Ragnarok Online? 【アルカナ冒険譚】 作:Yu-Tokiwa
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「ホントに!! このギルドは地上に立ってるものは柱と机以外なんでも使うな!!」
「机は、こないだスカが乱闘で振り回してたけどね。」
「じゃあ柱以外だ。」
シィルとヨダが小難しい話をしていたのと時を同じくして町の外。
声を上げたのはマーシ。それに答えたのはヤン。
「大体私、今日は休みだって言ったじゃん。予定入れてくれるなって、あれほど言っておいたのに……!」
「まあまあ…あの場にいたのがお互い運の尽きだと思ってさ……。」
「アンタはもともとこの仕事受けた担当だろうが、ヤン。」
「……てへ。」
「『やっちゃった』…て顔してもダメ。」
『あーあー』…と、ため息をつく彼女。傍らでヤンが笑っていた。
野犬の駆除である。役所から依頼された。
本来、野犬の駆除なんてものはヤンひとりでも軽くこなせるお仕事のはずだ。
……が、それが20匹も30匹も集まれば話は別である。安全かつ手っ取り早くとなると、魔法の力を借りるのが望ましい。
運悪く、アルカナのテーブルでくつろいでいたマーシに緊急出動命令は下っていた。
年始めからの数えが10ごとの日はアルカナの予定を入れるな。
マーシは10日に1日。必ずなにもせずにゴロゴロする日を作っている。その前10日以内に、仕事があろうがなかろうが…だ。
それと言うのも、彼女は少しは名の通った魔術師。アルカナのみならず、他のギルドから応援を頼まれることも少なくない。契約の相手も彼女の並ならぬ実力を頼りで「召喚」するのだから、彼女が行った先は大体過酷な状況にあることが多い。
そうなればとにかく酷使は前提。マーシも人間であるのだから、乱暴に使われれば疲れもするし壊れもする。
そもそも彼女は何かを守る…と言うような大義名分があって魔術師をしているわけではないし、また冒険者をしているわけではない。その辺の線引きは実にしっかりしている。
休むときは休む。自分のできることしかしない。休みもせず、また無茶をして、結果的に怪我をしたなら自分のせい。彼女はそういう考えだ。
むしろ、今回のヤンの呼び出しなどは本来「こんな楽な現場に呼んでくれてありがとう。」と、マーシが礼を言ってもいいくらいである。彼女が定めた休日でなければ…だ。
もっとも……今日のように"何もしない事"を妨害されることは多々あるわけだが。
「まったく…ただでさえ最近忙しいってのに……」
「おっと。忙しいの?」
「……"おっと忙しい"のよ。アレよアレ。例の通り魔のヤツ。」
「あぁ……アレ、単体で追っかけてるギルドあるんや……。」
ヤンが大きく頷いた。
ふたりは街へと入る街門へと差し掛かり、警備詰め所の横を抜ける。それまで硬くならされた砂利道だった街道が、石畳になる。
『アレ』とはマーシも口にしたが、ここ最近ゲフェンを賑わせる通り魔事件の事である。
すでに20を超える犠牲者が出ている。さすがに役所も自らの手に余ると判断したか、報奨金をかけて冒険者たちに犯人確保、ないし撃退を呼びかけた。そんなわけで、現在いくつかのギルドが夜な夜な警戒網を張ってはいるのだが、今のところ手がかりはない。
その姿さえもはっきりしないのだから、それで捜せのやっつけろのと言うのはなんともご無体な話で、その上に危険ですらある。
現に、昨夜までに犠牲となった人間の中に腕に自信のあるであろう冒険者が7人含まれているのだ。
いずれも戦闘状態になっての返り討ち。うちふたりは女性。
彼女らの遺体には陵辱の痕も見られたという。
辛勝ではない。軽くいなすだけの実力があったのは想像は難くない。
なんにせよ、近年まれに見る凶悪事件と言っていいだろう。
しかし、そんな犯人に、女性であるマーシが立ち向かうのには理由があった。
これまで返り討ちに遭っている冒険者はいずれも剣士や武術家などの直接戦闘を行う者たち。ここまで、魔術師がやられたという情報はない。
彼女のカンが正しいものとすれば、犯人は魔術の類を使いこなす人物。それもかなり高いレベルでだ。
しかし相手が魔法を使うというなら、正面から当たって打ち破るだけの自信が彼女にはある。
魔法の撃ち合いで相手の後れをとる彼女ではない。
……と、少なくとも彼女は思っている。
「嫌だね…こういうのって。」
「ん?」
ヤンが口にした。マーシは首をかしげる。
「ゲフェンなんてさ、そう言う事件と無縁ってイメージあったな。そう言うのってむしろ、プロンテラとかでおこりそうだな…って。」
「まあ、それもそうだけどさ…。けど、最低でもこれだけの人が集まれば、こう言うことは起こるよ、やっぱり。ここだから起こらないとか、そう言うのはないんじゃないかな。」
「う、うーん……。」
少なからずショックだった。
自分が暮らす…ましてや育った土地でそう言うことが起こるのは、悲しいことなのだ。
ヤンはどちらかと言えば自分の損得勘定の、その外に働く「感情」で動くことが多い。「正義のため」とまで言うつもりはないが、ほかの人間に頼られれば、頼られていなくとも救いの手を差し伸べてしまうタイプの人間だ。
だからこそ、彼は自分が暮らすこの街に、同じように暮らすほかの人々が危機に面し、不安な日々を送るこの今の現状を、見逃せない。だから彼もまた、微力ながらもアルカナを通じて捜査に協力している。
「早く、終わらせたいね。」
彼らは自分たちがいるべきこの街を、自らの手で護らねばならない。
ヤンの言葉に、何らかの強い意思を感じたか、マーシは『そうだね。』…と呟いて笑った。
「ヤンさーん! マーシさーん!!」
「?」
「お?」
やがて門より続く長い橋を渡り、お洒落な喫茶店や飲食店が建ち並ぶ一角を歩いていた頃。
ふたりを呼ぶ声。
声のしたほうに首を向けると、石畳の道の上。少しばかり離れた場所に見慣れた銀髪の少女の姿があった。
その小さな体に大きなリュックサックを背負って、彼女は買い物をしていたのだろう。ヤンとマーシの姿を見とめると、何が楽しいのかいまいちわからないが、とにかく楽しげにパタパタとふたりのところにやってきた。
そして開口一番言い放つ。
「ひゃー! ヤンさん浮気ですか?」
「ぐぼぁ!」
不意打ちだったか、ヤンが吹きだした。
「そそ。コイツってばななうみって恋人がいながら私をデートに誘ったんだよ。重罪。しっかり言いつけるように。」
「えええ!?」
笑いをこらえていたまーしがそれに乗っかった。これも不意打ちである。ヤンは思わず声をあげた。
「了解であります! マーシさん!」
「いや、まて!」
ビシッ! と敬礼した彼女を見て、今度はそっちにツッコミを入れる。
「マーシ。気をつけてくれ。リタは信じるし本当に言いつけるぞ?」
「あっはっは! そうだね。ん、冗談よリタ。私たちはちょっとお出かけしてただけ。残念ながらデートじゃなくてお仕事でね。」
「お仕事ですか。朝からずっといませんでした。」
近くまで来た彼女は、各々の顔を見上げて笑った。
「そ。お仕事。コイツのいいつけでね。休日にも関わらず町の外で労働よ、こっちは。」
「うぅあ…コレ、向こうひと月は言われ続ける勢いだな……。」
マーシの言葉に、彼はガックリと肩を落とした。
そんなふたりの顔をしばし不思議そうに見比べていた彼女だったが……やがてニコリと笑って口を開いた。
「がんばり屋さんですね、マーシさん。困ってるヤンさんを助けてあげるなんて、がんばり屋さんでやさし屋さんです。」
「……"やさし屋"ってのは新しい商売だな。聞いたことないぞ。」
「あ、あはは……私もよくわかんないイメージになりました。」
まあ、とかくよく笑う少女だ。
その容姿と言動で誤解されがちだが、彼女は別にアルカナのマスコットというわけではない。こう見えて国家上級騎士という、社会的に見ればギルドリーダーのヴァントリィザと同じ立場にある。
ギルドの戦力を担う大事な一員なのである、彼女は。
自分の身を守って余りある力を持つ一端の剣士。それがギルドにおける彼女の立ち位置。アルカナの大事な仲間だ。
そんな彼女らの大事な仲間であるリタが、次の事件の当事者になってしまうとは、マーシも現時点では夢にも思っていなかったのである。
【つづく】