Ragnarok Online? 【アルカナ冒険譚】 作:Yu-Tokiwa
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「情報が少ないねぇ…。」
ばさっ…。
目を通し終えた紙資料をカウンターに放って、ヨダは溜息をついた。
「そう言うなよ。コレだけでも集めんの大変だったんだ。」
「ああ、そりゃわかる。おやっさんに文句いってるわけじゃないよ。むしろ、感謝してる。…してるんだけど…なぁ……。」
「…………。」
カウンターに突っ伏した彼を見て、その反対側にいた店主が『やれやれ』と溜息をついた。
「確かになぁ、コイツはヤバいわな。情報もなしに突っ込んで行くのは。だったらこんなヤツ、スパーンと無視しちまえばどうだ。俺のカンじゃあおそらく、じきに首都から討伐隊が来る。そーすりゃあこんな片田舎でイキがってるイカレ野郎なんざどってこたぁない。わざわざお前さんがたが、危険な橋を渡る必要も無いとは思うんだがなぁ、どーよ。」
「……仲間が4人やられてる。他人事とは思えない。」
「知り合いか?」
「面識はない。けど、同じゲフェンのギルドメンバーだ。」
「…………。」
店主は…もういちど溜息をつく。
「知ってるヤツが被害に遭ってたら、えらいことになりそうだな。」
「?」
「さらに無鉄砲になってそうだ。」
「……なってると…思う。」
「自分の危険も省みず? あー、駄目だ。お前、死んだな。」
「…………。」
「レイがまじめな話すると、ちょいと笑えていけねぇ。」
「なんスかソレ!」
驚くべき速さでツッコミを入れるヨダ。その向かいで店主はゲラゲラと笑っている。笑いつつ、ヨダのカップに酒を注ぎ足す。
昼から飲めるくらいの、きわめて弱い酒だが……。
「まあ、焦るとロクなことにならねーよ? 先走りすぎないことだ。」
「はい……。」
注いでもらった酒を喉に流し込みながら…彼は苦笑した。
この店主が言うことは正しい。
いつも正しいのだ。
「けど…ありゃあいけねぇな。」
「?」
腕を組んで店主が唐突に出した言葉に首をかしげる。
「マーシとティナが探ってるだろう。」
「えっ?」
意外な言葉が出た。
自分のギルドの女魔術師…と、もう一人。彼が知っているティナというと…。
「ティナって…『微笑む裁判官』のティナ・リーオン?」
「そうだ。おまえんトコのギルドにもよく来てるだろうが。」
「え、あ…まぁ…。けど、なんで彼女が?」
「そら知らん。おおかた、マーシが引っ張りまわしてるってトコだろ?」
大げさに肩をすくめ、店主は笑った。
そして…。
「ありゃあいけねえ。自分の力でなんとかなるとか考えてる。」
「……えっと…実際なんとかなりそうなんですが……。」
「あ?」
「いや、だって…あの2人だったら万一敵に遭遇したって……。」
「長い棒で蜂の巣つついたら、刺されるのはつついた奴だけとはかぎらんだろが。あの2人が自分を探ってるってこと、じきに敵は気付くぞ。そーしたらすぐにでも、あの2人に関わりを持った人間に目をつける。」
「あっ……!」
「狙われるぞ、お前ら。」
一瞬、店主の目が鋭さを増した。それに気圧されるように黙るヨダ。
確かに…こんなに狭い街だ。同じギルドの仲間を探し出すなんてことたいしたことない。
もし、敵がアルカナのメンバーを狙ったら…。
正面から当たるならいい。しかし相手は【通り魔】だ。確実に不意を突いてくる。 何の用意もなくいきなり襲われて、アルカナのメンバー全員が一様に無事に危機を乗り切れるかと問われたら…答えには窮する。
「あのお転婆は、自分の魔法に絶対の自信を持っている。……そう育てられた。」
「!」
「あの歳であれはない。反則だ。思い上がっているとは言わんが…自分がなんとかしなくてはいけないとかいう、実に馬鹿馬鹿しい責任感を……。そして不幸にも、あの子はそれに見合った力を持ってしまっている。」
「…………。」
「だから余計に危ねーんだ。」
マーシの実力は誰もが認めるところ。アルカナ内のみならず、この街全体でみても彼女の実力はおそらく抜きん出ている。
同年代において、彼女の地位を脅かすものは少ないのではないだろうか。そのため、彼女はこれまでに挫折を味わった事がない。本人の口からそんな言葉を聞いた事がある。
だったら…もしも彼女の力を正面から打ち破るものが現れたら……。それが屈辱的な状況だったら…彼女の心は容易く折れてしまうのではと心配をするのは彼だけではないはずだ。
もしかしたら、それは日頃共に行動するアルカナのメンバーの誰しもが一度は考えた事があるのではないか。
「自分が不利に立つことなんて考えたこともない。だから、そういう状況に陥ったときに、誰かに助けてもらうとかいう、そんなプランが最初からない。」
「……俺たちが頼りないってことっすかねぇ……。」
「つまるところ、そーだろ?」
「むっ……。」
はっきり言われた。正直面白くない。プイッ…と横を向いては……。
「もーちょっと信頼してくれてもいいんじゃないですかね。仲間なんだし。託児所じゃないんだから。」
「実際心配ではあるわな。なんかヤバいもんに命狙われたらお前、自分の力でなんとかできるか?」
「ヤバいもんって…例えば?」
「……んー、そーだな……。」
…と、彼は顎に手を当てて考える仕草を見せる。
「……ブラックバードとか?」
「ぐぼぁ!」
ヨダが吹き出した。
「なんでそんな、劇の演目になりそうなのを例にしますか。」
「ほれ、絶望的だろ?」
「そりゃあマスター…いくらなんでもブラックバードはないでしょう。国を滅ぼした暗殺者っすよ? 絶望的とかそれ以前の問題でしょ。」
「マーシは『戦いたい』って言ってたぞ? こないだ。」
「…………。」
思わず閉口。
やはり、マーシと彼らとは生きてる世界が違いそうだ。
ブラックバードとは、隣国シュバルツバルトにいたとされる凄腕の暗殺者だ。
10年ほど前になる。
とある小国を滅ぼしたことでその名が知られることになった。
小さいながら、高い軍事力を持った軍事国家。知略に優れる参謀を擁する王族が治める独裁国家。……だった。
その国は長い準備期間を経て研ぎ澄ました圧倒的な兵力を持って突如挙兵。何の準備もなく、その直前まで戦争の気配に気づくことができなかったシュバルツバルトに対して宣戦布告した。宣戦同時攻撃で国境沿いの町や村が壊滅し、一夜にして8000人もの犠牲者が出た。
その後、なんとか対抗手段をとるべく兵を整えたシュバルツバルト国軍だったが、度重なる敗退を繰り返し国境付近は敵国に蹂躙されるがままとなった。
そんな時、突如現れたのが"ブラックバード"と呼ばれる凄腕の暗殺者。
どこからやって来たのか、誰に雇われたのか、そもそも何処の国の人間なのか。その一切が不明。
ただ、軍事強国の軍隊を手玉に取り、戦線に配置された将軍に始まり国家要職の尽くを暗殺。進軍の足を止めると瞬く間に首都王城にて国王を含めた王族をも皆殺しにし、結果的にひとつの国を消してしまった。驚くべくは、これをたったの10日のうちにやってのけてしまったということだ。
それに由来し、「国殺し」、「国消し」などとも呼ばれる。
その後、他の国の要職を暗殺し世界手配になるも各国の追っ手を打ち破って振り切り、そのまま姿を消した。
現在に至り、彼の消息はつかめていない。
曰く、他の大陸に渡ったのだ。また曰く、現在暗殺者ギルドの要職についている。いや、実は流行り病で既にこの世を去ったのだ…と、憶測は様々だ。
つまり、要約すれば『人間には見えるけれど極めて人間ではなさそうな何か』である。
現在、あらゆる国の要人たちが一番会いたくない人物であることは間違いないだろう。
むしろ、いち冒険者からすれば、まかり間違っても『あのブラックバードに命を狙われる』などという危機感は、普通なら抱かない。
そんな存在だ。
「ま、噂話にゃ尾ひれが付くもんだ。ブラックバードにしたって実際はどーだろうな。」
「尾ひれを取っても、まだ人外な気がするんですが……。」
「そーかぁ? マーシは戦いたいって言ってたぞ?」
「もう、マーシも人外でいいです。」
「そーかい。」
がっくりと肩を落としたヨダを見て、店主はカラカラと笑った。
からぁん!
「!」
そんな時、入り口でカウベルが鳴る。
来客を告げる鐘の音にふたりは入り口のほうを振り返った。
【つづく】