男の娘が美醜貞操逆転のあべこべファンタジー世界から脱却しようと足掻く話 ~それでもスカート履くのを止められない~ 作:シエスタさん
「三人目!私、三人目だから!影!薄いけど!」
「……って誰が影薄いって!?失礼しちゃう!……本当に影は薄くないけどね?大丈夫だよね!?」
そう、単眼の少女が捲し立てる。
行きかう客で賑わうアーケード街。勘違いして高笑いを続けているドラ子ちゃん。
バラバラ事件から復帰しつつあるオリヴィアさん。それに胡乱げな眼差しを向けるリリ。
面倒くさそうに嘆息するルル。そして——未だ見つからないナズナ。
「はぁ……あのー、オリヴィアさん、ドラ子ちゃん。これは一体どういう事?」
ルルに習い、嘆息を交えつつそう尋ねる。
人体バラバラドッキリを仕掛けられた上にその理由が化けの皮を剥がすだなんて。
心当たりなんてさっぱりない。
それどころか無駄にドキドキハラハラさせられただけでちょっとむっとしてしまうくらいだ。
「はいはーい!私はアイリスって言いまーす!アイちゃんって呼んでね~」
僕の困惑した声色を意に介さない様子で能天気な声を上げる単眼の少女、もといアイちゃん。
一つ目って結構怪談ではメジャーだけれども……。
こうやって小刻みに跳ねながら、快活な声を上げている様子からは不気味さ等の要素は拾えない。
「……オリヴィアさん、ドラ子ちゃん、アイちゃん。これはどういう事?」
自然と視線が交錯するとアイちゃんはニヤケ顔になった。
何となくナズナと同じ匂いを感じ取る。
「ふっふっふ。そう尋ねられては答えないわけにはいかないよね~。……ってちょっと待っててね」
そう言うや否や、いそいそと準備を始めるアイちゃん。
パンッ!乾いた音が鋭く響く。
唐突に高笑いを続けるドラ子ちゃんに猫だましをかました。
最早ブリッジ寸前だったドラ子ちゃんが慌てて姿勢を戻す。
よくひっくり返らなかったなぁ。凄い体幹だ。
「のわっ!びっくりしたのだ!アイ~、急に驚かさないで!怖いから!」
「ごめんごめーん。でもリーダー。アウリィさんさ、ボロなんて出してないよ~ん」
むっ。そうなのか……。と少し意気消沈した様子のドラ子ちゃんの肩を押し、僕たちの真正面まで誘導する。
「ほらほら、元気出して!というわけでいつもの奴、ね!さ、そこに立って立って。バッチリ決めてね~」
「う、うむ。わかったのだ。いつもの奴、楽しみなのだ!」
「オリヴィアちゃんはこっち~」
「承知しました」
棒立ち待機状態だったオリヴィアさんも誘導し、センターにドラ子ちゃん、左右を固める形でオリヴィアさんとアイちゃんが立つ構図となる。
というかこれを馬鹿正直に待つ身にもなって欲しい。
行きかう人々からの奇異の視線がさっきから痛いんだよね……。
「待たせたな!なのだ!」
「アウリィ様、お待たせ致しました」
「リリちゃんとルルちゃんも。おまた~」
各々のテンションで準備完了を告げられる。
正直こっちは謎のテンションに疲れ気味だが、用件があってわざわざ僕を尋ねに来たのだ。
無下にする事も出来ないので、少しばかり姿勢を改める。
「改めて名乗るはドラグニル・インフィニット!」
えへん!と一つ咳ばらい、声高に名乗りを上げるドラ子ちゃん。
その声は非常に透明感のある綺麗な声で……とてつもなく大きい。
あの、ここアーケード街……。
「よっ。その正体は?」
脇でオリヴィアさんがポンと手を一度鳴らしつつ、無感情に囃し立てる。
一々このノリじゃないと駄目なのかな。
「その正体は!哀れ、内心では亜人を蔑む男の甘い誘惑に乗っていいように搾取されてしまう亜人達の被害を未然に防ぐ活動をする亜人自警団三人組!」
「ひゅー、格好いいー。防いだ事件は数知れず。あっ、ちなみに起こした事件も数知れず、あしからず。主にリーダーが原因だけど~。で、果たしてその名は~?」
最初っから無視するべきだったわ……。とリリの声が零れ出る。
僕もそんな気がしていた所だけど、多分もう少しだから我慢してあげて……。
「うむ!チームヤミナベ!ここに見参!なのだ!」
どおーん!と口で効果音を叫びながら何となく格好いいポーズを披露して見せるドラ子ちゃん。だから声量……。
脇ではオリヴィアさんがセンターを立てるように無表情に手を広げ、アイちゃんが我関せずのニヤケ面で突っ立っている。
「わ、わあー……」
どういう反応をすればいいのやら。一先ずぱちぱちと拍手を送る。
どうにも乗り切れないのは勘弁してほしい。
リリもルルもなんとか同調して力なき拍手を共に送ってくれている。
「うわ、見てあそこホラ……あのちんどん屋連中……」
「うーわ……ヤミナベの連中じゃん……いこいこ……」
至る所から通行人のヒソヒソ声が聞こえてくる。
居た堪れない。 か、帰りたい……。
「で、そのヤミナベが僕達に何の用ですか?亜人を搾取しているとか言っていましたけど」
こういう時は話を進めるに限る。
誤解だというのならさっさと解いてしまえばいいのだ。
「うむ!吾輩が裏通りのギルドでいつもの情報収集に勤しんでいる時だった……悪はいついかなる時でも忍び寄るもの……なのだ」
「あの、連れを待たせているので巻きでお願いします」
言葉を遮ってオリヴィアさんとアイちゃんへ水を向ける。
涙目でドラ子ちゃんが睨みつけてくるが……。
——こういう時は話を進めるに限る。ごめんね。
「ま~平たく言えば、亜人と仲良くパーティー組める男なんていない!ってリーダーが決めつけちゃった感じ?それで一目見ようとここまで出張ってきた訳なんだよね~。にゃはは」
「ドラ子様の活動は直感に従った猪突猛進スタイルですので。私の先ほどの様子を見、本性を暴かれる男性も少なくはないのです。決して迷惑千万なだけではないのですが……。どうやらアウリィ様は違うご様子」
優しい手つきでした……。とポッと赤面して見せるオリヴィアさん。
あれは一種のテストだったのか。とはいえ余りにも心臓に悪すぎる。
亜人に悪感情を抱いていないにしても、もう少し心臓が弱ければ気絶していたかもしれない程だ。
オリヴィアさんを行く先々でけしかけていくドラ子ちゃんとそれに追従するアイちゃん。
……そりゃ癖の強い集団扱いされるわけだ。
「なるほど……。それじゃあ僕の嫌疑は晴れたって事でいいですか?」
どうやら悪い子たちではないらしい。とてもではないが、悪意なんて感じられない。
実際に亜人の被害者が出る様な搾取や事件も起きているとなれば、その活動自体に意義があるのも事実なのだろう。
もう少し落ち着いて捜査なりを進めて欲しい所だけれど……。
「いーや!まだなのだ。バラバラオリヴィアを前に平静で居られるのは賞賛に値するけれど、これだけで潔白とは言えないのだ。アイ!次の手は!」
なおもしつこく食い下がるドラ子ちゃん。どうやらもう少し付き合う必要があるらしい。
実績のあるチームらしいが、やはりこのドラ子ちゃんの猪突猛進っぷりだけは何とかした方がいいと思う。
「へ?次の手?あー、うーんと……ないよ?」
「なぬー!?それではあの騙されているかもしれないインプたちと獣人が救われぬではないかー!」
次の手無いんかい。つい心の中でツッコミを入れてしまう。
それはそれとして本気で亜人の事を慮っているんだな。
なんとか和解したい所だけれど……。
「だってさー。オリヴィアちゃんのあのバラバラ分解っぷりを見れば大半の詐欺師はゲロっちゃうって」
「まあ確かにあの光景はショッキングだったけど……」
あんなの詐欺師じゃなくたって腰を抜かす。
僕が何かやらかしてしまったのかと肝が冷えたものだ。
「ちょ、ちょっと待つのだ……。今からアウリィ君の本性を見極める試練を考えるのだ……」
「ドラ子様の要望により、作戦タイムを要求します」
「ごめーんね!もうちょっと待ってて~」
そういうと三人は円陣を組んでヒソヒソ話を始めてしまった。
また待たされるのか……。もう帰っても良いかな。
折角の四人での楽しいお買い物なのに。
……あれ?四人……?
「おーんおんおんおん……」
彼方から、余りにも情けない啜り泣きが聴こえてくる。
というか啜り泣きなのに妙に響いているのは——。辺りの客が静まり返っているからだ。
ヤミナベの三人もぎょっとした顔で声の主を探している。
「ふえぇ……。アウリィさん……リリちゃん、ルルちゃん……。どこに行ったッスか……。ナズナを、ナズナを一人にしないで欲しいッス……」
べそをかきながらよぼよぼと歩いてくるナズナが遠くに見える。
店舗からアーケード街入り口までそこそこ距離はあるだろうに……。そこそこ彷徨っていたのだろう。
チームヤミナベのインパクトが強すぎて完全に忘れていた。嫌な汗が背筋を伝う。
横目でリリとルルを窺うと、視線がばちりと交錯した。あ、これは二人も忘れていたな……。
「というかここはどこッスか……?こんなシャレオツな場所にナズナを、ナズナを一人でぇ……!うあはぁぁぁん!」
あ、泣いた。往来のど真ん中で蹲り、泣き出してしまったのが見える。
ナズナは迷子センターも、僕らも見つけられなかったのだ。
「哀れナズナ。ルル達を目前にして涙腺が耐えきれなかった」
「お、おにーさん。何とかしてよ……」
こんなことをしている場合ではない。
パーティーメンバー的な意味でのうちの子をあんな衆人環視の中に晒し続ける訳にはいかない。
「す、すいません。ヤミナベの皆さん!今日の所は解散でいいですか!?後日ならなんでも応じますから!」
「わ、わかったのだ。時間を取らせてすまなかったのだ」
一礼をし、チームヤミナベに別れを告げ、ナズナの元へと駆け寄る。
その後どうやって帰ったかはよく覚えていない。
こちらを見つけて号泣するナズナ。突き刺さる周囲の視線。
ナズナの涙と鼻水に塗れた新調したばかりの服。そして謎の三人組と交わした約束。
兎に角色々あり過ぎたのだから。
「ア゛ウリィざぁん……おんぶして連れ帰ってくだざぁい!」
「それは体格差的にちょっと無理かなぁ……!」
友人が主人公の絵を描いてくれました!
恥ずかしいのでキャラの特徴だけ伝えて、あとはフィーリングで描いてもらったものなのですが、作者としてもぼんやりしていたキャラ造形がくっきりした、ありがたい一枚です。
他の小説投稿PFでは表紙としても活用させてもらっています。
1章の終わりである3話にも同文と共に同じ画像を掲載させて頂いております。