Ragnarok Online? 【アルカナ冒険譚】 作:Yu-Tokiwa
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「ああ、こんなところにいた。」
「んお?」
背後からかかった声は聞き覚えがある。良く知った人物の接近にくわえ煙草のネームが振り返る。
病院建物の屋上。柵に寄りかかって眼下の街をただ眺めていた彼に声をかけたのはマーシだった。いつものようにほぼ無表情で手をひらひらさせて挨拶する。
「散々だったわね。」
「いやまったく。」
すぐ横まで来たマーシが柵に手をかけ、同じように街へと視線を投げる。ネームも元の体勢に戻ってやれやれと笑った。
「……ていうか、まだ煙草吸ってんの?」
「やめろって言われてんのに、まあなかなか口寂しくてね。」
「だいぶ前だけどね、言ったの。ほんとバカになっちゃうよ?」
眉をしかめて小言を言ってはネームの口から煙草を奪い去り、その煙草を自分の口に突っ込んだ。
「バカになっちゃうんじゃねぇのかよ。」
「私は多少バカになっても人類史に残れちゃうくらいの天才だからいいのよ。」
しれっと言っては視線を元の位置に。
「ひとまずお疲れさま。ほかのみんな?」
「ヤンは宿に戻った。スカもさっきまで点滴打ってたけど多分帰ったんじゃねぇかな。バニは役場に行ってる。後でもう一度こっちに顔出すってさ。」
マーシに問われ、ネームはもう一本煙草を取り出してはそれをくわえ火を点けつつ答える。
「役場に?」
「スカがへし折った街灯の弁償だとさ。」
彼女の意外そうな声に楽しげに笑う。そして『黙ってればいいのに。』『いやいやバニだぜ?』と、続く。
「ヨダは? 『幼馴染の彼女』のところ?」
「ずいぶん皮肉めいた言い方だなぁおい。意識が戻るまで一緒にいるとさ。」
「意識戻るまでって…戻るかどうかもまだわかんないのに。」
「いや、戻るよ。」
「!」
間を置かずに帰ってきた答えに視線だけ動かして彼女はネームを見る。
「その根拠は?」
「デキる男のカン」
「はぁ?」
「孤児院で育ったふたりの男女。思いを寄せていた病弱だった女の子はある時男の子の前から消えてしまい、しかしそれから5年後の冬の夜。瀕死に陥っていたかつての想い人に運命の再会! 話の流れ的にヒロイン助かるだろう。舞台化決定級にありふれたストーリーだ。」
「…………。」
心底あきれた視線を向けた先にいるこの男は時々こういうわけのわかんない事を言う。そして、そういう事をいう時に限って何か大変な情報を持っているし、それをマーシにのみ伝える前振りに使ってくる。
「まず、マーシの見立ては?」
「まず直近の問題。あの子、ソーサラーだったわ?」
「マズいじゃん。」
「強制的にでも転職させないといけないわね。」
この文化圏で、一瞬でも存在が許されない職業ソーサラー。
よく『世の中には二種類の魔術師が存在する。』的な事をいう時によく聞く名前だ。その実態は謎に包まれてはいるがイメージとしては『まあなんかよくわかんないけど悪い魔法使い。』というのが一般的。しかし公では職業としての確立を許されていないというのが現状だ。【暗殺者】までもが国家ギルド公認の職業として認められている…というのにだ。
つまり、彼女らが所属するこの【アルカナ】は今、『国に禁止されている危険な職業であるソーサラーを助けて匿っている。』とい状態にある。バレているかバレていないかでしかない危険な状態だ。
これを、アルカナギルドが身を預かっている間に転職させてしまえば、評価は一転して『危険職の人間を更正させた。』というものになる。
マーシが『強制的に転職を』と言ったのはそのためだ。
「三重の意味でめんどくせぇ女だなぁ、おい。」
「二重ではなくて?」
吐き捨てるように言ったネームの言葉に彼女は不思議そうな声を上げる。死にかけていたのはヨダの幼馴染でしかもソーサラー。現状引っかかる点はこの2つだけだ。
「今から話すことは他言無用にしたい。」
「ああ、はいはい?」
ネームの声色が変わり、マーシは簡易的に不可視の防音ドームを作り出す。
「あのリタって女、恐らくヴァンパイアだ。」
「!?」
ちょっと予想外の情報が来てさすがのマーシも変な声が出そうになった。想像していたのの10倍ヤバい。
「最初に回復補助の魔法を使ったら状態が悪化した。つまり、彼女には回復魔法が効かない。そもそもが普通に人間だったらあの出血量じゃあまず生きていないし助からない。」
「間違いなさそう?」
「一応『恐らく』とは付けたが、まあ決定だろうな。アンデットの線も少し考えたけど、生命活動は維持されてるし痛覚もあるっぽい、そっちの線は消えた。」
「さっきの『マズいじゃん』はそういう意味だったのね。」
ヴァンパイアでソーサラー。種族として存在する上級魔族だ。
『文化圏に於いて存在が許されない職業』なのはそのため。そもそも人間文化の世の中で、人間の職業ではない。禁止されて当然である。
「バレればまあまあ面倒くさい事になるかもしれない。選択肢としては2つ。」
「『隠す』か『殺す』かね?」
「直近で助けてしまった以上、殺すは無しだ。うちの風潮だと。…となると隠すしかない。で、この事実を知っている『人間』は俺とおまえだけにしときたい。敢えてマーシを巻き込んだのは……」
「大丈夫。いよいよとなったら私がやる。」
「すまんね。」
これでギルドの人間側の準備はできた。あとは……。
「彼女…リタ…だっけ? 彼女自身の口からこの事が出ないようにする必要があるか。」
うーんと考え込む。口留めの方法はいくつかあるけど、それらはだいたい『強制』する物のであり、『言おうとしたら○○。』みたいな破滅的なペナルティを相手に課すものだったりする。当然、相手にもそれを知られることになるので、関係性はどうしてもギクシャクするし後の火種になりやすい。
「なにか自発的に…彼女自身に気付かれることなく自然に口をふさぐ方法かぁ…。」
「『知らない事』って、喋れないじゃん?」
「??」
ネームが笑った。マーシは不思議そうな顔をする。そして、そのマーシの方をネームは見た。目が合った。
「…………!!」
見る間にマーシの表情が青ざめていく。くわえていた煙草がポロっと落ちた。
いやいやいや、そんな馬鹿な……! そのプランは彼女も割と早い段階で思いついたし、何なら真っ先に『それはない』と捨てたものだ。彼女からしたらそれは脳内での議論に時間を費やす価値のない…そんなプランだった。
「あ…あんた、まさか……!!」
最低だ。こいつ、最悪な事をやった!
「なんてことを!! バカじゃないの!? なんてことに巻き込んでくれちゃったのよ!! 彼女の過去を消したっての!? 人間に対しての記憶操作は重罪よ!? わかってる!?」
「だから『人間』じゃねぇって。」
「あっ!!!」
もう目茶苦茶だ、なんでこんな奴が聖職についてるんだろう。信じられないことを平然とやってのけた。それに対し彼女は怒り、恐怖し、混乱した。
しかしそれと同時に、彼がとった手段以外に事態を収集できる方法を一つたりとも思い浮かべることが彼女には出来なかった。結果、マーシは黙って『共犯』になるしかないのだ。
それがわかったか、ネームはニコッと笑って煙草の煙を空へと吐いた。
「ひとりくらいこういうバカがいたって、まあいいだろ?」
【つづく】