Ragnarok Online? 【アルカナ冒険譚】 作:Yu-Tokiwa
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一同が一瞬あっけに取られた。
つまり、彼は自らが少女を抱えて走ると言っているのだ。
確かこの街の大きな病院は時計塔近くにある国営診療所だ。その傍らに建つ、この街で最も背の高い建物である時計塔は、ここから見るとはるか先。かろうじて塔の上部にある時計が見えるくらいのものだ。ライトアップはされているが、ここからその時刻を知ることはできない。それほどに遠い。
いかに小柄とはいえ、人ひとりを抱えてあの場所までひたすら走っていく。それも全力疾走でだ。すでに人間業ではない。バニでなくとも心配するのが当然である。
しかしスカをおいて少しでも可能性のありそうな人間は今この場にひとりもいない。それだけは理解できた。
「人ひとり背負って街の中心部まで全力で走るってことがどんなことかわかってますか?」
「食後の運動じゃねぇか。」
「途中休憩なしですよ?」
「んなのいらねぇよ。それとも何か? 俺がそんなに信用ならねぇか?」
バニを見下ろして凄みのある笑みを浮かべるスカ。それを真っ向から睨み返すバニ。
ややあって彼女は小さくうなずいた。
「失敗は許しません。必ず完遂してください。誰かそっち抱えて。」
「ああ、俺が……。」
バニに促されてヨダが彼女と一緒に少女の体を支える。
スカは膝を折り屈んだ。
「ネーム。倍速かけてくれ。」
「前回かけたのいつだ?」
「多分3日くらい前じゃねぇかな。」
「じゃあ大丈夫だな。」
「彼女の装備はずそう。少しでも軽く。ヤン、頼む。」
「お、おう。」
ネームがスカの肩に触れて魔法の詠唱を開始する。その間にバニとヨダが支えている少女の武器、防具をヤンがはずす。
バスッ!!
「!」
何かが破裂するような音。
驚いてバニたちがそちらを見ると、スカの体から湯気のようなものが立ち上っていた。
ネームのグレートヘイストの詠唱が完成したのだ。
ガシャァッ!
「よし! いつでも良いぞ!!」
自らの武装を落としつつ、スカが合図する。
「じゃあヨダさん、載せますよ。」
「お、おう。」
スカの背中にそっと、少女の体を載せた。
そしてその腕と足をベルトで固定する。
「バニとヤンは昨日すでにヘイストかけてるから使えない。ヨダと俺が一緒についていく。」
「お願いします。私たちは道具持ってあとから行きます。スカさん、病院の場所わかりますか?」
「昼間行った。問題ない。」
バスッバスッ!!
ネームとヨダに対する魔法が発動する。
「よし。じゃあ行くぞ!」
「あいよ。」
「おっけー!」
ドンッ!!
スカが石畳を蹴る。
そしてすさまじい勢いで路地を加速する。
ドッドッドッドッダンッ!!!
そしてそのまま突き当たりの水路前で一層強く地面を蹴ってその巨体を中に舞わせると、数メートルあるその水路を飛び越える。
……ォォォ……ドザンッ!!!
対岸に着地し、速度を緩めることなくそのまま一直線に街の中心部に向かっていく。
「じゃあバニ、またあとで病院で!!」
やや遅れてヨダとネームが続く。先に走り出したスカの背を追う。
「こういうときに改めて思うけど……」
「あ?」
走りながらヨダが傍らのネームに言う。
「スカはバケモノだな。」
「?」
彼に言われて、ネームも前を行くスカのほうを見る。
水路を、柵を、ベンチを、植え込みを。
それらのことごとくを飛び越えてまさしく一直線。
如何に小柄な少女とはいえ、人ひとりを背負ってこれだけのことをやってのけるのだ。彼は。
ネームが先ほど施したグレートヘイストと呼ばれる対象者の敏捷度を上昇させる魔法の効果があるとはいえ、それでも元々のポテンシャルが高くない限りこうはいかない。
現に誰を背負っているわけでもないネームとヨダは、同じ魔法の助けを借りつつ全力で走っているにもかかわらず、スカに追いつくばかりか、徐々に引き離されている。
「あっ!?」
「!?」
そして次の瞬間だった。
そのスカの体は空中にあった。
道は大きく左へと曲がり下りの階段へとつながっている。
市街地手前の高台。
眼下に市街地を見下ろすそこはいうなれば20メートル以上の絶壁である。階段はそれを迂回しながら降りるために作られたものだ。
その柵を…スカは飛び越えたのだ。
「わあああっ!? 馬鹿っっ!!!」
さしものヨダもネームも目を丸くした。
たった今スカが飛び越えた柵から身を乗り出して、落下していく彼の巨体を目で追った。
ガンッ!!!
どれくらい落ちたか。
建物の屋根に一度着地してさらに前へと飛び、道の向かいの建物の壁を蹴りつけて軌道を変え、さらにそのまま街灯を踏みつけて跳躍すると、さらに次の街灯に腕を引っ掛けへし折りつつ、石畳に着地した。
ブーツに取り付けられた鉄のガードが地面に接触したか一瞬激しく火花を散らした。
そして……彼は再び加速する。
「…………。」
「…………。」
それを見ていた二人とも…開いた口がふさがらなかった。
「……やっぱバケモノじゃね?」
「人間では…なさそうだな。」
さすがにあきれた。
まさかここまでの人外っぷりを見せ付けられると笑いすら出てこない。
「い、急ごう。血だらけの女の子背負ったあいつが病院に現れたらぜったい騒ぎになる!!」
「あ、ああ!」
ネームに言われ、ヨダもあわてて近くの階段を駆け下りた。
【つづく】