Ragnarok Online? 【アルカナ冒険譚】 作:Yu-Tokiwa
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「そんなん、神様が決めることなんだしさ。俺らの決めることじゃねーぢゃん?」
「うぅあ…出た…天然ラッキー男。アンタそう言う考えだといつか本当に命落としちゃうよ?」
とある酒場の大テーブル。
金髪ショートカットの女性と話すサングラスの男。
彼女の言葉に男は鼻を鳴らして笑ってみせる。
「ツキに見放されたらオダブツ。結構じゃんか。そのツキにいつまでも乗ってられるようにオレ様はいつでも朝晩の神様へのお祈りは欠かさないんだな、コレが。わかるかね? タリアくん。」
あっけらかんと言って、すぐ横の彼女の頭に手を置くとその金髪をわしゃわしゃと撫でる男。
「あー! やめれー!」
バタバタと手をやって男の手をはねのける。
「なんで毎回! ホント毎回だわ! レイドはさあ、あたしの頭ガシャガシャにしたがるかな!!」
「撫でやすいところにお前の頭があるからだ。」
などと、彼はけらけらと笑った。
信神深いなどと口にしたこの男。あろうことか、つい先日まで現役暗殺者だった。そんな人間が『神様にお祈り』とは。いったいどんな神様なのか実に怪しい。
彼の話を聞いていた彼女はボサボサになった髪を整えつつ、やや拗ねたように『なんだよソレぇ…』と呟いてため息をついた。
「はいはい~。注目注目~。」
「!」
パンパンと手を叩きながらそのテーブルへとやってくる女性。騎士鎧の下に着る薄着をまとったその姿から、彼女が騎士だか剣士だか、つまりは『日常的に鎧を身に着ける職業』に就いていることは容易に想像できる。
なんとも間の抜けた声と言葉遣い。騎士道の何たるかという難しい話題はすべてどこかに忘れてきたんではあるまいかという、実に緊張感の無い女性。
「あ、泣きバニだ。」
「泣いてないですから。」
「だって、悲しそうな顔してんじゃん。」
「元からこういう顔なんです~!」
先ほどの男、レイドが声をかけると、彼女が「ぷー」とふくれた。
『いいから先に…』と、タリアと呼ばれた女性が促すと、少しばかり拗ねていた彼女もようやく頭を切り替え、話を切り出した。
「えっとですね。今日からこのギルドに新人さんがやってまいりました。」
「わっはっは! 南無~。」
「南無ー」
「南無~♪」
おなじテーブルにつき、話を聞いていた仲間と思われる人間たちからいっせいに声が上がった。
苦笑して、彼女は話を続ける。
「我がアルカナにとっては初めてのクルセイダーさんですね~。ど~ぞ~。」
呼ばれると、バニという女性とよく似た格好の少女がテーブルのところにやってきた。その姿から、彼女がクルーセイダーと判断するのはいささか難しい。鎧をつけていなければ、騎士もクルセイダーも実はよく似たものなのだ。
年の頃なら18か19か。黒髪を背に流した少女である。
「うっひょ、かわいこちゃん!!」
「だまれ、ヨダレ。」
「うわ、ひでぇ! いきなりソレか!? あんまりだヤン坊! せめてもう少し柔らかく、つまり例を挙げるならオレを愛してるとか気の効いたコトを言え!!」
「言うかバカ!」
思わず声が出てしまったのだろう。テーブル近くの柱に背を預けてリュートの弦を調整していた若者にツッコミを入れたのは教会に属す聖衣をまとった若者。
彼の言葉にギャーギャー騒ぎ出す若者は動きやすそうな普段着ではあるが、服の襟元にこの街の国家音楽隊の隊員のバッチがついている。
『ヨダレ』というのは恐らく本名ではなくあだ名のはずだ。そうでなくては、それこそ"あんまり"である。
さすがにバニもこれには苦笑せざるを得ない。隣の少女もこめかみのあたりをひくひくさせている。
「あ、あはは~。シィルさん、自己紹介お願いします。みなさーん。静かに聞きましょぉね~?」
入ってきたのと同様に手をパタパタと叩き、皆に注目を促すバニ。
隣の少女はため息ののちに再度息を吸い、自分の右手に拳を作り、左胸のあたりにあてた。
「ルーンミドガツ王国、プロンテラ大聖堂十字戦団所属。シィル・ルゥと言います。今回は戦団正隊員になる最終試験の一環として、このアルカナギルドにお世話になることになりました。よろしくお願い致します。」
やや固い口調で言っては、最後に深々と頭を下げる。
「よっ! やった! かわいこちゃんバンザイ!」
「よーきたねー! よろしく~!」
すぐに拍手と口笛が飛び……。
やがてそれは、アルカナのメンバーが集うテーブルのみならず、別のギルドのメンバーが陣取る別のテーブルへ…最終的には食堂全体へと広まった。
歓迎されれば誰しも嬉しい。さすがにそれまで表情の硬かった彼女、シィルの顔にも、安堵したかのような笑みが浮かんでいた。
ラグナロクon-line?
アルカナ冒険譚
― 1 ―
ルーンミドガツという国の首都はプロンテラとか言うらしい。名前くらいは知っているが、どんなところかは知らない。
カチャッ……。
陽は一日でもっとも高いところにある。そろそろ午後になろうかという頃。
風が彼女の服を揺らした。教会から支給される厚手の布で作られた法衣。
そう、彼女はプリースト。
カチャッ…カチャッ……。
背に広がり、もう少しで腰にも届こうかという豊かな金髪を揺らして歩くたび、彼女の腰では剣がカチャカチャと音を立てる。
……剣なのである。
もちろん、この街においても他の教会同様、聖職者はナイフを含む刀剣類の使用は禁止されている『はずだった』。
「…………。」
首都の西に位置する魔法都市ゲフェン。
この場所が彼女の故郷であり、また彼女にとっての世界のすべてだった。
街は小さいながらも活気にあふれ、必要とされるものは一応、ひととおり揃っている。
決して栄えているわけではないが経済は安定しているという、ここは不思議な街なのだ。
実はこのゲフェンがそうあるに足るだけの大きな理由があった。
この街、実は街全体が魔術師たちの研究所のようなものである。
この国の魔術のすべてが集まるとされ、その規模は地味なれど実は隣国の魔法都市ジュノーにも劣るものではないとまで言われて来た。
事実、国が多額の援助を行うこの街である。何らかの理由はきっとある。国は不要なものに金を払わない。それは今も昔も変わらない。
そう考えると、高度な技術を有する魔法都市という肩書きは大げさなものでもないのかもしれない。
また、西にグラストヘイムと呼ばれる古城がある。かつてこの地にあった王国の主城だったとか言われるが、現在は広大な廃墟としてその無残な姿を晒し、かつての繁栄は見る影もない。このグラストヘイムに最近よからぬ一派が巣食うようになった。
国が討伐隊を派遣し、しかしそれが思いも寄らぬ返り討ちに遭ったのが今から大体5年ほど前。国は大いに恥をかき、慌てて…建て前上は威信をかけて、ゲフェンの街に軍隊を常駐させた。
グラストヘイムから首都プロンテラを守るという重要な役割も「ついでに」担うようになってしまったこの街には、国の軍隊とは別に常時多くの人間たちが集まっている。俗には「傭兵」、あるいは「冒険者」などと呼ばれる者たちだ。
いずれも腕に憶えのある者ばかり。彼らの中には、国から出される依頼をこなし報酬を得ている者も多い。
そんな『ツワモノども』は互いに集まり、各々"ギルド"と呼ばれる集まりを形成していたりもする。
カーン! ドゴーン……!
「!」
遠くから、正午を告げる鐘の音や、大砲の音が聞こえてくる。片方は教会が鳴らす鐘。もう片方は軍隊駐屯所が鳴らす大砲だ。
こつっ…。
一度は止めた足を再度動かし、彼女は歩を進める。
今、彼女の姿は街の西部、外周路と呼ばれる区画にあった。いつもの溜まり場となっている食堂に向かっている最中だ。
そう、彼女もまた、この街に数ある"ギルド"のひとつに所属するギルドメンバーなのだ。
外周道路はその名のとおり、街を囲むように一周する環状道路である。
街にもう一本ある内側の周回道路へは階段を通らねばならないため、騎馬や馬車はすべて外周道路を利用する。日中はもちろん、夜間も交通量が多い。いわばこの街の大動脈である。
「…………。」
馬車といえばそう言えば昨日、この道を首都からの馬車に揺られ、彼女が所属するギルドに新人がきたらしい。ふと、そんなことを思い出した。
よくはわからないが、首都の教会に所属する戦団の隊員だときいた。彼女自身はその新人とやらにまだ会っていない。
その新人が属す戦団本部が、彼女が所属する『アルカナ』にいけと通達を出したということになるが、その本部の人間は揃いも揃ってバカなのか。
これまでも幾度か魔術師や騎士の新人を受け入れてきたアルカナだが、その大半は途中で潰れて去って行った。
はっきり言ってアルカナというところは、それほど『優しいギルド』ではなかった。
もっとも戦団本部としては実績のあるギルドに送り込むのを良しとしているのだろうが、彼らの思惑通りに事が進むのかといえば、実のところそうではない。夢破れて去って行く少年少女は少なくないし、それを気の毒とさえ思う。
そんなアルカナに、またしても将来有望な人間を島流しにしてどうするのかと、彼女は言いたいわけだが……。
「じゃあ言えば?」
「うっひょわっ!?」
突然、背後から声をかけられ、彼女は声を上げて飛び上がった。
「な、なにやつだっ!!」
振り返った先に細身で長身の男がいる。
「ブルーレイド。年齢不詳で信心深い愛の暗殺者。現在失業中。」
「げっ! レイド!?」
「ちなみに女の子大好き。」
「いや、聴いてネーヨ。」
「聞いてくれよ~ぅ。」
なんでかクネクネするレイドとか言う男。それを見て彼女はやたら大げさにため息をついた。
「くっそぅ…あたしの背後に気配を消して近づくなってなん度も言ってるじゃんさぁ……。 ソレなのに毎回毎回……!」
「すまん。オレは胸よか尻が好きなんだ。」
「死ね。」
がすっ!!
「あべし!」
世の中では、プリーストとは清楚でおしとやかというイメージがある。しかしこれは彼女には当てはまらない。
すぐ横を歩いていた男の顔面めがけて鉄拳が飛んだ。
「おおおお……!」
「胸よか尻がどーしたって?」
うずくまるレイドを見下ろして、彼女は微笑んだ。
「ななうみ、ひでぇ…! 今本気で殴った!」
「本気で殺すつもりで殴ったしな。」
『おかしいなぁ、生きてるなぁ、まだ。』…などと、彼女は笑う。
このななうみと言う女性。生い立ちが非常に変わっている。血の気が多いのもそのせいだ。
神道を志すものは、だいたい子供の頃からの憧れでその道を目指すものだが、彼女はまずそこから違った。
彼女はもともと騎士を多く輩出した名家の出身だ。各国政府・王室付の騎士も複数輩出していながら、こんな片田舎に本家を置くとして、そこでも少々有名である。
そんな家に生まれ、彼女はごくごく普通に剣を取り、騎士への道を歩んでいた。
血筋良く、また才能もあったらしく、歩みは至って順調だったのだ。早くして国家上級騎士の免許を得た。しかし、ある日突然彼女は本当に『今更ながら』神の道に目覚め、周囲の反対を押し切ってこの街のオンボロ教会に駆け込むに至った。
下馬評としては十字戦団隊員、いわゆる"クルセイダー"になるものと、皆はうわさした。ところがだ、アコライト呼ばれる見習いの期間を終えた彼女がプリーストの法衣に身を包んで目の前に現れた時には親族友人その他諸々は腰を抜かして驚いたという。
実にそのとき、彼女の修羅伝説は幕を開ける。
必要であれば、教会で禁止されているはずの剣をなんの躊躇いもなく使う。しかも常時携帯。教会上層部では、目下彼女の行動が頭痛の種とか聞く。
そんなことはお構いなしに彼女は『自分の道』を行く。『神の道』を選びながら…だ。
余談だがそんな彼女に憧れる"少女たち"は多いらしい。彼女に憧れて、教会に入信したものが多いとか、まあおかしな話だが事実であるのだから仕方がない。
プロンテラのような大都市の大教会ならいざ知らず、こんな片田舎の小さな街にあっては、国教であるにしても教会は肩身が狭い。しかも神の教えがどうのこうのと言うのに耳を貸す暇すら惜しいと言うスタンスの、言ってしまえば奇人変人に代表される魔術師ばかりが集まるこの街ではなおさらだ。
なのでただでさえ少ない入信希望者がこれ以上減るのは死活問題なのだ。それゆえ、入信希望の場に大剣を携えて現れた奇特な少女の入信も受け付けたし、その後の入信希望者増加の一端を担った彼女の人気は教会としては手放しがたい。なので多少のことは目をつぶる。
素直に喜べないであろう教会関係者の複雑な気持ちもわからなくも無い。
「だいたい、なんであんたは私の回想に勝手に入ってくるんだ。」
「いやいやそこはななうみさん、その回想とやらを口でぶつぶつ言いながらだ、この昼下がりの街中を行く。その間抜けな姿をお前自身に見せてやりたいわけだ、俺は。嫁入り前のだよ? 女の心の中が筒抜けだって、ちょいとまずいだろうがよ、このバカチン。」
「ば、バカチン!?」
最後の言葉がさすがにカチンときたらしいが、言った本人はすでに彼女の手も足も届かない場所へと逃げていた。
「くぬぬ…!」
「どーよ。今日も俺っちのバックステップ冴えまくり。」
悔しがるななうみの前で、今度はレイドが不敵な笑みを浮かべていた。
やれやれとため息をついて歩き出すななうみ。この男、無駄にハイスペックなのだ。いろんな意味で。
相変わらずからんからんと笑いながらレイドが並んだ。
「そー言えばさ…」
「あん?」
「新人来たでしょ。うち。」
「あーあー、来たねぇ昨日。」
『ああ、その話題ね』……とでも言いたげに、レイドはため息混じりに答えた。
「どんな子?」
「面白みのないガキんちょだ。」
「がきんちょ?」
「20? いや、19っていってたかなぁバニが。おれ自身は直接本人とは話してないからよくわからん。なんつーか、クソ真面目な役人…いや、役人の卵? まあそんなところ。」
「ふぅん? まだ私、会ってないしなぁ…。他の人は全員会ったの?」
彼女の言葉に、レイドが考えるように視線を空へと…。そしてややあって口を開いた。
「ルイとネームは旅行中だからまず論外だろ? マルとレスニックとマーシは朝いなかったけど、夕方あたりに会ったはず。リタはなんか部屋で寝てて降りてこなかったな。夕方出かけてったから会ってないと思う。んでななうみだから…お前ら2人以外は全員会ったんじゃん? 近くの席にメゾとかドンキのメンバーがいたから普通に紹介したけど、他のグループのことはよく知らん。」
「そっか…。ん~、どんな子なんだろ。」
噴水広場のカプラサービス受付前を過ぎ、街の東側へ。このあたりから宿屋やバー、レストランなどが目立つようになってくる。
そんな一角に、アルカナのリーダーであるバニことヴァントリィザが契約している一軒の食堂兼宿屋がある。その食堂奥に、彼らギルドの部屋は用意されている。また、ギルドの人間の半分近くはその食堂二階に部屋を借りて住んでいるのだ。
「…………。」
「…………。」
食堂入口に差し掛かり、二人は足を止めた。
入口より数段降る階段に、鮮やかな銀髪を持ったひとりの少女が腰掛けている。
その格好から、騎士か剣士であることがうかがえる少女は階段に座ったままコックリコックリとうたた寝をしていた。
「惜しい! もう少しでたどり着けたのに、今日はここで力尽きたらしい。」
パチンと指を鳴らしななうみは笑った。
【つづく】