男の娘が美醜貞操逆転のあべこべファンタジー世界から脱却しようと足掻く話 ~それでもスカート履くのを止められない~ 作:シエスタさん
ヤミナベの三人が同行するダンジョンアタック。
共闘するわけではなく、あくまで彼女らは自衛と観察に徹すると宣言した。
しかし、僕はリンゲージという珍しいスキル持ちであり、それを軸に闘っている。
そのせいで独特の陣形、主に僕だけがナズナの術の加護を受けて後方に控えているのだ。
そのことを伝えると、流石に前線の邪魔は出来ないという事でヤミナベの位置取りは僕に付く形で落ち着いた。
ちなみに各々しっかりと得物は装備している。当然の話だが。
ドラ子ちゃんの身の丈を超える程のハンマーはちょっと——いや、かなり男の子心をくすぐられる。
「うーむ。亜人を矢面に立たせて自分はぬくぬくと後方待機……?それともあくまで絆の形?わ、わからなくなってきたのだ……」
頭を抱えるドラ子ちゃんを尻目にオリヴィアさんとアイちゃんは平然とした反応。
何となくだけど、この二人はそもそも僕達をもうそれ程疑っていないように感じる。
「ご入用の際は何でもお申しつけ下さい。アウリィ様」
「にひひっ。こんな別嬪くんの傍に居られるなんて超ラッキー。しかも一つ目の私にすら態度変えないしウルトララッキー!——あっ、今の聞こえてた……?」
二人揃ってこんな具合だ。
ちなみにアイちゃんの問いには曖昧な笑みで誤魔化そうとしたが、僕の表情筋は相変わらず仏頂面を固持したまま。
自然と視線だけで人を殺めかねない視線を送るだけになってしまう。
「ど、どうしよう。アウリィさん怒らせちゃったかも……!あの顔見て!虫を見る目だよ~……」
「やらかしましたねアイちゃん様。男性による亜人搾取の構図の打倒を目指す私達にあるまじきセクハラ発言かと。後でヤミナベ裁判です」
アイちゃんの大きな一つ目が歪み、薄っすらと涙が浮かぶ。
情緒不安定か?と思うかもしれないが、実は初対面の亜人の方々にはありがちな反応だ。
男性の機嫌を損ねる事の重大さもあるのだろうが、自分にとってはそんな冷たい表情が一向に改善されていない事の方がショックだったりする。
「あ、いえ。アイちゃんの発言に怒っている訳じゃないです。そうだ、無事ダンジョン攻略出来たら、皆で一緒にプリンを食べましょう」
一瞬、プリン?と三人の頭に疑問符が浮かぶ。
が、それもつかの間。食事に誘われたとアイちゃんのテンションは大いに盛り上がる事となった。
しまった。そういえば、ダンジョンに挑む最大の理由が巨大バケツプリンだと言う事は少し恥ずかしくて共有するのを忘れていた。
……まあ問題は無いかな?
さあ、ダンジョンアタック開始だ。
既に入り口からでもごうごうと大きな風音が鳴り響いている。どうか、どうか今回も皆が無事に攻略出来ますように。
ダンジョン入り口でのあの儚い願い。全力で撤回したい気持ちに僕は苛まれている。
ダンジョンに入って暫くは順調だったのだ。
「精神魔法使うまでもなーいっ!燃やすね!そして凍らせるねっ!あっ、これリンゲージのおかげでもあるからそこんとこよろしくー!」
「特に語る言葉も無し。はー。ちぇりおー!」
「こうも二人の火力が過剰だと余裕ッスねぇ。結界の一枚も破られる気配が無いッス。というわけで狐火で追い火っと」
今のリリ、ルル、ナズナの三人には取るに足らないモンスター達。
岩石のモンスターは魔法で燃やすわ凍らせて割るわ、ルルが大きな鳥モンスター目掛けてぶん投げるわ。
ヤミナベも、三人の戦闘力が想定以上だったことに目を丸くして眺めている。
三人は得意げにこちらを一瞥し、瞬く間にモンスターを殲滅してしまった。
こうなれば先に進むだけの単純な作業だ。
それだけのはずだったのに……。
渓谷に頼りなくかかり、大きく風でうねるか細い吊り橋。
下を見れば、激しい濁流が轟音を立てている。風の強さも一際だ。
とはいえ、ダンジョン内の生成物は割と頑丈な作りになっている。
意図して破壊しない限り早々壊れないし、仮に壊れても時間経過で修復されるなんとも優しい設計。
そんなか細い吊り橋。ただ渡るだけだったのだが、最大の誤算が待ち構えていた。
「うわわっ!お、おにーさんのスカートが……もうちょい!そこ!」
「頑張れ風!出来る出来る!どうしてそこで諦めるんだ……!やればできる……!」
「リリちゃん、ルルちゃん。はしたないッスよ。こういうのは目を皿にして一瞬のお宝を目に焼き付けるのが王道、出来る淑女の嗜みッス」
先に橋を渡るリリ、ルル、ナズナの三人組。
各々、捲れ上がるスカートを意に介す事も無くさっさと渡り終えてしまった。
その後はこちらに応援のような何かを声高に送っている。
「ス、スカートが捲れるっ!というか、三人は自分のを隠して!丸見えになってるからー!」
彼女らが先行していた時は目を瞑って見ないようにしていたが、今はそうもいかない。
上下に激しく揺れる吊り橋の上でせめて自身のスカートを抑えるように要求するが、聞く耳を持ってくれない。
先に吊り橋を渡り終えた三人へと、風に負けないつもりの声量で叫ぶ。
……それでも僕の声量ではイマイチ声が届いていないのかもしれない。
普段からダンジョンにはスカートで付いてきているからここまで頭が回らなかった。
「ア、アウリィ君!我々は何も見ていないのだ!」
「アイちゃん様はわかりませんけどね。私?ええ、私は覗いたりしませんとも」
「え~?私だってそんな事しないよ~。二人こそこっそり指の隙間から……とか見てない?」
真後ろから聞こえるヤミナベ達の声にも反応出来ないほどいっぱいいっぱいだ。
正直、スカートを抑えるにも限度がある。
片手はそれでも吊り橋を握らないと不安で仕方がない。
後ろは全開になっていると思うと、顔から火が出そうな思いだ。
実際にはこんな状況でさえ、顔色一つ変わらないんだけれども……。
「が、眼福……!超眼福!ああ、ありがとう風さん!」
「そこだー。いけー。もっと捲れー」
「…………白ッスね!」
先行している三人は思いっきり鼻の下が伸びている。
って白——?
——白ッ!?
「ちょっ、見ないで……きゃぁっ!」
慌てて両手でスカートを抑える。全力ガードの構え。
三人にはプリン食べさせてあげない!
そう心に決めたその時——。
「ちょ、この橋凄く揺れ……。あっ。お、落ち——」
一際大きく吊り橋が揺れ、身体が大きく上空へ放り出される。
何となく、他人事のように認識した。
宙に舞う身体。突如襲い掛かる浮遊感。ああ、天地がひっくり返る。
どぼん。と一つ、本来なら大きな着水音が風の合間に掻き消される。
突如、水に叩きつけられた痛みと冷気が全身を襲う。
「アウリィ君!?くっ……待っているのだ!」
「アウリィ様!ドラ子様!ッ!」
「アウリィさん!?ちょっ、リーダーまで!?ああもう!」
もう一つの着水音が響いた事も、慣れ親しんだ三人の悲鳴も僕には届かない。
何が起こっているのか。今どうなっているのか。
溺れている事を理解する間もなく、僕はあっけなく意識を手放した。
死守は出来ていません。