Ragnarok Online? 【アルカナ冒険譚】 作:Yu-Tokiwa
― 9 ―
昨晩は大変な騒ぎになった。
ほんの少しの間だが、なりを潜めていた通り魔が再び現れたなどと皆が騒ぎ立てた。
そう。再び犠牲者が出たのだ。
一気に6人。
これまでにこれほどの犠牲者が一度に出たことはない。
それも一般人ではなく冒険者ギルドに所属する一団。戦闘慣れしていた者たちである。
照合してみると、通り魔事件の捜査登録をしているパーティーではなかったが、首都プロンテラではそれなりの実績を残してきているらしく、その辺の記録が残っていた。
そんな彼らが何用でゲフェンまで足を運んでいたかはわからないが、運悪く犠牲になったということである。
「……んー?」
「……お?」
凄惨な現場となった路地。
今はあらかたのものが片付けられ、地面も水と砂で洗われていた。
それでもそれは血の匂いを取るには至らない。さらに壁にもところどころに赤黒い斑点が見て取れる。
何か引っかかったか、マーシが路地の来た方を振り返って首をかしげた。
一緒に行動しているもうひとりの女性がそれを目に留め、同じように振り返る。
「なんしたのん?」
「……ヘンだな……。」
「あん? …またぁ?」
金髪ショートカットのその女性。
彼女は目を細め、やれやれというようにため息をついた。
それを見て、やや憮然とした表情のマーシが自分の相棒を見る。
「私が何に疑問を抱こうが私の勝手でしょうが。」
「それにしてもなんでもかんでも『ヘンだ』とか言ってるんじゃないかってくらい、なんにでも疑問持つよね。マーシのまわりってヘンなものだらけだよ。」
「じゃあですね、"微笑む裁判官"のティナ様ってのぁ、どんな見解をおもちなんで?」
「わたし? わたしはまだ現場"見て"ないもん。」
「とっとと見りゃれ。」
「えぇ? いまぁ?」
マーシに言われ、ティナと呼ばれた女性が面倒くさげにクネクネと体を動かした。
「今をおいていつやるんさ。夜に来るか? ひとりで。」
「ハイハイ、やりますよ。やればいいんでしょ?」
ため息交じりで、彼女はマーシの一歩、二歩前に出た。
ジャリッ…。
地面に撒かれた砂を踏む。
その下にある、赤黒い染みに目を凝らす。
「戻ってこれなくなったらよろしく。」
「あいよ。」
そう言って、ティナは『フッ…』と息を吐いた。マーシはそんな彼女さらに間を空けるように二歩下がり、自らの周りに魔法障壁を張る。
「じゃ、行ってきます……。」
目を閉じる。
暗闇の中に、彼女らが今いるこの路地のイメージが浮かび上がる。
イメージとしては非常にぼやけた、どこか曖昧なものではあるが……。とりあえず他人には説明しにくい。
そんな路地のイメージ。彼女が立つ前方に光がふたつ、現れた。
ビジュアル的には白い光を纏った筒状の何か。
彼女のヴィジョンの中ではこれが生命を持ったものをあらわす。人はもとより犬、猫もだ。その大きさでだいたいの種類を判断する。
そこに現れたのは…この大きさだと人間。男か女かはわからないが、とにかく人だ。
『……ふたり……? あんなところに?』
事件があった現場は今現在、彼女が立っているまさにこの場所だ。
現れたふたりはややここから離れている。
そして、ティナが立つそこより10歩ほど離れた、今度は背後にほかの反応が現れた。
「!」
驚いて振り返ると、そこに円筒の光が現れていた。3つ。
彼女が保有している情報と照らし合わせると、時間的にこの5人が事件の当事者と見て間違いはなさそうだ。
『んー?』
おかしい。
被害者は6人のはずだ。
ゲフェンの役所が照会した被害者も6人での滞在申請を数日前に役所に提出しており受理されている。
事件発生の時間が差し迫っても、ここには5つしか反応がないのだ。
あとひとり。
いや、加害者を含めれば本来この場所には最低でも7つは光の柱が立っていなければならないのだ。
しかしその疑問を解決する前に、彼女には不可解な光景が広がることになる。
突然、上から光が落ちてきて激しい閃光を放った。
『!?』
本当に突然すぎて、彼女は驚きのあまり危うく術を解いてしまいそうになった。
上から落ちてきた光。これもおそらく人だ。6人目はこうして現れたのか?
閃光を放った直後、その光がゆっくりと消えて行った。
そう、死んだのだ。
何が起こったのかがわからない。
どうして上から人間が落ちてきたのか。どう死んだのか。まったくもってわからない状況ではあるがとにかくまず、ここでひとりめの犠牲者が出た。
『…………。』
気を取り直し、注意深くその後の進行を見守る。
彼女はそこで信じられないものを目にしてしまうことになる。
前方のふたりと後方ひとりが突然彼女のいる場所めがけて走ってきた。残ったふたりはやや遅れてこちらに向かって来る。
『!』
そこからは一瞬だった。
光が激しく明滅し、前方二つの光がほぼ同時に消えた。追って背後からやってきた光が消えた。
距離を置いて近付いてきた残りの二人。この二人は止まった。
しかし、立ち止まったその場所で、激しい閃光が走り、そのふたりもまた、死を迎えた。
『…………!』
意味がわからない。何が起こっているのかすらわからない。
ものの数秒。
6人が死んだ。
しかしどうやって? その答えを導き出せるだけの引き出しが彼女には残念ながらない。
一連の事件に関して、ここまではっきりとしたヴィジョンを見れたのは初めてだったかもしれない。しかしそれでありながら結局何が起こったのかはわからない。
『…………。』
彼女の理解の外にある現象。信じられないが、それは現実に起こった。
「ふはっ!!」
一瞬で、彼女の視界が光に包まれる。
「ぬわっ! わわっ!」
あまりの眩しさに、目を押さえて徐々に光に目を慣らして行く。
普通の視界。普通の路地に戻ってきた。
「大丈夫?」
近くにいたマーシが、心配そうにティナの顔を覗き込む。
「うん、だ、大丈夫。」
「どーだった?」
「マーシ……。」
「うん?」
「多分、この6人は襲われて死んだんじゃない。」
「はぁ!?」
突然のティナの言葉に、マーシは自分でも驚くくらいに間抜けな声を上げてしまった。
そんな彼女を見上げるティナの顔色は悪い。ヘンな汗もかいている。
「……ごめん。実は私にも何が起こってるか、まったくわからないんだ。だけど、私の見立てではこの6人は、何かを襲って死んだの。」
「……自信があるのね?」
マーシの言葉に、ティナはこくりと頷いた。
「ここで死んだのは6人で間違いないわ? けど、加害者がいないのよ。これまでと違って。」
「どういうこと?」
「見たままの率直な感想でいえば、走ってきて勝手に死んだように見えたわ? ああ、けどひとりはなんか上から落ちてきたかな。」
「あ?」
ティナがふと見上げた先。
建物の屋根あたりか。
マーシも同じようにそちらをうかがう。
「あの辺から落ちてきたと?」
「死んだうちのひとりはあのヘンから来たわ。」
「落ちてきたの? 待ち伏せかしら。」
「さ、さぁ……。」
百戦錬磨のスーパープリースト、ティナも今日ばかりは言葉の歯切れが悪い。
「待ち伏せと仮定して、襲い掛かったはいいけど、返り討ち…と。なんだろう、滞在申請は出したのに活動登録しなかったのにはなにか理由が?」
「どうなんだろうね。調べときたいよね。」
首を傾げるティナ。マーシが疑問に思っていることは彼女の疑問でもある。
登録して許可を得ないことには出来ないことも多々あるのだ。例えば、プロンテラを活動拠点にしているパーティーは、ここゲフェンにやってきたときは役場に特別な活動の登録して許可を得ないと、やむを得ない場合を除いては全長80センチ以上の戦闘用刃物を使用する事ができない。
凶悪犯を相手にするというのに、剣士をはじめとした大型武器を扱う者たちが、自分たちのもっとも得意とする分野の武器を使用に支障があるままで捜査に乗り出すなどありえるだろうか。
つい今しがたまで、彼女自身このパーティーがゲフェンを周遊中に運悪く襲撃を受けたのではないかという考えを捨てきれずにいたのだ。
「とにかく…。」
「?」
マーシが呟きティナが彼女の顔を見た。しかし、見られた彼女の目は上へ。先ほどティナが示したあたりへと向けられていた。
「……上ってみようか。」
「は、はぁ?」
さすがにそれには驚いた。
そして、すぐに思った。
「……どうやって?」
【つづく】