出久が無個性なんてありえねー…!   作:がんばリーリエ

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 ベルの二人称を修正しました。
 気に入っている人間は、「イズク」など、名前をカタカナ表記の呼び捨て。
 爆豪など、気に入らない人間にはあだ名を付けます。




日常(1)【限界の先へ。器を作る】【交錯する『創造』と『サイズ』】

 

 

【限界の先へ。器を作る】

 

 

 USJでの激闘から数日が過ぎた。オレは病院から退院し、再び穏やかな日常が戻ってきていた。

 放課後のトレーニングルーム。静まり返った室内には、オレの荒い呼吸音と、床に滴り落ちる汗の音だけが響いていた。

 

「……98、99……100」

 

 床に両手をつき、自重の限界を超えるための腕立て伏せを黙々と繰り返す。

 ただ闇雲に回数をこなしているわけではない。体を沈み込ませる時はゆっくりと筋肉の収縮を意識し、押し上げる時は一気に爆発的な力を込める。風魔法を放つ際、強烈な風圧のブレを抑え込み、正確な射線を作るためには、上腕三頭筋と大胸筋、そして体幹の強靭な連動が不可欠だからだ。

 腕の筋肉が焼けるように熱く軋む。その痛みを感じながら、オレの思考は自然とUSJでのあの瞬間に向かっていた。

 

(……あれは、オレの体内にある魔力だけじゃなかった)

 

 限界を超え、『精霊同化(スピリット・ダイブ)』を発動した時のことだ。

 大気と完全に同調したあの瞬間、オレは確かに感じ取っていた。空間そのものに満ちている、莫大で不可視の生命エネルギーを。

 オレはゆっくりと床に座り込み、息を整えながら、近くでフワフワと飛んでいるベルに声をかけた。

 

「なぁ、ベル。……USJでオレと同化した時、お前は何をしたんだ」

 

「え? 私?」

 

 ベルは小首を傾げ、宙でくるりと一回転してからオレの目の前まで降りてきた。

 

「うーん、上手く言えないけど……あの時のユノの波長が、私とぴったり重なったの。だから、ユノの体力から力を作るんじゃなくて、外にフワフワ漂ってる『力』を直接いっぱい集めて、ユノに繋いであげたのよ!」

 

「外にある力……」

 

「そう! 空気の流れとか、熱とか、自然の中にあるエネルギー。それをユノに直接纏わせたの。でも、ユノの身体がその膨大な力に耐えきれなくて、すぐボロボロになっちゃったけど……」

 

 ベルが少し申し訳なさそうに眉を下げる。

 だが、その言葉でオレの推測は確信に変わった。

 ベルがオレの体力を吸い上げて『魔力』に変換する前の、自然環境そのものが持つ根源的な力。精霊と同化したオレだからこそ認知出来た外部エネルギー。

 オレは、これを密かに『マナ』と名付けた。

 

 もし、環境因子たる『マナ』を直接知覚し、極薄の鎧のように己の体表に纏うことができればどうなるか。

 魔法の強烈な反動による肉体の崩壊を防ぎ、限界を底上げする魔力装甲──いわば、『マナスキン』とでも呼ぶべき技術に至れるはずだ。

 

 だが、その強大なエネルギーを纏うためには、何よりもまずベースとなる「肉体という器」自体が頑丈でなければ話にならない。

 オレは再び床に手をつき、腕立て伏せの姿勢に戻った。

 

「……101、102」

 

「あっ、また始めるの!? ユノったら、全然休まないんだから!」

 

「おっ! ユノ、今日もやってんな!」

 

 不意に扉が開き、明るい声が室内に響いた。

 タオルを首に巻き、スポーツドリンクを持った切島鋭児郎だ。

 

「……切島か」

 

「おう! 邪魔したか? いやー、USJの後から毎日ここに通い詰めって聞いてたけど、マジでストイックだな。お前、あんなバケモノぶっ飛ばすくらい強いのに、まだ鍛え足りねェのか?」

 

 切島は感心したようにダンベルのラックに寄りかかり、オレの腕立て伏せを覗き込んでくる。

 

「強さに上限はない。それに、オレの魔法は出力を上げるほど、術者であるオレ自身の肉体に凄まじい負荷がかかる。USJで指一本動けなくなったのがその証拠だ」

 

「なるほどなぁ。俺の『硬化』は最初からカッチカチになるからそういう反動は少ねェけど、ユノの個性はド派手な分、そういうリスクがあるんだな」

 

 オレは姿勢を崩さず、息を整えながら答える。

 

「魔法に振り回されないためには、反動を殺すための純粋な腕の筋力と体幹が必要だ。だからこうして、自重の限界まで筋肉を苛め抜いている」

 

「漢らしいぜ……! でもよ、ユノって服着てると結構細身っていうか、スマートに見えるのにな。どうやったらそんなに効率よく筋肉つくんだ?」

 

 切島が自身の腕の筋肉を不思議そうに触りながら尋ねてくる。

 オレは最後の1セットを終え、ゆっくりと立ち上がりながら汗を拭った。

 

「ただトレーニングをするだけじゃ、筋肉は育たない。重要なのは食事だ」

 

「食事?」

 

「ああ。過酷なトレーニングで破壊された筋繊維を修復し、以前より太く強い筋肉へと超回復させるためには、適切なタイミングでの栄養補給が絶対条件になる」

 

 オレの言葉に、切島が「おおっ」と目を輝かせて身を乗り出した。

 

「筋肉の材料となるタンパク質と、それを体内に運ぶための糖質。そしてビタミンだ。これらをトレーニング直後に摂取し、日々の食事管理を徹底しなければ、いくら腕立て伏せの回数をこなしても筋肉は育つどころか痩せ細っていく」

 

「マジかよ!? 俺、とりあえず肉食っとけばデカくなると思ってたわ……! 栄養のタイミングとかまで計算してんのか!」

 

 切島が衝撃を受けたように目を見開く。

 

「己の体を理解し、必要なものを与える。それができなければ、いざという時に100%の力は出せないからな」

 

「……スゲェ。ただ才能があるだけじゃなくて、裏でそこまで地道な努力と自己管理してんだな」

 

 切島は感極まったようにサムズアップを向け、自身の胸をドンッと叩いた。

 

「よっしゃ! 俺も負けてらんねェ! 今日の夕飯はユノを見習って、タンパク質と糖質のバランス考えた最強の『筋肉定食』にするぜ!!」

 

「……好きにしろ」

 

 熱苦しいほどの切島のエネルギーに少しだけ毒気を抜かれ、オレは小さく息を吐いた。

 

 体育祭まで、残りわずか。

 来るべき出久との戦いと、最高のヒーローになるために、オレは誰よりも己を鍛えあげ続ける。

 

 

✦ ━━━━━━━━━━━━━━ ✦

 

【交錯する『創造』と『サイズ』】

 

 

 放課後の図書室は、夕暮れ前の独特の静寂に包まれていた。

 オレは、この世界の気象学や大気の流れに関する専門書を数冊抱え、空いている窓際の席を探していた。精霊同化で感じ取った未知のエネルギー『マナ』。それをより深く理解し、効率的に知覚するためのヒントが、この世界の科学的なアプローチの中にもあるかもしれないと考えたからだ。

 

「あら、ユノさん?」

 

 静かな空間に、鈴を転がすような上品な声が響いた。

 声の主は、A組の副委員長である八百万百だった。彼女は閲覧席の大きな机に、有機化学の辞書や構造式がびっしりと書かれた専門書を山のように積み上げ、熱心にノートを取っていた。

 

「……八百万か。随分と勉強熱心だな」

 

「ええ。USJでの事件以来、自分の未熟さを痛感いたしまして……。私の『創造』の個性は、対象の分子構造を完全に把握していなければ機能しません。いかなる状況でも瞬時に、最適な物を生み出せるよう、もう一度基礎から叩き直しているのですわ」

 

 八百万はそう言って、少し自嘲気味に微笑んだ。その目には、焦燥感と、それを上回る強い向学の意志が宿っている。

 オレが彼女の対面の席に座ろうとした、その時だった。

 八百万の隣の列の書架から、静かに一人の女子生徒が歩み出てきた。

 黒髪ボブヘアーで、感情の起伏が見えない大きな瞳。A組の制服とは異なる、B組の生徒──小大唯だった。手には、民俗学の古めかしい本を抱えている。

 

「……小大か」

 

「あら、小大さんも。ごきげんよう」

 

「……ん」

 

 相変わらず、感情が読めない。ただ、オレ達に悪い印象は持っていないだろう。

 

「あら、ユイじゃない! この間のトマトジュース、ありがと! 美味しかったわよ!」

 

 オレの肩上にいるベルが明るい声で言う。トマトジュースというのは、先日、オレが入院している際に小大がお見舞いとして持ってきてくれたものだ。

 

「……ん。妖精さんが、飲んだんだ」

 

 小大は感情の起伏が薄い大きな瞳を僅かに伏せ、それからオレの顔をじっと見つめた。

 入院中、彼女がわざわざ持ってきてくれた真っ赤なトマトジュース。オレが飲む前にベルが「何これ濃厚!」と全部飲み干してしまったのだが、その事実を知った小大の顔には、隠しきれない微かな寂しさが滲んでいた。

 

「……ユノには、口に合わなかった?」

 

 ぽつりとこぼされた声に、オレは小さく息を吐いた。

 

「違う。オレが目を離した隙に、コイツが全部横取りしただけだ」

 

「ちょっとユノ! 私のせいにしないでよ!」

 

 ベルが抗議の声を上げるが、オレはそれを手で払い除け、小大の真っ直ぐな瞳を見つめ返した。

 

「わざわざ持ってきてくれたのに、すまなかったな。……次は必ず、オレが飲む。約束だ」

 

 オレの言葉に、小大の瞳がパッと微かな光を帯びる。

 

「……ん。約束。次は、ユノの分、絶対死守する」

 

 小大はそう言って、ほんの少しだけ口元を柔らかく緩めた。

 雄英の入学試験の際、窮地にあった彼女をオレが助けて以来、校内で顔を合わせるたびにこうして言葉を交わすようになった。お互いに口数が多い方ではない。だからこそ、この静かでぽつりぽつりとした空気感が、オレにとっては妙に居心地が良かった。

 

「……ちょっと待ちなさいよっ!」

 

 突如、オレたちの間に流れていたその静かな空気をぶち破るように、ベルがオレと小大の顔の間にバサッと割り込んできた。

 

「な、なによこの二人の世界みたいな雰囲気! ダメよダメ! 私がユノの一番のパートナーなんだからね! 私を差し置いて、勝手に『次』の約束とかしないでよねっ、この泥棒猫!」

 

 ベルがぷくっと頬を限界まで膨らませ、短い手足をバタバタとさせて小大を威嚇する。

 

「……うるさいぞ、ベル。ここは図書室だ」

 

「ユノのバカー! わからずや! 私の乙女心も知らないで!」

 

 オレが指先で軽くデコピンを食らわせると、ベルは「ふんっ!」とそっぽを向きながら、オレの頭頂部へと不満げに避難した。

 そんなベルの騒がしい様子を見て、小大はパチクリと大きな瞳を瞬かせた後、微かに首を傾げた。

 

「……ん。妖精さん、やきもち」

 

「や、やきもちじゃないわよ! 私はユノの正妻として当然の主張を──むぐっ」

 

 オレは頭の上に手を伸ばし、ベルの口を指で軽く摘んで強制的に黙らせた。

 小さなため息を吐くオレと、それを見てクスリと表情を和らげる小大。

 

「……ふふっ。お二人は、本当に仲がよろしいのですね」

 

 八百万が、気品ある仕草で口元を押さえながら微笑んだ。

 

「小大さんも、調べ物を?」

 

「……ん。少し、本を」

 

 小大はそう言ってオレの隣の席に静かに腰掛け、民俗学の本を机に置いた。

 八百万は山積みにされた専門書に一度視線を落とし、それから意を決したように、オレを真っ直ぐに見据えた。

 

「ユノさん、先日のUSJでの戦い……私、物陰から見ておりましたの」

 

「……そうか」

 

「貴方の風は、あの時、弓矢や、叢雨のような無数の刃へと瞬時に形を変えて見せました。……あれは、ただ風を放出しているのではない。文字通り、風の形を『創成』していますわ。あの凄まじい個性の練度……一体、どのようにして身につけられたのですか?」

 

 八百万の問いかけに、小大もまた、静かに耳を傾けているのが分かった。小大の個性『サイズ』は、自身が触れた物の質量や大きさを変える能力だ。対象の物理的な構造や、それを戦場でどう活かすかという点において、彼女もまた、『物』へのアプローチに悩む一人だった。

 

 オレは抱えていた本を机に置き、二人の視線を受け止めながら答えた。

 

「特別なことなんてない。オレにあるのは、明確な『イメージの力』だけだ」

 

「イメージ、ですの?」

 

「ああ。風は本来、形を持たない。それを刃にするなら、どれほどの硬度で、どれほどの鋭さで、どの軌道で空間を切り裂くか。その完成形を、発動するよりも前に、脳内で完璧に、一寸のブレもなく描き切る。イメージが曖昧なら、魔法はただの微風に霧散する」

 

 オレは右手を軽く持ち上げ、人差し指の先に、ごく小さな風の渦を作ってみせた。キィィンと小さな風鳴りを立てるそれは、完璧な球体を維持している。

 

「八百万、お前の『創造』も同じじゃないのか。分子構造という理屈を知っていても、それを戦場でどう形にするか、完成形のイメージが固定されていなければ、出力が遅れる。知識に溺れるな。必要なのはお前自身が、それを使ってどう勝つか、という絶対的なイメージだ」

 

 八百万は目を見張り、オレの指先の風の球体を見つめていたが、やがてハッとしたように深く息を吐いた。

 

「知識に、溺れる……。確かに、私は本の中の構造式ばかりを追って、それを戦場でどう活かすかという、ヒーローとしてのイメージが追いついていませんでしたわ……」

 

「……イメージ」

 

 それまで沈黙を守っていた小大が、ぽつりと呟いた。

 彼女は自分の手のひらを見つめ、何かを確かめるように握りしめる。

 

「……私の個性も、大きくする時、小さくする時、その後の重さや衝撃をイメージできていないと、上手く扱えない。……ユノの言うこと、よく分かる」

 

 小大の言葉に、八百万が驚いたように顔を上げた。

 以前の昼食の際の短い会話以来、ろくに接点のなかった他クラスの生徒が、自分の個性の本質的な部分で共感を示してくれたのだ。

 

「小大さん……貴女も、同じような課題を抱えていらっしゃるのですのね」

 

「……ん。B組のみんな、強い。私も、体育祭までに、もっと個性を思い通りに動かせる様になりたい。……八百万さんの『創造』、すごく格好いいと思ってる」

 

 感情の起伏の少ない声だったが、だからこそ、小大の言葉には嘘偽りのない純粋な敬意が籠もっていた。

 八百万の頬が、微かに赤く染まる。お嬢様として育ち、USJでの挫折に一人で思い悩んでいた彼女にとって、あの昼食の日から少し気になっていた小大からの不器用なエールは、何よりも心に染みるものだった。

 

「お、恐れ入りますわ……。小大さんの『サイズ』こそ、戦況をひっくり返す素晴らしい可能性を秘めています。……私たち、クラスは違えど、目指す場所は同じヒーロー。よろしければ、体育祭に向けて、お互いのイメージを高め合うようなお話を、もっとしませんこと?」

 

「……ん。喜んで」

 

 小大の口元が、ほんの少しだけ、柔らかく緩んだ。

 あの日、賑やかな食堂で一瞬だけ交差した二人の縁が、ユノという存在を介して、確かな『戦友』としての絆へと深まった瞬間だった。

 

「なーんだ、二人とも真面目ね! でも、頑張る女の子は可愛いから、私が応援してあげるわ!」

 

 肩の上でベルがパチパチと小さな手で拍手をする。

 オレはそんな二人(と一人)の様子を横目に、開いた気象学の本に目を落とした。

 

「……オレも、負ける気はない。お前たちも、せいぜい牙を研いでおけ」

 

「ええ、望むところですわ! ユノさん、次は私の『創造』で、貴女を驚かせてみせます!」

 

「ん。……私も、負けない」

 

 夕日の差し込む図書室で、静かに燃え上がる三人の決意。

 それぞれの『創る力』を高めるため、彼女たちもまた、自身の殻を破るための第一歩を踏み出したのだった。

 

 

 

 

 






『マナ』を追加するにあたり、設定を少し更新します。

【個性設定:風精霊(シルフ)】

【種類】
発動系 兼 異形系(常時顕現型の自我を持つ個性)

【個性の仕組み:魔力とマナの定義】
ヒロアカ世界に「魔力」や「マナ」という概念は存在しない。そのため、ユノは自身の個性で扱うエネルギーを以下の2つに定義づけている。

① 魔力(体内エネルギー)
ユノ自身の体力や精神力をベースとし、ベルが吸い上げて変換した「独自の超高密度エネルギー」のこと。
ユノは、ベルから供給された『魔力』を消費して、不可視の刃や巨大な弓(疾風の白弓)を創成するなどの物理的干渉力を伴う現象(魔法)を引き起こす。

② マナ(外部エネルギー/環境因子)
大気中に存在する空気や微小な自然エネルギーなど、空間に満ちている力のこと。精霊であるベルは「自然環境そのもの」に干渉してこれを知覚・同調する能力を持っており、ユノはこれを『マナ』と呼称している。



ちなみに、覚えなくていいです。何となくで。
深く考え込んでいる訳ではないので、指摘されたらポロッとおかしなところ出そうで怖い……。



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