「ハーメルンには、目の肥えた読者がいる」
そう聞いて飛び込んでみました。
どうぞ、あなたなりの楽しみ方で、私の描く世界に触れてください。
もし楽しんでいただけたら、ぜひ、教えてください。
あなたがどんなふうに読んでくれたか。
どんなふうに楽しんでくれたか。
どんなふうに読みづらかったか。
作品を思っていただける言葉は、私の糧になるはずです。
糧を、探しに来ました。
*各作品はCaitaにも掲載中
約1100字(2026.3執筆)
真っ白なスニーカーがアスファルトに着くと、擦れるようなざらついた音がした。寂れた公園の入り口で、砂粒が脱走を試みていた。フェンスと伸びた雑草に縁取られた、切り離された空間。その奥に佇む禿げた桜へと、スニーカーは方向を変え、歩きだした。
鎖の錆びたブランコと、逆走した靴跡の残る滑り台、外枠の浮き出た砂場の間を、軽い足音とともに進んだ。若葉色の薄手の上着の裾が、鼻歌交じりに靡いた。
低い枝が顔に迫ったところで、足を止め、目で幹を登った。背景は正に空色で、蕾の先端は綻んでいた。薄化粧の口角に笑みが零れた。
「最近、近くに越してきました。
顔の前に差し出されていた細枝の先を、そっと摘んで握手した。
「咲くの、すごい楽しみです」
慎重にその手を離した。
上の方で蕾が開いた。そこから幹へと伝うように、蕾が微かに解れていく。それはやがて下へと移り、低い枝の半ばで二輪開いた。楠木春菜の前髪を、温かい風が掠めた。
楠木春菜はぎょっとした。愛でていた細枝の蕾から、奥の太い枝から突如垂れた、白い布に目を向けた。袴の青年が座っていた。
「咲くの、私も楽しみなんだ」
青年は目を細め、囁いた。
「どうして挨拶していたの? これはただの木だよ」
細めた瞼の奥の目が、楠木春菜を見ていた。
「ちぃっ」と上擦った声が出て、楠木春菜は唾を呑んだ。
「父が、木には神様が宿ると」
「そう。変わっているね。けれど、面白い教えだね」
青年は奥の目を和らげた。
楠木春菜が目を見張っていると、青年は「いいね」と呟いた。腰を上げ、つむじ風に攫われたように、回りながら幹に沿って上っていく。周囲の蕾を綻ばせながら、細枝に手を伸ばし、つまんだ。指先で根元をそっと撫でると、枝は音もなく取れた。傷跡はかさぶたになっていた。
青年は枝を抱き、舞い降りた。袖や袴が舞い上がり、空中で柔らかく波打った。呆然と立ち尽くす楠木春菜に、青年はそれを差し出した。張り詰めた蕾が並んでいた。
「挨拶代わりにあげるって」
「て、ってどういうことですか」
口では疑問を投げかけながら、咄嗟に手が出て受け取っていた。
「この木があげると言っている」
「……あなたが、この木の神様なんじゃ」
「私はこの木を見ていただけ」
楠木春菜の見開いた目が、青年を抉るほど見ていた。
「じゃあ、あなたは誰ですか」
「春」と微笑んだ青年は、ぬるい一陣の風となり、公園の縁取りを揺らした。その揺れは遠退き、角を曲がり、波が引くように消えていった。
震える指で枝を握り、残された桜を見上げた。
スマホから見て、少し字が詰まっているように感じて、空行がある方が見やすいかと思ったのですが……やってみたら、途切れ途切れのような感覚に。
とりあえず戻してみました。