Ragnarok Online? 【アルカナ冒険譚】   作:Yu-Tokiwa

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第3話

― 3 ―

 どこかで生じた小さな綻びは、やがてそこから解れていき、やがて大きな切れ目となる。わずか数日でギルドの全員がその違和感「そのもの」を知るところとなった。

 ななうみとマーシの不仲については勿論のこと、レイドとマルがこの件について口をつぐんだ事が、綻びの元凶を決定的なものとした。

 これにはさすがのバニも不安を隠しえない。しかし、迂闊に腫れ物にも触るわけにも行かないのか、結局双方の言い分を聞くことすら出来ず、彼らの顔を見ては、明らかにオロオロして心労を重ねるのが関の山といったところだった。

 これで面白くない人間が一人いる。

 シィルだ。

 彼女が来た数日後に、こんなことが起こっていれば、これが自分がギルドにやってきたことによって発生した事態だと、仮に彼女がとてつもない鈍感な少女でも気付くというものだ。

 ましてや彼女は「鈍感」と言う言葉とはかけ離れた世界にいる人間である。

 

 「わたしが…」

 「うん?」

 

 昼の町。その西側。

 商店が建ち並ぶ地区を歩く彼女が、その傍らを歩くヨダに向かって口を開いた。

 

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 「このギルドに、新人が来るということは、迷惑なことなのですか?」

 「は?」

 

 突然たずねられて、ヨダは思わず間抜けな声を上げてしまった。

 隣にいたシィルの顔を見ては、彼女の、どこか険しいその表情に少しだけ姿勢をただし、まじめな顔をする。

 声をかけるべきかどうなのか、彼女自身かなりの時間迷っていたのだろう。そして意を決して話題を切り出したのだ、彼女は。それがありありとわかった。

 いざ声をかけたものの、しかし次の言葉が出るまでにしばらく時間がかかったのがその証拠だ。

 

 「ここ数日のギルドの空気に違和感を…。」

 「?」

 「なので、メゾフォルテの方に尋ねたのです。アルカナはいつもこんな雰囲気なのか…と。」

 「あぁ……。」

 「……違うとのことでした。こんなことは珍しいのだと。だとしたら原因は私ではないかと…そう思うのが普通です。」

 「い、いや…そんなことはないと思うんだけどね……。」

 「けれど、マーシさんはどうでしょうか?」

 「そ、それは……。」

 

 どう答えればいいものか。ヨダは苦笑した。

 どうやら、彼女はずいぶん深い部分まで事情を理解している。隠すのにも限度がありそうだ。

 手にした買い物袋を「よいしょ」と抱えなおしてから、再度口を開く。

 

 「基本的にマーシはね…たしかにこういうのは好きじゃないってのもあるけど、彼女にしても悪気があって言ってるってわけじゃあないんだ。……と思う。ただ、もともとの口のききかたというか…性格ってのもあるけど……。」

 

 ……ヨダの言葉も歯切れが悪い。片方を立て、尚且つもう一方の弁護もする。これがいかに難しいことであるかを、彼はよく知っている。

 

 「アルカナは、私のような新人を定期的にギルドに迎えているそうですね。私の先輩にも何人か、こちらでお世話になった人がいました。」

 「バニの方針でね。新人を預かるってのは。なんでかは知らないけど……。」

 「そのたびにいつもこんな雰囲気に?」

 「最初はなるね……。」

 

 ヨダはため息をつく。

 一時的であれ、同じギルドでやっていく仲間だ。仲違いとまではいかなくても、ギクシャクした関係でいつづけては欲しくないし、なによりそんな状態で冒険や仕事に出るのはよくない。

 危険なのだ。そんなことは誰だってわかる。

 なにしろ、仲間に背を…つまり自分の命を預けるし、他人の命も預かるのだ。ギルド内の仲間は家族の信頼に似たものを要求される。

 少なくともつい先日まで、アルカナには家族の絆と同等の強いつながりが確かに存在していた。

 今はどうかというと、それには少々首を傾げざるを得ない。

 ななうみとマーシが背を向けているという時点でそこに全面的な信頼関係には疑問を抱く。

 

 「んー…」

 

 言葉を選ぼうとする。…が、うまい言葉が見つからない。

 大体、そんな小難しい話題は彼にとっては専門外なのだ。できることならもっと楽しい話で盛り上がりたい。

 とくに、シィルのような美人で、しかも若い女性が相手であれば尚のことだ。

 

 「ホレ、俺ってばおバカだからさ、そーいうややこしい相談には向かない人間なんだなぁ。けど、そんな俺が精一杯頭ひねって搾り出すとさ、言い方悪いけど、キミは期間が過ぎたらプロンテラに帰って、クルセイダーとして教会勤めになるわけ。それまでの間我慢しとけってのがアドバイスらしいアドバイスかな。雑音はスパーン…と無視。…まあ無責任かもしんないけど。」

 「……………………。」

 「とりあえず見て、触れてさ。ギルドってのがどういうものか。そのへんだけ学んで行ければいいんじゃないかな。教会戦団なんて特に団体行動に重きをおく組織だろうし? ひょっとしたらあっちのほうがもっとギクシャクしてる部分があるかもしれないでしょ。軽く団体行動に触れておくってくらいの気持ちでいいんじゃないかな。」

 「…………。」

 

 ヨダの言葉をじっと聞き入っていたシィル。

 ややあって足を止めた。

 

 「おろ?」

 

 数歩いって気付き、振り返って足を止めるヨダ。

 

 「どした?」

 「結局のところ…私は"お客さん"なんでしょうか?」

 

 そう尋ねた彼女の表情には、確かに困惑の色があった。

 自分がどの位置にいるのか。わからなくなってしまったのだろう。

 つまりは不安なのだ。

 それがヨダにはわかった。

 

 「お客さん対応なんてものは、ウチにゃないよ。」

 「?」

 「期日があろうが無かろうが関係ない。マーシが何を言っても、バニの思惑が何処にあろうと、それはたいした問題じゃあないんだよ。ただ、ひとつだけ決まってることがある。キミが愛想を尽かさない限り、オレたちは仲間だ。」

 「!」

 「確かに今はまだ、君の扱いをあぐねてるメンバーはまあいるだろうけど、それもすぐになくなる。暇な日々が懐かしくなるよ。ここのギルドは立ってるものは柱と机以外なんでも使うんだ。覚悟しといたほうがいい。」

 「えっと……」

 

 やや面食らったように、目をしばたたかせるシィル。

 

 「つまり、がんばれよ新人。アルカナは、じつはそんなお気楽なギルドじゃあ、ねぇぞ?」

 

 ヨダはにっこりと笑った。シィルはその言葉を吟味し、やや時間をかけて理解したようだ。少しだけ口元をほころばせると、小さくうなずいた。

 

 

 

【つづく】

 

 

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