リアルで美少女受肉した親友がVtuberを始めるようです   作:畑渚

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俺の彼女っす

「というわけで、もう一人プロデュースすることになった」

 

 帰ってそうそう開口一番。俺は光にそう告げた。

 

「なっ……」

 

 絶句する光。無理もない。明らかに女性と連絡をとってた矢先にこれである。

 

「バカバカバカバカ~!」

 

「光……」

 

 ぽかぽかとなぐってくる拳を甘んじて受け入れる。

 

「……今度はどんな人なんだ」

 

 拳が止まり、ぐっと服を掴まれる。

 

「元々配信をやってた経験者で、結構な大御所だ」

 

「……やっぱ俺じゃダメなのか?俺みたいなマガイモノじゃ」

 

「マガイモノってお前」

 

「俺は本物には成れないし、性別だって偽物だ」

 

「そんなこと考えてたのかよ」

 

 服を掴む手に、さらに力が入る。

 

「やっぱ仁も本物の女がいいよな」

 

「馬鹿野郎」

 

「わぁっ」

 

 光の頭に手を乗せて、わしゃわしゃと髪をぐちゃぐちゃにしてやる。

 

「別に女だから今回の話に乗ったわけじゃねえ」

 

「そりゃ仁のことだからそうなんだろうけど、じゃあどうして」

 

「……その人は光と同じだったんだ」

 

「俺と?」

 

「ああ。ある日を境に、人生の道を突然断たれた。そして今、再び立ち上がろうとしてる」

 

「まあそんなところだろうとは思ってたけど……」

 

「光?」

 

「不安なんだ。ココ先生だって俺の何倍もすごい人をすでに引き込む予定なのに、さらにその上の天井人まで引き込むなんていうから。俺は、そんなすごい人たちに勝てない」

 

「勝つだなんて」

 

「仁は俺を見捨てないよな……?例え勝てなくても」

 

「そもそも引き入れるってことは仲間になるってことだ。勝負の世界じゃねえよ」

 

「だって……」

 

「それに、その人が復帰するきっかけになったのは、お前の力だぞ、光」

 

「俺の力?」

 

 俺はユキの恐怖症の話と、光の配信で起きた奇跡を詳しく話した。

 

「お前の配信は確かにまだ数字上は成長途中だ。けど、こうやって誰かの力に成れてる」

 

「俺の配信が、きっかけに……」

 

「お前の配信は人を動かす力がある。それは本物の力だ」

 

「……そうだな。そうかもしれない」

 

「わかってくれたか」

 

 光は踵を返し、俺に背中を向ける。

 

「今日は仁の口車に乗せられとくことにするよ」

 

 俺はほっと息を吐く。何はどうであれ、年頃の女性と会っていたのは事実だ。そこを突かれると弁解が面倒だから。

 

 いや、べつに光は俺の何でもない親友なのだからいいのでは?

 

 でもなんか辞めといたほうがいいと直感が告げていたのでそれに従うことにした。

 

「光、明日の準備して早めに寝ろよ」

 

「明日?」

 

「忘れたわけじゃないよな?行くぞ、海」

 

「……やっべ」

 

 まじかよこいつ。

 

 

<=>

 

 

「うぉぉ!来たな!」

 

「……あちぃ」

 

 光は元気だな。俺は陽の光に焼かれてげんなりしながら、レンタルのパラソルを砂浜に突き刺した。

 

「どうだ、仁、海だぞ!」

 

 光が手を広げながら振り返る。

 チューブトップについた水色のフリルがふわりとはためく。惜しげもなく露出した腹部と太ももが、汗でじっとりと濡れ、太陽光を艶めかしく反射する。

 

「お、おう。海だな」

 

 実家に帰るよりも長い旅路だった。しかし来た甲斐は間違いなくあった。光がここまでテンションを上げるのは久々だ。

 

「はしゃぐのはいいけど、一人で行動すんなよ」

 

「なんでだ?」

 

「それは……、はぐれると面倒だろ」

 

 ナンパされるからとは言い難かったのでとっさに誤魔化した。

 

 悔しいが今の光はとても可愛い。それにシミ一つない肌は、正直ビーチを歩く有象無象からしてみれば眩しすぎる。

 何も羽織らずに水着を大胆に見せているのも、陽気さと勘違いされそうで、それはすなわち、女に声をかけることを生きがいにしている連中の格好の的になるということだ。

 

「あ、かき氷だって、俺ちょっと買ってくる!」

 

「あ、こら待て!」

 

 目にも止まらぬ速さでピューッと駆け抜けていく。

 そしてチャラ男の塊に囲まれ、そして手を引かれてどこかに……

 

「ぜぇぜぇ、すんません、こいつ、俺のツレなんで」

 

 なんとか割り込み、強めの力で腕を引っ張って取り戻す。

 

「なんだ、彼氏ヅレか」

 

「ちょ、仁は彼氏じゃ――」

 

「そうっす、俺の彼女っす」

 

 チャラ男たちの顔を睨みつける。どうか無事に事が済むように。

 

「そんな面すんなよ。彼氏いる女に手は出さねえよ」

 

「そっすか」

 

「お幸せに~」

 

 ヒラヒラと手を振りながら離れていくチャラ男たち。悪い人たちではなかったみたいで一安心だ。

 

「こうなるから一人で行動すんなよ」

 

「……」

 

「光?」

 

 光は顔を真っ赤にして固まっていた。

 

「熱でもあるのか?」

 

「だ、だ、大丈夫だ!そ、それよりかき氷、かき氷で涼もうぜ!」

 

「大丈夫ならいいんだが」

 

「……バカ」

 

 光が小さく呟いた言葉は、俺には届かなかった。

 

 

<=>

 

 

「飛び込み台だって!俺ちょっと行ってくる」

 

「怪我すんなよ」

 

「わかってるって!」

 

 久々の海は、気温との差だろうか、ひんやりしていてとても気持ちがよかった。

 

 小さい子たちの列に並んでご機嫌な光を、少し遠くから眺める。あそこならナンパもないだろうから安心だ。

 

 バシャーン

 

 大きな水柱を立てて、光が着水する。そのまま泳いで戻ってくる。

 

「なぁ見てたか!」

 

「ああ、見てたよ」

 

「はははっ、あーたのしー」

 

 光は心の底から楽しんでいるようだった。満面の笑みを見て、俺は海に来てよかったと改めて思った。

 

「なあ仁も泳げよ」

 

「俺はいいよ」

 

「なんだよ、実は泳げないのか?」

 

「……苦手で悪いか」

 

 光はきょとんとしたあと、ゲラゲラと笑い始めた。

 

「そんな笑うなよ」

 

「いや、だって」

 

「なんだよ」

 

「仁にも苦手なことがあったんだなって!」

 

「あるさ、俺だって人間だ」

 

「そうだな。配信するのも苦手だったな」

 

「……うるせぇ」

 

「冗談だよ。仁はそれ以上にすごい才能をいっぱい持ってる」

 

「慰めなんかいらねえよ」

 

「ほんとのことだ、よ!」

 

 びしゃっと俺の顔に海水がかかる。目の前には手を振り抜いた光。

 

「くそ、しょっぺぇ。やったな!」

 

 手のひらで海水を掬って、光にぶちまける。泳ぎまくってた光にはノーダメージだろうが、やり返さないという選択肢はなかった。

 

 びしょびしょになった後はパラソルで休んだり、消費したカロリーを売店で補ったりと、俺達は海を満喫したのだった。

 

 

<=>

 

 

「で、2人で海に行ってきたのかい?」

 

「ええまあ、そうですね」

 

 ココ先生とオンライン会議で、たまたま海の話題になってそう話した。

 

「釣れないねぇ、私も誘ってくれよ」

 

「誘ったら来たってことですか?」

 

「丁重にお断りしてたよ」

 

「なんですかそれ」

 

「日焼けに弱くてね。それにアウトドアは趣味じゃないんだ」

 

「なんでそんなんで誘ってなんて言うんですか」

 

「だって仲間はずれみたいじゃないか」

 

 そう雑談しながらも、シャッシャッとココ先生が何かを描く音は止まらない。相変わらずマルチタスクな人だ。

 

「じゃあ来年は誘いますよ。会社の企画ってことで」

 

「良いねぇ。あ、そういえばもう一人増えたんだって?」

 

「はい、そうですね」

 

「なかなかのやり手じゃないか。どんな人なんだい?」

 

「……なかなかの人ですよ」

 

「なんだって?」

 

「Vtuberユキ、ココ先生なら知っていますか?」

 

「ま、まさか」

 

「ええ、そのまさかです。その中の人ですよ」

 

 しばらく無音の空間が広がる。この話題はココ先生の作業する手すら止めてしまったらしい。

 

「彼女とは関わりがないが、彼女のイラストレーター、つまりママさんとは少し関係があってね」

 

「関係ですか?」

 

「昔馴染みなんだよ。専門学校時代の学友でね」

 

「それは良いことを聞きました」

 

「良いこと?」

 

「協力してくれませんか?説得に」

 

「何をする気だい?」

 

 ユキはHIKARIやココ先生と違って、すでにガワを持っているVtuberだ。転生するという選択肢もあるが、俺はそのままのガワを被って活動してもらいたいと頼み込んでいる。

 

 ただ配信界隈に身を置き直すのではなく、神話として復活してもらいたいからだ。

 

 だがそこで問題が一つ。

 

 ユキのガワは数年前の、実験的だった時代の、いわば過去の産物なのだ。

 とんでもない速度で成長してきたVtuber界隈に再度殴り込みをかけるというのだ。昔のガワでは、力不足である。

 

 しかしガワを更新するに当たってもっともネックとなるのが、担当イラストレーターとの交渉だ。

 

「新しく、しかし昔の面影のある、そんなガワを描いてもらいます」

 

 それがイラストレーター泣かせの依頼だとしってなお、俺はその選択肢を選び抜いたのだった。

 

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