男の娘が美醜貞操逆転のあべこべファンタジー世界から脱却しようと足掻く話 ~それでもスカート履くのを止められない~   作:シエスタさん

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29話 謎の集団に応対しよう

 人間、亜人問わず多くの人々が行きかうアーケード街。

 まだ昼過ぎといった具合で通りは活気に満ち溢れている。

 

 一番欲しかった和な意匠の服を買えたし、80%OFFクーポンも貰えてホクホク無表情顔で退店。

 新調した服に周囲の賑やかな雰囲気。もう少し何かしたいという意欲が湧いてくる。

 まだこの重厚感をアピールする懐のお財布と付き合っても良いだろう。

 

 他のショップを見て回ろうか。それとも軽食でもつまもうか。

 それにしても80%OFFって大きいよね。今度はナズナと一緒に行こう。次はナズナのコーディネートを——あっ。

 

「ナズナ置きっぱなしだった……」

 

 前後不覚のままここまで連れてきたから今どうなっているのやら。

 心配だしあまり長時間放置していたくはない。

 過ごしやすい気候の中、風通しの良い通りとはいえ、これ以上放ったらかしはよくない。

 

「そろそろ酔い冷めたんじゃない?一旦戻る?」

「最後に見た時はベンチで横になって爆睡し始めてたけど?」

 

 ……かなりベンチに置いてきたのを後悔し始めた。

 とはいえあれ以上無理に連れ回して歩かせていたら本当にリバースしていたかもしれない。

 何はともあれさっさとナズナを回収しに行こう。

 爆睡こいていた場合、こんなお洒落な通りのベンチで仲間を長時間放置はしたくない。

 

「じゃ、じゃあナズナを回収しにベンチまで戻ろう。その後何か食べて帰ろっか」

 

「さんせー!そうと決まればさっさと戻ろー」

「まだ酔ってたらルルが担いでく。むん」

 

 僕と同じく和な女学生ファッションの袖を捲って見せる二人。

 うん。これは目に嬉しい。

 そうと決まればアーケード街の入り口近くまで一旦戻る必要がある。

 移動しようとしたその時、雑踏の中でもよく通る声が響いた。

 

「ようやく見つけたぞ!君がアウリィ君だな!」

 

 その声量と威勢とは裏腹に、鈴を転がすような甘い声だ。

 周囲を見渡し、声の主を探る。

 足を止め、僕と同様に何事かと周囲を確認している人がちらほらいる程だ。

 

 立ち止まっていると雑踏の向こうからズンズンと三人組の女性が歩いてくるのが見える。

 こ、これは……。

 

「もう一度聞くぞ!君が——。あ、あー。えーっと……アウリィ……君だな!……あってる?」

 

 小さい。リリとルルと同じ、いや、もうほんの少し小さいくらいの背丈の亜人の少女が僕にそう問いかけてくる。

 燃える様な赤髪。体格に不釣り合いなほど大きな尻尾。蜥蜴のようでもあるが、恐竜と呼ぶにふさわしい程の大きさ。

 そしてインプ族のような小さなものではない、頭頂部で主張を続ける立派な二対の角。

 その少女が更にもう一歩踏み込み、僕を見上げ、そう問いかけている。

 まさにファンタジーの中に登場するドラゴンを彷彿とさせる特徴だ。サイズ感以外は。

 

「えーっと、そうだけど……何か用、かな?」

 

 あまりに距離が近すぎる少女はこちらに対して、空を仰ぎ見るような首の角度になってしまっている。

 逡巡した後、腰を屈め、同じ高さまで目線を落としてそう尋ねた。

 

 ぴゃっ!と小さく悲鳴を上げ、僅かに少女が飛び退く。

 

「いきなり格好いい顔のドアップは反則なのだ!」

 

 いや、先に目と鼻の先まで距離を詰めてきたのはそちらの方なのだが……。

 開いた間を確認し、二度三度頷いた少女は再度こちらに向き直る。

 

「……うむ、うむ!君がアウリィだな!冒険者ギルドで噂を聞き、吾輩の悪人センサーにビビビッと来たので成敗せねばと探していたのだ!」

 

 ——え?悪人?僕が?

 またぞろ厄介事だとでもいうのか。

 正直三人組という時点であまりいい思い出も無い。

 困惑している僕に少女の影のように付いていた人影が割って入る。

 

「アウリィさんですね。失礼します。わたくし達は——」

 

 服飾店の立ち並ぶ通りに負けない程に瀟洒なアンティークドレスに身を包んだ女性だ。

 しかし露出している膝や手首には球体関節が見て取れる。

 僕目線、整った顔立ちである事も加味して彼女もまたなんらかの亜人だと言う事が窺える。

 

「私達は……なんなんでしょうね?」

 

 無表情にとぼけて見せる。

 この集団の中で頭一つ抜けて背の高いドール?の女性が放つボケ。張り詰めた空気が弛緩するのを感じる。

 何なのだろうか。この人たちは。

 困惑する僕の視界の端ではリリがズッコケている。

 

「ちょっと!オリヴィア!邪魔するななのだー!今は吾輩が喋っているのだ!」

 

「申し訳ありません。ドラ子様。出過ぎた真似をしました。……ちなみにアウリィ様、リリ様、ルル様。これは自己紹介も兼ねていますのであしからず」

 

 恭しく両の手でドラ子様と呼ばれたちみっこを指し示すオリヴィアと呼ばれた女性。

 こちらの名前程度は把握済みということらしい。

 

「ドラ子じゃないのだ!ドラグニル・インフィニット様なのだ!」

 

 そう捲し立てる少女をスルーし、こちらへ握手を求めて手を差し出してくる。

 大丈夫かなこの人たち……。

 

「あ、ご丁寧にどうも……。ご存じらしいですが、僕はアウリィって言います」

 

 それでもつい前世の癖でお辞儀を交えながら応じてしまう。

 血の通っている気配のない、ひんやりとした感触が手に返ってくる。

 しかし、肌のきめ細やかさというのはあるのだろうか。

 不気味さや不快感と言ったものはなく、むしろ握り返してくる感触が心地よい。

 

「そして私はオリヴィア。以後よろしくお願いします。そしてそしてですが、引っかかりやがりましたね。そのポーカーフェイスはお見事ですが——」

 

「かかったのだ!やれ!オリヴィア!アウリィ君の化けの皮を剥がすのだー!」

 

 勝ちを確信した笑みを浮かべ、大きく右腕を空へと突き上げるドラ子ちゃん。

 しまった。どう考えてもファーストコンタクトが好意的では無かった相手に迂闊だった。

 しかしこんな人の往来の多い場所で一体何をするというのだ。

 オリヴィアさんの顔を見つめるが、そこからは何も読み取れない。

 

「……え?な、何?あの、オリヴィア……さん?」

 

 カタカタカタ、と三回。オリヴィアさんの手首——いや、全身が震える。

 握手の為に握っていた右手の感触が一気に軽くなる。

 その瞬間、オリヴィアさんの身体がバラバラとなり、文字通り崩れた。

 

「……は?」

 

 バラバラ殺人事件もびっくりの早業。

 嗚呼、そのお洒落なフリル達って関節ごとの露出をフォローするために独立しているのね。特注なのかな?

 やっぱり球体関節らしく取り外しができるのね。

 現実逃避に似た、思考のノイズも僅かの間。

 気が付けばあっという間にこの場の誰よりも小さくなってしまったオリヴィアさん。

 その首だけこちらを相も変わらずクールに見上げている。

 

「きゃああっ!?——ちょ、ちょっとオリヴィアさん!大丈夫ですか!?」

 

 慌てて生首だけになったオリヴィアさんを拾い上げる。瞬きもしているし、瞳孔にも異常無し。

 いや、そんな話では済まない惨状ではあるんだけど……。

 ど、どうしよう。

 とりあえず組み立てようか。胴体部分は目につくところに転がっている。

 え?でも女性にみだりに触って良いものなのかな?

 いやいや、そうも言ってられない。とりあえず首と胴体を近づけて……。

 

「はーっはっはっは!亜人を誑かし都合よく搾取するその甘いマスク……。アウリィ君!その正体見たりなのだ!」

 

 ふんぞり返りすぎてブリッジしそうな勢いのドラ子ちゃんが高らかに勝利を宣言する。

 ……宣言するが、今はそれどころではない。後で構って上げるからオリヴィアさんを何とかしないと……。

 

「ドラ子様。よく見てくださいまし。アウリィ様、動揺はされど嫌悪しているご様子はありません。……お聞きになっていませんね」

 

 あっ、喋れはするのね……。

 それでもこのままというわけにはいかないんだけれども。

 

「ムッ!思い、出した……!この三人組!一人は影が薄いけれど、ルルは聞きしに覚えがある……!」

 

「ええ~?こんなヘンテコな連中、リリは知らないわよ?ルルって妙な知識だけは無駄に多いわよね」

 

「無駄は余計。聞きしに勝る珍妙集団。亜人の権利を守ると喧伝して回る自称亜人自警団のちんどん屋」

 

 混迷を極める場でようやくルルが声を上げる。

 どうやら記憶の片隅にあった知識をサルベージしていたらしい。

 その話が本当ならあんまりな評判の集団だ。

 ——それよりこの関節って無理矢理はめ込んでいいのかな……?

 

 

「アウリィさん。実は私、自力でこの状態から復帰する事が可能でございます」

 

 しれっと不可逆の現象ではない事を言ってのけるオリヴィアさん。

 無駄にハラハラさせないでほしい。

 最初は心臓が止まるかと思ったほどなのに。

 

「それ早く言ってね!心配したじゃんか、もう!」

 

「殿方に心配される経験が貴重でして、つい。申し訳ありません」

 

 宣言通り、各々のパーツが浮かび上がり、接合を繰り返しながら元の姿へと再形成されていくオリヴィアさん。

 ああ、良かった。特に大事に至るわけではなさそうだ。

 

「にゃはは~知る人ぞ知るって感じだからね~ウチら。知らなくても無理は無いかも~?」

 

 突如、脇から能天気そうな声が挙がる。

 

「所で君はどちら様……なのかな?」

 

「三人目!私、三人目だから!影!薄いけど!」

 

 そう捲し立てる少女の目は一つしかない。

 事態は混迷を極める一方だ。

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