そんな現実から逃避するために、過去に書いて飽きた作品を書きなおします。高確率でリタイアしそうなので、投稿不定期です。
神との遭遇。
目が覚めると真っ白な世界だった。
急に明るくなった視界に、誰かが僕を起こしに来たのを確信した。
おおかた、寝起きで不機嫌になった兄を揶揄いたい妹か、なかなか起きてこない息子にしびれを切らした母さんだろう。全く、有難迷惑というものだ。僕がいつまで寝ていたって僕の勝手だろう?そもそも今日は休日なんだから、昼過ぎくらいまで寝ていたってお前らは何も困らないだろうに、毎朝同じ時間に起こしに来やがって。今日という今日は意地でも起きてやるものか。
布団を頭からかぶり直し、枕に深く顔を突っ込んで徹底抗戦の構えを取った。極力視界に入る光を排除し、無理やり布団を引っぺがそうとする暴力に抵抗するため、布団の端をきつく掴んだ。あとは目をギュッと瞑り、夢の世界に集中するだけだ。
さあ、いつでも起こしに来い。今日という今日は、何が何でも、惰眠を貪ると決めたのだ!堕落した私生活を送ることを胸に誓ったこの僕を、起こせるものなら起こしてみせろ!!
…しばらく眠ろう眠ろうと意識したものの、いつまでたっても視界の端っこでチラつく光に気が散って眠れそうにない。布団に包まっている内に、段々と息が苦しくなってきた。
そういえばなんだか腹が減ってきた気がするし、いい加減起きて朝食でも食べよう。へんに意地を張るのは大人げないしな。あくまで腹が減ったから起きるのであり、断じて眩しさに屈して起きるわけではない。僕は負けてない。眠い目をこすりながら布団から這い出て、僕が起きたことにさぞご満悦であろう『誰か』がいるであろう扉の方に視線を向けた。
そこには、寝起きで不機嫌になった兄をあざ笑う妹も、いつまでたっても一人で起きれない息子に呆れる母さんも、扉も、壁も、何もなく、ただただ真っ白な地平線が続いているだけだった。
僕の部屋に配置されていた家具や置物が辛うじて部屋の輪郭を保っているが、それ以外の物質が存在しない潔癖なほど真っ白なこの世界は、四方八方が発光しているかのような眩しさで、僕の半開きの目にダメージを与えてくる。
「やあ、おはよう!お邪魔しているよ!」
いくら瞬きしても僕の視界がはっきりせずにまごついていると、唐突に声がきこえた。
「
スッキリとしてよく通る低音の声は活舌良く僕の個人情報を語り、進学先の情報を分析して僕の家庭状況を慮っている。好き勝手に僕の都合を解釈しやがってムカつく野郎だ。僕の本をめくるよくわからん真っ白いヤツになぜか個人情報を握られていて、おまけによくわからない真っ白な世界にいる。今はあまりにも異常な状況だが、不思議と恐怖は感じていなかった。
読み終わったのだろうか、彼?はめくっていた本を棚に戻し、新しい本を手に取ってめくり始めた。朝っぱらから急展開で思考を放棄したくなってきたが、状況を打開するにはまずコイツに話しかけて情報を探らなくてはならないようだ。RPGじゃあるまいし、好き好んでしらない人に声を掛けたくない。
「・・・すみませんがどちら様でしょうか」
「どうも初めまして。神様です」
「か、神様。はぁ・・・そうですか」
「急に現れた相手に神様です、なんて言われても信じられないだろうし、信じなくてもいい。君が死んだからお迎えに来たとかではないよ。ただ、君とお喋りがしたくてここに来たんだ。」
意を決して声を掛けると、正体不明の真っ白野郎は神を自称しやがった。一切合切全て真っ白で神々しく、顔は眩しくて視認できないという特徴は確かにアニメや漫画で見るような、イメージ通りの神様だった。神様というと、昔連れていかれた教会を思い出した。こんなにも純白で清廉潔白な雰囲気を放つ存在が、処女でおまけに人妻のマリアを孕ませたとは信じられないなぁ・・・若き日の過ち、というやつだろうか。
自称神様は手元の本を片付け、本棚の横の、本来であれば固い壁のあったはずの場所を通り過ぎ、地平線に向かって進み始めた。ぼーっと彼の行動を眺めていると、少し進んだあたりで振り返りこちらに手招きしている。付いてこいということらしい。このままこの空間に独りだけで取り残されることに思い至ってようやく恐怖感が湧いた。大急ぎで後ろをついていく。
神様の履く靴のカツカツという音と、僕の裸足のぺたぺたという音を響かせながら歩いているうちに、見慣れた家具も恋しいベッドも見えなくなり、やがて進行方向に小さな椅子とテーブルが見えた。神様は手前の椅子を引き、座るように促す。
椅子は華美な装飾が施された座り心地の良いもので、体重を掛ければ掛けるほどクッションに沈み込むようだ。テーブルには湯気とコーヒーの香りを漂わせたティーカップと、茶菓子の盛られた皿が置かれている。神様が席に着き、僕がコーヒーを一口すすった所で『お喋り』が始まった。家で飲むインスタントコーヒーとは段違いの濃い風味が後味に残り、とても心地よい。皿に盛られた茶菓子も、このコーヒーに相応しい味に違いないだろう。
「さて、君の本棚にあった小説だとよくあるシチュエーションだろ?謎の空間に、神様を名乗る存在、唯一足りないのはトラックに轢かれることかな?いかにも今から新しい物語が始まるって雰囲気じゃないか!」
向かいに座った神様はすこぶる上機嫌といった風にしゃべり始めた。
神を名乗る存在、よくわからん世界。言われてから自覚したが、確かにこの状況は使い古されたほど典型的な、異世界転生系ライトノベル冒頭とほとんど同じ状況だ。その手の作品の主人公は不慮の事故、大抵はトラックに轢かれるだのして命を落とし、神様と出会う。そして、神様の温情によって
思わず自分の頬をつねると、ピリッと痛みが感じられた。この状況は、やはり夢ではない??コーヒーに含まれるカフェインのおかげか、寝起きでまどろんでいた脳味噌は完全に覚醒し、急激にやってきた現実感に身震いした。
多くのライトノベルにおいて、主人公は神に貰った
「もしかして、僕は今からチートスキルを貰って異世界に送られる・・・んですか?」
「ふっふっふ・・・そうだ、と言ったらどうする?」
奴の顔は相変わらず見えないが、ニヤニヤと笑っているにちがいない。異世界に行ってチート無双する・・・今まで本の中の主人公の行動を、読書を通じて追体験することでしか味わえなかった冒険に身を投じるチャンスが目の前に現れた。いったいなぜ?目の前の神は何を目的として僕ごときにそんな大それたチャンスを授けようとする?
「ど、どうして僕なんかに?」
「そんなこと、今はどうでもいいだろう?さあ、質問に答えたまえ!神は気まぐれ、早く答えないとやめちゃうかもよ?」
こんな機会滅多に・・・いや、きっとこれが人生最後の機会だろう。僕の心はずっと前から決まっている。
多分顔があるであろう光り輝く首に向かって、できる限り誠意のある態度で告げた。
そう言って思い切り頭を下げた。異世界転生なんて、絶対に御免こうむりたい。どうにかしてこの状況を切り抜かなければならない。お願いだからこんな危機は人生最後にしてほしい。体感にして数分間、たっぷりの沈黙がその場を支配した。
「・・・え?嫌なのかい?だって、異世界転生だよ?君の本棚に会った小説の内容ほとんどそういうのじゃないか。本当は嫌いなの?」
「いや、好きなんですよ。異世界転生モノ。でもそれは本のジャンルだけの話しであって、実際に体験したいかって言われると・・・」
「へぇ、そうなんだ・・・どうして嫌なんだい?好きならなおの事体験してみたくなるものではないのかい?」
「だってめんどくさいじゃないですか。」
神様が問いかけした瞬間、即答した。思わぬ回答だったからか驚いた様子の神様はほんの少し沈黙した。だが同時に興味が湧いたらしい。彼に話を促され、茶菓子を口に放り込み、コーヒーで飲み下してから説明する。
「異世界に行くってことは、新しい世界で、新しい言語で、新しい常識の中で、なにからなにまで全部一からのスタートってことです。転生するってことはガキになるから本当の意味で一から人生やり直しですよ?
そんなの死ぬほどめんどくさいじゃないですか!たとえ言語が同じとか、元の世界と常識なり文化なりが同じとか、そういったご都合的な世界だったとしても、めんどくさい!
僕は来月からの高校三年間と運が良ければさらに大学四年間、合計七年間も実家で楽な暮らしができるかもしれないんです。七年間も限られた環境の中でぬくぬくと働かずに楽ができる安心を捨てるなんてとんでもない!僕はできるだけ努力したくないしできる限り楽がしたいんです!」
異世界に行くことを望む数多の主人公たちを、幾つもの物語を通じて見てきた。僕は、彼らが獲得した素晴らしい幸福をとても
美しく、気立てがよく、おまけに自分に好感を持って接してくれる女たち。
向かうところ敵なしのチートスキルで、敵をバッタバッタと蹴散らす爽快感。
結果だけ見たらなんとも妬ましく、心底欲しい。しかし、彼らのように幸福になるためには彼らと同じだけの努力が必要なのは必然であり、たかが
困ったような、呆れたような、そんな雰囲気の神様は納得したように、そして同時に理解できないといった様子で溜息を吐いた。
「なるほど。君は類を見ないほどのめんどくさがり屋みたいだね。実は君以外の、君と同じような趣味をした人間ともお喋りをしたが、皆大喜びでチート能力と異世界転生をねだったものだが。」
「ぶふっ!ふっふっふ・・・」
なんとなんと!可哀そうな人がいたもんだ・・・思わずコーヒーを吹き出してしまった。朝っぱらから自称神様とお喋りなんてびっくりしたが、なかなか愉快な朝じゃあないか。クックック、と笑い出した僕に対して神様は不思議そうに訪ねてきた。声のトーンからして、どこかムッとしている様子だ。
「なぜ笑うんだい?そんなに憧れのシチュエーションに、夢に巡り合えた人間が喜ぶ様子が面白いかい?」
「ふふふ・・・だって神様。ある程度現実が充実していて、家族や友人とか大切な人が居るのなら、僕のようにめんどくさがりじゃあなくても、全てを捨てて新しい世界に行きたいだなんて普通願わないと思うんですよ。死んでしまって生き返ることができないから仕方なく、っていうならわかりますがその人たちも僕と同じでまだ生きている人たちなんでしょう?つまり、現実に不満があるけど現状を変える努力もせず、そのくせ機会があれば自分でも努力できるなんて考えている可哀そうな人ってことじゃあないですか。」
「そうはいっても、だ。本人のみの努力だけでは覆りようのない、不幸な環境に居る者にとっては千載一遇のチャンスだろう。そういった生き直しの機会を手に入れた者さえも、君は笑うのかい?祝福するべきだろう。」
「生き直しの機会を手に入れた人?どん底からの一発逆転を狙ってよく分からないギャンブルに手を出さざるを得ない可哀そうな人なんて、余計笑えるじゃないですか!」
すべての人間が幸福な家庭、恵まれた環境に生まれたとは限らないし、そんな環境を必ず打開できるほど努力は万能じゃない。僕自身もそこは理解しているつもりだ。僕が笑った可哀そうな人達の中には、どうしようもない現状や、努力だけではどうしようもない壁にぶつかっている者もいるのだろう。
「自分よりも不幸な人間があがいてる姿なんて最高に面白いじゃあないですか!そういった人間こそ、大いに笑うべきです!サクセスストーリーとかシンデレラストーリーとか、神様も好きでしょう?不幸から逃れようとして必死な努力や無謀な賭けをする人を見ていると、なんかあいつら頑張っちゃってんなぁ!ああ僕はあんな境遇じゃなくて良くてよかったなぁ!って安心できるんです。
もしかしたら神様は僕が人の事情も知らずに、勝手にその人のことを決めつけて笑うのを咎めたいのかもしれませんが、僕は面白かったら他人の事情なんて知ったこっちゃないですよ。むしろ不幸な事情があった方が
じゃなかったら
なんていうか、蜘蛛の糸を垂らしてそれをよじ登るカンダタを眺める仏の気分ですな!人が不幸に対して努力すること程面白いものは無い!はっはっはっはっは!」
まあ最近の量産型ライトノベルはご都合展開が酷すぎて面白さもクソもないんですけどね、と話を切り上げて茶菓子を摘まんだ。なんだか少し喋りすぎた。普段はあんまり喋らないのだけど、神様の前では自然と口が動き、言いたいことを素直にしゃべることができる。自分の考えを人に向かって演説するというのはなかなか気持ちがいいものだ。
神様という特異な存在ゆえに自然と口が開いたのか、普段聞いてもらう相手のいない自分の考えを聞いてくれる相手がうれしいからか。久しぶりに沢山動かした口と喉をねぎらうため、コーヒーを飲んで潤した。神様は僕の考えを肯定するでも否定するでもなく、ただじっと僕のほうを向いていた。当たり前だが、どうやら良い印象は持たれていないようだ。
「なるほど、君のことが分かってきたよ。ずいぶんと利己的で、めんどくさがり屋で、人を見下した人間のようだね。余程努力が嫌いでないと、そこまでひねくれた考えになって、努力を嗤うなんてできないだろう。どうしてそこまで努力を嫌うんだい?」
なんで努力を嫌うのか、なんて言われたことも考えたことも無かったな。カップに注がれたコーヒーを飲み干し、ソーサーの上に戻すと、また香ばしい香りと白い湯気がカップからあふれだした。いくつか食べたはずの茶菓子も、一向に数を減らしているように見えない。神様がいるだけあって何でもありだな。
こういう何でもありなチカラがあれば本当に努力いらずだな・・・なんでも思うがままなチートを貰えるなら異世界に行こうかな?いや、そもそも新天地で生きるのがめんどくさい。チートだけ貰って現実に返してくれないかなぁ・・・
「僕が努力するのを嫌うのは、努力しても確実に成果が出るわけじゃないからです。よく努力は裏切らないなんて言う人いますけど、実際はどれだけ努力しても目標を確実に達成できるわけじゃない。かといって努力をしなければ確実に目標を達成できない。だからひたすら努力し続けるしかない。例えるなら、泳ぐのをやめたら即溺死するけど進む方向に陸地があるとは限らない、広大な海に浮かぶ漂流者です。そう考えると努力なんて嫌になりません?」
生きるためには必要だが、いつまでやっても終わりのないものが努力。
その途方も無さに嫌気がさしたから、僕は努力が嫌いだ。しかし、世の人々は努力を称賛し、ひたむきに目標に向かって努力する人であふれている。彼らのような努力家は、努力が実ることを疑わず、努力をし続けることのなかに幸福を見出している、まったく反吐がでるような連中だ。
「それでも努力を嫌いにならない連中はみんな一生懸命で、一心不乱で、努力は不確実だとかそんなこと一切考えずに頑張り続けて、努力が実ったならとっても喜んでいる。
だって、彼らは
よく「生まれた意味」なんてあくびの出る話題を語る人がいるが、僕は人間にもこの世にも意味や価値なんて無いと考えている。しかし「努力」はどんなモノや人間にも意味と価値を創造する。努力し続けるということは、無価値で無意味な人生に付加価値を生み出す、世の中に価値ある存在を生み続けることなのではないだろうか。
価値や意味が、努力を嫌がらなかった者にしか与えられないのなら、俺のように怠惰な人間には人間としての価値がないのだろうか。
「人生とは人間の価値と幸福を追求するもので、努力することでしか人間に価値を付与できないし幸福にもなれない、つまり
そんなこと、
一気に捲し立てた僕は乱暴にティーカップをテーブルにたたきつけた。興が乗りすぎて最後の方は口調が乱れてしまった。僕の努力に対する思いの丈を静かに聞き続けていた神様は、テーブルの上で手を組み、実に満足そうな様子でうなずいている。
彼は、まるで堪能し終えたフルコースの総評を、どのようにして目の前のコックに伝えてやろうかと思案している評論家のようで、じっと僕に視線を送っている。
「なるほど。君の『努力観』は理解できた。努力しても幸せになれないから努力で幸せになる者を嗤っている。努力によって人間に価値が生まれること、そして努力のできない自分に人として価値がないこと、それを理解しているが納得はいってない。なるほど、確かに君の考え方の通りなら君は人間未満のヒトデナシだろう。ハッキリ言って、私は君のような
君は人間未満のヒトデナシ、などというトゲトゲしい語句に反して口調はとても穏やかだ。しかし、そんな穏やかな様子は『さてどんな面白い事をしてやろうか』と思案しているようにしか見えない。その『面白い事』とは、神様の一人よがりな物ではなくお互いに笑いあえるようなジョークなのだろうか?ゾクゾクと嫌な予感が背筋を這いあがってくる感覚を覚えた。
僕は嫌いな人物に出会った場合、遠ざかるか陰湿な嫌がらせをする。僕のことを嫌いだと言い切った神様は、僕に対して何を仕掛けてくるのだろう。さっきまで饒舌に語った僕の口は何も話すことができなくなり、嫌な雰囲気に思わず奥歯を噛みしめた。
「さて、さっき私は君とおしゃべりをするのが目的だと言ったが、実はもう一つ目的がある。安心してくれ、異世界転生なんて話題を振ったけど元からそんなことするつもりはない。私はいろんな人とおしゃべりをして、その人がどんな人間でどんな考え方をしているのかを聞くのが趣味なんだが、ライトノベルにはまってからもう一つ趣味が増えてね。
おしゃべりした人間に何かしら『能力』を
案の定というか予感は的中し、笑えない事を言い始めた。流石は神様、僕の話を静かに聞いた上で話をさらに促してくれる良き聞き手、良き理解者だと思っていた。が、数々の神話に登場する神々と同じで尊大かつ傲慢なこの世の独裁者だったようだ。何の権利があって人様をこんなところに呼び出して、勝手に能力を押し付けてくるんだ!何様だ!神様でした。
実にめんどくさそうな宣告を受けて固まっている僕を尻目に、神様はワクワクが止まらないといった様子で身振り手振りに表現しながら、自分の思惑を、まるで自分の考えたサイキョーのロボットを語る少年のような声音で語り始めた。
「色々なライトノベルを読んでいるとなんだか私も創作したくなってね!かといって普通に書いても何番煎じか分からないような内容の作品ができるだけだし、そもそも作ったところで私には発表する場がない。それなら私にしかできない方法で創作活動しようと思いついたんだ!つまり、人に干渉して人の世界を混乱させれば、とんでもなく面白いストーリーが生まれるのではないか!?とね!この世界を舞台にすれば沢山の人を否応なく
「いやいやいやいや!そんなめんどくさそうな事押し付けないでくださいよ!何が創作活動ですか!あなたの娯楽なんて知ったこっちゃないです!僕は怠惰に、ダラダラと、頑張ってる人を小馬鹿にしながら生きていたいんです。世に混乱をもたらすとかストーリーを産むとか、そんな努力はしたくない・・・」
「君のように努力を嗤う人間未満のヒトデナシは嫌いだと言ったが、私も人の努力を見て楽しむ同じ穴の狢かもしれないね。サクセスストーリーもシンデレラストーリーも底辺の成り上がりも大いに結構!大好きだ!今までは君が『仏』だったかもしれないが、今回は君が『カンダタ』だ。せいぜい慣れない
この野郎なんて邪神だ!自分の考えを熱弁することで上がりきっていたボルテージは急激に下がっていき、これから訪れるであろう波乱万丈の体験を想像し、思わず頭を抱えてしまった。
チート能力に憧れがないわけではないが、最強の肉体とか最強の魔法とか貰っても日常生活がほんの少し便利になるだけ。そのほんの少しの便利のためだけに作・神様の現代ファンタジー作品の登場人物にされるなんてとんでもない迷惑だ。ほぼ確実にトラブルに巻き込まれるに違いない。異世界に送られて全てをリセットされるよりかはマシかもしれないが、平穏でめんどうの少ない日常が乱されて少なからず努力しなくてはいけなくなるなんて、あぁ最悪だ・・・
ひたすらにナーバスでネガティブな気持ちになったが、ここで気持ちを入れ替えて前向きに考えなくてはひたすらに落ち込み続けてしまう。まあ、全能なる
思い描くのは最も楽な道。楽するためなら
「確かに、私の描くストーリーの登場人物として、世の中の混乱に巻き込まれていくというのは非常にめんどくさい事になるかもしれない。しかしこれは君にとってもチャンスになるかもしれないよ?」
「チャンス?」
「避けられないめんどうとは、言い換えれば能動的にできる努力だ。努力を嫌い、努力ができない君ですら『努力せざるを得ない』状況にいれば、君が渇望する『努力による幸福』が理解できるのかもしれないよ?そうすれば君もヒトデナシを脱却だ。自分はヒトデナシなんだ、という疎外感が無くなれば多少は『人らしい』幸福を享受できるかもしれない。そう、これは君の更生に必要なのさ。」
僕が、努力を、幸福に感じるようになる??そんなこと天地がひっくり返ってもあり得ないだろう。神様には、自分はまるでヒトデナシでそんなの認めたくないよう!と言ったが、別に真人間になりたいわけではない。変えたいのは己ではなく、世界なのだ。いまさら人らしい幸福なるものを理解できたところでそれが楽につながるとも思えないしな。
まさに、神様の自己満足的な更生指導。どこまでも腹の立つ、独善的な存在だ。
そうだ、もっともっとポジティブに考えよう。努力は嫌いだが、面白い事は好きだ。正直、ライトノベルのような体験ができるのは、ほんの少しだけうれしい・・・かもしれない。多少日常が面白くなると考えたら、ある程度のめんどうは許容しようかな?
というかそう思い込まないと、これから起きるであろうめんどうを許容できそうにない。
無理だとは思うけど、努力の良さを理解できるような愉快痛快な出来事が起きることを期待しよう。凄い能力を貰えれば、めんどうの最小化もできるかもしれない。そろそろ神様とのおしゃべりもめんどうくさくなってきた、唯々諾々に返事をして切り上げることにしよう。
「そしたら神様は、避けられない努力を通じてヒトデナシからヒトになれる、そんな能力をくださるんですか?」
「ヒトになれるかは君次第さ。私が君に授けるのは『ヒトデナシな君』にピッタリのものだ。ちょうど物語の悪役を出そうかと思ってたし丁度いい。」
「・・・?ちょっと待ってください。悪役って、どういう意味ですか?」
残酷な人間ティアを作る時、たぶんSには独善な人間と怠惰な人間が入ると思います。