Ragnarok Online? 【アルカナ冒険譚】   作:Yu-Tokiwa

12 / 21
第12話

― 12 ―

 

 「あ? リタのこと?」

 「うん、そう。リタちゃんのこと。」

 

 とある「いつもの宿屋ではない」宿屋の一室。

 ベッドに寝転がったヨダの胸板に頬をあて、その女性はやや乱れた自らの息を整えつつ微笑んだ。

 

【挿絵表示】

 

 「なんでまたアイツのことなんか?」

 「そりゃあね~。自分の旦那になる人が、前にお熱上げてた子のコトは、いつ何時も気になるってモノでしょう?」

 

 彼女はゆっくりと頬を離すと、両の腕を彼の体の上に互い違いに並べ、それを枕にするように自分の顎を乗せて、彼の顔を覗き込むように見上げる。

 さらりと彼女の黒髪がヨダの胸板や肩のラインを滑り落ち、彼女の裸の乳房が彼の体に押し当てられる。

 

 「あの子に避けられてるのか、あたしあまり話したことないのよね~。」

 「まあ…お前が知りたいっていうなら…話すのはいいけど……。トキノは興味持つのがいつも急だな。」

 「私が初めてあなたと会ったときには、リタちゃんとあなたは付き合ってたでしょう? 私が出会う前の、あの子やあなたがどんな毎日を過ごしていたか。知りたくなったってトコロ。」 

 「…………。」

 

 ひひひ…と、いたずらっぽく笑う彼女を見て、小さくため息をついたヨダ。このフィアンセは彼の口から彼の元カノの話しを根掘り葉掘り聞きだそうとしているのだ。正直、気は重い。

 

 乱れたままの彼女の髪を指ですくい整えつつ、口を開いた。

 

 「孤児院で…初めて会ったんだと思う。どれくらい前かはもう覚えてない。多分、2歳とか3歳とか…そんなあたりじゃないかな。実はあまり覚えてなくてね。」

 「それだけ昔だとそうでしょうね……。気がついたらいたってかんじ?」

 「うん。まさしくそう。」

 「それで? それで?」

 

 好奇心の塊と化してトキノは話の続きを要求した。

 

 「俺が10歳くらいの時かな。孤児院を出て行った。なんでかは知らない。まわりの大人たちはみんな教えてくれなかったな……。そのとき、なんていうか…直感じゃないけど、リタは死んだんだって思った。それまでも、孤児院で友達が死んだこともあったし。そんなときは大体『出て行きました』なんてみんなに説明されてたからな。」

 

 「そぉなんだ……。」

 「孤児院なんてところは普通の人間が思っている以上に過酷なところさ。年に10人くらいずつ、子供が増える。7人は引き取られていき…3人は死ぬ。それが事故であったり、病気であったり。まあ、理由はいろいろ。」

 「…………。」

 「リタは…体が弱かったな。外に出て遊ぶなんて…ほとんどないくらい。一日のほとんどを部屋の中で本を読んだり、ベッドに横になったりして過ごしてた。だから、彼女が死んだって…普通にそんな結論を出せた。自分の中でな。」

 「悲しくなかった?」

 「悲しかったさ。そのときまでには俺たちは随分仲良くなってたし?」

 「彼女のことが好きだった?」

 「ああ、好きだったね。……とは言っても、それは、ガキとガキが好きの嫌いの言うレベルだったのかもしれないけど。」

 「だけど…彼女は生きていた。」

 

 唇の端を吊り上げて、トキノが笑った。

 それを見て、彼は少しだけ困ったような表情を見せた。

 なぜそんな表情を見せたか、トキノはわからなかったが何かしらの理由に思いを馳せる気にはなれなかった。

 おそらく彼女をもってしても、この世界で一番近い異性であるヨダのこの領域に迂闊に踏み込んでいいものではない。それはわかった。

 

 「5年位前だ。俺たちは国境を越えてシュバルツバルトに向かう隊商の護衛任務に就いていた。任務自体は順調でね。シュバルツバルト側から派遣されてきたギルドに護衛の任務を引き継いで、観光がてら国境近くのアルデバランに滞在していた。」

 彼の話にあわせて、うんうんと相槌を打って、彼女は聞き入る。

 

 「確か…あの時は俺とバニと…スカとヤンと? ……あとマーシとネーム…いづなもいたな。」

 「他のメンバーは? お留守番?」

 「いや、当時はメンバーもそんな多くなくてね。マルとかルイにななうみなんかはまだいなかったんだ。」

 「へぇ……。」

 「あれは…3日目の夜だったかな……。ヤンとスカと一緒に男3人で飲みに行ったんだ。まあ完全に出来上がっててね。特にスカがさぁ、もぉベロンベロンで。俺とヤンだけでどうにもならないからって、バニとネームがわざわざ迎えに来たんだ。」

 「あの人、昔からそうなんだ。」

 

 おかしげに彼女は笑う。

 スカとの面識もある。飲み会の席で完全に酔っ払った彼をトキノは知っているのだ。

 

 「その帰り道だ。街の外れ。水路に沿って立ち並ぶ倉庫外の一角だったな。」

 

 ポツリと…そうつぶやいた彼の声は少しだけ違う響きを帯びていた。

 

 「?」

 「何年かぶりに再会したリタはそこで、今度こそ本当に死にかけてたんだ。」

 

 

【つづく】

 

 

【挿絵表示】

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。