Ragnarok Online? 【アルカナ冒険譚】 作:Yu-Tokiwa
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ザッ……
日はやや西に傾きつつあった。先ほどに比べて影が長い。
店をあとにしたリタの姿は街の中心からやや離れた通りにあった。大広場と中心街を囲むように走る環状道路のあいだあたり。
「…………。」
ヨダが結婚するそうだ。
羨ましいし祝福したい。
けれど…それ以上に悔しい。
相手の女性にも幾度か会っている。
綺麗な人だった。
気を使ってか、いや、それともたまたまか。それほど多くは会っていない。すれ違うことは多かったが。
「レイは…尻に敷かれそうだなぁ~。」
ポツリとつぶやいた。
彼女の知るヨダという男はそういうイメージが少しだけ色濃い男だ。どこか頼りなさげ。だけどそれと同じくらい強く、そして優しい。
もっとも、彼と恋人づきあいをしてきたリタからすれば、今でも彼のいいところなど、いくらでも見つけられる。
「いいな~。」
けど、結局最後はそんなところだ。
リタとしては先を越された感が強い。何しろ彼女にとってはそういう浮いた話はしばらくご無沙汰なのだ。
「私もなぁ、早いところちゃんと彼氏のひとりやふたり……」
そんな時だった。
「!」
通りと通りを中継する、とある路地に足を踏み入れてしばらく。彼女はふと立ち止まった。
「…………。」
彼女の行く路地の先。男が2人、立っていた。
各々手に武器を持っている。共に短剣。その立ち姿に隙はなく、目は彼女に向けられている。
彼女を待ち伏せしていたのだ。
ザッ……。
「!」
背後で足音がした。慌てて振り返ると、そこにもう三人の男女。やはり各々の武器をすでに鞘から出した状態で立っている。
路地の両側には建物。
はさみうちにされた?
「…………。」
前後に注意を払いつつ、とりあえず脚を肩幅に開き、両方均等に体重を乗せる。重心はやや爪先寄りとした。
現状、目に入る5人すべてが、それなりの鍛錬を積んだ者と想像できる。
ただ、手にした武器の類にぎこちなさを感じる。おそらくゲフェンの者たちではない。
「んー? なんか御用でも?」
とりあえず、まず最初に現れた2人組のほうに声をかけた。答えは期待していない。
しかし、彼女の予想に反し、右側のほう。剣士風のなりの男が口を開いた。
「その短剣を置いていけば、命までは取らない。」
「んっ?」
あまりに意外な言葉に、ちょっと拍子抜け…というか、意表を突かれた。
待ち伏せし、前後に挟み打ちの布陣を敷き、ひとり相手にこれだけの人数を動員した。それなのに悠長に質問の受け答えをする。
奇襲に慣れていない。
「はっはぁん? 物盗り? ……いや、違うねぇ。」
ややため息がちに彼女は言葉を返した。
実はこのブラッドチョッパーを持っていれば、こういうことは珍しくもない。まあもっとも、こんな風に露骨に待ち伏せされるなんてそうそうないのだが……。
しかし今回のは、それらとは少しばかり違いそうだ。
なんというか……とにかく違う。彼らの目的は、おそらく彼女が持っているブラッドチョッパーではない。
「何の目的で待ち伏せしてたかは、よぉくわかりました。けどね? これは大事なものだからあげられないんだなぁ…。戻ったら、依頼主にそう伝えてくれるとうれしいんだけど。」
「!」
前と後ろで、相手が僅かに殺気立つのがわかった。構えを低く、臨戦態勢に入る。
ここに至り、リタはいまだ棒立ち。そして続ける。
「殺してでも持って行く? いや、これを持っていくのが目的じゃなくて、私の命を持っていくのが、本来の目的でしょう?」
カマをかけ、相手の様子を窺う。すると案の定、彼女の言葉に相手は表情を硬くした。とりあえずここまでは、彼女の予想からは大きく外れてはいない。
この時点ではまだ、こんな迷惑な依頼をした黒幕については考えない事にした。
「なるほど。」
ニコリと笑う。前後それぞれの5人との距離を把握し、位置関係を頭に入れる。
誰が一番最初に動くか。それを探ろうとして、しかしそれもやめた。
それに時間を割く事が無駄になると言う事がリタにはわかったのだ。
「今ならまだ、許してあげるから、立ち去ったほうが……いいよ。」
バサァッ!!
カシャンッ!!
「!」
刹那、風が鳴った。
リタが半歩を引き、腰に挿した鞘から短剣を抜き放った。バックハンドのまま後方へとそれを突き出し、途中から弧を描く軌道へと変える。
いつしか異様な青白い輝きが彼女の手に現れていた。握られていたのはつい今しがた話題に上ったブラッドチョッパーだ。
バシャアッ!!
「!!」
上だ。彼女のやや後方から落ちてきたそれは、そのままの勢いで地面に激突した。
黒装束。盗賊…のような身なりの男。相手のそれぞれが、息を飲んだのがわかった。完璧に近い不意打ち。しかしリタはそれを破った。
上からの襲撃を敢行した男は地面に倒れたまま、2度痙攣するとそれきり動かなくなった。
「…………。」
ややあって、赤黒い血の溜りがゆっくりと広がって行く。それをただ無言で見下ろす。
「!!」
その赤い血溜りから、一匹の虫のような生き物が這い出してきた。
リタは目を見開く。
ダンッ!!
そしてそのムカデにも似た生き物を踏み潰す。
「……あの男か……。」
「!」
ポツリとつぶやく。
彼女にはこういうことをしそうな人間に心当たりがあった。
その人間が使う特殊な技能も知っているし、そのうちのひとつであるこの術式がどれだけ凄惨で絶望的なものかも知っている。
「『……冒険者として生きる以上、生きるか死ぬかの状況に直面することは珍しいことではない。それは勝ち負けにおいて安全なチェスのような道楽ではなく、相手を斬れば相手は血を流し悲鳴を上げて死に、我々が刺されれば我々は血を流し悲鳴を上げ、地面に転がりそして死ぬ。その覚悟はいつでも持っておくべきであるし、その覚悟が無い者は冒険者になるべきではない。』」
サラサラと淀みなくリタの口からその言葉は出てくる。はるか北方に伝わる伝承の一節……。
カシャッ……!
「今がその、覚悟をするときだ。」
もう一本のブラットチョッパーも鞘から抜き、両手に下げて立つ。前方にいる男ふたりを睨み付け、そののち小さくうなずいた。
……うなずいて……
「……仇はとるからね。」
剣士リタは涙を流した。
【つづく】