒絶するかのような悍ましい雰囲気を放つ黒い球体のようなものが浮いていた。
(コイツらは一体なんなの?死の神とか嚮導者の器とか忘れられた神々とか……。他のとこでやってよぉ。今は1人にして欲しいのに……。もしかして、もうお迎えが来たの?)
器の間でうずくまっているセリカ(思念体)は涙する。走馬灯のように今までの楽しかった記憶がフラッシュバックしてくる。だからこそセリカは自分の身に終わりが近いと悟ったのだろう。
そんなセリカの内心など知ったことではないと、司祭の1人が神秘を収める器に触れる。
「かなりボロボロになっているな。これなら色彩の侵蝕もすぐに終わるだろう。」
そういうと、上方にいた色彩が降りてきて2つの器に触れた。ボロボロの純白の器が漆のように漆黒に染まっていく。
「!? がっ、がぁーー!!」
それに呼応するようにセリカ(思念体)の見た目やヘイローも姿を変えていく。
神秘の反転は生徒達にとって毒以外の何物でもない。当然想像を絶する苦痛が伴うのだ。
しかし、セリカは耐えた。耐えてしまったのだ。
器はボロボロのまま漆黒に染まった。
ここに
『時空を超えし巡礼者』 セリカ*テラー
が誕生した。
「はぁ、はぁ、はぁ……。」
苦痛を耐えきったセリカは器の間で倒れこむ。
しかし司祭たちにとってそれは知ったことではない。
「反転したな。して、どうする?」
「どうするもあるまい。死の神が色彩を呼び寄せるまで待つのだ。」
「どの道この
「ならどうする?」
「この者にやらせればよい。丁度目の前に忘れられた神々がいるのだしな。」
「良い案だ。では巡礼者よ。お前の最初の政だ。目の前にいる忘れられた神々を抹消せよ。」
司祭がセリカにそう命じると、現実世界のセリカは目の前に落ちていたヘルメット団の銃を拾い、自分を埋めるためにトラックで運搬していたヘルメット団員に銃口を向ける。
彼女たちは訳が分からなかった。依頼によってアビドスの生徒を輸送していたらいきなり爆発し*2気が付けばされるがままだった輸送対象が姿を変えこちらに銃口を向けてきているのだから。
「やだ……。やめて……。私は……人を殺したくない!」
「無駄だ、巡礼者よ。お前の支配権は我々にある。」
セリカ(思念体)は必死に動きを止めようと抗うが今や身体の支配権は司祭たちに奪われていた。*3抵抗虚しく現実世界のセリカは引き金に指をかけ、自らの周りに黒い炎を展開する。瞬間セリカの纏う空気がより一層重くなる。
ヘルメット団員は本能で悟る。これは避けなければ死んでしまうと。しかし3人のうち一人は爆風をもろに受け気絶しており、他二人も走れる状態ではない。
「ダメ!避けて!お願い!」
「邪魔をするな!忘れられた神々の歴史は忘れられた神々によって終わらせるのだ!」
札を持つ司祭に飛び掛かろうとするが他の司祭によって阻まれる。
(いやだ……。私は人殺しなんかになりたくない……。助けてよぉ。誰か……ホシノ先輩……ノノミ先輩……シロコ先輩……アヤネちゃん……先生……。)
司祭に阻まれるセリカ(思念体)は涙を流し、ここにいないかつての仲間達に助けを乞うことしかできなかった。しかしこのキヴォトスにおいて死者が生き返ることはなく二度と会うことはできない。
果たしてそうだろうか?
「よし!パスがつながったよ!みんな、今だよ!」
神秘世界に響く謎の声。そして器の後方に白い扉が生成されそれが勢いよく開く。
「「「セリカちゃん!!!!」」」
さて、反転してしまいましたが最後の声は一体誰だったのか……。