『さぁ、実況はわたくしプレゼント・マイクと、解説のイレイザーヘッドでお送りするぜ!』
『お前が無理やり引っ張ってきたんだろうが』
マイクのハイテンションな実況に対し、相澤先生の気怠げな声がスタジアムのスピーカーから響き渡る。
「さっそく先頭集団が第一の障害に到達だァ!」
空中を飛行し、トップへと躍り出たオレの眼前に、巨大な鋼鉄の壁が立ち塞がった。
入試の際に出現した0ポイント仮想ヴィラン。それが数十体、コースを完全に塞ぐように配置されている。
『ロボ・インフェルノだァァ!!』
「……ただの的だ」
オレは飛行速度を一切緩めることなく、右腕を鋭く振り抜いた。
「風魔法──『カマイタチの三日月』」
圧縮された不可視の風の刃が、空中を塞ぐ数体の0Pロボの頭部と駆動部を正確に両断する。爆発の煙を突風で吹き飛ばし、オレは悠々と空路を突き進む。
『あいつは自身の個性の強みと、戦場での最適解を理解している。……ためらいがない』
相澤先生がボソリと解説を入れる中、地上を猛追していた轟が、オレが破壊しなかった残りのロボットたちの関節を一瞬にして凍らせ、その股下をすり抜けていった。バランスを崩した巨大な氷結ロボが轟音を立てて倒壊し、後続の生徒たちの進路を完全に塞ぐ。
「てめェ!! 待ちやがれ風野郎ォォ!!」
背後から、凄まじい爆発音と共に爆豪が倒壊するロボットの隙間を縫って空へと飛び上がってきた。掌からの爆風を推進力に変え、オレを猛追してくる。
「まーたあの爆発頭が吠えてるわよ。 ユノ、あんなの置き去りにしちゃいなさい!」
「言われなくても、そのつもりだ」
オレがさらに風の出力を上げようとした、その瞬間。
──バチィッ!!
眼下の地上から、鮮烈な緑色の稲妻が弾ける音が響いた。
「……!」
視線を下ろすと、そこには全身に薄く緑色のエネルギーを這わせ、火花を散らすように駆ける出久の姿があった。
「ワン・フォー・オール……フルカウル!!」
出久が力強く地面を蹴る。これまでのように一箇所にパワーを集中させて自壊するような不完全な動きではない。
全身を覆う『見えない力の鎧』が、彼の身体能力を爆発的に底上げしている。出久は倒壊したロボットの装甲を足場にしてジグザグに跳躍し、瞬く間に0Pロボの群れを突破してみせた。
(この数日でモノにしたのか……!)
オレが思い描いていた『マナスキン』の概念。それを僅かな期間で自らの個性に落とし込み、実戦レベルまで昇華させたのだ。
「うそっ!? イズク、すごいスピード! それに全然怪我してないわ!」
「ああ。流石だ」
『……あいつ。ようやく、自分の力を制御する術を見つけたか』
放送席から漏れる相澤先生の僅かな感心の声。
オレは口角を吊り上げ、一気にスタジアムの第二関門へと滑空した。
第二関門『ザ・フォール』。
深い谷底に点在する岩柱の間を、細いロープ一本で渡るというものだ。
だが、ここもオレにとってはただの直線コースに過ぎない。ベルの風のサポートを受けながら、オレは一直線に谷を飛び越えていく。
下では、轟がロープを凍らせて滑り、出久がフルカウルの跳躍力で岩柱から岩柱へとカエルのように飛び移っている。その後ろを爆豪が爆発で飛びながら追走していた。
『上位陣、圧倒的スピードォ! まるで別次元のレースを見ているようだぜ!』
マイクの実況が響く中、オレはついに最終関門へと到達した。
第三関門『地雷原』。
見渡す限りのピンク色の地雷が埋められており、踏めば強力な爆風が上がる仕組みらしい。先頭を走るオレは、当然ながら空からそれらを完全に無視して進むつもりだった。
だが──。
「逃がすかよォォ!!」
「……ッ」
背後から、凄まじい執念で追いすがってきた爆豪と轟が、オレの左右に並び立った。
轟は自身が凍らせた氷の道を足場にして走り、爆豪は連続爆破で宙を舞っている。そして二人は、オレをトップの座から引きずり下ろすため、同時に攻撃を仕掛けてきた。
「邪魔だ、風野郎!!」
「退け」
爆豪の右腕からの大爆破と、轟の左手からの冷気が同時に迫る。
オレは舌打ちをし、咄嗟に風を展開して二人の攻撃を弾いた。だが、その衝撃の相殺によって飛行の姿勢が崩れ、オレは地雷原の地面スレスレまで高度を下げることを余儀なくされた。
「ちょっと! 爆発頭も半分頭も、ユノの邪魔しないでよね!」
「うるせェクソ羽虫! 俺が一番だ!!」
ベルが抗議するが、三つ巴の乱戦が始まってしまった。
オレ、轟、爆豪の三人が、互いに牽制し合いながら地雷原を突き進む。
(……無駄な時間だ)
オレは小さく息を吐き、二人の攻撃を風でいなした瞬間、一気に上空へと高度を上げた。
そして、両手に魔力を集める。
「──吹き飛べ」
オレが両腕を横に振ると同時、スタジアムへと続く直線コース上の地雷が、凄まじい暴風によって根こそぎ宙へと巻き上げられた。
更にオレは、その暴風を筒状に圧縮し、ゴールまで一直線に繋がる巨大な風のトンネルを創り出した。
『ウオオオオッ!? な、なんだァアレは!! 先頭のユノ・グリンベリオール、大量の地雷を風で根こそぎ空へ吹き飛ばしたァァ!! さらに自分専用の特急レーンまで爆誕だァァ!!』
『ただ力任せに吹き飛ばしただけじゃない。暴風を筒状に圧縮することで、周囲の爆風すらもゴールへ向かう追い風に変えている。……全く、規格外にも程があるな』
スピーカーから響くマイクの絶叫と、相澤先生の呆れたような解説がスタジアムを揺らす。
「なッ!? 地雷ごと道を空けやがった!」
「抜け駆けすんじゃねェ!!」
轟は驚愕で目を開き、すぐさま爆豪は両手から爆炎を放ち、オレの風に便乗しようとトンネル内へ飛び込もうとする。だが──。
「ぐぁッ!? クソが、風圧で爆発が流されやがる……!!」
爆豪が空中でバランスを崩し、舌打ちをして地面に降りる。
暴風を筒状に圧縮したオレのトンネルは、外周の気流が凄まじく乱れている。空中で連続爆破して繊細に軌道をコントロールする爆豪の移動法では、オレの乱気流に爆炎を吹き散らされて真っ直ぐ飛べないのだ。
「……じゃあな」
二人が足止めを食らった隙に、オレはトンネルの中心へと飛び込み、凄まじい追い風に乗って一気にトップスピードへと加速した。
これで決まりだ。誰にも邪魔されず、このままトップで駆け抜ける。
そう確信した、次の瞬間。
「──フルカウル、出力ッ……5%!!」
オレの背後から、緑色の稲妻を纏った出久が猛スピードで迫ってくる。その手には、第一関門で拾い上げた0Pロボの巨大な装甲板。
出久はフルカウルの爆発的な脚力で力強く跳躍すると、その装甲板ごと、オレの創り出した風のトンネルの中へと一直線に飛び込んできた。
(……オレの風に、乗っただと!?)
トンネルの中は、ゴールへ向かって凄まじい追い風が吹き抜けている。
出久は空中で装甲板を足元に構え、わずかに角度をつけることで、背後から迫る猛烈な風の圧力を、板の裏側で真っ向から受け止めたのだ。
「ありえねー……!」
オレの口角が、自然と上に上がる。
『ウオオオオッ!? なんだァアイツは!! 緑谷出久、トップを走るユノの特急レーンにまさかのタダ乗り!! 拾った鉄クズ一枚で、空前絶後の極限サーフィンだァァ!!』
『……呆れた奴だ。トップとの機動力の差を埋めるために、迷わず一番手っ取り早い相乗りを選びやがった。体裁もリスクも度外視してでも上に這い上がろうとする……凄まじい執念だな』
「イズクが凄いスピードで来るわ! ユノ、抜かれちゃう!」
「……上等だ」
オレは出久の追い上げを振り切るべく、さらに魔力を絞り出してトンネル内の風速を限界まで引き上げた。
だが、オレが風を強めれば強めるほど、出久の乗る装甲板への推進力も増してしまう。
スタジアムへと続く出口の光が見えた。オレと出久は、完全に横並び、コンマ数秒の火花を散らす状態でゴールゲートへと同時に飛び込んだ。
──バチィッ!!
最後の最後、装甲板を蹴り捨てて前に身を乗り出すように跳躍した出久の執念に、オレはほんのわずか、肩一つ分だけ届かなかった。
「……決着ゥゥゥ!! 雄英体育祭1年ステージ、第一種目を制したのは……緑谷出久だァァァ!!」
スタジアムが、割れんばかりの歓声に包まれる。
フルカウルを解除し、肩で激しく息をする出久。
その後ろから、少し遅れて爆豪と轟がゴールする。
「はぁっ、はぁっ……! ゆ、ユノ君……!」
出久が振り返り、ボロボロになりながらも、どこか誇らしげな笑みを向けてきた。
オレは悔しさを隠すことなく、出久を睨み据えた。
「出久。……最初から、読んでやがったな」
「……うん。ユノ君なら、絶対ああするって思ってた」
出久はオレを真っ直ぐに見据える。
「……見事だった。フルカウルとやらもな」
オレは出久の執念を素直に認め、そして、不敵に口角を吊り上げた。
「だが、勘違いするな。最後に一番上に立つのはオレだ。次は負けない」
「うん! 望むところだよ!」
その後方で、爆豪が「クソがァァァ!!」と地面を叩いて激怒し、轟が静かに自らの左手を見つめている。
「……行くぞ、ベル。次でトップを奪い返す」
「当然よ! イズクも凄かったけど、最後に勝つのは絶対に私のユノなんだから!」
熱狂に包まれるスタジアムの中央で、オレたちは次の競技へと足を進める。