Ragnarok Online? 【アルカナ冒険譚】   作:Yu-Tokiwa

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第10話

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 「はっはっはっ! んで、わざわざ俺を呼びつけてあそこに上れと。」

 「ん。そゆこと」

 

 満面の笑みを浮かべる魔法少女を前に、ガックリと肩を落とす若者。

 レイドだ。

 

 「……本当にこのギルドは立ってるものは柱と机以外……」

 「こないだ、スカがテーブル振り回して乱闘してたらしいよ?」

 「……そーいえばそうだったっけね。」

 

 『やれやれ』と、ため息をついてから、彼はこれから登るべき場所の方を見やった。

 

 「あの、ロープかかってるせり出しでいいのか?」

 「えっと、その多分右にひとつ隣だと思います。」

 レイドに訊ねられ、ティナが場所を説明する。

 「あ、くそ。手がかりないじゃんよ。」

 「隣から飛び移れ。」

 「ずいぶん簡単に言ってくれるじゃんか。…で? 上でなに見てくりゃいい?」

 「なんでも。どんな細かいものでも、違和感あるもの全部。」

 「ソレはコッチで判断してOK?」

 「うん。まかせる。」

 

 『あ、そう。』…と頷いて、レイドは壁に取り付けられた雨樋に手をかけるとスルスルと登り始めた。

 こんなの、アサシンである彼にとっては朝飯前。あっという間に建物4階部分のそのせり出し付近に到達し、最後にはマーシーが言ったように雨樋からせり出しへと飛んで見せた。

 はるか下でティナが一瞬悲鳴を上げたのが聞こえた。ちらりと見てみれば、呆気にとられたまま小さく拍手している。

 別にサービスのつもりでやったわけではないが、まあ悪い気はしない。

 最後は逆上がりの要領でその上に立った。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 「さて…と。」

 

 その場所で首をめぐらせる。

 狭いせり出しだ。本来は下の階のバルコニーの雨避けとして付けられた屋根のようなもの。この階が最上階でなおかつ窓がないため、下の階のために屋根がある。そんな感じだ。

 狭くとも人ひとりの姿を隠すのに不足ない。

 確かにここで屈んで身を低くすれば、今も下にいるマーシーやティナからは姿を隠すことも出来るだろう。

もし、彼女らが主張するようなプランだったとしたら、確かにここは絶好の待ち伏せポイントだ。

 しかし…ここから襲い掛かって…返り討ちにあったのか、そいつは……。

 

 「バカかシロウトのどっちかってことですか。」

 

 クシャ…っ…。

 

 「ん?」

 

 何かを踏んづけた。

 彼が見下ろしたそこにあったのは…クシャクシャに丸められた紙。まだ一度の雨にもさらされていない。新しいものだ。しかもこんなところにある。ここに上った酔狂な人間の遺留品と見るのが自然だ。

 

 「……わかりやす過ぎやしません?」

 

 内心理解に苦しみつつ、その場にしゃがんで落ちている紙を拾う。そして、丸められたそれを開いた。

 

 「…………。」

 

 紙に書いてあったメモ。その文面に目を走らせて…彼は一度舌打ちしてから、その紙を下の二人に気付かれないようにブーツへとしまいこむ。

 

 「……マーシ! お前らの読みの通りだ。ここに人のいた形跡がある。」

 

 下の2人に向かって声を発する。発しつつ、建物の屋上を見上げた。

 

 

 「屋上のヘリに足をかけた跡。上からこの屋根に飛び降りて待ち伏せの体制に入ったみたいだ。屋根の端に手を付いた跡がある。身を伏せてタイミングを計ってたんだ。相当緊張してたな、汗が落ちた跡もある。ここにいたヤツはこういう奇襲に慣れてない。シロートに毛が生えたみたいなやつだ。」

 「そんな人間がわざわざそんな高いところで待ち伏せを?」

 「けど、高いところにゃ慣れてた。」

 「新人?」

 「奇襲なんて重要な役どころ、新人にやらせるか?」

 

 喉を鳴らしてレイドは笑う。

 

 ザッ…。

 

 そして立ち上がった。

 

 「…………。」

 

 見下ろせば先ほどと変わらず、マーシとティナが立っている。そのすぐ近くに血の染み。

 

 「……はーん?」

 

 ガシャッ! ジャキンッ!!

 

 腰に挿した大型ナイフを一本取り出し、一度回して右手で逆手に持った。

 

 「ティナ! 『眼』を!」

 「あ、は、はい! マーシ。戻ってこなくなったらお願いね。」

 「あいよ。」

 

 突然、名指しで言われてティナが驚いた。しかし、すぐに彼が言ったとおり、精神を集中する。マーシはいつものように魔法の防壁を作って数歩離れる。

 その様子を上から見下ろすレイド。ティナの纏った雰囲気が変わっていくのが見える。気配が変わる。なんと説明すればいいか難しいが、それは瀕死の人間に近い。彼女の瞳孔が開いて行くように見える。まるで猫のように……。

 

 「…………。」

 

 それを確認してから彼は膝を折り、しゃがみこむような体勢から体をゆっくり前に倒した。

 体が横から下へと向いた瞬間、せり出しの淵…下の階の屋根部分の天井を蹴りつけた。

 下に向かってジャンプする…と形容するのだろうか。

 凄まじい勢いで彼の体が加速する。

 

 ザアアッ!! ガンザザザァッ!!

 

 一瞬だった。

 レイドの体が、地面に到達していた。石畳をブーツの底の鉄鋲が削り、火花を散らす。

 血のシミを隠していた砂が飛ばされていく。

 

 「…………。」

 

 マーシが目を細めた。

 狙ったようにこの場所に…血のシミ付近に下りた。あの高さから……。

 しかも……あのスピードでだ。

 さすがのマーシもあの時間では使える魔法は限られてしまう。

 

 「どーだった? ティナ。」

 「…………。」

 

 レイドが訊ねた。返事はない。

 まだ、彼女の目は彼がつい今しがたまで立っていたバルコニーに向けられていた。

 

 「お?」

 「んーむ。」

 

 バシンッ!

 

 「のわっ! わわっ!? おおお…!」

 

 マーシがティナの背を少し強く叩いた。ソレが合図となって我に返ったか、ティナは目を覆ってバタバタしはじめる。

 

 「すごく便利だけど、時々不便だな。」

 「それは言葉の意味としてはちょっと微妙。」

 

 レイドの言葉に、マーシがツッコミを入れる。

 

 「どーだった?」

 「あ、うん。ちょっとヘンだった。」

 「レイドが?」

 「ぐほっ!」

 

 間髪入れずにマーシが言い、レイドが吹き出した。

 

 「今、ちょうど良いところじゃん! マーシ空気読め!」

 「はいはい。どーだった? ティナ。」

 「う、うん。レイドのは…すごく速かったけど…なんかさっきのは……今のと比べると遅い気がした。」

 「遅い……。」

 「上から降ってきたのが、アサシンじゃないってことだよ。」

 「!」

 「奇襲は俺達の十八番だ。おそらくオレじゃなくても今の程度のことは出来る。あれくらいのことできないアサシンはいない。」

 「じゃあ…ローグか、シーフ?」

 「もしくはトレジャーハンターか…な。なんにせよ、畑違いのことをさせられてた。そうせざるを得ない理由が…なんかあったんだ。」

 「強要された?」

 「それも、パーティー以外のヤツからな。」

 「「人質!」」

 

 マーシとティナの声が重なった。

 

 「いいセン行ってると思うぜ? 連中のプロンテラでの活動記録を徹底的に調べてみるんだな。本当に6人だけか? そのパーティーは。」

 「……洗う価値はありそうね。もし他にメンバーがいたとしたら……。」

 「人質とって連中を操ってたヤツが…いるかもしれねぇよ?」

 「……こじれてくるね…ソレ。」

 「面倒くさくはなりそうね。」

 

 3人でため息をつく。まあ共々幾分、種類は違うようだが…。

 

 「あ、ところでレイド。」

 「あん?」

 

 マーシが思い出したように訊ねてきた。

 

 「上になんか、遺留品みたいなものはなかった?」

 「遺留品かぁ…」

 

 少しだけ考える。考えてから……。

 

 「見たところそういったもんはなかったな。」

 

 彼は口元で笑った。

 マーシはのちに、この時、彼の言葉を信用した事を後悔することになる。

 

 

 

【つづく】

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